グレート・リプレイスメントとは・意味

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グレート・リプレイスメントとは？

グレート・リプレイスメント（Great Replacement）とは、移民や非ヨーロッパ系（アジア系やアフリカ系など）の人々の流入によって、アメリカやヨーロッパの白人種の人口が「置き換えられる」と主張する白人至上主義的な陰謀論の一種。

フランスの作家・思想家であるルノー・カミュが2011年に提唱した。日本語で直訳すると「大代替」「大置換」を意味する。

グレート・リプレイスメントの歴史

グレート・リプレイスメントの起源となる、移民に対する恐怖や陰謀論は、19世紀後半から存在していた。

陰謀論は、白人たちの恐怖心を煽る一連の誤った考えから発展した。1892年、イギリス系オーストラリア人の作家・政治家であったチャールズ・ピアソンは、白人たちは“目を覚ますと、自分たちが見下していた人々によって、肘鉄砲を食らわされ、急かされ、突き飛ばされていることに気づくだろう”と警告した。当時、ヨーロッパでは移民が大量に流入しており、そのことが白人たちの恐怖を助長することになる。アメリカでは、19世紀後半から20世紀初頭にかけて移民をターゲットにした政策がとられた。

フランスでは、反ユダヤ主義運動の指導者であったジャーナリストのエドゥアール・ドリュモンが、19世紀後半にユダヤ人がいかにフランス文化を破壊するかを想像する記事を書いている。イタリアの詩人、フィリッポ・トンマーゾ・マリネッティは1909年、戦争とファシズムが世界にとって唯一の治療法であると主張した。彼は、ファシズム政治を行ったベニート・ムッソリーニの支持者である。ナチス・ドイツでも、白人種がユダヤ人やその他のマイノリティの手によって絶滅の危機にさらされているといった陰謀論が広まっていた。

何十年もの間、このような主張や思想は白人至上主義者によって推進され、白人至上主義の考えや外国人・移民排斥的な陰謀論を広く引きつけてきた。

そして2011年に、ルノー・カミュが著書『Le Grand Remplacement』（英語訳：『The Great Replacement』）の中でグレート・リプレイスメントを提唱する。なお、カミュはこの中で、フランスやヨーロッパの白人は、物理的、文化的、政治的に非白人に取って代わられていると主張。自由主義的な移民政策と白人の出生率の激減が、ヨーロッパの文明と伝統を脅かしていると考えたのである。

グレート・リプレイスメントを印象づける近年の出来事

白人至上主義やグレート・リプレイスメントといった極端な考え方は、アメリカやヨーロッパの一部で起こる事件やテロ攻撃、国家による暴力、プロパガンダキャンペーンにつながってしまっている。

2017年、アメリカ・バージニア州シャーロッツビルで開催された「Unite the Right 」集会では、白人至上主義者たちが「You will not replace us（お前たちは我々の代わりにはならない）」、「Jews will not replace us（ユダヤ人は我々の代わりにはならない）」と唱えたことで有名だ。アメリカの極右のコメンテーターたちは、民主党がアメリカ市民を不法移民に「置き換えている」とするグレート・リプレイスメントの理論を持ち出している。

また、以下の銃乱射事件はいずれも、グレート・リプレイスメントの理念に基づくヘイトクライムとされている。

2018年　ペンシルベニア州ピッツバーグのシナゴーグ（ユダヤ教の礼拝所）「ツリー・オブ・ライフ」で発生した銃乱射事件
2019年　テキサス州エルパソのスーパーマーケットで発生した銃乱射事件
2019年　ニュージーランドのクライストチャーチで発生した銃乱射事件
2022年　ニューヨーク州バッファローのスーパーマーケットで発生した銃乱射事件

その他にも、白人以外の移民が外国人排斥の標的になっている。たとえば、メキシコからの移民はアメリカの都市に犯罪行為を持ち込んでいると非難されたり、移民はフェンタニル（麻薬）をアメリカに密輸しているという濡れ衣を着せられたりしている。現実には、移民による犯罪はアメリカで生まれた人々による犯罪よりもはるかに少ないにも関わらずだ。

グレート・リプレイスメントは政治にも影響を与えている

2024年11月に行われたアメリカ大統領選挙で、ドナルド・トランプ前大統領が再選した。トランプ大統領といえば、2016年に就任した際、メキシコと接するテキサス州南部の国境に大規模な壁を建設し、不法移民の流入を封鎖したことが知られている。

一方で、2021年に就任したバイデン大統領は国境の壁の建設を中断するなど包容的な移民政策を推進していた。移民に比較的寛容な姿勢を示してきた民主党政権だったが、バイデン政権下でアメリカに不法入国を試みる事例が増加。移民の増加に伴う国内の不満を抑えきれず、トランプ候補との大統領選を前に、移民の入国を抑制する方針へと転換を迫られた。

移民政策に変化が生じているのはアメリカだけではない。

2022年、イタリアで行われた選挙では極右政党が勝利。ジョルジャ・メローニ党首はイタリア初の女性首相となったが、メローニを「極右」の政治家として警戒する声も根強いとされている。ドイツでも、少数政党だった極右政党の支持率が跳ね上がった。ドイツの右派政党「ドイツのための選択肢」はドイツの州議会選挙で移民や難民に対し排他的な主張を掲げ、波紋を広げた。2024年9月、「ドイツのための選択肢」は主要な選挙で第1党となっている。

移民に寛容とされてきたスウェーデンでも、2022年に行われたスウェーデン総選挙で野党の右派が勝利を収めた。右派には移民排斥を訴える「スウェーデン民主党」も含まれており、移民政策の転換が見られている。

グレート・リプレイスメントの影響と憎悪の広がりを抑えるために

グレート・リプレイスメントや同等の陰謀論など、極端な思想に直面すると、圧倒され、変化をもたらすことが不可能であるように感じるかもしれない。だが、これらの陰謀論の存在に気づき、それらがもたらす憎悪に立ち向かうことは、極端な外国人嫌悪、人種差別的暴言、白人至上主義の台頭、そして罪のない人々の犠牲といった悪影響が続くのを阻止するのに役立つはずだ。

私たちにできることにはこんなことがある。

歴史についてもっと知る

図書館を訪れたり、インターネットを利用したりして、グレート・リプレイスメントや関連する陰謀論、キーワードに関する資料に目を通す。それらの歴史だけでなく、それらを阻止するための取り組みについて、事実確認された信頼できる情報源や研究者からの情報を見つけ出す。

話し合う

このような発言や理論がどこから来ているのか、自分以外の人も認識し、理解できるよう、あなたの愛する人や友人に調べた資料や情報を共有して一緒に話し合う。

反対の声をあげる

このような理論に反対する人々の声を増幅させる。このような思想に反対する記事やスピーチを共有して、なぜこのような思想が危険なのかを説明する。

質問する、問いかける

公務員や議員などの公人や地域社会の人々が、グレート・リプレイスメントに沿った考えを語り続けているところに直面したら、彼らがどこから情報を得ているのか、彼らの発言を裏付ける証拠はあるのか、彼らの理論がどこから来ているのか、といった疑問を、彼らや他の人たちに問いかけてみる。これだけで彼らの考えを変えることはできないかもしれない。でも、あなたの質問によって他の人たちも彼らに問いかけるようになるかもしれない。