環境難民とは？

環境難民とは、気候変動や環境破壊により居住地を離れなければならなくなった人々のこと。

長期の干ばつ、豪雨や豪雪、砂漠化、森林火災、海面上昇やサイクロンなど、異常気象による被害が世界各地で年々増加している。国連難民高等弁務官事務所（UNHCR）によると、年間2,000万人以上の人々が、それまでの生活を捨て自国内の他の地域への避難を強いられており、中には国境を越えて避難せざるを得ない人々もいる。このように、環境変化に伴い土地を離れざるを得ない人々を、環境難民という。また、地球温暖化など気候変動による場合は、気候難民と呼ばれることもある。

環境難民の例

森林火災や海面上昇などの環境変化は、住居や農地を破壊し、人々の生活と生命に直接的な被害を与える。このような状況から逃れる環境難民の例として、以下が挙げられる。

• 2020年11月、ハリケーン被害を受けた中米のホンジュラス、グアテマラ、エルサルバドルから、多くの人々が国境を越えてメキシコへ移動
• 地球温暖化に伴う海面上昇により、キリバス、ツバル、マーシャル諸島など、海抜が低く水没する恐れのある島国からの国外退避

国際連合によると、世界の大都市（人口500万人超）の約3分の2が、また、世界人口の約40%が、海面上昇による水没リスクにさらされているという。今後さらに海面上昇が進んでしまうと、何百万人もの人々が避難を強いられ、環境難民となる恐れがあるのだ。

環境変化による社会情勢のさらなる不安

また、直接的な影響だけでなく、環境変化により農作物や資源が不足し紛争や経済混乱につながる恐れもある。

• 1977年のソマリア・エチオピア紛争に伴う環境破壊により、放牧民と農民との間で土地や水をめぐる紛争が激化
• 2015年、インドネシアでエルニーニョ現象が広範囲な干ばつを引き起こし森林火災が発生。食糧生産などに甚大な被害が生じ、インフレなどの経済混乱が加速

環境難民に対する国際社会の対応

このように人々の生活が危険にさらされる一方で、環境難民への支援体制はいまだ十分とは言えない。「難民の地位に関する1951年の条約」によると、「難民とは人種、宗教、国籍、政治的意見やまたは特定の社会集団に属するなどの理由で、自国にいると迫害を受けるかあるいは迫害を受けるおそれがあるために他国に逃れた」人々と定義されている。

それでは、気候変動や環境破壊が原因で強制移動を余儀なくされる人々は、難民として認められるのだろうか。2015年、海面上昇による水没危機にさらされるキリバスから、気候変動を理由とした難民申請がニュージーランドに出された。しかし難民申請は却下され、強制送還されてしまったのだ。

このような状況を問題視し、国際機関は環境難民や避難民の保護に向けて動き出している。

• 2018年、国際連合は、「安全で秩序ある規則的な移住に関するグローバルコンパクト」を採択。大規模な人々の移動が発生する要因の一つとして「気候変動がもたらす悪影響、環境破壊」があることを明記し、気候変動や環境変化により国を離れざるを得ない人々について、各国が保護に取り組む必要があるとした。
• 2020年、UNHCRのグランディ高等弁務官は、気候変動を理由とした難民申請を各国政府が認めるべきとする判断を初めて下した。
• 2021年、国連人権理事会は、清潔で健康的な環境を人権と認める決議を採択。気候変動、環境汚染、自然の喪失が人々の生命を危険にさらし、強制的な移住の原因となっていると指摘した。

まとめ

気候変動に伴う環境変化への危機意識の高まりから、脱炭素や廃棄物削減など環境問題に対し、政府機関や多くの企業と市民団体が取り組み始めている。その一方で、環境難民への理解や支援体制はいまだ十分とは言えない。

環境難民や避難民の保護・支援体制の確立、環境問題に対する人権の保護、また環境難民を生まないために、各地域の災害対策や環境変化に対応した農作物の開発、資源の確保など、今後ますますの取り組みが求められている。

【参照サイト】環境白書（環境省）
【参照サイト】気候変動と強制移動（国連難民高等弁務官事務所、UNHCR）
【参照サイト】気候変動による「環境難民」急増に備えを、国連機関が呼び掛け（Reuters）
【参照サイト】ILO専門家考察～『太平洋島嶼国におけるグリーン・ジョブの促進活動』（国際労働機関、ILO）
【参照サイト】気候難民 忘れられた犠牲者（World Economic Forum）
【参照サイト】気候危機 ― 勝てる競争（国際連合広報センター）
【参照サイト】国連人権理事会、清潔で健康的な環境を人権と認める決議‐日本は棄権（10/8）（ヒューマンライツ大阪）

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