オランダのスーパーで「世間話専用レジ」広がる。コロナによる孤独感を解消へ

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今世界では新型コロナウイルス感染症と同時に、“孤独”が蔓延している。中でも、特にお年寄りの心の負担は大きい。65歳以上の方は重症化の可能性が高いことから外出自粛が強く進められ、人に会おうにも「万が一、コロナを移してはいけない」と周りの人から接触を敬遠されがちだ。また、これまで社会的なつながりをつくる役目を果たしてきた公民館などでの集まりも、密回避の為に機会を奪われ、孤独に拍車をかけるばかりである。

AARPニューヨークの州ディレクター、ベス・フィンクル氏は、「孤独を感じることは1日にタバコを15本吸うのと同じくらい体に悪い」と、NPRに語っている。実際、孤独は心臓病や脳卒中、認知症の発生率を高め、うつ病や不安症の原因になるという。(※1)人との接触を減らすことで命は守られても、孤独が心に巣食い、健康を害してしまっては豊かな生き方とは言えないだろう。

そんな中、今回は孤独へのアプローチとしてオランダのスーパーマーケットJumbo(ユンボ)が始めた「世間話専用レジ」を紹介する。

「世間話専用レジ」では、買い物客に会計時、レジ店員とおしゃべりすることが推奨されている。商品をレジに通し清算を行う短い時間ながらも、人同士の交流を生み出し、少しでも孤独を解消しようというのがこのレジの試みだ。にっこり笑顔で話しかけられれば、孤独で心が沈んでいた人も明るい気持ちになるだろう。

世間話専用レジ

Opening van de Kletskassa bij de Jumbo in Udenhout, 27 september 2021. Foto: Photo Republic / Marco De Swart

また、おしゃべりしたい人とそうでない人をレジで分けることによって、それぞれの目的にあった買い物時間を提供できるのも利点だ。おしゃべりしたい人が別のレジに並ぶことによって、逆に早く会計をしたい人や、できるだけ人との接触を減らしたい人などは、レジに並ぶ時間を縮小できる。

レジを分けることによって顧客のニーズに対応でき、トラブルを回避できる「世間話専用レジ」は、買い物客だけでなく、店側にもメリットがあるのだ。世間話できることで他のスーパーマーケットと差別化され、買い物客がユンボを選ぶ理由にもなる。その他にも、レジでのコミュニケーションで得た顧客の生の声が、お店の改善につながる可能性もある。

昨今は飛沫感染の防止を目的に、接客業では会話を最低限に抑え、接触時間を短くする傾向が強い。そもそもレジにスタッフを配置しない非対人のセルフレジも増えているが、ユンボはそんなトレンドの逆を行く。

ユンボCCOのコレット・クルースターワン・イヤード氏は「私たちスーパーマーケットは、社会の中心にあります。私たちの店は多くの人にとって大切な交流の場であり、孤独の存在を見過ごすことなく、その負担を減らす役割を担いたいのです。」と企業としてコミュニケーションの場を設ける意義を公式サイトで語る。

「『世間話専用レジ』をレジ係が喜んで担当することを誇りに思います。彼らはこの自発的な活動をサポートし、お客さまが人の温もりを感じられる関係性を作り出してくれています。この試みは小さなものですが、特にデジタル化が進み、ものの流れが効率化された世の中では非常に意義のあるものです。」

ユンボでは2019年の夏から「世間話専用レジ」の運用が始まっており、すでに3店舗での導入が行われている。この2年間でその実用性が十分に感じられたことから、今後1年かけて“孤独”が強い影響を及ぼしている地域を重点的に「世間話専用レジ」の数を200店舗まで伸ばす予定だ。

今後もどのくらいパンデミックが続くかわからないなか、コミュニケーションの分断による孤独への取り組みは、引き続き大きなテーマであり続けるだろう。イヤード氏が話す通り、ひとつひとつの取り組みは小さいものかもしれないが、大切なのは孤独を抱える人のひとりでも多くに届くよう、多様な選択肢を作り出していくことだと筆者は考える。皆さんも是非何かできることはないか考えてみてほしい。

※1 Just What Older People Didn’t Need: More Isolation

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【参照サイト】 Jumbo

Edited by Erika Tomiyama

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