障がい者サービス版のトリップアドバイザー。障がい者の人権を向上させる「clickability」

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2008年に国連の障害者の権利に関する条約を批准したオーストラリア。以降、同国では国民障がい保険制度(NDIS)が順次導入されたものの、障がい者の生活の質は一向によくならなかった。

この制度の問題は、根本的にシステムの柔軟性を欠いていた点だ。障がい者の暮らしを支援するためのお金は、当事者に直接渡されるのではなく、障がい者を支援する施設やサービスの運営者に対して補助金として支給されるという形をとっていた。障がい者はサービスを無料で利用できるものの、実際には利用する上での対象年齢や対象地域、対象の障がいといった細かい規定が多く、必要なサービスが必要な人々に行き渡らない問題が起こっていた。

事態を重く見たオーストラリア政府は、2013年に国民障がい保険制度を改変した。新たなシステムではこれまでとお金の流れを逆にして、給付金が障がい者の手に直接わたり、各自が必要なサービスを探して申し込むという形になった。障がい者の人々が受けるサービスの選択肢が生まれたことで、彼らは初めてお客様として扱われるようになった。消費者として自ら選ぶ権利を獲得したのだ。

しかし、新たな制度にも課題が浮上した。それは、選択肢が生まれたことで、今度は障がい者の人々が「無数のサービスの中からどうやって適切なものを選べばいいのか」を判断に迷う事態が生じたのだ。障がい者向けサービスという閉ざされた市場には、各事業者のサービスの質を知りうる指標がなかったのだ。

そこに目をつけた2人のソーシャルワーカーが、障がい者、介護士、サービス提供業者がお互いの情報を確認できるプラットフォームとして立ち上げたのが「clickability」だ。同サイト上では障がい者の人々がサービス事業者の評価や口コミを掲載することができ、さしずめ障がい者支援サービス版のトリップアドバイザーといったところだ。

実際の利用者の生の声を参考にしているため、障がい者の人々は自分に最適なサービスや事業者を選ぶうえで大いに役立つ。また、事業者側も顧客と連絡を取り合うことで障がい者の状況をよりよく理解することができる。

障がい者の人々の口コミが掲載されることでサービス事業者らはよりよいサービスを提供するインセンティブが生まれ、これまで長らく放置されていた市場のサービスの質が大きく改善されることが期待される。

clickabilityは事業者向けに有料でページのカスタマイズ機能などを提供することで採算化の見通しを立てており、障がい者の人々により一層の有益な情報へのアクセスとオーストラリア全域でのサービス提供を実現するべく、事業拡大を続けている。

必要は発明の母というが、clickabilityは社会構造の変化のさなかでソーシャルワーカーという現場の視点から障がい者の切実なニーズを発見し、それを満たそうとアクションを起こしている優れた事例だと言える。

【参照サイト】clickability

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