500品目ほどの食品の「賞味期限」表示の削除。英国のスーパーで今進んでいる取り組みの背景や、狙いとは?世界経済フォーラムのアジェンダよりご紹介する。
(以下、世界経済フォーラムが運営するアジェンダページの「賞味期限表示が廃止される、その理由とは」の全文掲載)
英国のスーパーマーケットでは、トマト、リンゴ、ジャガイモ、梨など500品目の食品・植物製品のパッケージから賞味期限が削除されることになりました。
これは、ウェイトローズが掲げている「2030年までに消費者家庭での食品廃棄物を削減する」取り組みの一環です。
英国の気候変動対策団体であるWaste & Resources Action Programme(廃棄物・資源行動計画、WRAP)によると、英国の家庭で毎年捨てられる660万トンの食品のうち、70%はまだ食べられるはずのものだったということです。
また、英国の食品小売企業マークス・アンド・スペンサー(M&S)は先月、300以上の果物や野菜の商品ラベルから賞味期限を削除すると発表しました。M&Sによると、これは生鮮食品の85%に相当し、リンゴ、ジャガイモ、ブロッコリーといった「よく廃棄される」品目も含まれています。
「消費期限」表示を「賞味期限」に
ニュースサイトFood Navigator(フード・ナビゲーター)は、さらに2つの英国のスーパーで食品表示が変更されたことを指摘しました。コープ(生活協同組合)は、英国の家庭で年間1億ポンド分のヨーグルトがまだ食べられるにもかかわらず捨てられていることへの対策として、自社ブランドヨーグルトの「消費期限」を撤廃することにしました。
スーパーマーケットチェーンのモリソンズも、自社ブランドの牛乳の90%で消費期限を廃止しています。
両スーパーのこれらの乳製品では、消費期限(その日を過ぎると安全でないことを示す日付)が、賞味期限に置き換えられます。これは、鮮度が多少落ちても、まだ安心して食べられる期間を示すものです。
Estimates suggest that 8-10% of global greenhouse gas emissions are associated with food that is not consumed. Reducing food waste at retail, foodservice and household level can provide many benefits #ForPeopleForPlanet#ForNature #StopFoodLossWaste pic.twitter.com/Wlm199Y4rJ
— UN Environment Programme (@UNEP) May 15, 2021
食品廃棄物は気候に影響を与える
WRAPによると、牛乳は、ジャガイモとパンに次いで英国で3番目に多く廃棄される食品・飲料品目。しかし、その生産には多くの資源を必要とし、三つの食品の中で最も二酸化炭素を排出します。モリソンズは「牛乳1リットルの生産は最大4.5kgの二酸化炭素に相当する」としています。
国連環境計画の推計によると、毎年9億トン以上の食品が世界で廃棄されており、これが世界の二酸化炭素排出量の8%から10%を占めるといいます。
つまり、食品廃棄は気候変動の大きな要因になっているのです。また、食糧難を招き、生物多様性の消失と汚染を助長します。
期限表示の用語
「賞味期限」は食品の品質に関するものであると、欧州食品情報評議会(EUFIC)は説明しています。一方、消費期限は、食品の安全に関わるものです。
EUFICは「消費期限を過ぎた食品は避ける必要があるが、賞味期限を過ぎた食品は、見た目やにおい、味に問題がなければ食べてもよい」としています。
米国の食品表示に関する記事の中で、ニュースサイトVox(ボックス)は、食品の日付表示が初めて登場したのは第二次世界大戦後、消費者が農家や小さな食料品店ではなくスーパーで買い物をするようになり、「棚にある最も新鮮な食品」を求めるようになった頃だと述べています。しかしボックスは、食品の期限が「実際に食品が悪くなったり腐ってしまう日付と一致することはほとんどない」としています。
期限をめぐる混乱
ボックスは、「The Dating Game(日付のゲーム)」と題する2013年の画期的な研究を引用し、「消費期限」、「賞味期限」、「販売期限」、「品質保持期限」といった食品の日付表示は、一貫性がなく混乱を招くものであると結論づけています。
この複雑なシステムのために、米国では「かなりの量の」回避可能な食品廃棄が発生し、食べられずに捨てられる食品は40%に上ると言われています。
論文の著者であるHarvard Food Law and Policy Clinic(ハーバード・フード・ロー・アンド・ポリシー・クリニック)とNatural Resources Defense Council(天然資源保護協議会)は、米国で使用される真水の4分の1以上が、この無駄な食料の生産に「浪費」されていると指摘しています。両団体は日付表示の標準化を求めると同時に、1974年以来、米国では1人当たりの食品ロスが50%増加していることを指摘しています。
食料廃棄の解決策
国連環境計画は「Food Waste Index Report 2021(食品廃棄指標報告2021)」の中で、各国が食品廃棄に関するデータを活用し、この問題を防ぐための国家戦略を導くよう呼びかけています。
また、国連食糧農業機関(FAO)は、世界の食糧の少なくとも3分の1は、収穫されてから消費者に販売されるまでに、食糧サプライチェーンの中で失われる、また悪くなる、といった状況にあるとしています。
これを是正するため近年では、人口の15%以上が十分な食料を確保できていないアフリカのルワンダで、Food Waste Reduction and Management Task Force(食品廃棄削減・管理タスクフォース)が立ち上げられるなど、対策も行われています。
世界経済フォーラムのイニシアチブの一つとして毎年開催されるFood Waste Challenge(食料廃棄削減チャレンジ)は、家庭や企業、社会全体における食料廃棄に取り組むためのアイデアを生み出すためのコンテストです。
優勝したアイデアには、提案をさらに発展させるための資金として5,000ユーロが提供されます。
あらゆるデバイスがつながった今日において、IoTなどのテクノロジーは、小売業における食品鮮度の管理・改善に役立っています。そして消費者は、スマートフォンのアプリを使うことで、まだ食べられるにもかかわらず消費されない食品が、埋立地に捨てられるのを防ぐこともできます。
著者:Victoria Masterson(Senior Writer, Formative Content)
※ この記事は著者の意見を反映したものであり、世界経済フォーラムの主張によるものではありません。