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社会彫刻とは・意味

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社会彫刻とは?

社会彫刻(social sculpture、ソーシャル・スカルプチャー)とは、「誰もが自らの創造力によって芸術家になりうる」という考えに基づいた、ドイツの芸術家ヨーゼフ・ボイスの理論。

これは、決して誰もが美術をするべきという考えではない。ボイスが頻繁に引用する「芸術」とは、社会的な高い目的に向かって創造性を発揮することである。つまり、絵画や建築だけでなく、教育や政治、科学、哲学、経済学といった社会の構造を変えるさまざまな分野も「芸術」なのだ。

ボイスは「ジャガイモの皮を剥くといった行為でさえ、意識的に行われたのであれば芸術的な行為になる」とも述べている。つまり「社会を彫刻する」とは、人生のあらゆる局面には創造的なアプローチができ、それによって誰もが社会全体の幸福に寄与できる、という考え方だ。

ボイスが提唱した社会彫刻は、今日まで芸術の性質、境界、目的を根本的に変えるものとなった。

社会彫刻の代表的な作品

社会彫刻の概念を印象づけたボイスの作品に『直接民主主義組織のための100日間情報センター(Büro für direkte Demokratie)』がある。これは5年に1度行われる現代美術の大型グループ展「ドクメンタ」において、1972年に開催されたドクメンタ5で運営されたプロジェクトである。

開設されたボイスのオフィスは数台のテーブル、ファイルボックスの山、車輪のついた大きな黒板、パンフレットの山で構成されており、ボイスは訪れる人々に、国民投票による直接民主制を提唱するボイスの政治活動グループの情報を提供した。また黒板に図解を書き、彼らと議論を行った。

このプロジェクトは、リアルタイムの会話を通じて、日常の創造的行為が社会をより良くする「社会彫刻」の考えを印象づける機会となった。

また、他にもボイスが提唱する社会彫刻の代表的な作品といえば『7000本の樫の木』が挙げられる。この作品は1982年から5年の歳月をかけて完成した、ドイツのカッセルの町中に7,000本の樫の木を植えるというプロジェクトである。都市計画や環境の未来、社会構造について多くの問題を提起する作品となった。

まず、それぞれの樫の木に玄武岩の石が組み合わされた。フリデリツィアヌム美術館前の芝生に7,000個の玄武岩の石が積み上げられ、上から見ると、その石の山はボイスが植えた一本の樫の木を指す大きな矢印になっている。ボイスはその石の場所に樫の木を植えない限り、石を動かしてはいけないと告げた。木を植えるたびに石が減っていく仕組みで、地元では緑の都市再生の意思表示として受け止められた。

受け継がれる社会彫刻

社会彫刻の概念は、メキシコの芸術家、ペドロ・レイエスや中国の芸術家、アイ・ウェイウェイ(艾 未未)などのアーティストらによって今日も受け継がれている。

作品『銃をシャベルに』は、メキシコ出身のレイエスが、銃による死亡率の高いメキシコ西部の都市クリアカンで行ったプロジェクトである。市民から1,527個の武器を集めて、それらを1,527個のシャベルにし、そのシャベルで植樹を行うというものだ。レイエスは『銃をシャベルに』について、自身のウェブサイトにて「この儀式には、死を取り次ぐものがいかにして生を取り次ぐものになりうるかを示す教育的な目的がある」と述べている。

アイ・ウェイウェイの作品は、人権問題にスポットライトを当てている。2008年に発生した四川大震災で7万人が死亡した際、ウェイウェイは何百人ものボランティアを募って、粗悪な施工で建てられた学校が倒壊したことで亡くなった子どもたちの名前を集めた。

その後、9,000人の子どもたちのリュックサックからなる作品「Remembering」を制作。2009年、ミュンヘンの美術館の外観に展示されたこの作品には「彼女は7年間この世で幸せに暮らしました」という四川省の母親が語った亡きわが子への弔辞が綴られている。

まとめ

社会彫刻は「あらゆる人間は自らの創造性によって社会の幸福に寄与しうる、すなわち、誰でも未来に向けて社会を彫刻しうるし、しなければならない」という呼びかけに基づく。

ボイスは「社会秩序を彫刻のように形作ることが、私の、そして芸術の使命である」と述べている。

既存の「芸術」や「芸術家」といった概念を拡張したボイスの思想、社会彫刻の概念は、現在のアーティストにも受け継がれている。

【参照サイト】Joseph Beuys: Actions, Vitrines, Environments | Tate Modern
【参照サイト】‘7000 Oak Trees’, Joseph Beuys, 1982 | Tate
【参照サイト】Joseph Beuys | Think. Act. Convey. | Thaddaeus Ropac
【参照サイト】Sculpture As Social Practice – Something Curated
【参照サイト】‘Object into Action and Action into Object’: Joseph Beuys and the Political Work of Social Sculpture
【参照サイト】The art of Joseph Beuys : Shaping society like a sculpture
【参照サイト】“尊重生命,拒绝遗忘”──艾未未(アイ・ウェイウェイ)は忘却にあらがい続ける

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