人だけでなく、地球も健康に。シュミテクトを展開するコンシューマーヘルスケア企業が「ハミガキチューブ」の素材転換を語る

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植物由来のバイオマスプラスチック。石油資源を使用せず、カーボンニュートラルに貢献できるだけでなく、近年では使い心地や耐久性なども従来のものと全く変わらないものも出てきている。そのため、今、さまざまな製品でバイオマスプラスチックの採用が拡がり始めている。

バイオマスプラスチックが使用されている製品として、お菓子の包装容器やレジ袋などをイメージする人が多いかもしれない。しかし実は、知らないうちに、日用品の包装容器がバイオマスプラスチックに置き換わっていることもある。

例えば、毎日使うハミガキ剤だ。オーラルヘルスケア製品やOTC医薬品(ドラッグストアなどで自分で選んで購入できる薬)などの製造・販売を行うグラクソ・スミスクライン・コンシューマー・ヘルスケア・ジャパン株式会社は、マスバランス方式によるバイオマスPPをハミガキチューブのキャップに使用している。

IDEAS FOR GOODと三井化学による「素材の素材まで考える」連載。サーキュラーデザインの世界でも「素材」が重要視されている中で、サーキュラーなものづくりをするうえで環境に配慮された素材の調達は欠かせないものになっている。連載では、素材そのものを変革していく三井化学や、パートナー企業の取り組みを追っていく。

前回の第五弾では、マスバランス方式を採用したバイオマスポリプロピレン(以下、バイオマスPP)「​​Prasus®」(プラサス)の可能性やマスバランス方式が社会に与えるインパクトを伺った。

第六弾である今回は、ハミガキチューブのバイオマス化の経緯や課題点、そして環境への取り組みや目指したい理想の未来について、グラクソ・スミスクライン・コンシューマー・ヘルスケア・ジャパン株式会社(以下、GSKコンシューマー・ヘルスケア)のテクニカルパッケージングとアートワーク(デザイン・設計)を担当されている山本輝樹さんに伺った。

話し手:

山本輝樹(やまもと・てるき)
グラクソ・スミスクライン・コンシューマー・ヘルスケア・ジャパン株式会社
ノースアジア テクニカルパッケージング&アートワーク マネージャー/ノースアジア サステナビリティ リード

GSKコンシューマー・ヘルスケアの環境負荷低減に貢献するハミガキチューブ

GSKコンシューマー・ヘルスケアは、コンシューマーヘルスケア分野における世界的企業「Haleon(ヘイリオン)」の日本法人だ。イギリスに本社があり「Deliver better everyday health with humanity.(もっと健康に、ずっと寄りそって)」というパーパスを掲げている。日本国内では「シュミテクト」「カムテクト」「ポリデント」などのオーラルヘルスケア製品や「コンタック」「フルナーゼ」などのOTC医薬品を展開している。

GSKコンシューマー・ヘルスケア

そんなGSKコンシューマー・ヘルスケアは、2023年3月にサステナブルなハミガキチューブの導入を発表。オーラルヘルスケアブランドの「シュミテクト」「カムテクト」「アクアフレッシュ」において、これまでのプラスチックとアルミの組合せといった複合素材ではなく、世界で最もリサイクル可能なプラスチックの一つであるポリエチレンを主成分としたラミネートチューブへと切り替えた。その他のブランドでも順次変更を進めている。

GSKコンシューマー・ヘルスケアのハミガキチューブ

「一般的なハミガキ剤には、石油由来のプラスチックが使われることがほとんどです。しかし環境負荷の低減に貢献するためには、やはり何かしらのアクションを起こさなきゃいけないと思ったんです。

そこで考えたのが、ハミガキチューブのサステナブルパッケージ化でした。他社がやっていない、市場がやっていないという理由で何も対策をしないということは選択肢にありませんでした。」

目をつけたのがハミガキチューブに使用されるキャップだった。

これまでもハミガキチューブを軽量化したり外箱に再生紙を利用したりするなどの工夫をしてきたが、それだけでは限界があった。そこで取り組んだのが、素材のバイオマス化だ。

2024年3月出荷分以降、GSKコンシューマー・ヘルスケアのハミガキチューブのキャップにマスバランス方式のバイオマスPP(ポリプロピレン)「Prasus®」が順次使用されるという。「Prasus®」は、三井化学と出光興産の合弁会社であるプライムポリマーが製造・販売を行うバイオマスナフサを原料としたマスバランス方式のバイオマス素材だ。

「実はハミガキ剤のキャップはパッケージ全体のうち大きな重量割合を占めるのですが、これまでは石油由来のプラスチックを多く使っていました。ここも何とかしたい、という会社の思いがあったんです。

そんな時に出会ったのが、プライムポリマーさんの『Prasus®』でした。ある展示会に、プライムポリマーさんのブースがあり、そこで環境負荷低減への熱心な思いや素材の特徴を伺いました」

プライムポリマーの新素材「Prasus®」に可能性を感じた山本さんは、ハミガキチューブのキャップに利用できないか、検討を始めたという。開発開始から製品として使われるようになるまで、1年ほど試行錯誤を繰り返した。

「ヘルスケアの企業なので、生活者の方の健康に貢献することが一番の目的です。そのため、安全性と品質が担保されていることが大前提です。

落下などで割れてしまってはいけませんし、そもそも成形時にクラックが発生したり成形不良率が高くなってしまってもいけません。キャップを開ける堅さ・柔らかさや力の入れ具合もテストが必要で、さまざまなサンプルを社内で60人くらいに使ってもらい検証しました。毎日使うものだからこそ、細かな配慮が必要です。

特に、機能性や使い勝手は、日本の方が大切にしている部分かもしれないですね。例えば、ヨーロッパの場合はハミガキ剤の容量も大きいですし、キャップも日本のように様々なキャップが使われるわけではなく、スクリュータイプがほとんどです。」

GSKコンシューマー・ヘルスケアのハミガキチューブのキャップ

人と地球が健康であるための「マスバランス方式」

GSKコンシューマー・ヘルスケアが今回キャップに使用した「Prasus®」は、マスバランス方式のバイオマスPPだ。

マスバランス方式とは物質収支方式のことで、原料を加工して製造する過程で、ある特性をもつ原料が混合される場合に、その原料の投入量に応じて、製造されたものの一部にその特性を割り当てる方法のこと。例えば、バイオマス原料を7kg、石油由来の原料を3kg混ぜて、10kgの製品ができた場合、完成した製品のうち7kg分をバイオマス100%とみなすことができる。Inputのバイオマス量とOutputのバイオマス量が等量(※1)になるよう割当を行うことができるスキームだ。
※1 実際には生産時のロスなどもあるため、Output量はInput量よりも少ない割当量となる。

マスバランス方式の特徴として、素材の物性、品質や耐久性などは従来のものと同等にすることができる。また、新設備を用意する必要がなく追加の設備投資をかけずに製品をバイオマス化できる。このような理由から、プラスチック業界を中心に、マスバランス方式への注目が集まっている。

しかし、多くのメリットがある一方、課題もあると山本さんは語る。

「生活者にとって、マスバランス方式はイメージしにくいでしょう。認知度が低い中で、マスバランス方式が環境に貢献できることを知ってもらう必要があります。我々の製品を使うことで、どのように地球に貢献できるのかを知ってもらうことが、一番の課題です。

社内に対してもマスバランス方式に対する理解を得ることは課題だと思います。ただ、いきなりマスバランス方式について説明しても混乱させてしまうので、まずは共通の目標を持ち、ベクトルを合わせることを大切にしています。その上で、マスバランス方式のコンセプトを直接説明したり、外部の方に説明に来ていただくこともあります。まずはこのように率先して、社員一人ひとりを巻き込んでいきたいです」

GSKコンシューマー・ヘルスケアのパーパスは「もっと健康に、ずっと寄りそって」。人や地球の健康のためにも、マスバランス方式の採用は、必要不可欠だという。

「『もっと健康に、ずっと寄りそって』には、人だけでなく地球も同じように健康でなければならない、という思いも込められています。地球が健康でないと、人も健康になれません」

目指すのは「石油由来のバージンプラスチックを使わない世界」

GSKコンシューマー・ヘルスケアは、環境負荷低減への取り組みとして「炭素排出への取り組み」「パッケージをより持続可能なものに」「信頼できる原材料を持続可能な方法で調達する」という3分野を掲げている。

さらにパッケージ分野では「2030年までに石油系バージンプラスチックの使用を2020年基準値の3分の1に削減する」「安全性、品質、規制が許す限り、2030年までにすべての製品パッケージをリサイクル可能または再利用可能にする」「パートナーと協力して、2030年までにパッケージを収集、分類、リサイクルするためのグローバルおよびローカルのイニシアチブを推進する」という具体的な目標を掲げている。

「環境負荷削減における3分野の取り組みは、我々の世代が取り組まなければいけない必須事項だと思っています。

グローバル企業としては、自社工場でのカーボンニュートラルなど様々な取り組みは行っていますが、日本法人では日本においては一番環境に貢献できる部分はパッケージだと考えて取り組んでいます」

具体的には「石油由来のバージンプラスチックを削減し、リサイクル可能な包装資材に変えていく」という方向性のもと、石油由来のバージンプラスチックを2025年までに10%、2030年までに33%を削減するという数値目標を設定しているという。

「最終的には、石油由来のバージンプラスチックを使わない世界が理想です。そのような世界の実現に向けて、グローバル企業でもある弊社が日本の中でも率先して努力していきたいです」

循環型社会の実現には、垣根を超えた協力が必要

石油資源を使い続けることは、炭素を排出し続け、気候変動につながる。また資源は有限で、いずれ枯渇する。より良い状態で地球環境を保つためには、循環型社会の実現が必要不可欠だと山本さんは語る。

「石油由来のバージンプラスチックを使わない社会、循環型社会が当たり前になるのが理想です。他の企業さんとお話していく中でも、実際に業界の変化は感じます。石油由来のバージンプラスチックの削減やリサイクル素材に置き換えていくなどの目標を掲げる会社は増えたと思います。あとはそれらを実践していくだけです。

ただ、我々の企業だけでは循環型社会の実現は絶対に成し遂げられません。三井化学グループ様をはじめ、他社との協業、垣根を超えた取り組みがとても重要になってきます。技術を自社だけに留まらず横展開することで、日本全体、世界全体で取り組んでいきたいです」

これまでは環境負荷低減の取り組みがそれほど進んでいなかったハミガキ剤のパッケージにサステナブルな素材を用いるなど、リーディングカンパニーとして積極的に取り組むGSKコンシューマー・ヘルスケア。その背景には、人々の健康を願う強い思いがある。人々が健康であるためには、地球も健康でなければならない。それが環境負荷低減に取り組み続ける理由だ。

GSKコンシューマー・ヘルスケア 山本さん

最後に、山本さんからこの記事を読む読者に伝えたいメッセージを伺った。

「我々が取り組んでいる環境に配慮したパッケージの開発は、次世代のためにも、我々の世代がやらなければいけない。我々自身も含めて、生活者一人一人が未来をより良いものに変えていくという意思と責任を持つことが重要だと思います。

そのためにも、我々の製品を使っていただくことで、環境負荷低減に貢献しているということを実感していただけるよう頑張りたいと思います」

編集後記

いつも使う日用品が環境にやさしいものになれば、日常の小さな習慣は「ちょっとしたサステナブル・アクション」に変わる。

多くの人が1日に数回手に取るハミガキ剤。そのパッケージ素材を変えることは、消費者にとっては小さな変化なのかもしれない。だが、多くの人の日常のなかに当たり前に存在しているモノだからこそ、大きな変化をもたらす可能性を秘めているのではないだろうか。

カーボンニュートラルと循環型社会の実現。それは、いち消費者やいち企業の取り組みだけでは成し得ない。

地球が健康であるために、人が健康であるために──山本さんが言うように、私たち一人一人は未来をより良いものに変えていくという意思を持ち、前へ進んでいく必要があるのだろう。

取材協力:GSKコンシューマー・ヘルスケア

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