都会の真ん中に、壁のない学校を。東京・青山GIFT Schoolがひらく、子どもと社会の新しい関係

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正午に近づくにつれて、部屋中が香ばしいかおりで満ちてゆく。トントンと野菜を刻む音や、何かを炒める匂い……ランチタイムはまだ先なのに、食欲をそそられてしまう。

しばらくすると、テーブルの上には大皿に盛られた色とりどりのおかずが並んだ。つい先ほどまで机に向かっていた子どもたちが、待ちきれない様子で一人、また一人とやってくる。慣れた手つきでタッパーを手に取り、ほかほかのご飯をよそっていく。

「長芋はひとり何個まで!?」

そんな声が飛び交うなか、おかずの前には続々と子どもたちの列ができていく。ここは、東京・青山。立ち並ぶビルのなかに、フリースクール「GIFT School」はあった。

GIFT School

「勉強しているすぐ側で、ご飯ができていく。『ああ、いい匂いがするな』とお腹を空かせる子もいると思いますが、それこそが私たちが大事にしていることなんです」

そう話すのは、GIFT Schoolの代表を務める富田直樹さんだ。2021年に東京・青山に誕生したGIFT Schoolには、現在3~15歳の16人の小学生たちが通っている。主に、不登校児童の学習支援や居場所づくりを目的とする施設をフリースクールと呼ぶことが多いが、ここには、よりよい教育を求めて最初から通う子どももいるという。

筆者が訪れたこの日は、ちょうど年度末のプロジェクト発表会に向けたリハーサルの真っ最中。子どもたちが翌日に向けて必死に準備をしていた。

発表の準備をしている子どもたち

GIFT Schoolで発表の準備をしている子どもたち

教育の重要性が疑われることのない時代にある今、「自分の子を通わせたい学校がない」と自ら学校を立ち上げた富田さん。彼が目指すのは、知識を一方的に教えることではなく、子どもと一緒に「新しい理解」を編み直していくプロセスそのものだった。

不確実な未来を生きる子どもたちと向き合い続けてきた富田さんには、いったいどのような景色が見えているのだろうか。都会の真ん中に生まれた小さな学校から、新たな教育、そして「街」の未来を紐解いていく。

「入れたい学校がないなら、つくろう」

もともと10年近く、映像制作の仕事に携わっていた富田さん。企業のコンセプトムービーを手がけるなど、クリエイティブの最前線にいた。そんな富田さんが、教育に関心を持ち始めたのは、自身の子どもが生まれてから。会社のメンバーと「これから大事な仕事はなんだろう」と話したり、育児書を読んだりする中で少しずつ興味を持つようになったという。そして、あるとき本屋を訪れてたまたま手に取った本が、富田さんを学校づくりの道へと誘った。

「教育について色々調べるなか、本屋さんで手に取ったのが『児童中心主義』──子どもを出発点に考える、という本でした。とても良い本で、そこに書かれた視点で学校探しをしてみたら、自分の子どもを通わせたい学校が見つからなかったんです。『じゃあ、ないならつくろう』と、学校をつくるプロジェクトを立ち上げました。といっても、全く経験も知識もなくゼロからのスタート。かつての恩師に話を聞いたり、国内外いろいろな学校を見学したりしながら、時間をかけて進めていきました」

知識を詰め込むのではなく、理解を「編み直す」プロジェクト学習

そうして2021年にオープンしたGIFT School。カリキュラムは、一般的な学校と同様、学習指導要領がベースになっていながら、テストによる評価は行われない。数値を競うことはせず、代わりに2ヶ月ごとに一つのテーマを深掘りする「プロジェクト学習」が学びの柱となっている。内容は約7割がインプット、残りの3割がアウトプットで構成され、劇や掲示物などその時々によって、さまざまな表現方法でアウトプットが行われるという。

「明日、学期に一度定期的に開催している『Community Day』というプロジェクト発表会があります。今回は年度末ということもあり、この1年間で自分がどういうことをし、どう成長したかを振り返る内容。たとえば2-3年生のグループは『学ぶとはどういうことか』というプロジェクトをしています。導入として生徒たちそれぞれの身長を測り、『去年と比べて、さらには生まれた時から比べてどれくらい大きくなったか』を実感できるようにしているんです。

ただ、単に数字を測るだけでなく、『何歳のときに何キロだったか』『体だけでなくどのような事ができるようになったか』『成長のきっかけは何だったか』『何が、どうしてできるようになったのか』といった問いも探りながら、自分自身の内面で何が起きていたのかをみんなで共有します。こうした学習指導要領にはない内容も取り入れ、多様な学びの時間をつくるようにしています」

GIFT School

GIFT Schoolでの授業の様子。異年齢の子どもたちが混ざり共に学ぶ

さらにユニークなのは、既存の教科の枠組みを一度解体し、再編成している点だ。

「私たちは、学習指導要領にある4年分の内容を一度バラバラにし、親和性の高いものを整理して6年間のカリキュラムに再編成しています。例えば『水』をテーマにした授業。従来の学校教育では、理科的な視点と社会的な視点がバラバラに教えられますが、子どもにとってはどちらも同じ『水』です。これらを一緒に学ぶ方が、子どもたちにとってはより立体的に浮かび上がってきて深い理解につながると考えています。

なので、たとえば浄水場に行けば、水の性質について学ぶだけでなく、説明文を読むことで国語の学習につなげるなど、なるべく教科を融合しています。断片的な知識を詰め込むのではなく、『理解をつくる』ことを大切にしているんです」

教育の根底にある思想「子どもを『空っぽの器』にしない」

スクールの一日は、自分のペースで進める「個別学習」と、対話を通じて深める「グループ学習(プロジェクト)」、そして一日のはじめと終わりにチェックインと振り返りを行う「全体ミーティング」で構成されている。

また、生徒たちが希望すればランチタイムに近隣の公園で遊ぶなど、子どもたちの自主性やリズムを尊重できる環境がつくられているほか、田植えや醤油絞りなどの手仕事を体験するために季節ごとにフィールドにも赴いている。手足を動かして「生きる」を実感する時間も大事にしているそうだ。

GIFT School

自分たちが作った手作りの味噌を開封している様子

そんなGIFT Schoolを立ち上げる際、富田さんがインスピレーションを受けたのは、アメリカの哲学者、ジョン・デューイの教えだった。特に共感したのは、デューイの「学びは子どもから出発する」という思想だという。

「子どもは『何も知らないから知識を入れてあげなければならない空っぽの器』ではなく、『すでに色々なことができる、かつ知っている存在だ』とデューイは言います。その考えに賛同しつつ、それが行き過ぎてもいけないと思っています。

当然、子どもは生きてきた年月が浅く、経験してきたことも少ない。だから間違うこともあるけれど、少しずつ経験を重ねることによってゆっくりアップデートしていく──私たちの思想の根底には、そうした子ども観があります」

GIFT School

子どもたちが書いた「GIFT Schoolで大事にしていること」

「子どもたちと接する際に大切にしているのが、人として尊重すること。一方的に教えるだけでもないし、ひたすら待つ、でもない。例えば何かよくないことをしてしまったとき、それだけを取り出してみると、『正しいか正しくないか』『良いか悪いか』と判別しがちです。しかし重要なのは、その子の視点からも見てみて、『どうしてそうなったのか』を紐解いていくこと。時には叱ることもありますが、そのときも『その子からどう見えているか』を大事にしています」

多様な出会いを生むために。あえて壁で区切らない教室

ただ、そうした丁寧な向き合い方を大事にするためには、少人数制の学校でなければ難しい。そういう意味では一人ひとりが「特別支援」を必要としているのだろうと富田さんは言った。それからもう一つ、豊かな学びの土壌をつくるために大事にしていることを教えてくれた。

それは、多様なものに出会うこと。そのために、GIFT Schoolの空間はあえて壁で区切られていない。

「僕は、壁をつくることで失われるものがあると考えています。教室が区切られていない場合、正直なところ問題が起きやすいです。区切りがあればうるさくないし、邪魔も入りにくい。たとえば、料理のいい匂いがすることも、集中という意味では『邪魔』かもしれません。幼い子たちは大きな声を出すこともあるし、壁があったほうが静かでしょう。

でも、子ども同士のトラブルの中で学んでいくことはたくさんあります。だからこそ、面倒くさいし手間は増えますが、あえて区切らないことを大事にしています。効率的でも合理的でもないけれど、人が一緒に生活する、生きていくうえで当たり前に起きることを、当たり前に経験することが大事ではないでしょうか」

GIFT School

GIFT Schoolの様子

そんな話をしているタイミングで、一人の子どもがトコトコとやってきて、富田さんに話しかけた。富田さんはそれに応じ、送り出した後でこう言った。

「今みたいなことも、壁があったら起きないですよね。小さいけれど、こういう体験が積み重なって、将来的に大きい影響が出てくると思うんです。SNSが広がった今の社会では、子どもたちが出会う世界はどんどん狭くなっています。自分の見たいものだけを見て生きていけるけれど、それは、偶然の出会いや他者との関わりを失っていることでもある。出会わずにいるって、実はとても怖いことではないでしょうか」

街づくりと教育の連動。教育を「社会インフラ」へ

子どもの目線に立ちながら、学びの場をつくってきた富田さん。ただ、その運営は簡単ではない。現状、フリースクールへの公的補助は少なく、都会で学校を運営するには授業料を高く設定せざるを得ない。経済力で教育機会を奪いたくない気持ちと葛藤しながら運営しているという。そんななか、富田さんが考えたのが、教育を『サービス』として売るのではなく、『街のインフラ』として開いていくプロジェクトだ。

「通わせたい学校がある街には、自然と人が集まります。同様に、青山のような都会でも、地域に根差した企業が教育を支援し、同時に学校を社会インフラとして開いていく関係をつくることで、持続可能な形で、人が集まる居場所を開いていけると考えているんです。

東京の子どもたち、そして子育て世代や孤立しがちな高齢者にとって、居場所は決して多くありません。だからこそ、学校を閉鎖的な場所にせず、駐車場や空き地を利用した畑などをつくり、高齢者が子どもと話したり、親が子どものそばで仕事をしたりできる空間にしていく。身近に自然の営みを感じられる『畑』という場と学校という『毎日人がいる場所』が合わさることで、大人が巻き込まれ、コミュニティが生まれていく。そんなリジェネラティブなモデルとなる場所を、青山からつくっていきたいと思っています」

最後に、富田さんは、これからの教育のあり方に関して、こんな言葉を残してくれた。

GIFT School

「今の教育に必要なのは、どう教えるかよりも、その先に『どんな社会をつくっていきたいか』を一人ひとりが考えること。世代というのは、ある日突然入れ替わるものではなく、糸のように少しずつ紡がれていくものです。今ここにいる子どもたちが15年後には社会人になり、私たちと一緒に生きていく。彼らがどう育っていくかは、自分たちの未来に直結しています。

教育の役割とは、今までうまくいったことを伝えながら、うまくいっていないことは『共に考えていく』こと。そうやって、大人と子どもが一緒に未来を描いていくことではないでしょうか。知識を一方的に伝えるのではなく、新しい理解を共につくっていくこと。学校の中だけではなく、社会全体でそれをやっていかなければなりません。面倒くさいかもしれませんが、その面倒くさいことを諦めず、当たり前のようにやっていかないといけないと思うんです」

編集後記

富田さんが取材中、何度も口にしていた言葉の一つが、「バランス」という言葉だった。

「子ども一人それぞれに個性があって関心があって得意不得意がある。多様性を尊重するというのが大前提としてありながらも、一つのコミュニティとして一緒に暮らしていく仲間であり、自分を大切にするのと同じくらい、人もモノも大切にする。そこには地球環境のような大きな『モノ』も含まれます。

学習に関しても、基礎的な読み書きや計算だけでなく、子どもたちが理解をつくっていくような探究的な学びも大事。どっちかではなくて、それを同時に進めていくことが大事だと考えています」

教育というものに、一つの解はない。個性を伸ばすことと、集団で生きること。基礎を固めることと、未知を探究すること。それらは対立するものではなく、常に「両輪」として回し続けなければならないものなのだろう。

めまぐるしく回り続ける世界の中、ともに理解をつくっていこうと、富田さんと子どもたちは、今日も未来に向かって歩き続ける。

GIFT Schoolの様子

【参照サイト】GIFT School

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