ライバル同士が手をつなぐ。ロンドンで始まったコーヒーカップのサーキュラーエコノミー

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欧州経済の中心地、ロンドンの朝は温かい飲み物で始まる。まだ薄暗い道を強風に震えながらオフィスまでたどり着くまでの心強い味方だ。目覚まし代わりだけではなくホッカイロの役割も果たしている。また、ロンドンではイングリッシュティーを水代わりに飲む習慣もあり、ホットドリンクの消費量が多い。

なかには再利用可能なマイカップを持ち歩く者もいるが、ロンドナーは常に時間に追われており、大半は店頭で便利な紙のコーヒーカップを使っているのが実情だ。英国では実に1日あたり約700万杯、年間にすると25億杯ものコーヒーカップが廃棄されており、そのうち現在リサイクルされているのはわずか1%にも満たない。一般的なリサイクル用のゴミ箱があってもこの数字だ。

このコーヒーカップの廃棄を少しでも減らし、リサイクルにつなげるために始まったキャンペーンが、「#SquareMileChallenge(スクエアマイルチャレンジ)」だ。ロンドン市、鉄道会社のネットワーク・レール社、環境NPOのHubbub、プラスチックカップのリサイクルを手がけるSimply Cupsらが主導している。

ロンドンの街中に突如登場したのは、分かりやすい黄色の大きなコーヒーカップの形をしたリサイクル用のゴミ箱だ。キャンペーンではこのリサイクルポイントをロンドン市内に100箇所設置して、飲み終わったカップを回収する。ラッシュアワー時には金融街のリヴァプールストリート駅とキャノンストリート駅でもカップが回収される。

このキャンペーンにはスターバックス、マクドナルド、マークス&スペンサー、カフェ・ネロなどロンドン市内に展開する100以上のコーヒーチェーンや小売店が参加しており、どの店でコーヒーを購入したかに関わらず、店でも飲み終わったカップの回収を受けつける。さらに、カップの回収やリサイクルの工程にはロイズやデロイトなど30社以上の企業が協力する予定だ。

キャンペーンに先立ってマンチェスターのある通りで行われたパイロットプログラムでは、約3ヶ月間で2万杯のカップをリサイクルすることに成功した。#SquareMileChallengeは4月から12月までの9ヶ月間行われる予定で、1か月目に50万杯、2017年中に500万杯のコーヒーカップを集め、リサイクルすることを目指している。

Hubbubの共同設立者ガヴィン・エリス氏は「お互いに競合する業者も協力して、この問題に取り組んでいるのは喜ばしい。他の地域も追随し、最終的にコーヒーカップのリサイクル水準が飲料缶やボトルの水準と同程度になることを願う」と語る。

コーヒーカップをリサイクルする際の問題は、カップの内部に分離するのに特別な処理を要するプラスチックフィルム、そしてリサイクルの障害となるコーヒーの残りが混在していることだ。

このプロジェクトで回収されたコーヒーカップは2つの方法で全てリサイクルされる。1つの方法は、カップ全体を細断し、リサイクルされたプラスチックと混合し樹脂に加工して、新しい成形可能なプラスチック材を作ることだ。この素材はピクニック・ベンチ、トレイ、コースターなどの幅広い製品にすることができる。もう一つは、コーヒーカップ内のプラスチックと紙を分離しプラスチックを取り除き、繊維を回収して段ボール容器のような製品にする方法だ。

ロンドン市の環境・エネルギー担当シャーリー・ロドリゲス氏は「大きな一歩を踏み出した。ロンドンを清潔にし、廃棄物を減らし、リサイクルを促進することを目指す。 この計画が成功し、地方自治体や企業がコーヒーカップのリサイクルを推進することを願う。」と語り、今後の成果に期待する。

普段は互いにライバルとして競い合っているコーヒーチェーンらが、カップのリサイクルについて協力し合うこのキャンペーンは、優れたコレクティブアクションの事例だと言える。また、企業同士はもちろんだが、行政とNPO、企業、そして消費者という異なるステークホルダーが協働し、新たな循環型のビジネスモデルを創り上げている点も素晴らしい。

過去1世紀以上にわたって世界の資本主義経済をリードしてきた金融センターのロンドンが、サーキュラーエコノミーという新たな経済パラダイムにおいても再び世界の中心地となれるのか、ロンドンの挑戦は既に始まっている。

【参照サイト】Recycle your coffee cup with the #SquareMileChallenge
【参照サイト】Square Mile Challenge

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