アイデンティティ・クライシスとは?
アイデンティティ(自己同一性)を喪失した状態のこと。人が自己の役割、存在意義、目標などを見いだせず、混乱を生じたり、心理的な危機に陥ったりすることを伴う。アイデンティティの危機、アイデンティティの拡散としても知られている。また、人だけではなく、企業や組織などに当てはまる場合もある。
アイデンティティとアイデンティティ・クライシスという概念は、発達心理学者のエリック・エリクソンが1950年に発表した「幼児期と社会」という本の中で、発達段階論の一部として提唱したと言われる。
エリクソンの発達段階論の中では、社会に出る前の13歳から20歳頃の青年期において、成人期を迎えるための大切なプロセスとして「アイデンティティの確立」が位置付けられている。うまく確立されない場合、その対局である「アイデンティティ・クライシス」の状態が生じるとされている。
アイデンティティ・クライシスの主な症状
では、アイデンティティ・クライシスに陥った場合、どういった症状が現れるのだろうか?
下記のような兆候がある場合は、アイデンティティ・クライシスの状態にある可能性があるかもしれない。
- 自尊心の低下
- 自分の相対的及び絶対的価値に疑問を感じる
- 迷いや無目的を感じる
- 目的意識が持てない、自分の価値観を理解できない
- 感情が散漫になる(または感情の調節が難しくなる)
- 不安感や抑うつ感の増大
具体的な症状として以下のような状態も考えられる。
- 絶望感や無価値感
- かつて楽しんでいたことへの興味の喪失
- 疲労感
- イライラする
- 食欲や体重の変化
- 集中力の低下
- エネルギーレベルの低下と意欲の低下
- 睡眠障害
こうした状況が長く続くと、うつやひきこもりなどを引き起こすことにつながる。
アイデンティティ・クライシスの主な原因
エリクソンはアイデンティティ・クライシスが起こるのは青年期と定義しているが、青年期以外での人生の中の様々な出来事をきっかけとして、誰の身にも起こりうる。ここでは一般的に原因とされるいくつかを紹介する。
- 結婚や誰かと新たなパートナー関係を築く
- 離婚や別居
- 子供が生まれる
- 愛する人(親、配偶者、子ども、兄弟姉妹、家族、恋人、友人)の喪失
- 引っ越し
- トラウマになるような出来事(事故など)
- 失業
- 再就職
- 身体的な健康問題(慢性疾患、重大な診断など)
- メンタルヘルスの問題
- 退職
具体的には下記のような事例や環境などがアイデンティティ・クライシスを引き起こすきっかけにもなっている。
帰国子女
生まれた国と育った国が違うことから「自分の故郷はどこなのか」「自分は何人であるのか」といった問いに確証を持って答えられず、迷いが生まれる。また、周囲からステレオタイプ的に一つのイメージとして捉えられることも多く、そのギャップに悩む人も少なくない。
出産後の母親
生活のすべてが子供中心になることや、バリバリとキャリアに自信を持って働いていたのに、子育てがうまくいかず、職場復帰しても思うように仕事ができないという状況に陥り、自分への自信や存在意義が薄れてしまうことがある。また、「○○ちゃんのママ」という呼び方をされることで、子供があっての存在にしか見られていないと感じ、自分らしさを認めてもらえていないと思い、自己肯定ができなくなってしまう場合が見受けられる。
コロナ化でのリモートワーク
コロナ以前は仕事が終わった後も同僚と飲みに行ったり、週末も取引先とゴルフに行くなど、オフタイムですら仕事関係のコミュニティに一点投資をしていた人たちが、リモートワークになることで、そういった時間がぽっかり空いてしまい、やることを見つけられず不安を感じる場合がある。また仕事のスタイルが、チームの一員として仕事を進めていたメンバーシップ型から、より個人の成果が求められるジョブ型に移行し、自分の存在意義についてストレスを感じる人も増えている。
アイデンティティ・クライシスに対処するには
それではアイデンティティ・クライシスを防ぐにはどのようにしたら良いのだろうか?
自分がアイデンティティ・クライシスに陥っているかもしれないと感じた時は、下記のような方法を試して見るのも良いかもしれない。
自分の価値観を見直す
これまで自分が大切だと思っていたことが、今の自分にとっても大切なのかなど、価値観を見直し再定義する。
自分の感情に気づく
違和感を覚えたら、それを封じ込めるのではなく自分がどう感じているかに触れてみる。日記を書いたり、自分の気持ちを紙に書き出してみたりすると感情に気づくことができるかもしれない。
メンタルフィットネスを取り入れる
喜びを感じることをしているか、自分自身をどのように優先しているかなど、心身ともにリラックスし良い状態でいられることを目指すメンタルフィットネスを行い、安定を感じる。
コーチの力を借りる
コーチングを受け、コーチという客観的な視点を通して、自分を確かな存在と認めてみよう。そうすることでアイデンティティ・クライシスから抜け出すためのロードマップを描く助けになるだろう。
未来を楽観的に考える
アイデンティティの危機が大きな転機となり、人生で最高の出来事のひとつにつながるかもしれない。将来何が起こるかはわからないが、常に未来を楽観的に捉えるようにしよう。
また、それでも解決しない場合は、専門家に相談し、セラピーや認知行動療法を受けること、サポートグループの助けを借りることなどを考えることも必要だ。
まとめ
私たちは子供の頃に大人から「大きくなったら何になりたいの?」と聞かれることがよくある。実は、これは外から見た自分の肩書きを持ち、常に他者との関係性の中でアイデンティティが確立されていることを求められている。そのため、人生の中でその肩書きを失った時に「自分は何者なのか」「何がやりたいのかわからない」といったアイデンティティ・クライシスに陥ってしまう。
人生の転機は何度も訪れ、肩書きも変われば役割も変わる。そういう時に、アイデンティティを外向きではなく、内向きに焦点を変え、再構築することで自分自身を探求し、自分にとって本当に大切なものを見つける機会となり得る。”私が何をするか “から “私が誰であるか “をもう一度自分に問い直してみよう。
【参照サイト】 BetterUp | Identity Crisis: Causes, Symptoms, and Ways to Cope
【参照サイト】Psychology Today | How to Avert an Identity Crisis
【参照サイト】心理学用語の学習 | エリクソンのライフサイクル理論
【参照サイト】DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー | 母親になりたての人がアイデンティティ・クライシスを克服する方法
【参照サイト】NEWS PICKS |【ジョブ型ストレス】大室正志、withコロナ時代のアイデンティティ・クライシスを読み解く
【参照サイト】クーリエ・ジャポン | vol.03 私たちは日本人か、それとも米国人なのか トランプ政権下のアイデンティティ
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