約2人に1人が、職場で燃え尽き症候群(バーンアウト)に陥っている。そう聞いて、「本当にそこまで深刻なのか」と疑念を抱くだろうか。むしろ「自分も最近バーンアウト気味かも」と思い当たるだろうか。
このデータは、2025年に公開されたオーストラリア対象のもので、特に18〜29歳の若年層および子を持つ世代ではバーンアウト経験の割合が高い(※1)。しかしこれは、多くの国に共通する課題。2024年公開のボストンコンサルティンググループの調査によれば、日本を含む8カ国の労働者を対象にした調査で、回答者の48%がバーンアウトに悩んでおり、日本は37%、インドは57%、オーストラリアは53%、イギリスは47%などの結果が出た(※2)。
それほどまでに、現代で「働くこと」は、心を蝕んでしまうものなのか。
この現状に対して、多くの国から労働時間を短くしようとする試みが生まれてきた。そこに加わったのは、2026年5月、Springer Natureが発行する学術誌に掲載されたオーストラリアでの研究だ。
オーストラリアの企業15社を対象に、「100:80:100モデル」の導入効果を調査した。これは、給与は100%のまま、労働時間を80%に減らし、100%の生産性を目指す働き方だ。その結果、生産性の維持・向上、バーンアウトの防止などの効果がみられ、導入した企業のうち14社が継続したいと考えていることが明らかになった。
調査対象となった企業は、物流、不動産管理、医療、出版などのさまざまな業種。約半数は従業員数2~18人の小企業、残りの半数は従業員数85人以下の中企業。それぞれ自発的に、または別プログラムを通じて2022年頃にこのモデルを導入し始めており、3ヶ月〜最長1年の試験期間を経たタイミングで、本研究チームがインタビューによる定性調査をおこなった。
報告された主な効果
- 生産性の維持・向上:本調査に参加した企業の43%(6社)で導入後に生産性が向上し、57%(8社)が「以前とほぼ同じ」と回答。生産性の低下を報告した企業はなし。
- ワークライフバランスの向上と燃え尽き症候群の防止:従業員の心身の健康状態が改善し、燃え尽き症候群の軽減・予防に効果があることが確認された。休日が1日増えることで、趣味や家族との時間が増え、家庭生活のストレスが軽減されたなどの影響も報告があった。
- 採用と従業員定着率の強化:本モデルは若年層にとって特に魅力があり、採用活動の強力なツールとして機能するだけでなく、既存の従業員の離職を防ぐ(定着率を高める)効果がありうる。
- 病気休暇・欠勤の減少:複数の企業において、病気による休暇や欠勤日数の減少が成果として報告あり。
- 仕事とプライベートの明確な分離:1日あたりの労働時間を延長することなく休日を追加するため、仕事とプライベートの境界線が明確になり、従業員が仕事から精神的にしっかりと離れやすくなる(心理的デタッチメント)効果がある。
なお、100:80:100モデルを継続しない意向を示した企業は、従業員2名の小さな会社であり、新型コロナウイルスの影響からより長い稼働時間が必要となったことが背景にあった。
制度導入を成功に導く「社内環境」
この研究で特徴的なのは、モデル導入と共にどんな社内環境が必要であるかを提案したことだ。例えば週4日勤務への移行には、トップ主導の明確なビジョン表明と、社員主導の業務効率化の策定を併用する「融合型リーダーシップ(Blended Leadership)」が不可欠であると指摘。
また、限られた時間のなかで、どうすればより賢く働けるのかを示すことも重要とのこと。効率的な会議の進め方や、業務の優先順位づけ、チーム内の連携方法など、働き方そのものを見直す必要があるのだろう。さらに、増えた休みの時間を回復と充実のためにどう活用できるかを啓発することも大切だとされ、「余暇のためのトレーニング」を提案している。
ただし、実装に向けて残る課題として、正社員だけが恩恵を受ける場合のパートタイム従業員との公平性や、他社が週5日勤務を前提とする中での顧客対応の機会損失などが挙げられた。
この研究を主導したディーキン大学のジョン・ホプキンス教授は、AIによる労働環境の変化を踏まえつつ「研究対象のモデルはまだ比較的新しいため、オーストラリアで研究できる組織の数は限られています。今後数年以内に、同じ企業を対象に追跡調査を実施し、変化が長期的にどれほど持続可能であったかを検証する予定です」
と、調査を継続する方針をThe Conversationへの寄稿で綴った。
世界で始まる、働く「時間」の見直し
同様の動きは、欧州でも多く見られる。イギリスでは2022年から、70社・3,300人以上を対象に100:80:100モデルを試験導入。その後、2025年1月には200社が、給与の減額なしで全従業員を恒久的に週4日勤務にする方針を示した。
またスペインでも2025年2月に、給与を維持したまま、法定の労働基準時間を週37.5時間に短縮する法案が閣議決定された。しかしその後、議会はこの法案を否決。よって週37.5時間制は実現していないものの、政府はこの法案を再開する意向を表明している(※3)。
働く「時間」をめぐる試行錯誤は、これからも続くだろう。週5日勤務も、週4日勤務でさえも、働き方の絶対的な“正解”にはなり得ない。だからこそ「働くこと」が心を蝕むのではなく、むしろ生き生きとさせる仕組みを探していきたい。
※1 1 in 2 Australians Facing Workplace Burnout – Young Adults and Caregivers Leading the Trend|Beyond Blue
※2 世界の労働者の48%がバーンアウト(燃え尽き症候群)に~BCG調査|BCG
※3 Parliamentary rejection of the reduction of the standard working hours|ECIJA
【参照サイト】The four-day workweek in Australia: insights from early adopters of the 100:80:100 model|Humanities and Social Sciences Communications
【参照サイト】15 Australian companies switched to a four‑day work week. It went surprisingly well|The Conversation
【参照サイト】What went right this week: Australia’s four-day week experiment, plus more|Positive News
【参照サイト】“週4日勤務”が想像以上の成功──「給与100%/労働時間80%/生産性100%」を豪州15社が実施 学術誌にも掲載|ITmedia
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