Sponsored by 環境省
山に降った雨は、森林や田畑を通り、川となって海へ流れ込む。そこでは、森、川、農地、海が互いに関わりながら、一つの環境を形づくっている。そして、その自然の循環に寄り添うように、人々はそれぞれの場所で暮らしや産業を営んできた。
しかし、その環境を支える人々の営みや行政の仕組みは、林業、農業、漁業、観光など、それぞれの地域や分野に分かれている。環境はつながっているのに、それを支える人や仕事は、必ずしもつながっているわけではないのだ。
また、都市化や人口減少、ライフスタイルの変化などを背景に、人と環境との関わり方も大きく変わりつつある。豊かな環境は「守るべきもの」とされる一方で、それを誰が、どのように守り続けるのかという問いは、地域社会にとってますます切実になっている。

こうしたなかで、環境省はいま、良好な環境を「活かしながら守る」という考え方のもと、環境の保全と地域の暮らしや経済、観光などを結びつける取り組みを進めている。その方向性が広く共有されたのが、2025年12月に開催された「良好な環境創出シンポジウム2025」だ。良好な環境を活かした地域づくりに向け、環境の創出や活用に取り組んでいる地域の関係者らが集い、環境を保全するだけでなく、地域資源として活かしながら、暮らしや経済、観光などにつなげていく取り組みについて議論が交わされた。
続く2026年3月のメディア懇談会では、友納理緒環境大臣政務官(※)が、これからの環境政策の方向性について次のように語っている。
友納政務官「環境省は公害対策以来、主に規制という手法を通じて水質や大気の保全対策を進めてきました。これまでの対策をベースとしつつ、『良好な環境を創出していく』新たな取り組みが必要です。規制のみではなく、水辺や里海などの地域資源の保全・創出に加え、利活用を推進すること。それによって地域活性化を図り、経済活動とも連動させながら、多様な主体が参画する好循環を生む政策を実現したいと考えています」

環境を地域の強みとして「活かしながら守る」道を進めていく。シンポジウムで語られ、メディア懇談会で発信された政策の考え方は、実際の地域でどのように動き始めているのか。その実態を確かめるため、2026年8月、友納政務官は岡山県を訪れた。
※現地訪問は2026年8月に実施。友納環境大臣政務官の肩書きはその時点のものです
里山を起点に、地域をつなぐ。岡山3地域で進む広域連携
視察の舞台は、環境省が進める「良好な環境を活用した観光モデル事業」のモデル地域の一つである「Okayama Sustainable Satoyama/Satoumi University(OSSU)プロジェクト」の現場だ。ここでは、真庭市北房の里山、備前市日生の里海、そして笠岡市の島しょ部という、3市にまたがる3つの地域が、それぞれの地域資源や取り組みを持ち寄り、森から川、そして海へと続く環境のつながりを軸に、広域的な連携を進めている。
OSSUが取り組もうとしているのは、単に「観光地化」することではない。すでに地域にある自然・産業・暮らしをつなぎ、それを体験・学びのプログラムとして来訪者に伝えていく取り組みだ。森には森の、海には海の営みがある。その違いを残したまま、それぞれの活動が別の場所にも価値を生み出すような地域間のつながりを生み出している。
その取り組みの実態を知るため、友納政務官は、まず真庭市北房にある「国重の森」へと足を踏み入れた。迎えてくれたのは、OSSUのキープレイヤーの一人であり、大阪から移住した林業家の小林建太さん。森の中に入ると小林さんは、林業の再生や里山の重要性について語り始めた。
小林さん「私がここで担っているのは、健康な森をつくり、栄養豊かできれいな美味しい水を地下に染み込ませていくことです。ここから備中川に流れた水は、旭川に合流し、そして日生や笠岡の瀬戸内海へとつながっていきます」
山に暮らす人も海を知り、海に関わる人も山を知る。山と海を別々のものとして捉えず、それぞれの地域の営みを理解し合い、つなげていく。こうした考え方が、視察の随所で語られていた。森林や農地に降った雨は、川を通じて海に流れ込む。森林の手入れは、森林だけでなく、川や海の環境にも関わっている。

持続可能な森林経営を通して、里山保全・再生に取り組む林業家・小林建太さん
この視点を象徴するのが、森で行われている間伐だ。国重の森には、約60年前に植えられたヒノキ林が広がっているが、木々が密集しすぎると、地面まで光が届きにくくなる。そのため、適切に木を間引いて森に光を入れることで、下草や新たな植物が育つ環境をつくっているのだ。
そして、森林整備のために間伐された木々の一部は、地域を超えて活用されている。皮を剥いた木は日生の海まで運ばれ、牡蠣を養殖するための「牡蠣筏(かきいかだ)」の材料として使用。さらに、海で育てられた牡蠣の殻は粉砕され、肥料として北房に戻り、田んぼの土づくりに活用される。できた米は「真庭里海米」として販売されている。

伐採したヒノキの皮を手で剥いていく。普段は高圧洗浄機を使用して剥がし、海まで運んでいるそう。

この日は森の中で、友納政務官自ら牡蠣殻の粉砕を体験。その後、細かくなった牡蠣殻を里海米を育てる近くの田んぼに撒いた。
森を手入れすることと、海で牡蠣を育てること、田んぼで米をつくること。一見すると別々に見える営みが、地域を越えてつながることで、新たな関わりが生まれていた。
子どもたちが自然の中で得るもの。「体験」の質を考える
OSSUの取り組みには、自然や産業をつなぐだけでなく、地域の自然と人との接点をつくる活動もある。森での取り組みを後にして、次に向かったのは、子どもたちが地域の自然に触れる現場だった。
日本有数のホタルの生息地である北房で一行を迎えたのは、「北房ホタルっ子ミュージカル」の子どもたち。北房観光協会の事務局長を務め、OSSUの主要メンバーでもある坂本信広さんが、約20年前に立ち上げた活動だ。子どもたちは歌やダンスだけでなく、環境保護活動や環境学習にも取り組んでおり、市内外のイベントなどで環境保護の大切さを発信しているという。
今回は、北房ほたる公園で子どもたち自らが歌詞を考えたというオリジナルソング「川ごみひろいの歌」を披露してくれた。

北房ホタルっ子ミュージカルの子どもたちによるダンスと歌の発表。メンバーは幼児から小学生まで20人近くおり、振り付けは親子で考えているそう
「森のお水が 集まって 鍾乳洞から流れ出た 鍾乳水と合わさって 備中川になりました
ホタルがたくさん飛んでいて みんなでホタルを守ります
水は海までつながって 里山里海つなぎます…」
歌詞のなかにも、森から川、海へと続く地域のつながりが描かれている。その姿を見た友納政務官は、子どもたちにこう語りかけた。
友納政務官「皆さんが歌を通じて楽しく表現してくれていることが、私自身とても嬉しいです。日本の環境を守っていくべき中で、環境を汚してしまうのは大人の営みであったりもします。でも、皆さんがこうして歌で伝えてくれることで、大人も多くのことに気づかされ、良い環境をつくっていくきっかけになります。私は皆さんから習うような感覚です。今住んでいる素晴らしい環境を大切にしながら、周りにも伝えていってもらえたらとても嬉しいです」

定期的にカワニナの捕獲と放流活動を行っている子どもたちと一緒に、用水路でバケツいっぱいにカワニナを捕獲した。

捕獲したカワニナを子どもたちと川に放流。「ホタルがたくさんきますように」と願いを込めながら行った。
友納政務官「子どもたちに本当に必要なのは、山と海がどうつながっているかを丸ごと学ぶことです。だからこそ、今回のような機会は、非常に質の高い体験だなと感じました。
子どもの頃には、環境のことを意識して日々を過ごしていないかもしれません。でも、自分たちで現場を見に行き、活動して育っていくと、子どもたちは『ホタルを守ったら、自分自身が守られるんだ』と、ずっと心に思いながら生きていくと思うんです。環境の問題は小さい時から意識することがすごく大事。こうした活動は私たちにとっての希望ではないでしょうか」
生まれたつながりを、地域の力に変えていく
自分たちが遊ぶ川があり、そこにホタルがいて、その環境を守る活動に自分自身も関わる。そこで得られるのは、環境問題についての「知識」だけではなく、自分の暮らしが、川や森、そこにいる生命とつながっているという感覚だろう。そうした自然との接点が、将来にわたって環境を考えるきっかけにもなっていく。
視察後半、一行は海側のエリアへと移動した。牡蠣養殖の筏がずらりと並ぶ海を眺めながら到着したのは、備前市日生町。約40年前から漁業者などが中心となり、アマモの生育に努め、里海づくりを継続してきた町だ。ここで、「日本の海洋文化と伝統を守る要」をコンセプトに誕生した「ひなせうみラボ」を訪れ、長年アマモ場の再生活動に取り組んできた専門家・田中丈裕さんや日生の里海づくりに携わる広瀬美砂さんとともに海での取り組みに触れた。

OSSUのキーパーソンの一人であり、田中先生が事務局長を務める特定非営利活動法人「里海づくり研究会議」の研究員である広瀬美砂さん。日生の海の取り組みについてお話いただいた。

牡蠣などの貝殻を活用して生き物のすみかをつくる「牡蠣殻基質」。ここに集まってきた海の生き物たちを観察。
さらに、JR笠岡駅にほど近い港からフェリーに乗って40分ほどの場所に位置する笠岡市白石島を訪れた。ここでは、海中ドローンを活用した調査や、学校と企業が連携したアマモとドングリを育てるプロジェクトが行われている。
取り組みの一つが、ドングリの苗とアマモを同じ水槽で育てる「海と森をつなぐ育成キット」だ。森に育つドングリと、海に生きるアマモを一つの水槽で育てることで、森と海のつながりを体験的に学べる仕組みになっている。さらに、学校だけでなく企業もこの取り組みに関わることで、環境について学ぶことを、実際の森や海の再生へつなげようとしている。
今後は、白石島で育てたどんぐりを北房の山へ還し、北房で育まれた恵みを海の再生へ活かすといった、地域間を相互に行き来する循環の構築も見据えている。

OSSUのキーパーソンの一人であり、笠岡で活動する松田宏矢さん。海洋調査や藻場再生など、地域の自然環境を生かした活動に取り組んでいる。
次の世代、新たな主体へ。地域の営みをどうつないでいくか
では、こうした営みを、一つの「地域の循環」として持続させていくには、何が必要なのだろうか。
環境省環境創造室の森川政人室長は、日本人にとって自然環境は本来、生活や歴史、文化と切り離せないものだったと振り返る。これまでの環境行政は、汚濁負荷や開発が、相対的に環境影響を与えるウェイトが大きかったため、それらの負荷を抑える政策、つまり規制が中心だった。もちろん、こうした取り組みがこれからも必要なことは言うまでも無いが、規制という手法のみでは地域にとっての良好な環境を確保するには限界があり、人が手をかけるという行動が必要となっている。
さらにそれを継続していくために、地域にある良好な環境を、暮らしや産業、観光などにどう生かしていくかということも考えていく必要があるという。
森川室長「本来は、環境を生活から切り離すのではなく、『使いつつ、守りつつ』、持続可能な形で関わっていく。それが日本人と環境との付き合い方だったと思うんです」

環境創造室 森川政人室長
「良好な環境を活用した観光モデル事業」では、こうした地域の取り組みを一つの実践例として、自然環境の保全と、その環境を活かした観光地域づくりをどのようにつないでいけるのか、成果や課題を整理しながら実践している。環境省としても、今回のOSSUのようなモデル事業として選定された地域で、地域とともに成果をつくっていきたいという。
しかし、実際に現場を歩いてみると、その可能性を形にしていくためには、いくつもの課題があることも見えてくる。現在の担い手から次の世代・新たな主体へどのように取り組みをつないでいくか。そして、民間と自治体はどのような役割分担を築いていくのか。実際に現場を歩いた友納政務官自身も、今回の視察を通じて、その難しさを強く感じていた。
友納政務官「今回、長年知識を蓄積されてきた専門家のもとで、若い人たちが懸命に頑張っていらっしゃる状況を見せていただきました。しかし、現場を見て一番感じたのは、熱量のある民間の皆さんや自治体などの関係者の中で、どう協力していくのが一番いい形なのか、その関係性を築くのがすごく難しい部分もあるということです」
一方で、だからこそ行政にできる役割もある。
友納政務官「民間の皆さんには、本当にパワーと活力があります。環境省をはじめ行政はそれをどう後押しできるのか。対話を重ねながら、お互いにできること、できないことを整理し、協力関係を深めていく必要があると感じています。環境省としても、保全だけでなく『活用』という面でもしっかりと後押しをしていきます」
それぞれの地域が、それぞれの「つなぎ方」を探す
ただ、行政と民間がどう関わるのがよいのかに、決まった形があるわけではない。地域の自然や産業、そこに暮らす人々が異なれば、必要な関わり方も変わってくるだろう。では、環境省は、こうした地域の実践を他の地域にどのようにつないでいこうとしているのだろうか。
友納政務官「『これをどうぞ』という一律の正解はなく、その地域の作り方を参考にしながら『自分の地域ではどういうやり方がいいか』を考えてもらうための『素材』を提示したいと思っています。こういうやり方もあるんだという実践の事実こそが、ヒントになるはずです。なので、それを持ち帰って各地域で考えてもらえたら嬉しいですね」

笠岡市にあるカブトガニ博物館を訪れ、笠岡市長との意見交換も行った
地域には、それぞれ異なる自然があり、産業があり、歴史がある。自分たちの地域にはどんな自然があり、どんな仕事があり、誰がいて、まだつながっていないものは何なのか。その問いを、それぞれの地域が自分たちで考えていくことが重要なのだ。
では、今回の岡山の視察で、友納政務官自身は何を感じたのだろうか。取材の終盤、船上で話を聞くと最初に挙がったのは、意外にも「一本の木」のことだった。
友納政務官「森の中で、木を一本切ったら、見えなかった空が見えるようになって、光が広がった。あの瞬間がとても印象的でした。自然現象にただ任せるのではなく、こうして人の手で丁寧に管理して、環境をつくっていかなくてはならないのだと思いました」
森に光を入れるために木を間引く。その一部は海へ運ばれ、牡蠣筏として使われる。海で育った牡蠣の殻は田んぼへ戻り、そこで米づくりに生かされる。川ではホタルを守る子どもたちが、身近な自然を学び、伝える。企業や教育機関も、地域の保全活動に関わる場が生まれている。
森、川、田んぼ、海。それぞれの場所で続いてきた取り組みが、いま、地域や分野を越えて行き来している。

【関連記事】観光は、流域を守る仕組みになれるか。環境省と兵庫県豊岡市が描く、コウノトリも人も共生する地域づくり
【参照サイト】環境省 良好な環境を活用した観光地域づくり
【参照サイト】OSSUウェブサイト






