Climate Silence（クライメートサイレンス/気候沈黙）とは

年々深刻度を増す気候変動に対して、認識をしているにもかかわらず、あたかも何事も起っていないかのように振る舞い、実際に行動を起こしたり、声を発したりしないこと。

毎年、「過去最大」や「記録的」という言葉とともに、世界各地で発生している気候変動による災害。気温や海面上昇、洪水や森林火災、干ばつなど私たちの生活にも多大なる影響を及ぼしている。

2015年にパリ協定が採択され、世界の平均気温の上昇を産業革命前と比べて1.5℃に抑えることが努力目標として掲げられた。この目標を維持するためには、世界は2030年までに二酸化炭素排出量を2010年比で45%、2050年までに実質ゼロに削減しなければいけないという見解が示されている。ところが実際には、世界の排出量は増え続け、目標も形骸化してしまっている感も否めない。人々はこの状況に気づいてはいるものの、目の前の利益や快適さを優先し、自分事ではないかのように話題にすらしていないという現実がある。

気候変動に対する「沈黙」

実際、2022年にイェール大学とジョージ・メイソン大学がアメリカで行った調査では、過半数（64%）のアメリカ人は気候温暖化が個人的に重要であると認識しているにもかかわらず、約3分の2（67%）の人々は、家族や友人と地球温暖化について「ほとんど」「まったく」話さないと回答している。また過去の調査では、ハリケーンや山火事で実際に被害を受けた地域の人々ですら、気候変動を話題にしていないことも明らかになっている。

周囲での話題に上らないことは、人々にその意見を持つことは少数派であるという認識を与え、問題意識を持つ人でさえ気候変動について語ることをためらってしまうという、負のスパイラルを生み出している。

沈黙を破るために

2006年にアメリカの元副大統領Al Gore氏が発表した地球温暖化に警鐘を鳴らす「不都合な真実」。そのタイトルが示すように、これまで多くの政治家やメディアは異常気象などが示す事実でさえ、気候変動とは関連のないものとし、都合の悪いことから目を逸らすことも少なくなかった。気候科学者たちは、何十万年にわたる地球の営みを、わずかこの1、2世紀の間にその機能を破壊し、不可逆的に変化させてしまっているのは人間の活動だという根拠を示してきた。しかし、そうした声はむしろ政治的なプロパガンダと見なされることや、選挙の票を分散させるリスクの高いものとして、敢えて避けられてきたのである。

こうした背景の中で、アメリカ・コロンビア大学による「Colombia Journalism Review」紙と同じくアメリカの「The Nation」誌によって、2019年に「Covering Climate Now」という活動が誕生した。気候危機を正しく報道することの緊急性や必要性を訴え、メディアの役割や責任を果たすことを呼びかけ、現在では世界の主要メディアから、地方の出版社まで大小400を超える組織がこの活動に参加している。

2021年のアースデイの前に「Covering Climate Now」に参加するメディア8社が共同で下記のような声明を発表している。

「地球は燃えている。今こそジャーナリズムは、気候の緊急事態がここにあることを認識する時がやってきた。これは政治ではなく、科学についての声明である。」

“緊急”という言葉の持つ重要性を訴え、人類が直ちに行動を起こすために、「気候の危機を生き抜く」テーマを持って報道を展開するとし、世界のメディアの参加を促した。

まとめ

地球の環境破壊は今まさに行動を起こさないと、取り返しのつかない事態に陥り、大惨事が起きかねない状況にまでに達しつつある。

この危機を回避するためには、まず私たちが、この世界が人間同士の関わりだけで成り立っているという幻想を捨てなければならない。人間という存在も地球という複雑でダイナミックで、壮大な一つのシステムの一員であるという認識を持つことが大切な一歩となる。

そのためにも、メディアが発する科学に基づいた正しい情報を受け取り、それを周囲の人々と共有し、小さなことからでも行動を変えていくことが必要である。私たち一人ひとりが沈黙を破り、家族や友人と気候変動について語り合うことが、地球を救うきっかけになることを願いたい。

【参照サイト】The Guardian | The great climate silence: we are on the edge of the abyss but we ignore it
【参照サイト】The Guardian | Why our brains are wired to ignore climate change and what to do about it | George Marshall
【参照サイト】The Guardian | The climate emergency is here. The media needs to act like it | Climate crisis
【参照サイト】Climate Outreach | Climate Silence (and how to break it)
【参照サイト】Climate Outreach | Naming, challenging and breaking the climate silence
【参照サイト】GNV |「気候報道を今」（Covering Climate Now）
【参照サイト】Yale Program on Climate Change Communication | Climate Change in the American Mind, April 2022

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