VRから始まる素晴らしい現実「VR for Good」

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今、テクノロジーの世界で最も注目を集めている分野の一つ、それがVR(Virtual Reality:仮想現実)だ。360度、3Dのパノラマ映像で実際にその空間にいるかのように錯覚させられるVRテクノロジーは、ゲームやエンターテインメントの分野はもちろん、教育や医療、ショッピングなど幅広い分野での活用が期待されている。

VRの魅力は、何といってもその圧倒的な没入感にある。VRヘッドマウントディスプレイを装着し、視覚と聴覚の両方をVRの世界に投じれば、その仮想空間はまるで現実そのものとなる。

VRが提供できるリアルなユーザー体験は、人々に「リアル」を「リアルのまま」に伝え、「共感」をもたらすストーリーテリング・ツールとしても有効だ。テキストや画像、動画よりも遥かに強い臨場感をもたらすVRは、かつてないほど人々の感情に直接的に訴えかけられるコミュニケーションメディアとなりつつあるのだ。

今、世界ではこのVRが秘めた力を活用して社会にポジティブなインパクトをもたらそうという動きが始まっている。VR向けヘッドマウントディスプレイの製造を手がける米オキュラス社は今年の5月、新たに「VR for Good」というイニシアチブをローンチした。

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(※Oculus “VR for Good“より引用)

同イニシアチブは、VRの「共感を生み出す力」を利用して社会にポジティブな変革をもたらすことを目的としており、最初のパイロットプログラムとして学生向けのプログラム「360 Filmmakers Challenge for Students」、NPO向けプログラム「360 Bootcamp for Nonprofits」の2つが展開された。

また、世界ではオキュラスのVR for Good以外にも、既にVRを活用した優れたソーシャルキャンペーンやコーズマーケティングの事例が数多く生まれている。ここではその中からいくつか代表的な事例をご紹介したい。

シリア難民キャンプで暮らす少女「シードラ」の物語

VRフィルムの制作を手がけるWithinのCEO、クリス・ミルク氏が撮影したショートフィルム「Clouds Over Sidra」は、VR for Goodを体現した代表的な作品の一つだ。クリス氏が国連らと共同で制作した同フィルムは、ヨルダンのシリア難民キャンプに暮らす12歳の少女、シードラの生活を追ったものだ。

シードラの暮らす部屋を360度ぐるりと見回すことができるフィルムの中で、ユーザーはシードラと同じ床に座り、シードラが家族と共にヨルダンに逃れてくるまでのストーリーや彼女の家族の話を聞くことができる。VRを通じて彼女の話を聞くことで、ただテレビ画面でシリア難民の話を聞くよりもはるかに深く彼女の人間性を感じ取ることができる。

コーズ・キャンペーンの価値をVRで伝えるシューズメーカー

米カリフォルニアに本拠を置くシューズメーカー「TOMS」は、ユニークなコーズ・マーケティングプログラムを展開する企業としても知られている。それは、顧客が靴を一足買うごとに、一足の靴がそれを必要とする子供たちに届けられるという「One for One」キャンペーンだ。

TOMSはこれまで同プログラムを通じて6000万足以上の靴を子供たちに届けてきたが、そこには一つだけ課題があった。それは、靴を購入してくれた消費者が、実際に自分の購買がどれだけ子供たちの役に立ったのか、実感するのが難しいという点だ。

この問題を解決するべく、TOMSは長年のパートナーであるAT&Tと協力し、新たなVRフィルム「A Walk in Their Shoes」を制作した。このフィルムは、TOMSの顧客が、自身の購入により靴を送られた子供たちに会いに、コロンビアまで旅をしにいくドキュメンタリーを撮影したものだ。

靴を贈られた子供の声や表情を360度の画面で直に感じることができ、それを見たユーザーは自分自身が行った「靴を買う」という小さなアクションが、確かに世界の役に立っているということを実感することができる。

コーズマーケティングを成功させる上で重要なのは、いかに消費者の共感を呼ぶ「ストーリー」を生み出せるかという点だ。その意味で、TOMSのフィルムはVRが人々にコーズを効果的に伝え、ブランドへの共感を高める上で非常に強力なツールになりうることを示してくれる好事例だと言える。

きれいな水が、少女の人生を変える

米ニューヨークに本拠を置き、世界24か国以上に安全な水を届けるべく活動しているNPOのCharity:Waterは、ファンドレイズキャンペーンの一環としてVRを利用したショートフィルム「The Source」を制作した。フィルムの主人公は、未だにきれいで安全な水へのアクセスがない村で暮らす13歳の少女、Selamだ。

Selamは病気への感染を恐れながらも、自分自身と家族が生きるために、毎日のように泥で濁った汚れた水を汲み上げる生活をしていた。そんな彼女が暮らす村に、初めて井戸が設置され、きれいな水が地下から吹き上げるその瞬間は、見る人の心を大きく動かす。

たった9分間のフィルムだが、VRでその感動の瞬間に立ち会うことで、我々にとっては当たり前となっている「きれいな水」が、どれだけ人々の生活を豊かにするのかを改めて強く実感することができる。

VRから始まる現実がある

いかがだろうか?「VR」と聞くと、一部のテクノロジー関係者の間で話題になっているだけのバズワードのように感じるかもしれないが、VRをゲームやエンターテインメントの領域を超えてより広く社会のために活用しようと考えるとき、アイデアは無限に広がるのだ。

強い共感を生み出すストーリーテリング・ツールとしてのVRは、人々の考えだけではなく、実際の行動をも変える力を持っている。はじめはただの仮想現実かもしれないが、そのストーリーを体験したユーザーが明日の行動を変えていけば、それは現実の社会に大きなインパクトをもたらすのだ。