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色覚多様性とは・意味

 

色覚多様性とは?

色覚多様性とは、人がもつ多様な色の見え方の違いを表す言葉である。近年、人の色覚には多様性があることが明らかになってきた。そのうち少数派の色覚の人々をかつては「色盲」、「色覚異常」、「色覚障害」などと呼んでいたが、用語が差別的であり、その割合から「異常」と表現することは適切ではないとして、2017年に日本遺伝学会が新しく色覚多様性という用語を提唱した。

「色盲」という呼称は以前は眼科の診断名として使われていたが、差別的な表現であり、白黒で色が全く見えないと誤認されやすいこと、患者団体の要望などもあり、2005年に日本眼科学会で用語の使用が完全に廃止された。

少数派の色覚を持つ人の割合は、日本では男性の20人に1人(約5%)、女性の500人に1人(約0.2%)ほどだといわれている。一方、西欧では約8〜10%にのぼる地域もあり、フランスや北欧では男性の10人に1人ほどいるともいわれている。全世界の人口を65億人とした場合、色覚多様性のある人は2億人ほどで、世界の血液型AB型の男性の割合と同じくらいだ。

このように人口の一定数以上を占める形質を「異常」と呼ぶことに違和感を感じる人も多く、日常生活での不便さはあるものの、形質的な異常や不自由さはないことから少数派の色覚を「障害」と表すことも適切ではないとされている。

色覚の種類と分類

ヒトの目の網膜にはL錐体(赤)、M錐体(緑)、S錐体(青)という3種類の錐体細胞(色を見分けるためのセンサー)がある。

色覚にはこのセンサーの特性により、「C型」「P型」「D型」「T型」「A型」の5つの型があるといわれている。これは血液型と同様に遺伝子タイプによって異なるもので、「正常/異常」といった区別ができるものではない。

※「C型」以外の4タイプは色認識に弱い点があることから、NPO法人カラーユニバーサルデザイン機構(CUDO)は「色弱者」と呼んでいる。

C型色覚

赤・緑・青の3種類の錐体細胞が全て揃っており、色を幅広く認識できる。
日本男性の約95%、女性の99%を占めており、多数派であることから一般色覚者と呼ばれる。

P型(1型)色覚

3種類のうち、赤い光を感じるL錐体がない(P型強度)、または感度が低い(P型弱度)。赤が暗く見えるため、濃い赤はほとんど黒に見える。青の感度が高い。日本人男性では約1.5%ほどの割合。

D型(2型)色覚

3種類のうち、緑の光を感じるM錐体がない(D型強度)、または感度が低い(D型弱度)。緑が見分けにくい。日本人男性の約3.5%ほどといわれる。

T型(3型)色覚

3種類のうち、青い光を感じるT錐体がない、または感度が低い。青みの差、青と緑、黄色と赤の区別が難しい。日本人男性の約0.01%以下。

A型(1色型)色覚

3種類のうち2つ、またはすべてがない、または感度が低い。色を明暗でしか感じることができない。日本人男性の約0.01%以下、10万人に1人以下の割合といわれる。

その他、同じ色名でも明度や彩度の差により見える色合いが異なる場合があり、淡いピンクや水色といった彩度の低い色は識別が難しい傾向にあり、蛍光ペンなどのような鮮やかな蛍光色の見分けも難しい。このためP、D、T、A型の人にとっては、一般色覚者(C型色覚)に合わせて作られたカラーパレットの細かい色の区別や識別が困難だという。

日常生活での不便な場面

少数派の色覚を持つ人は自立して日常生活を送ることに大きな支障はないものの、社会生活のさまざまな場面で色の識別上、不便を感じることがある。例えば、以下のような場面だ。

  • カレンダーの赤い休日表示が目立たない
  • 肉の焼け具合が分からない
  • 色から調味料の識別ができない
  • 信号・道路標識・電光掲示板の注意を引く赤が目立たない
  • 非常ボタンが分かりづらい
  • 駅の時刻表や路線図、道案内、地図の色分けが認識できない
  • 券売機やATMなどの操作画面の配色やデザインが見えづらい
  • 「赤色の窓口へ」「黄色の用紙で」「緑のボタンを」といった色での案内が分からない
  • 仕事の資料やスライドなどで色分けされた情報が認識できない
  • 黒板の文字は白や黄色のチョークは見えるが赤は見えない
  • 光るものの色が見にくく、電化製品などのLEDの色が区別しづらい
  • テレビの色が調節できない

少数派の色覚を持つ人の職業選択の自由

現在は制度の見直しが進められ、色覚を理由として進学や就職を制限される場面は以前より少なくなっている。

運転免許も「赤色、青色、及び黄色の識別ができること」という基準を満たしていれば、色覚多様性がある人の多くが取得可能だ。

しかし、飛行機のパイロットや自衛官、警察官、オートレース選手など、未だに色覚により制限を受ける職業も存在しており、大学入学時に制限を課している学部もある。業務上、血液、皮膚、尿などの色からさまざまな判断を行う医療関係の職種や、生鮮の鮮度を判定する仕事なども色覚多様性のある人は就けない場合がある。

見分けやすい色使い

赤・緑・青のどの色を認識しづらいかによって色の見え方は人それぞれだが、神奈川県が作成した「色使いのガイドライン」によると、色覚多様性を意識した見分けやすい色使いとして、以下のような点に配慮すると良いという。併せて、白黒でコピーしたときに内容を識別できるか確認することも有効だ。

色選び

・濃い赤、強い赤を使わず、朱色やオレンジを使う
・暗い緑は赤や茶色に見えることがあるため青みの強い緑を使う
・明るい緑と黄色が同じに見える人もいるため同時に使わない
・青紫は青と区別できないため赤紫を使う
・赤や緑を認識しづらい人には、注意を引くカラーとして青を使う
・建物などの安全確保のための注意喚起は黄色を使う(弱視の人も認識しやすい)

配色

・暖色系と寒色系、明るい色と暗い色、濃い色と淡い色を対比させる
・赤と緑、黄色と黄緑は見分けにくい組み合わせのため、それらのみを一緒に使用することは避ける(一緒に使う必要がある場合は明暗を活用)
・彩度の低い色の組み合わせは避ける

文字の色

・背景と文字に色相の差ではなく明度差をつける
・細い線や小さい字に黄色や水色を使わない

グラフや図解

・色だけに頼った情報提供をしない
・実線、点線、破線などを組み合わせる
・異なる網掛け(ハッチング)を組み合わせる
・濃淡をつける

カラーユニバーサルデザイン(略称CUD)

色覚多様性に配慮した社会的な取り組みの一つに、NPO法人のカラーユニバーサルデザイン機構(CUDO)によって提唱された「カラーユニバーサルデザイン」がある。

これは先述した色の見やすさに配慮し、色覚タイプの違いを問わず、できるだけ多くの人にとって利用しやすい色・デザインの製品・サービス・施設・建築物・情報を提供するための手法だ。

デザインを考える際は多様な色の見え方を理解し、色を識別しにくい人にも情報が伝わるよう、適切な配色を選ぶ、色以外の情報伝達を用いる、色の名前を言葉で表しコミュニケーションが取れるようにするといった工夫で、誰もが分かりやすいデザインを目指していく。

また、色合いや配色による障壁のない社会を目指す考えを「色覚バリアフリー」、「色のバリアフリー」という。英語では「カラー・ブラインド・フレンドリー(Color Blind Friendly)」という言葉が使われることが多い。

カラーユニバーサルデザインの事例

カラーユニバーサルデザインは、すでに国内外で取り組みが広がりつつある。特に学校や自治体の刊行物、公的施設や公共交通機関、その他多くの人が利用するサービスにおいて重要視されており、カラーユニバーサルデザインのマニュアルを作成する自治体もある。以下ではその取り組み事例をいくつか紹介する。

インド・マクドナルドの色控えめメニュー

インド・マクドナルド(West&South)は、色を識別しにくくメニューが美味しそうに見えない色覚多様性ユーザーに向けて、「緑-赤」、「赤-緑」、「青-黄」の3つの色強調オプションを用意している。

特別なアルゴリズムで、それぞれのボタンを押すだけで色表示がはっきりとするため、色覚多様性を持った人もより色鮮やかなメニューを見ることができる。

【関連記事】インドのマクドナルドが、「色味控えめ」メニューを見せる理由とは

エプソン「カラーユニバーサルプリント機能」

情報関連機器メーカーのエプソン株式会社は、あらゆる色覚を持った人が使いやすい「カラーユニバーサルデザイン機能」を装備したプリンターやソフトウェアを提供している。

またプリンターやプロジェクター、リモコンなどの操作パネル、液晶表示、LEDランプ、ボタンに青やオレンジといった誰もが視認しやすい色を使うなど、カラーユニバーサルデザインに配慮した設計がなされている。

小田急電鉄「誰にとっても見やすい案内図」

小田急電鉄は、2015年夏からカラーユニバーサルデザインのプロジェクトに取り組んでいる。1,000色のカラー見本を使った独自のカラー検証や現場での検証を実施しながら、非常停止ボタンの誘導サイン、時刻表、路線図のデザインを色覚多様性に配慮してデザインした。

時間をかけて色のバランスやピクト・文字のバランス、視認のしやすさなどを考慮し作成したデザインが評価され、2016年にはグッドデザイン・ベスト100を受賞している。

まとめ

色覚多様性という言葉は「色盲」や「色覚異常」といった用語の言い換えとして生まれたが、単なる名称の変更にとどまらず、色覚の違いに対する社会の認識そのものを再定義するきっかけとして捉えることもできるのではないだろうか。

色彩感覚の違いで認識しやすい色、しにくい色があるとしても、それを「色が分からない」、「ハンディキャップがある」、「劣っている」と考えるのではなく、性格や体型、血液型などの違いと同じ一人ひとりの個性と捉え、社会が多様性を受容する姿勢を持つことが大切だ。

世界では、フランス・パリのポンピドゥセンター、イタリアのギャレリア・ディタリア、オランダのユトレヒト中央博物館など、各国の美術館が色覚多様性を持つ人がより多くの色を認識できる特別なメガネを導入するなど、先述したカラーユニバーサルデザインにとどまらない取り組みも進んでいる。

これから色覚の多様性をより多くの人が理解し、配色やデザインを通して全ての色覚の人々の世界が広がるきっかけを社会全体で作っていけることが望ましい。

その取り掛かりとして、まずは当サイト内でも紹介している「色のシュミレータ」や色をテーマにしたWEBマガジン「1050+」で、実際に色覚多様性を持つ人たちの見え方を疑似体験してみるのもいいかもしれない。

【関連記事】色弱の人には、世界がどう見えるのか。体験できるアプリ「色のシミュレータ」で検証した

【参照サイト】Color and Universal Design
【参照サイト】カラーバリアフリー「色使いのガイドライン」
【参照サイト】カラーユニバーサルデザイン(CUD)とは|北海道カラーユニバーサルデザイン機構
【参照サイト】5 Tips on Designing Colorblind-Friendly Visualizations
【参照サイト】しきかく学習カラーメイト
【参照サイト】カラーユニバーサルデザインへの配慮|エプソン株式会社

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