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「フランスの熱波、大丈夫ですか?エアコン、ないんだって?」
2026年6月、現地に住む筆者のもとには、国外にいる友人や仕事相手から、そんな問いかけが何度も届いた。一部地域では40℃超えとなった欧州の記録的な暑さは、今も各地でニュースになっている。
特にフランスでは、2026年6月17日から30日にかけて、長く強い熱波が続いた。6月の平均気温は1991〜2020年の平年値を3.8℃上回り、観測史上最も暑い6月になったとされている。
「“私は”なんとか大丈夫でした」。そう答えながら、少し引っかかるものがあった。
家の窓を閉め切り、光を遮る。できるだけ外には出ない。そうして暑さをやり過ごしながら、幸いにも筆者自身は大きく体調を崩すことなく過ごすことができた。ただ、熱波の報道に触れるなかで、暑さの影響は決して一様ではないことも繰り返し伝えられていた。住まいの条件や所得、働き方、年齢や健康状態、近くに休める場所があるかどうかによって、同じ気温でも人が受ける負担は大きく異なる。
フランスの環境メディア「Reporterre」は、熱波による被害の偏りを「政治的暴力」と表現した。熱波自体は自然現象である。けれど、その暑さから逃れられるかどうかは、社会の条件によって大きく変わる。日中の熱が夜まで残る最上階の部屋に住む人。冷房を設置できない(フランスの家庭におけるエアコン普及率は25%)、あるいは電気代を気にして使用を控える人。乳幼児や介助が必要な家族を連れて、涼しい場所まで移動しなければならない人。屋外で働く人にとっては、「暑いから外出を控える」という一般的な助言そのものが実行できない場合もある。
配達、建設、農業、清掃など、暑さを避けにくい仕事によって、私たちの生活は支えられていることも事実である。熱波への対応を「水を飲む」「冷房を使う」といった個人の努力に限って考えると、こうした差は見えにくくなってしまう。
日本でも、「クーリングシェルター(指定暑熱避難施設)」を指定する自治体が増えており、公共施設だけでなく、今ではイオンモールなどの民間施設もその輪に加わっている。ただ、避難先を用意するだけでは十分とはいえない。高齢者や乳幼児連れの人、仕事を抜けられない人にとっては、距離や開放時間、移動そのものが壁になることがある。
重要なのは、暑い日に「避難」しなければ過ごせない都市から、住まい、通学路、職場、公共空間のなかに、日常的に涼しく休める場所がある都市へ変えていくことではないだろうか。

パリのサン・マルタン運河で泳ぐパリ市民たち。この熱波を受けて、遊泳許可区域が拡大された。Image via shutterstock
パリは、学校を「都市のオアシス」へ変えようとしている
パリ市の「オアシス・スクールヤード(Oasis Schoolyards)」は、その一例。これは、コンクリート中心だった学校の校庭を、植栽、透水性のある地面、水場、日陰、休憩できる場所を備えた空間へ改修する取り組みである。
2017年以降、203の校庭と5つの保育施設が整備され、市は2030年までに計360の整備を目指している。
ここで注目したいのは、木を植えることだけが目的ではない点。子どもや学校に関わる大人が、どこが暑いか、どこに座りたいかを話し合い、設計から関わる。
従来の校庭では、サッカーやバスケットボールなど、主に男子児童に選ばれやすいボール遊びが中央の広い場所を占め、女子児童や、競技性の高い遊びを好まない子どもは、周縁にとどまりやすいという偏りが指摘されてきた。
オアシス・スクールヤードでは、そうしたジェンダーに偏った使われ方も見直す。ベンチや遊具、水場、静かに過ごせる場所を分散して配置することで、誰かが中心を独占するのではなく、それぞれが安心して長く過ごせる校庭を目指している。
一部の校庭は土曜日に地域へ開かれ、近隣の団体による活動の場にもなっている。学校を教育施設にとどめず、地域のコモンズとして捉え直す。気候適応とは、都市の温度を下げるだけでなく、どんな過ごし方を歓迎する都市なのかを問う、地域での民主主義の実践でもあるのではないだろうか。
スペインが示す、社会の「時間」を変える発想
熱波への適応というと、冷房や日陰、クーリングシェルターなど、空間の対策がまず思い浮かぶが、スペインでは「暑さは時間の問題」としても捉えられている。最も暑い時間帯に、誰が働いているのか。危険な日に、出勤や移動を断れるのか。休むことで収入や評価を失わずに済むのか。
スペインでは、2003年の欧州熱波を受けて、2004年から国の「高温の健康影響を防ぐための予防行動計画」を運用している。毎年5月から9月にかけて、地域ごとの気温しきい値や健康リスクに基づき、保健・福祉・自治体が連携して対策を行う仕組みである。暑さを単なる天気の問題ではなく、公衆衛生と社会福祉の課題として扱っている点に特徴がある。
夏季には、官公庁や民間企業の一部で、夏季に昼休みを挟まず、朝から午後にかけて働く「集中労働日」が採用されている。たとえば午前8時から午後3時まで働き、日中の最も厳しい暑さを避ける働き方である。これは全国一律の制度ではなく、労使協約や企業ごとの取り決めに基づく慣行である。それでも、気候に合わせて「働く時間」そのものを変える発想は、暑さへの適応を考えるうえで示唆的である。
そして2024年、バレンシア州などを襲った大規模洪水を受け、スペイン政府は最大4日間の有給の特別休暇を導入した。報道でよく「気候休暇」と呼ばれるこの制度は、悪天候や重大かつ差し迫った危険によって、職場に行けない、あるいは移動が危険な場合に適用される。4日を超えて状況が続く場合も、事情が解消するまで休暇を延長できる仕組みである。熱波だけを対象とする制度ではないが、「危険でも出勤するしかない」という状況を個人の判断に委ねないための土台になる。
もちろん、こうした仕組みだけで暑さをめぐる不平等がなくなるわけではない。自営業者やプラットフォーム労働者など、休業がそのまま収入減につながる人に、どのように保障を広げていくかは、今もなお大きな課題である。
それでも、パリとスペインの実践が示しているのは、暑さへの適応を個人の我慢や体力に委ねない、という方向への支持ではないだろうか。危険な時間帯に働かなくてよいこと。歩いて行ける場所に、安心して休める空間があること。そして、出勤や移動を見合わせても、収入や生活を失わないこと。
涼しさは、一部の人だけが手に入れられる快適さであってはならない。これからの暑い夏を生きるために、住まい、働き方、公共空間のなかで、誰もが得られる条件として設計し直す必要がある。涼しさは、社会で支えるべき条件である。その当たり前を、今年のフランスの猛暑の中で、あらためて身にしみて感じている。
【参照サイト】Paris as a Living Laboratory: Proximity, Inclusion, and the School as Climate and Social Infrastructure
【参照サイト】Horaires aménagés, refuges climatiques… l’exemple de l’Espagne pour faire face à la canicule
【参照サイト】‘We feel like the peasants’: women and low-income families bear brunt of heatwave
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