菌類の密度まで描きだす、世界初のデジタルマップ。地球の生態系を支える“足元のネットワーク”に迫る

2026.08.04

Natsuki

ビジネスも、自然も、「循環」によって成り立つのだと気づいたいま、あちこちで「循環」の実現が目指されている。しかし私たちは、果たしてどこまで自然主体の循環そのものを理解できているのだろうか。

アマゾンの熱帯雨林が「地球の肺」と呼ばれるのは、その木々が空気中から多くの二酸化炭素を吸収するから。その根っこの多くには、陰の立役者がいる。植物から二酸化炭素を含む化合物を受け取り、植物が必要とするリンや窒素を供給する菌根菌だ(※1, 2)。つまり菌根菌は、植物と共生して炭素を吸収し、気候変動を抑制する循環インフラの一部として機能している。

しかし、これまでの環境対策は地上の木々や草花が議論のメインであり、肉眼では捉えることのできない地下の菌類は重視されてこなかった。

こうした地上だけを取り繕う環境対策は、本質的な根拠を見落とすリスクがある──そんな課題意識をもとに、研究者主導の国際NGO・SPUNは、2026年6月に菌根菌のインタラクティブなマップ「A Hidden Infrastructure(隠れたインフラ)」を公開。世界で初めて、地球規模におけるアーバスキュラー菌根(AM)菌ネットワークの物理的な密度(長さ)と質量を予測・可視化した。

Image by Moritz Stefaner – Truth & Beauty, via SPUN

Image by Moritz Stefaner – Truth & Beauty, via SPUN

本プロジェクトでは、世界4,000か所以上の多様な生態系から収集した1万6,000以上の土壌サンプルのデータと、機械学習モデルを組み合わせ、植生のある全大陸を1平方キロメートルごとにAM菌が「世界のどこに、どれくらい存在するか」をマップ化することに成功したのだ。さらに、髪の毛の10〜50倍も細い菌根菌の菌糸は、全長が地球から太陽までの距離の約10億倍に匹敵する11京キロメートルに達すると判明。これは炭素換算で約3億トンの総質量(現存する人類の総質量の4〜6倍)に至り、陸上植物の約70〜80%と共生するAM菌だけでも、年間約40億トン(人類の化石燃料排出量の約11%に相当)のCO2を地中に隔離しているという。菌根菌のネットワークが、地球の生命維持に欠かせないことを物語っているだろう。

地理的には「草原」が極めて重要であり、地球全体のAM菌インフラの40%がここに存在する。チベット高原やフロリダ州のエバーグレーズ国立公園、南スーダンのスッド湿地などは、世界の炭素循環を左右する戦略的要衝となることが指摘された。

これまで菌根菌の分布や質量に関するデータは不十分であり、意思決定の要因として使用されにくかった。しかしそうしている間にも、大規模農業により農地の菌根菌密度は野生の生態系と比べて半減し、重要な炭素貯蔵庫である草原は森林の4倍の速度で農地へと転換され、AM菌の生物多様性ホットスポットの約95%が保護区域外のままだという。今回のデータがカーボンオフセットやESG投資などの環境評価手法に取り入れられれば、従来の「地上の緑を数える評価」から脱却し、地下の生き物を含めた自然の再生の仕組みとスピードに合わせたアクションに近づけるだろう。

A Hidden Infrastructureは、2025年に同組織が公開したUnderground Atlas(地下アトラス)という地図を発展させたもの。Underground Atlasは地下の生物多様性ホットスポット(どこに多様な種が存在するか)を特定するにとどまり、A Hidden Infrastructureがその密度と質量まで拡張させた。現在も、SPUNはアタカマ砂漠やパタゴニアなどの未踏地域での調査を継続している。

気候変動に直面する今、守るべきは地上のシステムだけではない。地球を土壌から支える「足元の命の循環」とも歩みを揃えることが大切だ。

※1 キンコンキンってなんだ?|東北大学総合学術博物館
※2 森林生態系を支える菌根菌ネットワーク【地面の下のたからもの】|Science Portal

【参照サイト】SPUN
【参照サイト】First global map reveals underground fungi networks long enough to reach the sun a billion times|The University of Sheffield
【参照サイト】Global density and biomass of arbuscular mycorrhizal fungal networks|Science
【参照サイト】Mapping 110 Quadrillion Kilometers of Fungal Threads|SPUN YouTube
【参照サイト】What We’re Reading: Mapping the World of Fungi Beneath Our Feet|Reasons to be Cheerful
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Cover image by Moritz Stefaner – Truth & Beauty, via SPUN

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Natsuki

Natsuki

仲原菜月(なかはら なつき)。IDEAS FOR GOOD 副編集長。大学在学中は政治経済を学びながら難民支援や環境課題の解決に従事し、スウェーデンに留学。ウクライナ避難民の写真展を都内で開催。脱成長、紛争予防、自然観などを中心に執筆。(この人が書いた記事の一覧