ゼロ・ウェイストの『コーディネーター』を目指して。小布施合宿で見えた、地域を動かす“伴走”のあり方

2026.07.15

ゼロ・ウェイストの概念を理解しているだけでは、地域は変わらない。

必要なのは、住民の暮らしに入り込み、行政の制度を読み解き、地域事業者の事情に耳を傾けながら、「このまちでは、何ができるのか」をともに考える人だ。

長野県北部、人口約1万人の小布施町。りんごと栗の果樹畑に囲まれ、葛飾北斎が晩年に繰り返し訪れたこの小さなまちに、そんな役割を学ぼうとする全国からの11名が集まったのは、2026年6月13日のことだ。

建築士、ゼロ・ウェイストショップの店主、廃棄物処理施設のプランナー、コンポストメーカーの担当者、鉄道会社でサーキュラーエコノミーを推進する社員、サステナビリティメディアの編集者、まちづくりコンサルタント──多様な立場にいる彼らを結ぶのは、「地域のゼロ・ウェイスト推進に、もっと深く関わりたい」という想いだ。

彼らは、一般社団法人ゼロ・ウェイスト・ジャパンが主宰する人材育成プログラム「ZERO WASTE FUTURES」第0期の受講生として、約3か月間のプログラムの中間にあたる合宿に臨んでいた。

2日間で彼らが体験したのは、単なる座学や先進事例の視察ではなかった。まちを歩けば、焦点はごみから文化へ移り、行政関係者と語れば「自分の立ち位置」への問いが生まれる。この合宿は、11名の参加者にどんな視点の変容をもたらしたのか。その2日間をたどりながら、ゼロ・ウェイストを地域で動かす「伴走者」のあり方を考えたい。

ゼロ・ウェイストは、誰か一人では進められない

最終処分場の逼迫、脱炭素の社会的要請、人口減少における経済活性化への期待。廃棄物をめぐる課題は今や、どの自治体にとっても他人事ではない。政府もカーボンニュートラルや循環経済への移行を掲げ、自治体に実効性のある取り組みを求めている。

しかし現実は厳しい。多くの自治体では担当職員の定期的な人事異動が多く、専門知識が蓄積されにくい。住民参加のプロセスの設計も難しい。「ゼロ・ウェイスト」という概念自体の解像度が低く、「リサイクル率を上げる」ということ以上に、取り組みの幅を広げるのも容易ではない。

今回の合宿を含む約3か月間のプログラム「ZERO WASTE FUTURES」を主宰するのは、一般社団法人ゼロ・ウェイスト・ジャパン代表理事の坂野晶さんだ。

一般社団法人ゼロ・ウェイスト・ジャパン代表理事の坂野晶氏

一般社団法人ゼロ・ウェイスト・ジャパン代表理事の坂野晶さん

日本初のゼロ・ウェイスト宣言を行った徳島県上勝町での廃棄物政策に携わり、2019年の世界経済フォーラム年次総会(通称ダボス会議)の共同議長を務めた坂野さん。以降も、規模や背景の異なる地域に伴走し続けてきた経験から、坂野さんはある考えに辿り着いた。

「変化は、誰かが伴走し、寄り添い、地域の中と外とをつなぎながら、一歩ずつ積み重ねていくことでしか生まれない」

本プログラムが育成しようとしているのは、環境の専門家でも政策立案者でもなく、「コーディネーター」と呼ばれる存在だ。

ゼロ・ウェイストの専門知識と地域固有の事情を読む洞察力を持ち、行政、住民、事業者、外部人材のあいだを翻訳しながら、政策を実践へと動かしていける人材。もちろん廃棄物に関する知識は必要条件だが、それだけでは足りない。この人材の圧倒的な不足こそが、日本のゼロ・ウェイスト推進の最大のボトルネックであるという問題意識から、本プログラムは生まれている。

全国から集まった11人と、それぞれの課題

参加者の顔ぶれは実に多様だ。プログラム冒頭に提出されたそれぞれの自己紹介シートからは、一人ひとりが抱える背景と、プログラムに参加した理由が浮かび上がってくる。

たとえば大手設計会社の都市インフラの専門家は、参加動機にこう書いた。

「廃棄物処理施設に関する知識はあるが、ゼロ・ウェイストに向けた取り組みのサポートは労力がかかり、なかなか取り組めていない」

サーキュラーエコノミー領域で新規事業を担う参加者は、技術を自治体へ提供してきた一方で、地域の人々とともに取り組みを育てていく難しさを感じていた。

そんな風に背景は多様だが、彼らには共通する感覚がある。「ゼロ・ウェイスト政策を実現するための地域の中での動き方がわからない」という、切実な悩みだ。

プログラム参加者が集まる様子

プログラムは今回の合宿まで、政策の基礎論から国内外の事例研究、自治体計画の分析まで、主にオンラインと対面講義で知識の基盤を積み上げてきた。しかし坂野さんは、知識だけでは足りないと語る。

「デスクトップリサーチには限界がある。実際に現地に足を運び、関係者の声を聞き、自分の体で感じてはじめて解像度が上がるんです」

今回、その「現地」として選ばれたのが、小布施町だった。

小布施で見えた、“地域の困りごと”から始める実践

合宿初日の午前、参加者は小布施町役場の会議室に集まり、まず地域おこし協力隊の岩間夏美さんによる活動報告を聞いた。

岩間さんは妊娠・出産を機に環境問題への意識が高まり、縁あって小布施町の協力隊としてこれまで約1年間活動してきた人物だ。

地域おこし協力隊の岩間夏美さん

地域おこし協力隊の岩間夏美さん

その報告内容は、「ゼロ・ウェイスト」という言葉を前面に出さない、地に足のついた実践だった。

年間100万人の観光客が訪れる町で、地域のペットボトルごみを減らすために、給水スポット設置に向け、飲食店を一軒ずつ訪問し、交渉して回ったこと。

生ごみの資源化において、家庭から年間520トン発生し、処理費用として年間1,500万〜2,000万円の処理費用がかかる生ごみを集める実証実験として、地元の果樹剪定枝からつくったバイオ炭、米ぬか、もみ殻を1対1対1で混ぜた地域内資源によるコンポスト化を、20家庭で実証したこと。

給食センターから2日に1回40〜100キロの残渣を回収し、養鶏家へ届けたこと。

月2回、農家などから規格外野菜を回収して150名が利用する子ども食堂に提供し、2025年7月から12月まで野菜の購入ゼロを達成したこと。

どの取り組みにも共通するのは、新しい仕組みを外から持ち込むのではなく、町にすでにある資源と人の関係をつなぎ直している点だ。岩間さんはこう言った。

「自分で立ち上げた活動は、金継ぎ教室のみ。あとは地域の困りごとを聞いて、つないできただけです」

この一言は印象的だった。合宿後の感想として、こう書いた参加者がいた。

「気づかないうちに、地域の困りごとより先に『こういう活動をしたい』という思いを押しつけていたかもしれない」

岩間さんの言葉は、「コーディネーターとは何か」という問いに対する、最初のヒントだった。

計画書と暮らしのあいだにある距離

午後には坂野さんの講義に続き、おぶせフラワーセンターの視察へ。

役場企画財政課・環境グランドデザイン推進室の井関将人さんの案内により、参加者は剪定枝をバイオ炭に変える炭化炉や、地域の間伐材を温室の燃料に活かすオーストリア製ボイラーの仕組みを見学した。あわせて、須坂市・高山村との3地域連携によるサプライチェーン構築についても説明があり、バイオマス発電所との燃料材をめぐる競合という、現実的な課題も示された。

剪定枝をバイオ炭に変えるオーストリア製ボイラー

オーストリア製ボイラー

その後は町役場に移動して、大宮透町長と井関さんとの対話セッション。小布施町の首長であり、政策立案者でもある町長の率直な言葉は、参加者の記憶に強く残った。

「環境グランドデザインは令和4年に策定しましたが、それまでに十分な住民参加プロセスを経ていなかった。それが今の住民への浸透度の課題にもつながっていると感じています。また現状、小布施町はごみ処理に関して大きな課題を抱えている状況ではないため、推進におけるマイルストーンの設定にも難しさがあります」

大宮透町長

大宮透町長

計画書の完成度と住民への浸透度は、別の話だ。そのギャップをどう埋めるかも、ゼロ・ウェイスト・コーディネーターの役割の一つなのかもしれない。そんな雰囲気が、部屋の空気として広がっていた。

対話の中でもう一つ印象的だったのは、井関さんが語ったある戦略だった。

「ゼロ・ウェイストは、住民に向けた内向きの言葉と、外部に向けた外向きの言葉を使い分けています」

それを受けて、ある参加者が「対症療法ではなく、ビジョンを持って戦略的に言葉を選んでいた。外や未来に向けたまちづくりへの覚悟を感じた」と語っていた。

おそらく小布施町のすべての住民に、ゼロ・ウェイストという概念はまだ浸透していない。それでも小布施町は、戦略的にビジョンを立て、外部に発信し続けることで人と資源を町に引き寄せている。江戸時代から地域の発展のために外部からの文化や人材を積極的に取り入れてきた小布施の伝統的な気風が、こんなところにも息づいているのだろうか。

小布施を歩いて体感した「まちの哲学、まちの循環」

2日目の午前は、小布施のまちづくりに携わる若手集団、ショクバイ株式会社の案内で、小布施の文化的背景を学び、町なかを歩くフィールドワークから始まった。葛飾北斎が83歳で初めて訪れ、4回にわたり滞在したという歴史。栗菓子店の御三家が「小布施ブランドを汚さない」という不文律のもと、競い合いながら町を磨いてきた経緯。さらに、1区画の道路整備に約2年、100回近い会議を重ね、住民の総意を形成してきた姿勢も紹介された。

参加者が受け取ったのは、景観を守るための制度そのものではなく、地域の価値をめぐる対話を、長い時間をかけて続けてきた姿勢だった。ごみの分別や資源化もまた、ルールを一方的に導入するだけでは続かない。地域の人々が「このまちをどう残したいか」を自分たちの言葉で考え、納得できる形を探っていくことが必要になる。

ある参加者はまち歩きの後にこう書いた。「約半径2キロの町だからこそ、住民同士の顔が見える関係を感じることができる。住民が自分ごととしてごみの資源化に参加できるのではないか、と気づいた」と。

町中を歩くフィールドワーク

住民、職員、町長。異なる立場を演じて見えたこと

午後は、参加者が「住民」「若手職員」「町長」「地域おこし協力隊員」の役割に分かれたロールプレイングを体験。生ごみ処理の仕組みを住民参加でどう設計するかをテーマに、異なる立場を演じながら合意形成の場を擬似体験するワークだ。

住民役からは、「ごみカレンダーが複雑すぎる」「製品プラスチックの分別が結局わからず燃えるごみに出している」という声が次々と上がった。町役場職員役は、住民から「回収に来てほしい」と言われる一方、行政の論理では「持ってきてほしい」という齟齬の前で立ち往生。町長役は財政制約の中でスモールスタートを志向しながら、未来世代への責任と今のニーズのバランスに悩んだ。

ロールプレイングの様子

住民は「回収に来てほしい」と求める。行政は限られた人員と予算のなかで「持ってきてほしい」と考える。双方に理由があるからこそ、議論は簡単に交わらなかった。議論が行き詰まった瞬間、それを動かしたのは地域おこし協力隊役の参加者による一言だった。

「どこまでなら持っていけますか?」

住民の生活動線に寄り添い、できることの輪郭を一緒に描こうとするその問いかけが、停滞した場を動かした。

後の振り返りで、ある参加者がこう語っている。

「行政と住民がかみ合わない場面を動かしたのが、あの一言だった。コーディネーターが担うのは、まさにこういう翻訳・クッション役なのだと、身をもってわかった気がします」

職員役を担った参加者はこんな気づきを語った。

「職員の立場になったことで、住民の要望があればやりたいし、困りごとがあれば解消したい。住民目線でのメリットがあるかどうかが、職員にとってのモチベーションになることを実感した。一方で町長はより長期的な視点も必要で、今のニーズを犠牲にしてでも未来世代のために意思決定しなければならない場面もある。この視点の差をどう調整するかがコーディネーターの役割だと感じた」

そして議論は、小布施の伝統的なまちづくりの哲学にも及んだ。

「景観と同じように、ルールで縛るだけではなく、住民が自主的に取り組む文化を育てることが重要なのではないか」

長い時間をかけて住民の総意を形づくってきた小布施の姿勢は、ゼロ・ウェイストにも応用できるのではないか。合宿の終盤には、そんな問いが参加者のあいだで共有されていた。

「知っている」だけでは、地域は変わらない

合宿最後の振り返りからは、いくつかの参加者のマインドの変化が見出せた。

ひとつは、地域の中でのフィールドワークと対話の重要性だ。「計画を読んだだけではわからないことを、町長・職員・地域おこし協力隊から直接聞けた」「過去データを押さえるのと同じくらい、地域プレイヤーとの対話やヒアリングが重要だと今回学んだ」という声が複数上がった。

廃棄物処理施設の計画を専門とする参加者はこう書いている。

「自治体、住民、地域おこし協力隊、民間など、さまざまな立場の方がいる中で、お互いの状況を把握しながら関係性を良好にしつつ、目標に向かって取り組むことが大事であり、そこが難しいところでもある」

そして最も共通していた変化は、コーディネーターという役割の解像度の向上だ。「ファシリテーターではなく、コーディネーターである」合宿中に1人の参加者が発したこの一言は、参加者の多くの心に刻まれていた。

議題を整理するだけでなく、多様な立場の人々の動機を設計し、行政と住民の言葉を翻訳し、政策を実際の行動に落とし込む。その役割の広さと深さを、ロールプレイングという体験が初めて具体的に示した瞬間だった。

「ゼロ・ウェイスト・コーディネーターとは何か」という問いは、このプログラムを貫く軸だ。

単に環境知識を持つ人ではない。政策を立案できるだけでも足りない。地域のことをよく知っているだけでも不十分だ。必要なのは、それらを繋ぐ力だ。ステークホルダーそれぞれの異なる「なぜ動くのか」という動機を理解し、時に並走し、時に翻訳し、一見バラバラに見える力を同じ方向へと向けていく能力。

「なぜこのまちはゼロ・ウェイストをやる必要があるのか。そんな“WHY”への合意形成が重要ではないか」。ある参加者がそう語った。行政・住民・事業者・協力隊それぞれのWHYは違っていていい。大切なのは、それぞれの動機をデザインし、皆が緩やかに同じ方向へと向けることだ。参加者たちはこのプログラムの対話と体験を通して、そんな重要な気づきを得ていた。

参加者が集まる写真

町長と参加者の集合写真 受講生は最終課題として、自ら選んだ自治体を対象にゼロ・ウェイスト計画を作成する。修了者には「Certified Zero Waste Coordinator(認定ゼロ・ウェイスト・コーディネーター)」の称号が授与される予定だ。

おわりに

合宿の振り返りの場で、ある参加者がこんな言葉を綴っていた。

「文化とは、過去から受け取って未来へつなぐ作業の現在進行形だ、というまち歩きのスライドの言葉が頭に残っている。ごみ処理も含む私たちの日々の営みは、文化そのものなんだと思った」

ゼロ・ウェイストを「政策」として実装しようとする前に、それが「文化」として根付くまでの時間と関係性の積み重ねがある。小布施はその過程をまだ歩んでいる途中だ。だからこそこのまちは「完成した成功事例」ではなく、「現在進行形の実験場」として、ZERO WASTE FUTURESの合宿地にふさわしかったのかもしれない。

「ZERO WASTE FUTURES」が育てようとしているのは、その空白を埋める伴走者だ。

全国から集まった11人は、いままさにプログラムの学びの途上にいる。それぞれの地域に戻りながら、担当自治体の廃棄物担当者に話を聞き、堆肥の出口を確認するために現場を訪ね、住民の困りごとに耳を傾ける場を少しずつ開き始めている。地味で、しかし地に足のついた始まりだ──そうした一歩の積み重ねの先でこそ、ゼロ・ウェイストが「文化」として根付いていくのではないだろうか。

【参照サイト】一般社団法人ゼロ・ウェイスト・ジャパン
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Edited by Erika Tomiyama

この記事を書いたライター

サステナブルツーリズムで世界をつなぐ旅マガジン「Livhub」の編集・ライティング・企画を担当。神奈川と長野で二拠点生活中。サステナブルツーリズムの国際基準に準拠した「the GSTC Professional Certificate in Sustainable Tourism」と環境再生医の資格を保有。