【徳島特集 #3】「もう限界だった」なぜ上勝町はゼロ・ウェイストの町になれたのか

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徳島市内から、車を走らせること約1時間。大部分が標高700m以上の山地に覆われ、急な斜面に棚田や段々畑の風景を残す徳島県上勝町。人口1,600人に満たず、かつ高齢化率約50%と過疎化が進む四国一小さな町だ。そんなこの町には、世界中から年間およそ2,600人の視察者が訪れる。

料亭などの料理に添えられる「つまもの」の販売を通して「葉っぱビジネスの町」として名を馳せた上勝町は、たびたびテレビでも紹介されるなど熱い視線を浴びている。しかし今この町が世界から注目されている理由は、葉っぱビジネスだけではない。

上勝町は2003年に国内初の「ゼロ・ウェイスト宣言」を発表し、2020年までにごみをゼロにする目標を掲げた。この町にはかつてごみ回収車が走った歴史がなく、55の集落に住む787世帯1,552人(2017年10月1日現在)が各自でごみを分別し、ごみステーションに運ぶなどの活動を行ってきた。分別項目は、なんと日本で最多の45項目に分かれており、その細かい分別によってリサイクル率は約80%を誇る。そのごみゼロ宣言から16年。目標の中で掲げた2020年まですでにカウントダウンが始まっている。

今回IDEAS FOR GOOD編集部は、そんなゼロ・ウェイストの町で有名な上勝町の現在を知るべく上勝町役場で働く企画環境課の菅さん、ゼロ・ウェイストアカデミーの理事長を務める坂野さんのお2人を訪ねた。

上勝町役場

限界から始まった「ごみステーション」

そもそもなぜ、上勝町が他の地域に比べて進んでごみ問題へ取り組めたのか。一言で言えば、どの地域よりもいち早く過疎化・高齢化の問題に直面してしまったからだという。つまり上勝町は課題先進国の中の課題先進地域であったということだ。

「もう、この町は限界だったんです。」

そう言葉を漏らすのは、初めて上勝町を訪れた私たちに町のゼロ・ウェイストの歴史を説明してくれた菅さん。もともと林業の町だった上勝では、伐採時に出る枝などを地面に掘って焼却していたこともあり、ごみ処理も野焼きが主だった。県からの指導で野焼きを続けられなくなったとき、すでに過疎・高齢化に直面していた上勝町は新しい焼却炉を買う財政的な余裕もなかったという。そこで上勝町は、焼却炉を使わない方法を模索した。

「ゼロ・ウェイスト宣言」のきっかけは、国際環境NGO団体のグリンピースジャパンからの提案だった。「国内のごみ関連政策のほとんどが、どうやって焼却するかの“対処”であるのに対して、ゼロ・ウェイストはごみ発生の根本から着手していく。そもそものごみを出さない生産と消費のシステムを構築していく」という考え方に町が共鳴したという。

ゼロ・ウェイスト宣言

1. 地球を汚さないひとづくりに努めます!
2. ごみの再利用・再資源化を進め、2020年までに焼却・埋め立て処分をなくす最善の努力をします!
3. 地球環境をよくするため世界中に多くの仲間を作ります!

ごみを減らすために生ごみは個人で堆肥化し、それ以外のごみは分別することでできるだけ多くリサイクルに転換した。住民たちは分別したごみを、各自でごみステーションまで運び、常駐するスタッフが住民のごみ分別を手伝う。

日比ヶ谷ごみステーション

日比ヶ谷ごみステーション

ごみステーション

日比ヶ谷ごみステーション

ごみステーションのプレハブの中にある「くるくるショップ」には、子どもが成長して着ることができなくなってしまった子供服や「持ち主にとっては不要になってしまったけれど、まだ使える物」が並ぶ。くるくるショップがあることで年間約15トンの物がごみにならず再利用されているという。

くるくるショップ

日比ヶ谷ごみステーション内にある「くるくるショップ」

くるくるショップの中

くるくるショップの中

こうして上勝町は、焼却・埋立する代わりに資源化することでごみ処理費の60%削減を実現した。しかし、推進していくためには行政だけの力では難しいということで、2005年にNPO法人のゼロ・ウェイストアカデミーが立ち上がった。

ごみを捨てるだけではない。地域のコミュニティ拠点となるごみステーション

「今、無人のごみステーションをやろうとしている動きは日本各地であるんです。しかし、上勝町がここまでゼロ・ウェイストを継続できている理由は、ごみステーションに常駐のスタッフがいることと、基本的に住民が直接ごみステーションへ来る、という2つに関係しています。」

そう話すのは坂野さんだ。ごみステーションがあることで、住民とスタッフはもちろん、住民同士のコミュニケーションの場所となる。それが住民の「じゃあ、やるか」というマインドにつながると言う。

しかしこれは逆に言えば、現場次第でもあるということだ。現場の職員が、いかに住民とコミュニケーションを取ってくれるかが鍵だという。伝え方ひとつで、住民の協力を得られるかも変わってくる。

上勝町の住民にとってごみステーションはもはや「ごみを捨てに来るための場所」だけではなく、「おしゃべりをする場所」であり、くるくるショップで面白いものを探す「楽しみを見つけるための場所」でもある。

そうやって住民に新たな価値観を提供し続ける上勝町。課題先進地域として、現状に満足することなく次々と新たな取り組みを始めている。ここではその事例を紹介しよう。

「来たくなる」ごみステーションに

上記で紹介したゼロ・ウェイスト活動の拠点である日比ヶ谷ごみステーションは設置から20年以上が経過した。そして視察や観光客も多くなってきた現在、上勝町はごみステーションの壮大なリニューアルを行う。

「ごみを捨てに来た住民の方が、『今は視察の人が来ているからまたあとで来よう』と帰ってしまうこともあるんです。」と、菅さんは視察者が増えたことによる住民目線での問題を話した。そこで住民がごみを捨てやすくするための環境をつくる工夫や、もっと深く上勝町のゼロ・ウェイストに対する取り組みを伝えたいという要望に応えるべく、2020年の春に新たなごみステーションとして複合施設「ワイ(WHY)」をオープンする。

施設の中には、視察者向けの宿泊施設やゼロ・ウェイスト関連のスタートアップが入れるコワーキングスペース、地元の人々の交流スペースなどが設けられる予定だ。コミュニティにすることでただごみを捨てるだけでなく「来たくなる」場所にするという、ごみステーションの定義を変える構想だ。

2019年1月現在、代表取締役社長も募集している。

上から見ると「?」の形になっている Image via WHY 

建築には上勝町で伐採された杉材、不要になった建具や家具などを活用している Image via WHY 

WHY

Image via WHY

地域を潤すためのゼロ・ウェイスト認証制度

そして視察者への取り組みとして上勝町とゼロ・ウェイストアカデミーが新たに設立した制度がある。飲食店を対象に独自の基準で公的に認証する「ゼロ・ウェイスト認証制度」というものである。項目には「地産地消による包装・容器の削減」や「再利用できる容器による資材調達」などの6つの審査基準がある。この認証制度は1年更新となっていて、更新の際や新しいスタッフが増えた際にゼロ・ウェイストアカデミーが研修を行う。

この認証制度の背景としてお店のゼロ・ウェイストの取り組みを評価して発信し、それがブランド価値になってほしいという想いがもちろんあるが、この認証制度の趣旨は大きく2つある。

1つ目は、外からきた人に町内へお金を落としてもらうこと。上勝町には年間多くの視察者が訪れるのにも関わらず、市内からそう遠くない距離にあるためごみステーションを見て話だけを聞いて帰ってしまう人も多いという。しかしこの「認証店マップ」があることで、町に訪れた人が視察後に飲食店に寄るきっかけをつくっている。認証をとればとるほど飲食店が繁盛する仕組みだ。

ゼロ・ウェイストマップ

Image via ゼロ・ウェイストアカデミー

2つ目は、消費者の声を大きくすることだ。「消費者側を教育しよう」というのは長年言われ続けてきたことだが、キャンペーンなどで一人一人の買い物を変えようと呼びかけるだけでは住民の意識は簡単には変わらないのが現状である。そこで坂野さんが考えたのが、お店側も、実は仕入れをする「消費者」であるということ。お店自体が取り扱う商品を変え、「なぜその商品を使っているのか」「なぜ、その商品を使わないのか」ということをお客さんに伝えていくというような、お店側を「コミュニケーションのハブ」として捉える。それが仕入れ元である生産者に響くようになればいいというのがこの認証制度の大きな狙いだという。

RISW&WIN BREWING

ゼロ・ウェイスト認証店である「RISE & WIN Brewing Co. BBQ & General Store」

店内

落ち着いた店内。建物は廃材をリメイクしてつくられている

ドリンク

お店では紙ストローを使用し、プラスチックごみの発生抑制に取り組んでいる

ごみを出さない量り売り

上勝町の飲食店では、量り売りのサービスを徳島県の事業として少しずつ行っている。何でもかんでもパッケージされたものではなく、住民に「最初からごみが出ない買い方もある」という選択肢を提供することが目的だそうだ。

小売主体のお店で量り売りをするには、在庫や衛生管理、販売する際に人がいないといけない等のリスクや手間があるため、大規模なスーパーで取り入れることはなかなか難しい。しかしそれが飲食店であれば、基本的に自身のお店で仕入れてるものは「使う前提」であるため、残った商品がロスになることがない。そこが、小売との圧倒的な違いである。そのため、まずは飲食店でお店の仕入れの範囲内での量り売りから始めてもらうほうがスタイルを変えやすいのではないかと坂野さんは考えた。

RISW&WIN BREWING  量り売り

「RISE & WIN Brewing Co. BBQ & General Store」の量り売り

上勝の問題は、上勝だけでは解決しない

「上勝だけが変わっても意味がない。」

そう、坂野さんは言う。ごみを減らすというのは上勝町だけでできることではないからだ。

たとえば今後上勝町は高齢化も進み、多くの住民が「そもそもごみステーションまで行けない」というような問題に直面する。この問題を解決するためには、「ごみ問題」というテーマを解決するというよりも、地域全体で交通の問題にどうアプローチしていくのかを考えなければいけない。

現状、上勝町内のお店がどんどん少なくなっているため、住人の7割以上は徳島市内へ買い物に行くのが現状だ。どれだけ上勝町の飲食店が頑張っても、上勝の住民が市内で買い物をする限り意味がない。ある種、これが上勝町の限界でもある。

いかに上勝以外の人々も巻き込んで関わる人々の意識を変えられるかと、町が萎んでいくのと、どっちが先か。上勝町の挑戦は続く。

仮説ごみステーション

日比ヶ谷ごみステーション

編集後記

ごみ回収車が走り回る都市部での生活。ごみ箱に捨てたごみは一体どこへ行くのか考える人はどのくらいいるのだろう。しかし今、町の「生存戦略」としてそれを考えざるを得ないという状況が、上勝町だけではなくあらゆる地方で起きている。

「行政の英断は、宣言をしたことだ。言ってしまったら、もうやるしかない。」坂野さんの言葉が印象に残っている。

上勝町のゼロ・ウェイストな町づくりは世界でもトップクラスであるが、過疎・高齢化でも先進地である。この厳しい状況の中、今後どんなゼロ・ウェイスト戦略を行っていくのか、今、世界が上勝町に期待している。全国各地の地方が今後直面していくであろう問題に、どう対処するべきなのか。そのヒントが、上勝町にはある。

【参考サイト】WHY-Kamikatsu
【参考サイト】ゼロ・ウェイストアカデミー

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