「ねえ、聞いてよ」をもっと気軽に。離れている人との会話のきっかけを“光”でつくるデバイス「Alight」

2026.10.20

Natsuki

就職や異動、留学、移住をして、親しい人たちと離れて暮らしているとき。その地の生活に心躍らせながらも、こう思うときがある。

「家だけは、実家にそのまま通じていたら良いのに」
「家に帰ったら、いつも通り『ねえ聞いてよ今日さ』と話しかけられたら良いのに」

現代にはSNSがあり、ビデオ通話もでき、瞬時に繋がることが容易い。しかし結局、事前に電話する時間を決めたり、「今電話できる?」と確認したりしたことがある人も多いのではないだろうか。即座に相手に届いてしまうからこそ、離れている人が「今この瞬間」に話しかけて良い状態なのかを心配してしまうのだろう。

そんな、人と人が繋がるための「瞬間」を見つけやすくしたい──この願いから誕生したのが、ロンドンのデザイン企業・Morramaが設計したAI搭載デバイス「Alight」だ。テープレコーダーを彷彿させるどこか懐かしい外観で、モニター部分にはオレンジや青色の光がゆらめいている。

Alightは、離れたリビングルーム内の動きを追跡し、カレンダー上のスケジュールと連携することで、相手がいつ在宅していて、いつ話す時間がありそうなのかを把握。家族一人ひとりに色が割り当てられ、例えば母親には柔らかい青、兄には温かみのあるオレンジなど、誰が家でゆっくりしているのかを光で知らせてくれるのだ。そのときに話したいと思えば、デバイス間で通話することもできる。

 

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動画技術も発達している中で、あえて声でのコミュニケーションに絞ったのにはわけがある。同社は、イェール大学経営大学院のマイケル・クラウス教授の研究に着目。同氏の研究では、音声のみのやり取りでは、聞き手が話し手の感情をより正確に把握できる傾向があり、感情を伝える主な手段は、表情ではなく声のトーンである可能性が示唆されている(※1)。これを参照し、あえて顔が見えず光で相手の存在を認識し、「話す・聞く」という行為に集中できるような設計を生み出したのだ。

また通話中、会話を記録したいときにはボタンひとつで録音することができる。相手にも録音開始の通知が届き、同意の上で記録されるとのこと。

Alightの特徴は、それが実際の会話のみで構成された「プライベートな」アーカイブであること。つまり、企業に提供するデータではなく、親しい人の間で手元に残りいつでもアクセスできる記憶であることなのだ。

Alightが生まれたきっかけは、世代を超えた「知恵や物語の受け継ぎ」についての社内研究プロジェクトだったという。研究チームは、家族の繋がりが希薄になったことが若い世代の孤立感やメンタルヘルスの悪化を引き起こしていることを課題に捉えていた。その最中、世間では亡くなった人と話せるかのような体験を可能にするAIも登場している。

Morrama社はこれがグリーフテックとして人々の支えになる可能性も示しつつも、何かを最後に記録しようとする衝動が、今共に生きている大切な人たちを、生きた関係ではなく、ダウンロードされるデータへと矮小化してしまう危険性を指摘する(※2)。こうした視点が根本にあるからこそ、Alightは「保存できること」よりも「今会話できること」に価値を置いたAIデバイスとなったのだ。

先端テクノロジーは、必ずしも人間関係を希薄にしない。それはあくまでも、私たちがAIを使って何をどうデザインするか次第なのだ。

※1 Kraus, M. W. (2017). Voice-only communication enhances empathic accuracy. American Psychologist, 72(7), 644–654. https://doi.org/10.1037/amp0000147
※2 How technology can aid the important transfer of wisdom from generation to generation|Morrama

【参照サイト】Alight|Morrama
【参照サイト】How technology can aid the important transfer of wisdom from generation to generation|Morrama
【参照サイト】Listeners Glean Emotions Better from Voice-Only Communications|Yale Insights
【参照サイト】Morrama、家族の会話を支えるAIデバイス「Alight」を発表 データ取得ではなく、人とのつながりのためのプロダクト|AXIS Web
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この記事を書いたライター

Natsuki

Natsuki

IDEAS FOR GOOD副編集長。大学在学中は政治経済を学びながら、難民支援NGOやEarth Company、mymizuなどの活動に従事。スウェーデンへ留学し、環境・開発問題を学んだ。2023年から自然環境・オルタナティブ経済の領域を中心に取材。海外先進事例の企業向けリサーチ業務や、ウェブマガジンの立ち上げ支援・コンテンツ作成、気候変動と創造性を交差させた企業共創プロジェクトの企画運営に従事。脱成長、紛争予防、自然観などを軸に執筆・編集を担当するほか、移住先の地域でまちづくりや環境教育にも携わっている。