Story
映画概要
「修理したいのはモノだけじゃなかった。」
お店では修理を受け付けてくれない壊れた家電や服、自転車など、あらゆるものを地域のボランティアが無料で直してくれる、オランダ発祥のリペアカフェ。実は彼らの役目は、モノを修理するだけではない。
離れ離れになった家族の「思い出」、疎遠になりつつある地域の「コミュニティ」、捨てることを前提に成り立つ消費社会の「システム」…
リペアカフェにはどのような人とモノが集うのか?壊れかけた「モノ以上のもの」を直す人々の物語がここにある。
Introduction
制作背景
あなたの周りに眠っている、壊れたままのものはありますか?
ほつれたニット服、ひび割れたタブレット、小さい頃に遊んだおもちゃ……それぞれに思い出やストーリーがあるでしょう。
しかし、大量生産・大量消費が前提となる社会では、私たちは、気付けばモノが壊れたら新しいものに買い替えるのが当たり前になっています。お店で修理を頼むよりも新品を買う方が安かったり、自分で修理するのが難しかったりすることもあります。
そんな壊れた家電や服、自転車など、あらゆるものを地域のボランティアが無料で直してくれる場所があります。その名もRepair Cafe(リペアカフェ)。
IDEAS FOR GOODが贈る、初のオリジナルショートドキュメンタリー『リペアカフェ』は、そんなリペアカフェ発祥の地であるオランダ・アムステルダムを舞台に、彼らの活動に密着。その中で生まれたコミュニケーションから、私たちの身の回りにあるモノと人との関係性や、真の豊かさを見つめ直します。
2024年7月、欧州では消費者が製品の修理を簡単にするために「製品の修理を促進する共通指令」が施行されました。これによって、テレビ、掃除機、携帯電話など11種類の家電について、購入から最大10年間、メーカーが修理サービスの提供を行うこと等が義務付けられました。
製品の設計段階からごみが出ることを防ぎ、資源を高い価値を保ったまま循環させ、自然を再生していくことを目指す、サーキュラーエコノミー。こうしたシステムを推進する上で、最小限のエネルギーで製品の寿命を伸ばす「リペア」は重要な鍵となります。
日本でも、2024年7月にサーキュラーエコノミーに関する関係閣僚会議が開かれ、リペアを通じた地域活性化やライフスタイル転換の必要性が議論されています。
地球の健康状態を示すプラネタリーバウンダリーが限界を迎えつつある現在。これからもこの地球で幸せに暮らし続けるために、「修復」や「再生」を通じて、どうすれば豊かな社会を築き、ともに生きていくことができるでしょうか。
今こそリペアを通して、モノと人の関係性や、真の豊かさについて見つめ直してみませんか?
Director’s message
ディレクターからのメッセージ
アムステルダムのリペアカフェを初めて訪れたのは、2022年秋にオランダを旅行しているときのことでした。そこに来ていた車椅子のおじいさんが取り出したのは古い壁掛け時計。故障を調べている修理人を見たとき、「彼らが本当に直しているのはモノだけではなく、思い出なのかもしれない」と私は考えました。
一年後、アムステルダムで暮らし始めた私はリペアカフェでの撮影を開始しました。すると「思い出」だけではなく、孤独が問題となる都市の「コミュニティ」や、競争と消費が無限に拡大していく「社会のあり方」など、多くの「モノ以上のもの」を彼らは“修理”しようとしていることに気付いたのです。本作品では、そうしたリペアという営みから生まれる多様な価値を映そうと試みました。
制作中、私もリペアカフェに影響され、画面の割れたスマホや壊れた腕時計を自分で修理しました。修理という行為には、創造力が試されます。そして、修理をしたら「3年前に買った型落ちのスマホ」が「自分が修理した大切なスマホ」に変わりました。リペアカフェで出会った人たちは、今では大切な友人になっています。
この作品が、自分の身の回りのモノへの見方が変わったり、モノにまつわる誰かのことを思い出してもっと大切に思えたりする、そんなきっかけになれたら幸いです。
オランダ・アムステルダム在住。デンマークでフォルケホイスコーレ留学やNGO勤務を経験。現地の難民問題を取材した動画がきっかけとなり、現職で映像コンテンツの企画制作を主に担当。本作品では企画、撮影、編集、翻訳全般を行う。アムステルダム大学夏期コースCircular City修了。
企画制作:IDEAS FOR GOOD
協力:Repair Cafe International
監督、撮影、編集、翻訳:瀬沢正人
撮影応援:龍ノ口弘陽、クリエイティブアドバイザー:廣瀬正樹、翻訳補助:吉野有香
2024年/オランダ、日本/30分/カラー/英題:The Repair Cafe/日本語字幕