Sponsored by 三井化学株式会社
プラスチックは、現代社会を支える不可欠な素材だ。一方で、その多くが石油という有限資源に依存していることもまた、避けて通れない事実だ。では、私たちはプラスチックとどのように向き合えばよいのだろうか。
重要なのは、単にプラスチックを遠ざけることではなく、その原料、製造、流通、使用、回収までの全体像を確かに捉えること。そして、どのように石油依存を減らし、持続可能な産業基盤を未来の世代に手渡していくかを具体的に考えることではないだろうか。その問いに、製造の現場から向き合おうとしている企業がある。
IDEAS FOR GOODが、三井化学と共に送る「素材の素材まで考える」連載。サーキュラーエコノミーが推進され「素材」への注目度も高まる中、環境に配慮された素材の調達は欠かせないものになっている。本連載では、素材そのものを変革していく三井化学やパートナー企業の取り組みを追っていく。
▶︎ 連載前回(第10弾)の記事:ニッチな領域で環境に貢献する。バイオマス樹脂で塗料を作る中国塗料
第11弾となる本記事では、ソニー株式会社(以下、ソニー)と三菱商事株式会社(以下、三菱商事)が立ち上げた共同プロジェクト「Creating NEW from reNEWable materials」に光を当てる。5つの国と地域、14社におよぶグローバルサプライチェーンを可視化し、廃食用油などバイオマス資源由来の原料を活用したリニューアブル素材を導入する試みだ。その第1弾として、2026年2月に発売された完全ワイヤレスヘッドホン『WF-1000XM6』では、ケースの一部にマスバランス方式によってバイオマス由来を割り当てたリニューアブルプラスチックを使用。製品全体に使用するプラスチックのうち、約25%に相当する量に、バイオマス由来特性が割り当てられている。
一つのイヤホンケースの素材を、変える。その背後には、原料メーカーや商社、成形メーカー、ブランドオーナーなど、多くの企業の連携がある。素材を変更することは、一社が独断でできることではない。これまで見えにくかったサプライチェーンの奥行きまで光を当て、企業同士の関係性そのものを組み替えていく試みでもある。

三菱商事 小野氏(左)、ソニー 大場氏(中央)、三井化学 石田氏(右)
大場 契沖(おおば・ひさおき)氏
ソニーグループ株式会社 技術戦略コミッティー メカ戦略コミッティーサステナブルWG リーダー
小野 純一郎(おの・じゅんいちろう)氏
三菱商事株式会社 マテリアルソリューショングループ 基礎石化部 環境素材チームリーダー
石田 宜也(いしだ・のりや)氏
三井化学株式会社 ベーシック&グリーンマテリアルズ事業本部 フェノール事業部 チームリーダー
環境目標を実現する、いち手段としてのリニューアブル素材
自然環境への負荷を低減するミッションの実行は、今や企業にとって避けて通れないものだ。しかし、製品を構成する「素材」そのものの由来まで遡って改善を図れば、複雑なサプライチェーンを根本から作り変えることが必要となる。これは時間と労力を要するため短期的にはコストとなり、大きな企業ほど踏み出しにくいのが現状だろう。
そんな困難な道に、ソニーはステークホルダーを巻き込んで挑んでいる。ソニーグループは環境計画「Road to Zero」を掲げ、2040年までにスコープ1・2・3におけるネットゼロ、2050年までに環境負荷をゼロにすることを目指す中で、バイオマスなどリニューアブル(再生可能)原料の導入を推進するプロジェクト「Creating NEW from reNEWable materials」を立ち上げた。
ソニー 大場氏「石油由来の素材をゼロにするという目標が鍵となりました。ソニーでは元々、樹脂を一回砕いてもう一回再生する『マテリアルリサイクル』の技術を使っていましたが、それに加えて、より高い品質と持続可能性を両立できる樹脂を探していました。そんな折に、バージン樹脂と同じ性能のプラスチックとして使えるリニューアブル素材の存在を知ったことが、プロジェクトを立ち上げる契機となりました」
ソニーにとって、製品設計は機能やデザイン性だけでなく、環境負荷のあり方にも関わる。だからこそ、リニューアブル素材の導入という一つの変化でも、ソニーとしてどのように導入すべきかを一から考える必要があった。

ソニー 大場氏
そんな多くのステークホルダーの間を取り持つ役割を担ったのが、三菱商事だ。
三菱商事 小野氏「三菱商事の役割は、最上流にある調達からブランドオーナーであるソニーまで、サプライチェーン全体の協業・共創支援です。従来は、ブランドオーナーが環境目標を立てた後、部品サプライヤーに変更を依頼するのが一般的。すると依頼を受けた企業は、自分たちでモノを開発するか、素材を変えるためにさらに上流に依頼する流れで対処することになります。
しかし素材は部品サプライヤーの専門領域ではなく、素材の開発は三井化学のような上流の会社が主導しています。そのためモルダーの立場からすると、ブランドオーナーからの要求は調達先に頼らざるを得ません。素材はサプライチェーンが長く複雑なので、その要求を受けた調達先も更に同じことを繰り返しがちです。そうした遡上が積み重なることで、ブランドオーナーがなぜその環境素材を求めるのか、そもそもの課題意識は何なのか、という本質的なポイントがなおざりになりやすく、結果サプライチェーン一体での取り組みに至らないのが製造業界の課題でした。こうした背景から、ブランドオーナーの要求を正しく理解して、それを上流に正しく伝達していく役割が必要とされていたのです」
ソニー 大場氏「実は、目標年に向けて時間がない背景もありつつ、実際にリニューアブル素材について調べてみても、廃油や植物残渣などの使用が本当に環境に貢献するのかが明確ではないという課題がありました。時間はないけれども、よく分からない。その状態で慌てて使ってしまうとグリーンウォッシュになってしまうことを懸念していました。
そこで三菱商事から提案いただいたのが『サプライチェーンの出発原料から製品まで一体で協業しよう』ということ。これにより、抽象的な環境へのインパクトを明確にした上で判断できる仕組みが確保できると考えて、一緒に動き始めました」

三菱商事 小野氏(左)
理論と現場のギャップを埋める「実体験」
14社にわたるサプライチェーンの構築。その核となったのが、「マスバランス方式」だった。
マスバランス方式とは、バイオマス由来原料と石油由来原料を混合して製造した場合に、投入したバイオマス由来原料の量を、製品の環境価値として割り当てる仕組みのこと。物理的にすべての原料を分けて管理するセグリゲーション方式とは異なり、既存の設備や物流を活用しながら、リニューアブル原料の導入を進めることができる。
ただしソニーにとって、バイオマス素材は唯一の解決策ではなく、あくまでも複数ある選択肢の一つだった。
ソニー 大場氏「私たちは決してバイオマス素材だけを使用するわけではありません。今まで取り組んできたマテリアルリサイクルも継続し、それができない部分に対して、現段階ではバイオマス原料を採用していく考えです」
必要なところに、必要な量を使う。その前提に立つと、専用の巨大プラントの新設や、石油由来原料とバイオマス由来原料を完全に分けた管理方法は、さまざまな素材を一つひとつ実現させていくのは現実的には難しい。設備投資やコストの負担が重くなるほど、多くの企業を巻き込んだ変化は難しくなる。
ソニー 大場氏「また、環境目標の達成においては『環境も品質もあきらめない』と掲げており、従来と同じ性能で環境負荷を抑えたプラスチックが必要でした。これを実現するにおいても、現時点ではマスバランス方式が最適だと判断しました」
14社が一丸となり、新素材のサプライチェーンへ
ただし、「最適」という判断であっても、社内ですぐに同意を得られたわけではなかった。多くの調査を要したリニューアブル素材に加えて、マスバランス方式の複雑な仕組みについても社内で理解を得る必要があったのだ。近年グリーンウォッシュへの懸念が高まる中で、こうした細やかな前提の共有は、手を抜くことのできない土台であった。
このとき、社内での理解を強く後押ししたのが、 サプライチェーン上の一つひとつの現場へ足を運び、各製造現場のリアルを身体的に感じる経験だったという。
ソニー 大場氏「やはりマスバランス方式やリニューアブル素材について、まず我々が知ることが大事だと考えました。三菱商事の方々と共に上流の企業へ見学に行き、巨大なプラントであることを目の当たりにして『この巨大プラントを新素材のためにもう一つ作るのは現実的ではない』と身に染みて分かったからこそ、マスバランス方式の必要性を共有することができました」
三菱商事 小野氏「やはり当事者として必要性を体感してもらってこそ、ソニー社内で『マスバランス方式が必要なんです』と説明する際にも言葉に熱が入り、説得力が増します。だからこそ、無理を承知で現場に来ていただきました」

プラントの上部までハシゴで登ったことをそれぞれ振り返り、「スリリングで忘れられない」と笑みがこぼれた。
ソニー社内へと浸透させた現場での体感。これを三菱商事は、5つの国と地域、14社にわたるサプライチェーン全体へと波及させる役割を担った。
三菱商事 小野氏「サプライチェーン各社が協力して、ブランドオーナーのために一致団結するという掛け声は格好が良いのですが、実際には利害の相反も多くあります。例えば、メーカーにとって、通常は仕入れ先の企業情報はあまり外に出したくない場合もある。それを公開するとなると、それが必ずしも自社の利益につながるとは限りません。
サプライチェーン可視化に伴って生じ得る不利益を飲み込んででも、環境対応を進めたいという企業とでなければ協働できない中で、共通理解を繋いでいくところが一番難しい部分でした」
本質的な理解を得るには、泥臭く対話を続けるに尽きると語った小野氏。その積み重ねの末に実現したのが、完全ワイヤレスヘッドホン『WF-1000XM6』のケースの一部へのマスバランス方式のリニューアブルプラスチックの採用だった。立て続けてソニーの4K液晶テレビのフラッグシップモデル『BRAVIA 9 Ⅱ』では、背面カバーをはじめとする一部の部品での採用も発表されている。ここで重要なのは、マスバランス方式を採用したことにより、従来の石油由来素材と同等の品質を保てた点である。
三井化学 石田氏「三井化学では、以前からセグリゲーション方式を含むバイオマス原料の活用に取り組んできました。しかし、結果的に素材の物性が変わってしまうことで、性能が今まで使っていたものよりも劣ってしまい導入を断念することもありました。今回のようにマスバランス方式にすると石油由来品と素材物性が変わらないため、大きな障壁の一つをクリアできたと考えています」

三井化学 石田氏
こうして、マスバランス方式は資源を次世代に繋ぐための「現実的な戦略」として選択された。これは万事を解決する方法ではないかもしれない。それでも、多くの企業が共に一歩踏み出すことを可能にする仕組みとなっているのだ。
点から線、線から面へ。バイオマス素材のサプライチェーンを社会のインフラにする
マスバランス方式は、あくまでも出発点。今回の取り組みが画期的なのは、これがソニー個社の取り組みで完結しない点にあるだろう。なぜなら、彼らが構築したのは特定の企業のためのクローズドな道ではなく、多様なモノづくりの前提を変えうる「産業のインフラ」だからだ。
ソニー 大場氏「2026年4月に横浜で開催された音楽フェス『CENTRAL MUSIC & ENTERTAINMENT FESTIVAL 2026』にて、リニューアブル素材のプラスチックカップを採用しました。これらを会場で回収して、ケミカルリサイクルを経てグッズやソニーの製品の素材として再活用するという実証実験にも取り組んでいます」
三菱商事 小野氏「このフェスでの実証実験は、構築済みサプライチェーンを土台としつつ新たなパートナーにも入っていただき実現しました。構想から実現まで極めて短期間で実現できたことは協調体制や信頼感があったからこそで、大きな意義があると考えています。
イヤホンケースやテレビの背面カバーなどにバイオマス素材が採用されたことは『実例』の一つにしかすぎません。本質的に大事なのは土台となるスキームです。14社が一体となって原料から素材、製品にまたがるサプライチェーンを構築し協調・共創体制を整備したことで、これが基盤となり、ほかの分野にもイノベーションを波及させることができます。例えばソニーは、映像・オーディオ製品だけでなくエンタメのブランドでもあります。エンタメの場でも、製品にリニューアブル素材を導入する構想が生まれた場合、今回のようにサプライチェーンの皆様の協力を得られればそれを実現できるのです」

こうして多様なアクターを越境して繋ぎ、共に変化を生むことの重要性を、両者はカンファレンスなどへの登壇を通じて、企業や有識者、省庁へと訴えかけている。その輪が広がることで、環境負荷を軽減する新しい素材が製品となり、日常の一部となるチャンスも増えていくだろう。
三菱商事 小野氏「ソニーの皆さんは、このサプライチェーンを一社で占有する考えは持っていません。むしろ産業全体に広げ、さらに産業を超えて、グリーン化の需要が広がっていくことを考えていらっしゃいます。その姿勢があるからこそ、サプライチェーンの企業も応援してくれています。
今後は、バイオマス素材はじめ環境対応と性能のジレンマなど、同様の課題をお持ちの企業にもこの仕組みを横展開していきたいです。その結果として、生活者の皆さんが環境素材を手に取りやすい世の中に貢献したいと思っています」

また、イヤホンやヘッドホンなどのオーディオ製品を長期的に使用する生活者との強いエンゲージメントを持つソニーとの協働は、素材会社である三井化学にとってバイオマス素材の価値を丁寧に伝え、反応を得る貴重な場となったという。
三井化学 石田氏「当社は2021年からバイオマス原料を導入し、製品のバイオ化を進めています。ただ、なかなか今回のようにエンドユーザーであるブランドオーナーの方々とお話しする機会がなく、私たちが訴求したい価値をお伝えする場が限られていました。だからこそ、今回ソニーの方々と協働させていただき、私たちも生活者の皆さんとより近い形でコミュニケーションが取れたことが良い学びの一つでした。
バイオマス素材を使うと、どうしても製品の価格が高くなってしまう。そこに対して、私たちが訴求できる価値は、CO2の削減などの目に見えないものです。マスバランス方式は性能には差が出ない強みがある一方、見た目も機能も変わらないからこそ、素材の特性を理解いただき、丁寧にコミュニケーションしていただけるソニーの方々と取り組みできることはとても有意義です」
素材の川上にいる三井化学がエンドユーザーの熱量に触れ、ブランドオーナーであるソニーが素材そのものへの理解を深める。その間に連なる多様な企業との連携を、三菱商事が思いを乗せて繋ぐ。
相互理解が積み重なることで、同じ課題を抱える企業が共に一歩踏み出すことが可能になるのだ。次世代の「当たり前」は、こうした実直なコミュニケーションの上に、少しずつ姿を現すのだろう。
透明なサプライチェーンは、次のものづくりの土台になるか
国境を超え、何社もの連携から成る、現代のサプライチェーン。その中で一つ素材を変えることは、あらゆるアクターを揺るがす変化だ。しかしその変化を乗り越えるサプライチェーンを構築することが、長期的に環境負荷低減に向けたアクションを広げる土台となっていく。
三菱商事 小野氏「サステナビリティの実現は『自分だけが良ければそれでいい』とか『自分の幸福や利益を最大化する』という考えから少し離れて、社会の全体最適を想って行動や考え方を変えることが求められると思います。ただ、個人の志と企業の商行為は異なるものなので、実際にこのような行為を企業として実践するのはとても難しい。
だからこそ、まず自分たちが実践しなくては周りも動かないと思っています。そして逆説的にいえば、志を持った企業が集まれば、変化が広がっていくと思います。ここにいる3社も、長年事業を継続し歴史を刻んできた中で、社会に支えられて今日に至っている側面が少なからずあるわけですから、社会に還元する意味でも、必要な変化を率先して実装することが必要だと考えています。
だからこそ、製品の背後にあるこのストーリーや私たちの悪戦苦闘の一部を知ってもらい『自分たちも一肌脱いでみるか』と思ってくださる企業が一社でも増えたらとてもありがたいなと思っています」
ソニー 大場氏「サステナビリティの課題は、一社では解決できません。かつ、片方を良くするともう片方が悪くなることもあるように、非常に複雑に絡み合っている問題です。なので、素材の話だけで終わらず、一つひとつ解きほぐしながら、一社独占ではなく皆さまと協働して解決していきたいと思っております。
また私たちは『選ぶ、長く使う、知って応援する』を大切にしています。今や単に製品を買う時代ではなく、その裏にあるストーリーが重要な時代になり、愛着を持って製品を長く使っていただくことも、サステナビリティにおいて非常に重要です。三菱商事や三井化学の方々と一緒に、そんなサステナビリティのあり方を実現できればと考えております」

限りある資源を、未来の世代へ。この言葉は、単に石油への依存を減らそうという呼びかけではない。モノづくりの仕組みそのものを、より透明で、より協働的で、より柔軟なものへと変えていく挑戦でもある。バイオマス素材の導入から立ち上がった14社にわたる連携が、分野を超えて未来へのサプライチェーン構築を率いる存在となることに期待したい。
「Creating NEW from reNEWable materials」の商品リスト(2026年6月時点)
▼完全ワイヤレスヘッドホン『WF-1000XM6』
▼RGB Mini LEDバックライト搭載4K液晶テレビ『BRAVIA 9 ll』
【参照サイト】Creating NEW from reNEWable materials|SONY
【参照サイト】ワイヤレスノイズキャンセリングヘッドセット『WF-1000XM6』|SONY
【参照サイト】RGB Mini LEDバックライト搭載 4K液晶テレビ『BRAVIA 9 Ⅱ』|SONY
【参照サイト】三井化学株式会社
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Photo by 鈴木健児(株式会社こまちクリエイト)














