夏の冷房から出る廃熱を、冬の「暖かさ」に。カナダで進むエネルギー活用

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2023年7月、地球は観測史上最も暑い月を迎えた(※1)。日本でも記録的猛暑が続き、熱中症の危険性が高まる中、命を守るために私達の日常に欠かせなくなったのがエアコンだ。

エアコンが必要になるのは夏だけではない。カナダのような寒冷地域では冬の最高気温が氷点下となるところもあり、夏の冷房よりも冬の暖房に遥かに多くのエネルギーが必要となる。

冷暖房の稼働に必要なエネルギーの供給においては、化石燃料が大量に使われ、温室効果ガスが排出されている。また、家庭に加え、産業や公共施設からも大量の廃熱が発生しており、皮肉にも、短期的には命を守るはずの冷暖房システムが、長期的には私たちの生活を脅かす温暖化を引き起こすことにつながっている。

近年は、車や家庭冷暖房など全ての脱炭素の達成に向けて、車や家庭冷暖房など全てのエネルギーを、化石燃料ではなく電力で賄おうとする動きもある。一見、全てのエネルギーを再生可能エネルギーなどで賄えれば理想的に思えるが、実際には、電気自動車をはじめ、年々増加する電動化の需要に供給が追いついていないのが現状だ。

そこで、冷暖房の安定供給と脱炭素化を実現しようと立ち上がったのが、カナダのマックマスター大学エネルギー研究所の研究チームだ。同チームは、発電によって新たに熱エネルギー作り出そうとするのではなく「廃熱をエネルギーとして有効活用」する方法を考案した。彼らは、30の地方自治体と19の産業パートナーが参加する「Integrated Community Energy and Harvesting (ICE-Harvest)」と呼ばれる広範な研究共同実証プロジェクトを主導している。

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カナダでは、1年間のうち暖房を必要とする気温の日数(基準温度14℃以下の日数)が冷房を必要とする気温の日数(基準温度24℃以上の日数)に比べて多い。たとえばトロントでは、暖房を必要とする日数が冷房を必要とする日数の7倍にのぼる。さらに家庭の暖房のほとんどは天然ガスの燃焼によるものである。よって、仮にすべての暖房需要を電力で賄おうとする場合、最新の効率的な空気熱源ヒートポンプ(※2)を使用したとしても、ピーク需要は現在の約4~5倍となり(※3)、逼迫する電力需要の中で実現の道筋は厳しい。

マックマスター大学が考案した新しい仕組みでは、廃熱を収集・貯蔵し、寒い時期に住宅やオフィスの暖房として供給することで、温室効果ガスの排出削減を実現しようとしている。具体的には、高温の地下バッテリー(電気ではなく熱で充電された地下バッテリー)に水を配管し、そのパイプを近くの建物に引き込むことで熱を回収する統合されたシステムとなっている。

さらに、本仕組みは、地域単位で熱エネルギーを共有し、需要と供給を調整するマイクロサーマルネットワークを活用することで、効率的な解決策を提供する。実際に、カナダのピザチェーン店は、オーブンから回収した熱を利用して自社のお湯を加熱するシステムを試験的に導入している。残った熱は販売することも可能だ。同様に、例えば体育館で貯蔵した熱エネルギーを通りの向かいにある老人ホームに売ったり、スーパーで貯蔵した熱エネルギーを近隣の学校で活用したりすることもできるのだ。

もちろんこのソリューションには、熱源から貯蔵所、貯蔵所からユーザーへ熱を循環させるための埋設パイプなどの新しいインフラが必要になる。しかし、初期の設備投資には多額の費用がかかるものの、これまで高速道路、水道やガスパイプラインの建設などで行れてきたように、将来的には、そのような費用は数十年にわたって回収されうるという。

廃熱を「再利用可能な、炭素ゼロの資源」として捉え、有効活用することにより、脱炭素化への貢献とエネルギー効率向上を目指す本取り組み。エネルギー分野においても、再生可能エネルギーによる発電量を単に「増やす」というだけでなく、捨てられていたものを「有効活用する」という視点を取り入れていくことは、短期的にも長期的にも私たちの生活と命を守る救世主となるかもしれない。

※1 July 2023 confirmed as hottest month on record(World Meteorological Organization)
※2 Electricity Load Implications of Space Heating Decarbonization Pathways(Joule)
※3 What Does the Future Hold for Natural Gas?(Pollution Probe)

【参照サイト】Here’s how we can reuse waste energy to achieve net-zero heating systems(World Economic Forum)
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Edited by Megumi

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