AIやビッグデータといったテクノロジーは、通信や情報へのアクセスにとどまらず、物事の見方や判断のあり方を含め、私たちの生活を大きく変えつつある。
環境保全の分野も例外ではない。近年では、テクノロジー企業が環境分野に参入する動きも目立つようになってきた。
テクノロジーはときに、現場のリアリティを一変させることがある。筆者が南米・アマゾンに関わり始めた2015年当時、現場ではインターネットも携帯電話も通じず、広大な土地ゆえに物理的に訪問することも容易ではなかった。数人またぎの伝言や、訪問予定日に印をつけたカレンダーを配ることで、かろうじてコミュニケーションをつないでいた。
それが、新型コロナ禍を経てWi-Fiが使えるようになり、メッセージアプリでリアルタイムにやり取りができるようになった。このとき、世界が突然変わったように感じた。これまでコミュニケーションが取れないことで諦めていたことが、次々と可能になった。テクノロジーが可能性を広げることを実感した瞬間でもあった。同時に、これまでその恩恵から取り残されてきた地域だからこそ、ひとたび接続されることで、それまで見えにくかったものが一気に見えるようになる感覚もあった。
環境保全の現場には、そもそも最先端のテクノロジーから距離のある場所も少なくない。テクノロジーと現場の接続は、どのように進んでいるのだろうか。
気候変動や生物多様性といった課題において世界的に重要な位置を占め、いま多くの取り組みが進むブラジルの現場から、テクノロジーが照らし出す可能性と、その光の先で私たちに突きつけられる問いについて考えてみたい。

かつてはつながらなかった深い森。Wi-Fiの到来は、可能性を広げると同時に世界へと接続させた。写真:Conservation International提供
科学は意思決定を導き、社会的正義と向き合う
筆者も活動に関わっている国際環境NGOであるコンサベーション・インターナショナル(以下、CI)は、こうしたテクノロジーと現場の接続を担う存在の一つだ。保全活動を支える重要な基盤として「科学」を据え、その知見に基づいてテクノロジーの活用を進めている。CIブラジルにも、科学とイノベーションを担うチーム「Laboratório de Inovação em Ciências para Conservação(保全のための科学イノベーション・ラボ)」が設置されている。
本稿では、同チームのディレクターであるBruno Coutinho(ブルーノ・コウチーニョ)氏と、3月に日本を訪れたAkel Saliba(アケル・サリバ)氏に話を聞いた。両氏はいずれもGIS(地理情報システム)を専門とし、コウチーニョ氏は大学での教育経験も持つ。
「科学は自然保全の基盤であり、意思決定を導くものです」と、チームを率いるコウチーニョ氏は語る。その基盤に端を発する最初の問いは、その科学の知恵や技術を使う「対象は何か」だ。アマゾンの環境保全において、それは「場所」を指す。どこを保全するのか。どこを回復するのか。どこで持続可能な生産や管理を行うのか。
「この『どこ』が重要である以上、地理学が重要になります。こうした空間の把握は、GISなどの技術とも深く結びついています」
しかし、問いはそれだけにとどまらない。なぜその場所なのか。どう進めるのが最適なのか。そして、それは本当に機能しているのか。「最終的には、科学的なエビデンスによって、それが機能していることを示さなければなりません」とコウチーニョ氏。
どこで、なぜ、どうやって、そして機能するか。この一連の問いが、チームの仕事の骨格となっている。そして、こうした問いに向き合う中で、GISや衛星データ、AIといったテクノロジーも重要な役割を担っている。

衛星画像を用いた参加型マッピング。アシャニンカ族住民自身が土地利用を可視化し、共有する。写真:Conservation International提供
サリバ氏は、チームが大切にしている価値観として、社会的正義とそれを担保する責任の重要性を挙げる。
「自然保全は、社会的正義の視点と切り離せません。資源が公平に分配され、先住民や伝統的コミュニティがアクセスできることが重要です。同時に、意思決定の基盤となる情報についても、公平に共有されていることが求められます。人々とともに、人々のために、質の高い地理情報を生み出し、共有していく責任があります」
こうした価値観に加え、チームのもう一つの特徴が、現場とテクノロジーをつなぐ存在として、外部の企業や研究機関と連携しながら取り組みを進めている点にある。
例えば、CIが先住民族や大学と連携し、アプリを活用しながら、科学と伝統知を組み合わせて生物多様性を記録・可視化する取り組みがある。異なる知識体系の共創を通じて、現場に即したデータの蓄積と活用が進められている。また、AIを用いて政策や科学データを統合し、森林再生の優先地域を示す意思決定支援プラットフォームの開発も進めている。

ドローンを活用し、モニタリングデータを確認するヤワナワ族の若者たち。写真:Conservation International提供

先住民族の人々とともに森林を歩き、現場の知識と科学を結びつけていく。写真:Conservation International提供
森林を“測る”ために。意思決定を支えるテクノロジー
こうした連携の一例として、日本企業との協働による取り組みを紹介する。
ブラジルでは、2030年までに1,200万ヘクタールの在来植生を回復する国家目標が掲げられているものの、COP30で発表された最新の推計では、現時点で再生が進む面積は約340万ヘクタール(目標の約3割)にとどまっている(※)。
森林再生を加速させるうえで問われているのは、再生の進捗をどのように捉えるかという点だ。どこまで回復が進んでいるのか、どの取り組みが機能しているのかを継続的に把握できなければ、施策の改善や資源配分につなげることは難しい。
しかし、これまでの評価は主に「どれだけの面積を回復したか」という広さにとどまり、同じ面積でも森林回復の進行度の違いまでは十分に捉えることが難しかった。さらに、こうした評価は高コストで複雑な調査を必要とするサンプル調査に依存することが多く、資金や体制の制約によって導入できる主体が限られやすい。その結果、広大な地域全体の状況を継続的に把握するには限界があった。

ブラジルで現地調査を行うDTSCとCIブラジルのメンバー。異なる専門性を持つ人々が連携し、自然保全における新たなアプローチの創出に取り組む。写真:Conservation International提供
こうした課題に対して、衛星データとAIは、森林の状態を広域かつ継続的に把握し、回復の進み具合や森林の状態をより精緻に捉える手段として活用され始めている。
CIブラジルは、日本企業であるデロイト トーマツ サステナクラフト株式会社(DTSC)とともに、こうした手法を現場で実装する取り組みを進めている。
衛星データから森林の樹高や構造などをもとに炭素の蓄積量を推定し、それを現場で実際に測定したデータと照らし合わせながら、機械学習を用いて炭素蓄積量を推定するモデルの精度を高めていく。こうして構築されたモデルを用いることで、衛星データから広い範囲の炭素蓄積量を継続的に把握することが可能になる。
アクセスが困難な遠隔地においても森林の状態を把握できるようになることで、これまで十分に評価・把握がされてこなかった地域や取り組みも、意思決定の対象として扱われやすくなる可能性がある。
「衛星データと機械学習で『どれだけ植えたか』ではなく『どれだけ実際に回復したか』を、広域で継続的に捉えられるようになります。さらに現場の取り組みのデータと突き合わせていけば、『どの手法が、どんな条件で、どれだけ効くのか』が見えてくる。森林再生を加速させるのは、こうした実証的な知見の積み重ねだと考えています」と DTSCの濱口勝匡氏は語る。
こうした変化は、限られた情報に依存していた意思決定をより根拠あるものへと変え、資源配分のあり方にも影響を与えうる。

ブラジルで現地調査を行うDTSCとCIブラジルのメンバー。異なる専門性を持つ人々が連携し、自然保全における新たなアプローチの創出に取り組む。写真:Conservation International提供
見えるようになった先で、何が問われるのか
では、こうした技術は現場の意思決定や行動をどのように変えていくのだろうか。先住民族との知識の共創の経験から、コウチーニョ氏は「テクノロジーは、人々が自分たちの土地をどのように理解し、価値を見出し、どのように判断するかを変えうるものです」と語る。
まず、土地の捉え方そのものが変わる点だ。自分たちの領域を視覚的に理解できるようになることで、意思決定や権利の保護につながる。また、これまで個人にとどまっていた知識が、地図やデータとして共有され、コミュニティ全体に広がっていく。テクノロジーは、これまで見えなかったものを可視化し、十分に把握されてこなかった地域や取り組みを捉え直す手段にもなりうる。
一方で、サリバ氏はこう指摘する。
「テクノロジーによって炭素量などを推定することはできますが、人間の行動そのものを予測することはできません。結果は人の判断によって大きく変わります」
誰の視点を反映させ、どのデータを重視し、どのように解釈し、何を選択するのか──その積み重ねが、最終的な結果を左右する。
テクノロジーの進展とともに、それらの判断や選択のプロセスが見えるようになった先で、その背後にある価値観や社会的公正のあり方が、あらためて問われている。

先住民族にとって森は、文化や暮らし、そして未来そのものでもある。「守らねばならない」という意思がある時、テクノロジーは、森と領土を守るための新たな力となりうる。写真:Conservation International提供
Edited by Megumi






