インターセクショナリティとは

インターセクショナリティとは、人種や性別、階級、性的指向、性自認など、個人のアイデンティティが複数組み合わさることによって起こる差別や抑圧を可視化し、理解するための概念。黒人で女性である、障害がありLGBTQ+に当てはまるなど、マイノリティの属性が2つ以上組み合わさることで特有の差別や抑圧が起こる事実を可視化するために生み出された言葉である。

ブラック・フェミニスト（黒人のフェミニスト）でアメリカの法学博士であるキンバリー・クレンショーが、論文『人種と性の交差点を脱周縁化する：反差別の教義、フェミニスト理論、反人種差別主義政治に対するブラック・フェミニスト批評（1989年）』で提唱した。その後、2010年代初頭に始まった第4波フェミニズムの中で盛んに使われるようになり、フェミニズムに限らず様々な差別について考えるうえで重要な視点として一般にも広がっていった。

こうした流れもあり、2020年に起こったブラック・ライブズ・マターでは、それまでの黒人解放運動が女性や性的マイノリティの人たちを置き去りにして進められてきたことを反省し、インターセクショナリティの視点が明確に打ち出された。

インターセクショナリティの発祥

キンバリー・クレンショーの論文が発表された当時、フェミニズム運動の中心は白人中産階級の女性であり、その目的は伝統的な家庭内の性役割からの解放であった。

これに対しクレンショーは、白人女性が中心となって発展しているフェミニズム運動が黒人女性の受けて来た差別の経験を置き去りにしていることを論文の中で批判。白人中産階級の女性が受ける差別と黒人女性の受ける差別は、家庭内で女性が受ける扱いの文化的な違い、さらに黒人が男女ともに社会で受ける差別の問題から、全く種類の違うものであることを指摘した。

クレンショーは論文の中で、黒人で同性愛の女性の受ける差別を例に上げ、いくつもの要因が絡み合いながら、差別が個人に襲いかかることを明らかにした。ここで重要なのは、例えば黒人で同性愛の女性が受ける差別は、女性差別、黒人差別、同性愛差別など、種類の異なる差別が足し合わされたものではなく、「黒人で同性愛の女性」として固有の差別を受けるという点だ。

こうしたインターセクショナリティの観点を持つことで、個別のカテゴリだけに着目していては見落としてしまう固有の差別や社会の複雑性に意識を向けることが可能になるのだ。

まとめ

私たちがインターセクショナリティという概念を知ったうえでできることのひとつは、自分と同じ属性を持つ人に対して、その人が経験してきたことや感じてきたことを自分と全く同じだと思い込まないようにすることではないだろうか。自分や自分の目の前の人をカテゴリで括らず、その人固有の悩みや苦しみを率直に受け止めることが大切だ。

また、LGBTQ+の当事者支援を行うReBitが2021年5月に実施した「精神・発達障害がある性的マイノリティの求職活動に関する調査」によれば、2つ以上のマイノリティ属性を持つ人々が求職活動で不安や困難を経験していること、そうした複合マイノリティに当てはまる人々に対する行政や福祉サービスが不足していることなどがわかっている。

多様性への意識が高まり、マイノリティに対する理解や支援は進んでいるように感じる。しかし、現在見えている部分に包括されにくい人々がいるという事実にも目を向け、全ての人が生きやすい社会の意識や仕組みを作っていく必要があるのではないだろうか。

【参照サイト】抄訳: キンバリー・クレンショー『人種と性の交差点を脱周縁化する：反差別の教義、フェミニスト理論、反人種差別主義政治に対するブラック・フェミニスト批評』（1989）　Murtipul Spirits
【参照サイト】「インターセクショナリティ」を理解することから始める、差別のない社会への第一歩。【コトバから考える社会とこれから】VOGUE
【参照サイト】フェミニズムに（も）「インターセクショナル」な視点が必要な理由。【VOGUEと学ぶフェミニズム Vol.5】VOGUE
【参照サイト】#BlackOutPride protest halts Chicago Pride Parade　Youtube
【参照サイト】LGBTQ用語解説　インターセクショナリティ　PRIDE JAPAN
【参照サイト】インターセクショナリティとは？複合差別・交差性がもたらす仕事の悩みについて専門家に伺いました
【関連記事】Black Lives Matter（BLM）とは・意味

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