【コラム】広告博物館「アドミュージアム東京」進化する広告表現を追う

Browse By

本や音楽、芸能、新聞、テレビ、ラジオ、ゲーム、インターネットなど、私たちの周りにはさまざまな娯楽があふれている。人々を楽しませてきた娯楽は時代とともに進化し、表現の可能性は広がりつづけた。時代をいろどる目新しい娯楽にはいつも人が集まり、大衆に何かを呼びかけるには最適だった。そこに目をつけ発展をつづけたのが「広告」という文化だ。

街へ出れば、映画やビル看板、タクシーや電車、飛行機にいたるまで全方位から広告が飛びこんでくる。記憶に残る印象深いセリフやキャッチーな音楽、はたまた店先にただよう香りまで、すべては企業からのアプローチ、すなわち広告だ。今や人々の生活にすっかり溶け込んでいる広告は、一体どのように生まれ、現在まで発展してきたのだろうか。

その答えは、日本国内で唯一の広告博物館「アドミュージアム東京」で見つけることができる。

同施設では30万点を超える資料を保有し、そのなかから厳選した広告作品を、時代背景の移り変わりとともに体感することができる。そのアドミュージアム東京が12月1日、設立15周年を記念し全館リニューアルの後、オープンした。

アドミュージアム東京では、江戸時代、明治時代、大正から昭和前期、戦中戦後、戦後復興期から平成と、時代ごとの広告を関連資料を交えて展示している。

日本での広告の歴史は古い。なかでも、今日のチラシのはじまりは、江戸時代に越後屋(現・三越)が配布した「引札(ひきふだ)」と言われている。当時は「現金掛け値無し」との商売文句を紙に記しただけのものだった。のちに引札が広まり印刷技術が進むと「錦絵」と呼ばれる多色刷りの版画が加えられ、それまでとは一線を画す華々しいビジュアルへ進化した。

錦絵は、呉服屋の新商品の着物をまとった美しい女性や、現代のアイドルのような存在である人気力士や歌舞伎役者が描かれている。有名人や美しいモデルを起用し大衆の関心を惹く方法は、昨今の広告でも多く使われている。影響力のある人物がプロモーションすることでファンは心をくすぐられ、その企業や商品までをも好ましく感じられるように。

企業は広告で人々の関心を惹くため、あらゆる方法で大衆に呼びかけた。例えば、越後屋は宣伝ツールのひとつとして雨の日に「貸傘」を行い、客が歩くだけで傘に入った大きな店章が道ゆく人の目に留まる。そう、この方法は現在でいう店名やロゴの入ったショッピングバッグにも活かされている。

あからさまでない、人の心に訴えかける手法は、江戸っ子ならではの美的感覚が由来している。江戸っ子は「粋と洒落」を好み、反対に「野暮(やぼ)、ケチ、権力」を嫌った。当時の広告を見ると、一番に紹介したいはずの商品名がうちわの陰に隠れている。隠しては野暮、表に出すぎていても野暮、このような絶妙なバランスをもって粋で洒落た広告が仕上がっている。

広告は世界各国にあれど、日本には独自に築いた歴史がある。店が配布していた、漫画の先がけといわれる絵入りの小説や、歌舞伎の劇中に店名や商品名が登場する企業タイアップなど、現代メディアの原点となる手法やアイデアはすでに存在していた。

江戸時代に一時代を築いた引札は、その後も進化を遂げる。明治時代には、文明開化の波にのり、新聞や雑誌、ポスター、そして広告を取り次ぐビジネスが生まれた。

大正11年、世間をどよめかせた日本初のヌードポスターがある。当時は女性が人前で肌を見せることは禁忌とされていた。一方で、女性が手にするワインの「赤」は最新の印刷技術を駆使したこだわりの色味であり、単なるワインの広告ではない、強烈なインパクトを与えるひとつの芸術作品となった。

広告作りのプロであるアートディレクターやコピーライターといった腕利きのクリエイターも続々と誕生し、いかに大衆の心をつかむ広告を作ることができるかに趣向を凝らした。

そして戦後には「ラジオ」「テレビ」の商業放送が出現し、広告メディアは大きな転機を迎える。表現は紙から映像へ。絵や人物が画面の中で動き、にぎやかに音が流れだす。大衆に呼びかける新たなツールとして、テレビは未知の可能性を秘めていた。

じきにテレビCMが始まり、ただの商品紹介にとどまらない、戦後や高度経済成長期など時代を反映するメッセージ性の強いものや、愛らしいアニメキャラクター、つい口ずさみたくなるCMソングなど、趣向を凝らした広告が登場し、たびたび世間の話題をさらった。

一世を風靡し、これ以上ない宣伝効果を発揮していたテレビだが、さらに時代を塗り替える存在となったのが、私たちが毎日のように使用している「インターネット」だ。昭和から存在していた文章を打ちこむワープロや巨大な携帯電話が、平成には莫大な情報と人をつなぐパソコンとスマートフォンへと飛躍的な進化をとげた。これを広告業界が見逃すはずがない。人が集まるほどに、広告メディアとしては大きな市場になる。今や、インターネットにはさまざまな種類の広告が存在する。

大衆を動かすものの傍らには、いつの時代も広告の存在があった。広告の表現方法やメディアは時代により大きく変化するが、いつでも変わらないのは人を惹きつけ心を揺さぶるエンターテインメント性だ。

現在、ロンドンで国際的コンテストが行われるなど「広告」は広告の枠を超えて、独自の分野として確立している。世界のあらゆる作品と刺激し合い、広告は発展していく。だが、日本の「粋と洒落」の心意気は後世まで続いていくだろう。


【アドミュージアム東京】
開館日:火曜日~土曜日(休館日:日、月曜日) 
開館時間:11:00~18:00
場所:カレッタ汐留(JR新橋駅より徒歩5分)
※入場無料