模倣のアプローチ 〜複製・差別化、再結合、移植〜

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イノベーションとは行為に対する「結果」である。シュンペーターはイノベーションのタイプとして、下記の5つを挙げている。

  • 新しい財貨すなわち消費者の間でまだ知られていない財貨、あるいは新しい品質の財貨の生産
  • 新しい生産方法の導入
  • 新しい販路の開拓
  • 原料あるいは半製品の新しい供給源の獲得
  • 新しい組織の実現

5つのイノベーションタイプのどこを狙う場合も、「模倣」という方法論は有効だ。(詳細は「模倣がイノベーションを加速する」を参照。)

『コピーキャット 模倣者こそがイノベーションを起こす』によると、「模倣」のアプローチには、複製と差別化、再結合、移植などがある。

複製と差別化

目的に応じて、先行者から真似るべきところを徹底的に複製する、一方で差別化するポイントを見極め異なる方法をとる。LCC(格安航空会社)で成功を収めたサウスウエスト航空は、大手航空会社よりも60%以上安い料金と3〜4倍の便数を実現したイノベーション企業だ。

同社は複製と差別化を行った。LCCで先行するピープル・エキスプレス航空などから良いところだけでなく、失敗している部分も学んだ(ピープル・エキスプレスやエア・フロリダなどの先行企業は経営破綻をしている)。低価格を実現するために、先行者を模倣しサービスレベルやコストカットできるプロセスは徹底的に削ぎ落とした。

一方、先行企業とは違い、ITインフラシステムへの投資に対してだけは他の伝統的な大手航空会社並みに多くの予算を割いた。その投資が運営効率をあげ、オペレーションコスト削減をし、最終的には自分たちのコア・コンピタンスに直結する要素だと考えた。結果、同社はアメリカを代表する航空会社になり、その方法論は後に続くLCC各社に模倣されるような存在となった。また、アメリカ同時多発テロの事件に伴う業績悪化でも唯一レイオフをしない米航空会社でありその経営状況も良好だ。

再結合

再結合、既存の技術や素材を使ってそれらを再結合することで新しい技術・製品を生み出すアッセンブリ・イミテーションは昔から行われていた。グーテンベルクの活版印刷も油性インクというすでにある技術と、ワインの生産に使われる絞り機を組み合わせて生まれた。アップルはイノベーティブな企業とされているが、自社でゼロから開発したものは少ない、世の中にある色々な要素や技術を模倣し、組み合わせている。技術のオーケストレーターであり、インテグレーターである。

デジタル領域での「マッシュアップ」も再結合の一つだ。日本で一番多くのユーザー数をほこる飲食店情報サイト「食べログ」には、自社の飲食店関連情報とGoogleマップのAPIを組み合わせて提供している。かくいうGoogleマップも、日本においては地図データをゼンリンから仕入れ、地図データと自社技術を組み合わせてこのサービスが実現されている。いずれも「再結合」によって成立している。デジタル化、バリューチェーンのモジュール化が進む現代において再結合のハードルもより低くなっているだろう。

移植

あるモデルを別のところに移植するインポーター戦略というのも有効だ。成功したやり方を、別の業界や市場で実施することは、その世界で初めてのものを作り出すことを意味する。Googleをはじめとした検索エンジンは、ネット上にある情報をクロール(収集)して、インデックス化(整理・保存)することで、検索結果を表示する。Indeedは、この検索エンジンのモデルを、仕事探しの場に「移植」した。ネット上の求人サイトなどの求人情報をクロールし、それらをインデックス化することで求人検索サービスを実現した。結果、同社は世界各地でサービスを展開し、300億円以上の売上を生んでいる。

大小のイノベーションを起こすために有効な、「複製・差別化」、「再結合」、「移植」といった模倣のアプローチ。この視点で日々のニュースを見ていると、「あっ、これは再結合だな」などの気づきがあって面白い。

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