2026年8月1日、皇居のお濠を望むとあるビルの一室に13人のプログラム参加者が集まった。
一般社団法人ゼロ・ウェイスト・ジャパンが2026年に立ち上げた人材育成プログラム「ZERO WASTE FUTURES」は、自治体のゼロ・ウェイスト®︎推進に伴走する専門人材を育てるためのプログラムだ。
自治体とゼロ・ウェイスト®︎を進めるために必要なのは、廃棄物に関する専門知識だけではない。地域の状況を読み解き、行政、住民、事業者など異なる立場をつなぎながら、「なぜ、この地域で取り組むのか」を見つけ、それを実行可能な施策へと翻訳していく力も求められる。
参加者は2026年4月から8月にかけて、対面講義や視察合宿、オンライン講義を重ね、ゼロ・ウェイスト®︎の専門知識から政策提言、地域との関係構築までを学んできた。その最終課題が、一つの自治体を選び、その地域に合ったゼロ・ウェイスト計画をつくることだった。
長野県小布施町での合宿から、およそ1か月半。あのとき「ファシリテーターではなく、コーディネーターである」という言葉に頷き合っていた参加者たちは、それぞれの対象自治体の資料を一層読み込み、職員へのヒアリングをし、一見廃棄物とは直接関係ないことまで含め、地域のことを深掘りしてきた。そしてこの日、約3か月にわたる学びの集大成として、自ら選んだ自治体の「ゼロ・ウェイスト計画」を持ち寄った。
しかし、13人がこの日持ち寄った答えに、同じものはひとつとしてなかった。人口約376万人の大都市もあれば、4,000人ほどの町もある。最終処分場の残余年数を前に、ごみの削減を急ぐ地域もあれば、焼き物産業をどう次世代につなぐかが課題となる地域もある。ゼロ・ウェイスト®︎という目標は同じでも、その地域が取り組む理由も、そこへ至る道筋も同じではない。
小布施での合宿では、参加者たちが「地域の困りごとより先に、自分のやりたいことを持ち込んでいなかったか」と、自らの姿勢を問い直す場面があった。では、その問いをそれぞれの地域へ持ち帰り、現実のまちと向き合ったとき、どのような計画が生まれたのだろうか。第0期の最終発表会を通して見えてきたのは、「地域に伴走するコーディネーター」という役割の、より具体的な姿だった。
13の自治体、13の現実
発表対象となったのは、北海道厚真町、宮城県仙台市、長野県佐久市、埼玉県川口市、東京都練馬区、世田谷区、神奈川県座間市、岐阜県恵那市、横浜市、神奈川県茅ヶ崎市、島根県雲南市、愛知県瀬戸市、愛知県新城市。
人口も、産業構造も、ごみ処理の仕組みも異なる13の地域だ。

ファシリテーターを務めたのは、一般社団法人ゼロ・ウェイスト・ジャパン代表理事の坂野晶氏
発表は1人10分、質疑応答10分。丸一日かけて13本の発表が続いた。
この最終発表会は、単に成果を共有する場ではなく、「Certified Zero Waste Coordinator(認定ゼロ・ウェイスト・コーディネーター)」の認定に向けた評価の場でもある。評価項目は「現状分析の精度」「目標の妥当性」「地域適合性」「施策の具体性・独自性」「実現可能性」「評価設計の質」の6観点で、80点以上が合格基準として設けられている。
しかし、発表を聞き続けていると、点数以上に浮かび上がってきたものがあった。同じ課題があったとしても、同じ解決策を持ち込める地域はひとつもない、ということだ。そして興味深いことに、参加者たちが見つけてきた「ゼロ・ウェイスト®︎に取り組む理由」も、ごみというテーマだけにとどまってはいなかった。
規模も、施策の切り口も違う。4つの提案から見えたもの
たとえば愛知県瀬戸市。
人口12万人、千年以上続く焼き物の産地であり、3年後に市政100周年を迎える転換期にある。この自治体を選んだプログラム参加者は、ごみ処理費の増加や生産年齢人口の減少、粘土資源の枯渇というリニア型経済の限界を並べたうえで、あえてゼロ・ウェイスト®︎を「環境政策」ではなく「都市経営戦略」として位置づけ直した。
廃棄陶磁器を粉砕して粘土に混ぜる循環型陶磁器や、空き店舗を活用した量り売りハブなど、地場産業と地域の空き資源を結びつける施策を提示した発表は、「ごみ減量を財政防衛策と言い換えるフレーミングが秀逸」と高く評価された。発表者自身が商店街の空き店舗をリノベーションした量り売り店を実際に運営していることも明かされ、会場からは「自分がここまでやっていて、こう広げたいというコミットメントを前面に出すと刺さる」という声が上がった。

3ヶ月間に渡って練り上げた、各自のゼロウェイスト政策を発表する参加者。
対照的に練馬区を対象とした発表は、「役割分担の明確さ」で会場の空気を変えた。
「区が器(予算・制度・回収の仕組み)を作り、自分たちが中身(コンポストや量り売りの実践、担い手育成)を作る」というスライド一枚で、行政と外部コーディネーターの関係を言い切ったのだ。「外部コーディネーターとして行政に提案する形が最も明確に表れている発表」という評価とともに、「区がこの器の役割を担うモチベーションはどこにあるのか、もう一歩踏み込むとよい」という宿題も手渡された。
人口約4万人、面積の約8割を森林が占める愛知県新城市は、稼働中の埋め立て処分場が2044年・2048年に相次いで満杯を迎えるという事実を、そのまま危機訴求として計画の軸に据えた。集団回収量がわずか9トン(他自治体では500〜3,000トン規模とされる)という数字を突きつけ、「なぜこの町では集団回収報奨金制度すら存在しないのか」という問いを立てた発表には、「明確な期限を政策提言の推進力に変える、有効な手法」との評価が寄せられた。
そして横浜市を対象に選んだ参加者は、370万人という基礎自治体最大規模の複雑さに、AIシミュレーターという武器で挑んだ。生ごみ・プラスチック・紙の抑制と資源化がリサイクル率をどう動かすかを定量的に描き出し、「アジア循環未来都市」というビジョンを掲げたのだ。その具体的な施策として、「Less Plastic, More Picnic. プラスチックを減らすほど、ピクニックが楽しくなる」というコンセプトのもとに、マイボトル給水スポット・テイクアウト容器シェアリング・量り売り店舗を市内全域に広げ、 利用するほどピクニック特典(公園無料利用券・グッズポイント・公共交通割引など)がもらえる プラスチックリフューズ施策のインパクトをAI により試算するツールを提案。プラスチックを減らすインフラの設置ポテンシャル推計を前提に、市民参加率に応じた環境・社会・経済効果をAIシミュレーションにより予想できる可能性を示した。
このほかにも、方言をキーワードに「無理なく続けられる」しくみを模索した島根県雲南市、財政危機を軸に公園愛護団体との連携を描いた神奈川県茅ヶ崎市、ごみという言葉自体を見直そうとした神奈川県座間市、一次産業とのブランディングで観光誘客まで見据えた北海道厚真町など、13の発表はそれぞれのまちの地理・産業・歴史に根ざしたものだった。
講評が教えてくれた、「伴走」の作法
最終発表会を通じて交わされた講評者や他の参加者からの講評コメントには、ある共通の姿勢が見られた。それは、施策の是非を裁くのではなく、「なぜそれが必要なのか」を一緒に掘り下げようとする姿勢だ。
「試算の計算式を明示しておけば、パラメーターを変えるだけで自治体との議論のスタートになる」。ある発表への講評は、精緻な数字そのものよりも、その数字を後から自治体職員自身が動かせる状態にしておくことの大切さを語っていた。「なぜその自治体がその施策をやっていないのかという原因分析が重要」という指摘も、複数の発表に対して繰り返された。制度の不備を指摘するだけでなく、その不備がなぜ放置されてきたのかを理解して初めて、提案は地に足のついたものになる。小布施合宿で参加者たちが学んだ「地域の困りごとから始める」という姿勢が、ここでも一貫して問われていた。
「独りよがりな計画」から、つながりの中の計画へ
発表がすべて終わった後、参加者たちは今回のプログラム全体の振り返りに移った。ある参加者は、プログラム参加前は「独りよがりな計画」を持っていたと率直に振り返り、様々な学びを通じて「人と人とのつながり」を大切にする姿勢に変わったと語った。今後はゼロ・ウェイスト・コーディネーターとして活動し、まず計画書を関係者に見てもらうことをファーストステップに掲げるという。
世田谷区を対象にした参加者は、プログラム参加を機に地域を「まず知るところから始められた」ことを最大の収穫として挙げ、地域との信頼関係構築を次の一歩とした。仙台市在住の参加者は、来年から町内会のブロック長に就任することを踏まえ、タイニーライブラリーの設置など、小さな実践からまちに関わっていくと述べた。横浜在住の参加者は、「ゼロ・ウェイスト®︎というテーマが持つ、人をつなぐ力」に魅力を感じたと語り、行政や事業者との対話を重ねながら、この日の発表内容を必ず形にすることを誓った。
ゼロ・ウェイスト・ジャパン坂野氏が贈った、それぞれの未来へのエール
会の終わりに坂野氏がまず参加者に伝えたのは、ゼロ・ウェイスト®︎の施策において試行錯誤は当然のことであり、地域との付き合い方や自分自身のスタンスを大切にしながら進んでほしいという、これからの実践に向けた率直なエールだった。勉強会や関係者を集める場を早期に設けることが、行政担当者自身のモチベーションにもつながっていくはずだとも励ました。
この最終発表会の後、坂野氏はあらためてZERO WASTE FUTURES第0期を総括してこう語っている。
「第0期に集まった参加者は、すでにそれぞれ自分の領域で実践や知識を積んできた、レベルの高い面々でした。だからこそこのプログラムは、完成されたカリキュラムを一方的に提供する場ではなく、参加者の反応を見ながら試行錯誤する『トライアル』として運営してきました。参加者がすでにゼロ・ウェイスト®︎の実践者であっても、自分の知見を体系立てて言語化しきれていない部分があるはずです。それを棚卸しし、整理し直す機会にこそ、このプログラムの意義があったのではないでしょうか」

坂野氏
そのうえで坂野氏が参加者に望むのは、大きな自治体という規模への提案だけに留まらないことだ。自宅やマンション、身近な地域といった小さな単位からでも、今回立てた仮説を実際に試してほしい。小さくても、複数の実践者がまちに生まれること自体が、地域にとって最も価値のあることだからだ。
「一人でゼロ・ウェイスト®︎の施策を広げていくには限界がある」と坂野氏は明言する。今のところ日本では、トップダウンの規制改革等によって廃棄物削減が全国一律に義務化されるような未来はすぐには期待できない。だからこそ、それぞれの地域の実態や課題に個別に向き合い、地域に伴走できる人材=コーディネーターを育てることこそが最重要課題だという。ゼロ・ウェイスト・ジャパンという一つの組織がすべての地域をカバーするのではなく、ノウハウを伝授し、各地域で自律的に動ける人が増えていくことこそ、健全な広がり方なのだと坂野氏は強調した。
おわりに:「同じ答え」を広げないという広がり方
この発表の後、最終計画書を提出し修了認定を受けた者には、ゼロ・ウェイスト・ジャパンから「Certified Zero Waste Coordinator(認定ゼロ・ウェイスト・コーディネーター)」の称号が贈られている。
参加者たちが小布施での合宿を通して「地域の困りごとから始める」姿勢を得たとすれば、この最終発表会を通して得たものは、その姿勢を数字と施策に翻訳し、行政という現場に届く言葉に変える難しさと、それを施策として形にしていく手応えだった。
0期参加者それぞれの計画は、まったく異なる答えでありながら、その根本にある問いはおそらく共通している。このまちは、そしてそこに暮らす人々は、なぜゼロ・ウェイスト®︎に取り組む必要があるのか。その問いへの答えは、地域によって違っていい。むしろ、地理も産業も、暮らす人々も異なる以上、同じであるはずがないのだろう。
一つの成功事例や施策をそのまま各地へ広げるのではなく、それぞれの地域で問い直し、その土地なりの答えをつくっていく。そのために地域の声を聞き、異なる立場をつなぎ、実現できる形へと翻訳していくこと。それこそが、ゼロ・ウェイスト・コーディネーターという役割の原点であり、その存在意義のひとつなのではないだろうか。
「同じ答え」を広げるのではなく、それぞれの地域で答えを生み出せる人を増やしていく。13の計画が示していたのは、そんなゼロ・ウェイスト®︎の広がり方だった。
※「ゼロ・ウェイスト」は、一般社団法人ゼロ・ウェイスト・ジャパンの登録商標です。
【参照サイト】一般社団法人ゼロ・ウェイスト・ジャパン
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Edited by Erika Tomiyama






