作り手は日本の難民。横浜で誕生したエシカルパソコン「ZERO PC」

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最近、「エシカル」という言葉を耳にすることが増えた。エシカルファッションやエシカルジュエリー、エシカル消費など様々な「エシカル○○」が存在する。しかし、「エシカルPC(パソコン)」という言葉を聞いたことがある人は、そう多くないだろう。

日本では一年間に、およそ300万台のパソコンが廃棄されているという。重量にしておよそ6,000トン(※1)。毎年それが積み重なるとかなりの量になり、日本のごみ問題、環境問題にも大きな影響を与えている。

修理すればまだ使えるのに廃棄されているパソコンに着目したのが、ピープルポート株式会社(以下、ピープルポート)だ。使用済みのパソコンを修理したものを東京、千葉、埼玉の大型ショッピングモールの催事会場などで販売している同社。しかし、ただの中古パソコン販売会社ではない。修理をするスタッフとして働くのは、いわゆる「難民」(※2)と呼ばれる人たちである。しかもこの難民という人々の存在が、「同社がパソコンを商材に選んだ」理由であるという。

今回、IDEAS FOR GOOD編集部は、ピープルポートの社長である青山明弘さんに、難民を雇用しながらパソコンの修理・販売を始めたきっかけや取り組みにかける想い、2020年7月末に新しくリブランディングされたエシカルパソコン「ZERO PC」についてお話を伺った。

「幼い頃から世界で起きている戦争や紛争が嫌だった」

まず青山さんに伺ったのは、現在の活動を行うに至った経緯だ。

「もともと小学生くらいの頃から戦争とか紛争が漠然と嫌だなと感じていました。特に戦争体験者である自分の祖父母が、戦争の話をするときに悲しい顔になるのを見るのがとても嫌でした。その後、戦争に関する番組などを真剣に見るようになり、大学生のときにはカンボジア内戦の激戦地跡を訪れて映画を撮るなど、学生時代は戦争や平和に関する活動に積極的に取り組んでいました。」

社会課題への取り組みを中心に据えて生きていきたいと思ったのがきっかけで、新卒でボーダレスジャパンに入社し、数年働いた後に事業を立ち上げた青山さん。どのようにして「難民の雇用」と「パソコンの修理・販売」に辿り着いたのだろうか。

「今、世界には戦争が起きている場所があり、被害を受けている人々が沢山います。その中には難民として故郷を逃れた人がいて、日本にもそういった人がいると知りました。話を聞いてみると、戦争だけでなく様々な理由で母国から逃れてきた難民の人たちの多くが、日本で大変な状況で生活していました。」

日本にいる限り今すぐ殺されることはないとはいえ、母国に家族を残してなんとか日本に逃れ、どうすればよいか分からず途方に暮れている人たち。そのような人たちを救うために難民の雇用をしようと、2017年にピープルポートを立ち上げたという。

世界共通のパソコン修理。大切にしているのは「ありがとう」の一言

争いをなくす方法を模索しながらも、まずは戦争や紛争の被害を受けている人たちの力になりたいという想いから始めた、と語る青山さん。パソコンを商材に選んだのは、リユースパソコンの市場の安定性に加えて、パソコンの修理技術の世界共通性から。つまり、難民が母国へ帰国した後も習得した技術を生かして仕事ができることを想定してのことだという。しかし、パソコンが選ばれたのには、さらに2つの理由があるという。

「難民の人たちの多くは日本語が分からないので、働く場所を見つけにくかったり、雇用先に騙されたりすることがあります。また、労働環境が悪いところで働いている人も多いです。そんな状況であっても日本語を話すことができないために、誰かに相談をすることもできません。言語の壁により生活が苦しくなっていることを考えたとき、日本語が分からなくても働けるものを条件にしようと考えました。」

使用済みのパソコンを修理している様子

英語と数字が主な使用ツールで、多言語での説明書が十分にあることが一つ目の理由。そして2つ目の理由であり、最も重要視しているのが、”日本の課題への貢献”だという。

「難民というと、お荷物になる、税金でサポートする余裕がない、怖い人たちだ、などといった声もあり、国として受け入れるかどうかの議論になることが多いです。私としては受け入れたいと思っていますが、そのためには難民に対してポジティブな考えを持つ人だけでなく、ネガティブな感情を持っている人たちも巻き込んでいかないといけません。」

その時に思いついたのが、「『ありがとう』と言ってもらえることをすること」だという。難民たち自らが人々に感謝されることをすることで、難民という存在に負のイメージを持つ人たちの考えも変わるのではないかと考えたそう。

「パソコンの使い方を知っていても、壊れたときに自分で修理できる人はそう多くありません。個々人によって知識量の差が明確に出るパソコンに詳しくなることで、困っている人の力になることができる。さらに、パソコンの修理と再利用により廃棄を減らすことで、環境問題にアプローチすることにもつながる。一人一人のお客さんから、グローバルな社会課題にまで貢献できることから、パソコンの修理・販売を始めました。」

働き手の顔が見えるオフィスに

難民の生活向上だけでなく、多くの人にその存在を知ってもらうこと、ポジティブな意味で「難民」に関心を持ってもらうことを目指している青山さん。そのためにこだわっていることが他にもあるという。

オフィスで話す難民のスタッフと青山さん

「オフィスのデザインと場所です。難民という立場の人は、都市部からは離れた辺鄙な地域で、しかも実態が見えにくいような作業場で働いていることがあります。そんな中で我々は、外から中の様子が見えやすい、一階でガラス張りというのを条件にしました。地域の人たちへの貢献や、街の人たちとのコミュニケーションを大事にしたいという意味も込められています。」

「また、千葉や埼玉在住の難民が多いことも考慮して、オフィスの最寄り駅には複数路線が通っていること、オフィス付近への引越しの場合も考えて、家賃の低い地域とつながる路線が通っているかも条件に定めました。」

“ストレスのかかる異国での生活を少しでも楽にしたい”という想いで選ばれた現在のオフィス。地域のつながりにも意識した選択だったようだ。

環境難民や紛争鉱物のゼロを目指す。強い覚悟でリブランディングした「ZERO PC」

2020年7月の末、ピープルポートは、リブランディングした「ZERO PC」というパソコンを打ち出した。以前からECOパソコン専門店という形でやっていたが、”よくある中古屋さんの少しいいことやっているバージョン”という程度の印象だったという。今回は、環境難民や紛争鉱物のゼロを目指した、環境と社会の両面での”強い覚悟”をより明確に主張していこうとリブランディングをしたそう。

ZERO PC

「ゼロってすごく難しいんですけど、それを目指してやっていることを伝えたいです。製造プロセスにおいては100%自然エネルギーを使用し、長く使ってもらうために部品の一部を古いものから新品に変えています。しかし、古い部品や再生不可のパソコンはすべてリサイクルするため、廃棄するものはありません。またパソコンは精密機械なので、通常は発送の際にプラスチックの包装を多く使うのですが、うちでは紙ベースのみの『緩衝材ゼロの段ボール』を開発し、使用しています。」

緩衝材を用いない段ボール箱

「コストパフォーマンスは良いとは言えません。だけど、環境面に配慮した分上がったコストはお客さんには課しません。地球から資源を前借りしてこれまで安く販売していたのをやめた、というイメージです。また、この状態でもきちんと利益が出る体制を作ることができれば、コストが上がったとしても地球環境の負荷を下げられるサービスができるなと思ってやっています。」

環境問題は全人類で取り組むべき課題だと話す青山さん。子どもたちの未来を考慮したときにそれが必要不可欠なことに加えて、また別の理由もあるという。

「例えば、気候変動によって故郷を追われる『環境難民』がすでに存在し、その数は今後ますます増えると言われています。難民と呼ばれる人とチームを作っている我々としては、気候変動による難民を増やしてはいけない、むしろ減らすための活動をするべきだと思い、ZERO PCというブランドに踏み切りました。」

難民100人の雇用、世界展開、自社でのフェアな部品作りも

それまで経験のなかったパソコン修理という新たな領域での難民の雇用とZERO PCへの挑戦。難しいチャレンジを続けてきたピープルポートの今後の目標について伺った。

業務の様子

「これまで累計4名の難民の方たちを雇用してきましたが、目標は100人。そのためにはZERO PCを月に2000台くらい売る必要があります。今購入してくださっている方たちの多くは、環境問題に意識のあるような方たちですが、今後はZERO PCをきっかけに、環境や難民について興味を持つ人を全国にもっと増やしていきたいと思っています。」

さらに将来的には、会社を現地法人として色々な国に設け、世界中にZERO PCを展開していくことが目標だという。

「現在私たちがアプローチ出来ているのは、難民の人たちが日本で難民申請をしてからその結果が出るまでの生活をいかに安定させることができるか、というところだけです。難民認定率0,4%という日本の現状では多くの人が長い間不安定な在留資格のまま生活することを強いられ、どれくらいの間日本に滞在することができるかさえ分かりません。しかし世界中に拠点があれば、難民申請の状況やビザなどに縛られることなく、難民であってもビジネスマンとして、国をまたいで働くことができます。それが、”一人の人間”として能力を発揮しながら生活を送ることにつながると思っています。」

すでに、次に大きな目標があるようだが、さらにチャレンジしたいことがあるという青山さん。

「将来的に、環境負荷が小さく、人権に配慮したパソコン部品を自分たちの手で作りたいです。パソコンもスマートフォン同様に、部品を作るときに多量の水を消費したり、温室効果ガスを多く排出したりする場合があります。部品の出所を追うのはなかなか難しいのですが、地球環境のため、また雇用を増やすためにもチャレンジしたいです。作った部品は、自分たちはもちろん、他社にも導入してもらうことで社会全体での環境負荷を下げることができると考えています。」

ストーリーへの共感をベースにした買い物を

近い将来にやり遂げたいことがすでに明確で、その全てが社会貢献を主軸に置いたもの。そんな高い志を持つ青山さんがIDEAS FOR GOODの読者に伝えたいことはどんなことだろうか。

「今っていい時代だと思います。私たちの買い物が、社会の良いことにつながるという選択肢がとても増えていると思います。商品を一つ買うことで何ができているのかなと思う人もいると思いますが、私はすべてのものは小さな積み重ねだと思っています。」

「商品の作り手の想いや使われている素材など、何かしらのストーリーに共感して商品を選び買い物をしていくこと。それが本当に社会を変えていくことにつながるのではないでしょうか。買い物は選択だと思うので、そんな小さなこだわりを持ちながら日常生活を送っていけたらいいんじゃないかなと思ってます。」

大きな変化は「コミュニケーションがとれるようになったこと」

最後に、今回は実際にピープルポートで働く難民の方たち2名にもお話を伺うことができた。

業務の様子

ピープルポートで働き始めてから2人にはどんな変化があったのだろうか。

「働き始めて良い変化が沢山ありました。ここに来るまでは働いていなかったので特に何も感じていませんでしたが、働き始めてから責任感をを持って行動するようになりました。一緒に働いているメンバーはみんな家族みたいで、居心地が良いです。(Aさん)」

「働くことができるようになり、生活はとても良くなりました。日本語は難しいですが、少しずつ言葉が理解できるようになり、日本人ともコミュニケーションをとることができるようになりました。働きながら日本の言語だけでなく文化も学んでいます。また働き始めるまでは、外出時はサポートをしてくれる人が必要でしたが、今は一人で外出できるようになりました。会社の人はみんな優しくて、大変な時には助けてくれます。(Bさん)」

日本人と同じ条件で働きながら安定的に仕事ができるだけでなく、そばに心が許せて相談できる人がいる。そんな一つのコミュニティの場を提供したいと話していた青山さん。その想いは着実に、共に働く難民たちに届いているようだ。

取材後記

取材を通して感じられたのが、青山さんの「社会を良くしたい」という熱い想いと、ピープルポートという会社の社会貢献度の高さだった。環境や難民という社会課題にアプローチしながら、同時に、子ども支援を行うNPO法人に対して寄付活動も行っているという。

また印象的だったのが、活動の中で最も嬉しかったことを尋ねたときに、「メンバーが”当たり前”の生活ができるようになったこと」とおっしゃっていたこと。家を借りること、ご飯を買うこと、故郷の家族に仕送りをすること。私たちの多くが当たり前だと思っていることが、異国の地に住む難民という人々にとってどれほど大変か、そして喜ばしいことかが感じられた。

しかし、ピープルポートで働く人々がポジティブな変化を感じている一方で、日本に暮らす多くの難民が困窮状態にあるという。ただでさえ厳しい生活に陥りやすいが、現在は新型コロナウイルスの影響を真正面から受けているからだ。(※3)。そんな状況に置かれた人々を少しでも助けたいとも青山さんは言う。

環境難民と紛争鉱物ゼロ。そんな大きな目標に向かって新たな挑戦を始めたピープルポート。常に社会のために全力で走り続けるこの会社なら、苦境にある人々の重荷を減らし、AさんやBさんのように”普通の暮らし”ができる人を増やすことができるだろう。

※1 zero pc ウェブサイトより
※2 この記事中では、難民申請者を「難民」と表記しています。
※3 難民支援協会・活動レポートより

【関連サイト】ZERO PC
【関連ページ】難民問題
【関連ページ】気候変動

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