マスバランス方式とは?
マスバランス方式とは、製品を原料から加工し流通させるプロセスにおいて、ある特性を持った原料とそうでない原料が混合される場合に、特性を持った原料の投入量に応じて、生産する製品の一部にその特性を割り当てる手法のことである。「マスバランスアプローチ」「物質収支方式」とも呼ばれる。
わかりやすく例を用いて説明すると、以下のとおりだ。
再生可能な植物由来の「バイオマス原料A」を10トン、石油などの「化石原料B」を90トン混合した原料を作る。すると、バイオマス原料Aを10%含む商品が100トン分出来上がる。
ここでマスバランス方式を用いる。すると、出来上がった商品100トンのうち、10トン分(=10%)の商品を「バイオマス原料A100%の商品」とみなせるのだ。残りの90トン分の商品は「化石原料B100%の商品」となる。

つまり生産者は、「バイオマス原料100%」をうたう商品を作り出せるのだ。もちろん実際には、バイオマス原料は10%しか含まれていない。しかし、製品の性質は従来と同等であることから、しかるべき第三者より認証を受ければ、一部をバイオマス原料100%とみなせる制度だ。
従来の化石資源を一気にバイオマス原料に置き換えることは、現状では技術的に困難とされる。そのような中で、マスバランス方式は、生産者に再生可能原料の使用を促す効果があるのだ。
マスバランス方式の現状
マスバランス方式は、再生可能な資源を普及させる重要な手法として注目されている。すでに紙製品(FSC認証)やパーム油のRSPO認証、カカオ豆のフェアトレード認証などでも採用されている。近年は特に、化学業界において、循環型経済への移行を図る有効な手だてとして採用する企業が増加している。
ヨーロッパでは、循環型社会の実現に向けて積極的な取り組みが進んでおり、特にマスバランス方式が重要視されている。2019年以降、循環経済の推進を目指すエレンマッカーサー財団はマスバランス方式の適用を支持する意見書を発表した。欧州プラスチック製造業組織のPlastics Europeや欧州化学産業協議会(CEFiC)も同様に、この方式の有用性を認めている。
日本政府は、2019年5月に「プラスチック資源循環戦略」を打ち出している。その中で、2030年までに、プラスチック再生利用を倍増させること、約200万トンのバイオマスプラスチックを導入することを目標に掲げた。これにより、マスバランス方式の重要性が増している。
なぜいま、マスバランス方式が注目されているのか?
なぜいま、このマスバランス方式が重要視されているのだろうか。現在、カーボンニュートラル社会への移行が進められており、その過程で重要なのは、個々の製品が実際に100%バイオマス由来であるかどうかよりも、全体として迅速にバイオマスの割合を高めていくことである。
マスバランス方式を用いることで、複雑な原料体系やサプライチェーンを持つ化学業界でも、素材のバイオマス化が可能となり、サステナブルな製品の利用範囲が大幅に拡大するといわれている。
マスバランス方式のメリット
マスバランス方式のメリットは、大きく分けると以下の4つである。
- 再生可能原料の使用を促進し、CO2の削減に貢献する
- 既存の設備をそのまま利用できるため、大規模な設備投資が不要
- 製品の基本的な性能は従来と変わらない
- 第三者認証を受けることによりサプライチェーンの強化につながる
マスバランス方式適用の一番の目的は、環境に配慮した原料の使用を増やすことである。ただ導入する企業や消費者にとって、さらなるメリットがあることを忘れてはならない。
一般的に企業がサステナブルな生産活動に切り替える場合、設備投資や品質管理など、新たなコストが発生することが多い。しかし、マスバランス方式を採用する場合、既存の設備をそのまま利用でき、製品の性能も従来と変わらない。企業は大がかりな投資なしで、サステナブルな生産ができるのだ。
またマスバランス方式を採用するにあたって、国際的な権威を有した第三者認証を受けるため、企業としての信頼性も高まる。消費者にとっても、安全性や質が確保された製品を購入・使用できるというメリットがある。
マスバランス方式のデメリット
一方で、マスバランス方式には以下のとおりデメリットも存在する。
- バイオマス原料の安定調達が難しい
- コストが高い
- 認証制度の構築、認知が必要
バイオマス原料は、世界で需要が高まっているが、供給が追いついておらず安定していない現状がある。従来の化石資源よりも、原料コストが高いことも課題だ。
また、第三者認証の制度が構築され認知が進まなければ、消費者の正しい消費行動を促せない。生産者サイドだけでなく、消費者への認知も広げていく必要があるだろう。
マスバランス方式を採用した企業の取り組み事例
ヨーロッパでは、循環型社会の実現に向けて、多くの化学企業がマスバランス方式を積極的に採用している。たとえば、ドイツに本拠を置く化学企業BASFはバイオマスとリサイクル原料を活用する取り組みを進めている。また、サウジアラビアを本拠とし、ヨーロッパでも活動する企業SABICも、化学リサイクルの推進にマスバランス方式を導入している。
日本においても、マスバランス方式を採用して生産を行う企業が増え始めている。
積極的な取り組みを行う化学メーカーの1つが、三井化学である。三井化学は、従来の石油由来の原料(ナフサ)と植物由来の原料(バイオマスナフサ)を混合して、バイオマスプラスチックを製造すると発表した。
三井化学株式会社は、2050年のカーボンニュートラルの実現に向けて、フィンランドの世界有数のバイオマス燃料の製造会社であるNeste社及び豊田通商株式会社と2021年5月にバイオマスナフサの調達に関する売買契約を締結しました。21年度3Qから4Qにかけて大阪工場のエチレンプラント(クラッカー)に日本で初めてバイオマスナフサを原料として投入します。
同時に、マスバランス方式によるバイオマスナフサを原料としたフェノールなどのバイオマス化学品やポリオレフィンをはじめとしたバイオマスプラスチックの製造・マーケティングを開始します。
バイオマスナフサは、植物油廃棄物や残油を原料に作られている。プラスチック製品が廃棄されるまでのサイクルにおいて、CO2排出量も削減可能だ。三井化学とその子会社は、すでに持続可能な製品の国際的な認証制度の一つ「ISCC PLUS 認証」を取得している。バイオマスの社会実装、および2050年のカーボンニュートラルの実現に向けて業界をリードする役割を果たしている。
また、三井化学は、セグリゲーション方式によるバイオマス化も進めている。セグリゲーション方式とは、石油由来の原料と分離して保管・管理されたバイオマス製品のサプライチェーン管理方式で、従来のバイオマスプラスチックの製造方式のことである。さまざまなアプローチでプラスチックや化学品のさらなるバイオマス化を目指すことが重要だ。
循環型社会へ向けた今後の取り組み
マスバランス方式は、持続可能な社会を築くための重要な考え方であり、各企業は事業内容に合わせ積極的に取り入れるべき考え方だ。
ただし、企業への導入を促進するためには、消費者である私たちがまず関心を持つ必要がある。私たちは主体性をもって、環境に配慮された企業や商品を選択していかなくてはならないだろう。
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【参照サイト】環境省 – バイオプラスチックを取り巻く 国内外の状況
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【参照サイト】環境省 – プラスチック資源循環戦略(概要)
【参照サイト】三井化学株式会社 – プライムポリマー、日本で初めてバイオマスPPを商業生産・出荷
【参照サイト】BASF – バイオマスバランス・アプローチ
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