※ 本記事は、ハーチ株式会社が運営する「Circular Economy Hub」からの転載記事となります。
ゼロウェイストを政策に掲げ、人口10万人以上50万人未満の「中都市」において7年連続リサイクル率全国No.1(令和6年度:59.8%)に輝くなど、循環型のまちづくりにおける先進都市として知られる神奈川県・鎌倉市。
その鎌倉で2024年から開催されている「鎌倉サーキュラーアワード」が、今年で3回目を迎える。鎌倉サーキュラーアワードは、ごみの削減を目指す「ゼロ・ウェイストかまくら」を発展させ、循環型ビジネス(サーキュラーエコノミー)を創出・活性化させるためのアワードだ。「市民部門」「スタートアップ部門」「事業者部門」の3部門に分かれ、ごみの減量や資源循環に関するアイデアや事業を募集し、表彰し合う。
その中でもスタートアップ部門は、昨年よりさらに進化している。今年は対象エリアをこれまでの鎌倉から三浦半島全体まで広げ、テーマも資源循環(サーキュラーエコノミー)に加え、豊かな自然を活かした「ネイチャーポジティブ」、人と動物と環境を一体で守る「ワンヘルス」まで拡大し、多様な循環共生社会の共創を目指す。また、地域に根差した持続可能なビジネスの創出に向けて、応募形式も二つに分かれた。

三浦半島|Image via Shutterstock
一つは「地域連携部門(Type 1)」で、鎌倉を含む三浦半島の地元企業が抱えるリアルな課題の解決に取り組む形式だ。地域企業との連携を起点に、このエリアの特性に深く根ざした事業の創出を目指す。そしてもう一つは「自由応募部門(Type 2)」で、独自の視点で鎌倉を含む三浦半島に根差した自由な事業プランを募集する。
年齢、所在地、法人格の有無を問わず鎌倉市外からの応募も可能となっており、今年からは Under18・Under25・Under35の各特別賞を新設するなど、より多様な参加者の応募を狙う。
昨年度のスタートアップ部門では、子ども靴の回収・リユース事業を手がける株式会社SlowFastが金賞を受賞したほか、間伐した竹の利活用を目指す日本バイオリファイナリー株式会社が銀賞を、湘南地域の食品ロス削減アプリ「トリニコ」を展開する合同会社クアッガが銅賞を受賞した。いずれも構想を超えて実装まで進んでいる点が特徴で、鎌倉サーキュラーアワードは地域に根差しながら循環型の事業を育んでいきたい企業にとっての登竜門となりつつある。

昨年度の鎌倉サーキュラーアワード・最終審査会の様子(提供:鎌倉サーキュラーアワード実行委員会)
3回目となる今年はスタートアップ部門も大きく進化したが、その狙いはどこにあるのだろうか? 鎌倉サーキュラーアワード実行委員会の実行委員長を務める、慶應義塾大学SFC環境情報学部教授、COI-NEXT慶應鎌倉拠点プロジェクトリーダーの田中浩也氏に話を聞いた。
テーマを「サーキュラー」から「ネイチャーポジティブ」まで広げた理由
日本では、脱炭素(カーボンニュートラル)・循環経済(サーキュラーエコノミー)・自然再興(ネイチャーポジティブ)の3つが、企業の環境経営や自治体の環境政策の三本柱として整理されることが多い。これまで鎌倉サーキュラーアワードではサーキュラーエコノミーを軸に応募を募ってきたが、今回なぜ「ネイチャーポジティブ」を新たにテーマに加えたのだろうか?
田中氏「もともと、サーキュラーエコノミーには(英国エレン・マッカーサー財団が提唱する)3原則というものがあります。1つ目が『ゴミや汚染を出さない』、2つ目が『資源をなるべく高い価値で循環させる』、そして3つ目が『自然を再生させる』です。この3原則のうち、過去 2年間のサーキュラーアワード通じて ごみ削減や資源循環といった1と2はかなり浸透してきたという手応えがありました。そこで、今回は3番目の『自然の再生』へとさらに前進するべく、ネイチャーポジティブをテーマとしました」
「ただし、『自然』と言っても実は様々な種類の自然があります。富士山や相模湾のような人の手が届かない大自然もあれば、農業や漁業、林業といった人間の食や生産活動を支える自然もあります。また、人間同士の交流やコミュニケーションを支えるための公園や木陰のような自然、そして人口減少による耕作放棄地や空き地などこれから出現すると言われている新たな自然もあります。こうした多様な自然が、鎌倉から三浦半島全域にかけて存在しています。三浦半島には海も山もあり、住宅も商業もあり、それらが比較的近い距離の中に混在しています。そこで、今回はテーマに加えて実験のフィールドも鎌倉から三浦半島全域まで拡大しました」

自然と隣接する鎌倉|Image via Shutterstock
ネイチャーポジティブとは、人間と自然との関わり合いの調節
ネイチャーポジティブとは、日本語で「自然再興」と訳し、「自然を回復軌道に乗せるため、生物多様性の損失を止め、反転させる」ことを意味する。一方で、実際には「自然」という言葉の中にも、田中氏が指摘するように多種多様な自然が含まれている。
それが故に、ネイチャーポジティブにつながる事業といっても具体的なイメージが湧きづらいという人も多いかもしれない。田中氏は、ネイチャーポジティブの意味を「人間と自然との関わり合いを調節していくこと」と定義する。
田中氏「ネイチャーポジティブにもワンヘルスにもそれぞれ学術的な定義は存在しており、30 by 30などの政策目標も進んでいます。鎌倉にも広町緑地という場所があり、そこでの生物多様性評価が進んでいます。今回のアワードでもIGESの齊藤修氏などネイチャーポジティブの専門家も審査員に加わっているため、そうした学術的な視点も含まれています」
「しかし、『自然』は手のひらサイズの小さな自然から、すごく大きな公園の自然、小さな町の公園にある自然、目に見えない微生物の自然までとても多様です。今回の募集では、ぜひスタートアップならではのユニークな感性で『こうした新しい自然もありうる』といったアイデアを提示してほしいと思っています。最終的には自然と人間やその他の生物が共存可能な環境をどのように調整していけるかが重要になります。生物多様性や微生物多様性の評価ができる専門家は揃っていますので、ぜひ都市空間や人間と共存できる新しい『ネイチャー』のアイデアを募集したいですね」
私たちは普段から「自然」という言葉をよく耳にするが、実際に想像するイメージは育った環境や暮らしている環境によって大きく異なるだろう。また、何がポジティブ、あるいはネガティブなのかについても人や生物、時間軸などが異なれば変わるものであり、唯一絶対の正解があるわけではない。多様な自然に囲まれた鎌倉から藤沢にかけての地域を舞台に、独自の視点からどのように「自然」を見出し、人も自然も豊かにする事業アイデアへと昇華させるのか。サーキュラーと同様、今年も参加者には創造的な発想が求められる。そのヒントは、概念を分けようとするのではなく、統合的に考えることだ。
田中氏「世間ではサーキュラーエコノミー、ネイチャーポジティブ、ワンヘルスと概念が分かれていますが、鎌倉型ではこれらが融合した、サーキュラーでもありネイチャーポジティブでもありワンヘルスでもあるといった、人間と生物と自然との関係がより良くなるような事業を育んでいきたいですね」
鎌倉サーキュラーアワードならではの魅力とは?
近年では自治体の主導によりサーキュラーエコノミーをテーマとするスタートアップ創業や新規事業創出を目的とするプログラムも少しずつ増えてきているが、その中でも鎌倉サーキュラーアワードにはどのような特徴があるのだろうか?
田中氏「アワードは今年で3年目となり、過去2年間でスタートアップや新しく創業する皆様が活動しやすい環境づくりを進めてきました。特徴の一つは、鎌倉サーキュラーコミュニティです。過去のアワード参加者やサーキュラーギャザリングに参加した全参加者の人数を合計すると全5回で約300人となります。すでにこうしたサーキュラーなコミュニティがある点は大きいと思います」

鎌倉サーキュラーギャザリングの様子(提供:鎌倉サーキュラーアワード実行委員会)
「また、事業のアイデアを育てるためには、やはり現場が必要です。鎌倉の多様な実験フィールドでは、農業から漁業、林業にいたるまで多様な業態の方々が揃っています。今回はそうした方々と直接お繋ぎするための、地域連携部門(Type1)も用意しています」
「そして3つ目は先行者の存在です。鎌倉には、すでにサーキュラービジネスとネイチャーポジティブをつなげて事業を展開している人がいます。例えば、naluのみなみなおこさんは鎌倉スチールカッププロジェクトを通じて鉄のリサイクルに加え、最終的にはそれを活用した海の再生事業を展開しています。また、今回新たに審査員として参加されたメイカーズシャツ鎌倉さんは、100%コットンで化学繊維を使わないシャツを作られており、高品質で長持ちするロングライフのシャツであると同時に、100%自然のモノづくりを両立させ、NYをはじめとして海外でも事業展開しています。こうした先輩方から審査会でコメントをいただける環境も用意しています」
「これら3つが賞金以外に応募者の方々に提供できる具体的な価値なのですが、さらに広く言えば、鎌倉には環境やサステナブル、サーキュラー、ネイチャーポジティブといったことにとても好意的な市民が圧倒的にたくさん住んでおり、日本で最も環境共生意識が高い地域の一つである、という点も魅力です。そうしたまちの人々の意識や行動、まち全体が纏っている雰囲気やムードも含めて、この地域で会社としての事業を伸ばしていって欲しいなと思います。また、『関係案内所はつひので』では本社登記もできます」

関係案内所はつひので(写真提供:株式会社public and co)
鎌倉には、すでにサーキュラーとネイチャーを掛け合わせて事業に取り組んでいる先行事例もある。また、一次産業の方々と連携できるフィールド、それらの取り組みを応援してくれる環境共生意識の高い市民、そして何よりも同じ志のもとで集まっているコミュニティもある。地域の中で育まれているこの目に見えない豊かな「関係性」こそが、これから新たにこの領域で事業を始めたい起業家にとっての心強いインフラとなりそうだ。
「加速」よりも「適速」を大事にしたい人へ
上記で触れたように、すでに鎌倉にはサーキュラーやネイチャーをテーマとする一つのエコシステム(生態系)が存在しているが、この地域での事業に向く人とは、どのような人なのだろうか?
田中氏「スタートアップ部門と言ってはいるものの、スタートアップした後に加速しすぎてすぐに消えてしまうような企業はあまりイメージしていません。最初の立上げはもちろん必要なのですが、その後も活動を止めることなく、適切な速度で会社としても成長し、社員数としても成長していくような持続可能な企業をこの鎌倉・三浦半島に増やしたいと思っています。それを私たちは『適速』と呼んでいます」
「松尾崇・鎌倉市長の2029年ビジョンでも、スモールビジネス1,000社で5,000人を雇用したいという目標が示されており、Bコープ認証を支援する枠組みなども検討が進められています。私たちとしては、スタートアップといっても上場やユニコーン、急成長だけをイメージしているのではなく、地域に足を着けて長い関わりの中で事業をやっていきたいというスタートアップの集積地にしていきたいと思っています」

鎌倉サーキュラーフレンズチアリング vol.1 の様子。鎌倉と縁のある多種多様な起業家や市民らがフラットに意見を交わす(提供:鎌倉サーキュラーアワード実行委員会)
一般的なスタートアップ支援プログラムでは、「アクセラレーション(加速)」という言葉通り、参加者の事業成長を「加速」させることに重点が置かれている。一方で、海外だと近年ではあえて事業速度をスローダウンさせ、創業者のウェルビーイングや社会的意義を重視する「デセレレーター(Decelerator)」プログラムも登場しているほか、指数関数的な規模拡大よりも長期的な地域社会と環境の持続可能性や幸福を重視する起業家精神「Post Growth Entrepreneurship(ポスト成長起業家精神)」という概念も出てきている。
鎌倉サーキュラーアワードのスタートアップ部門が目指すのは、加速でも減速でもなく「適速」で事業を育て、起業家と地域がともにwin-winの関係を築きながら成長していくモデルだ。サーキュラーやネイチャーをテーマに扱う起業家の中では、事業のスケーラビリティと環境・社会的価値の追求の狭間で心が揺れ動きがちな方もいるかもしれないが、鎌倉は、そうした方にこそぴったりの場所だと言える。
市民・地域事業者・スタートアップが交わる価値
鎌倉サーキュラーアワードでは、スタートアップ部門に加え、在住や勤務など湘南エリアと関わりがあれば応募できる市民部門、そして鎌倉市内に拠点(本社・支社等)を置く事業者を対象とする事業者部門も存在している。田中氏によると、例年の参加者の中には、この3部門が併設されているという点に価値を感じる人もいるという。
田中氏「過去二年間のスタートアップ部門の受賞者の声を聞くと、鎌倉サーキュラーアワードが市民、事業者、スタートアップと三部門併設されていることの素晴らしさを語ってくれる方が大変多いです。表彰式では、三つの部門が同じ場で共存することで、サーキュラーな事業に賛同してくれる市民が住んでいるということに皆さん感激してくださっています。また、一緒に何かやりましょうと声をかけてくれる地域の事業者の人もたくさんいます。そして、こうした出会いの場はシンポジウムの表彰式だけではありません。年4回・定期的に開催している『サーキュラーチアリング』では、スタートアップ、市民、事業者と三方向からやってくる人々のコミュニティを作ることで、三者の誰にとっても新しい出会いが生まれ、新しい繋がりが創出されています。3部門全てに出すことも可能ですので、ぜひご家族とは市民部門で応募していただき、鎌倉で事業をやっている友人には事業者部門をすすめていただきたいですね(笑)」

左から、鎌倉サーキュラーアワード実行委員会の小林ななみさん、田中浩也さん、平野理恵さん、藤原皓平さん
編集後記
取材を通じて一貫して感じたのは、鎌倉という地域に根付く、人と自然のエコシステムの魅力だ。新しくサーキュラーエコノミーやネイチャーポジティブに関わる事業を始めようと思ったとき、そこにアドバイスをくれる先人がいて、専門的知見を持つ学識者がいて、応援・連携してくれる地域の事業者がいる。それだけでも心強いが、さらに鎌倉には、そうした新たな挑戦を応援してくれる市民もいる。
そして、三方を山に囲まれ、一方を海に囲まれる鎌倉や、相模湾の美しい海岸線沿いに発展してきた湘南エリアでは、すぐそこにある大自然がいつも心と身体を整えてくれる。こうした人や自然との繋がりの中で支えられながら事業を育てていけるのが、鎌倉ならではのスタートアップの魅力と言えるだろう。
スタートアップ部門は、全国から応募が可能だ。自分らしい「適速」で、地域と関わりながら新しい事業を創っていきたいという方は、ぜひこの機会に応募を検討してみてはいかがだろうか。
【参照サイト】鎌倉サーキュラーアワード
【参照サイト】鎌倉サーキュラーアワード実行委員会 note
【参照サイト】JST共創の場形成支援プログラム(COI-NEXT) リスペクトでつながる「共生アップサイクル社会」共創拠点
【関連記事】鎌倉サーキュラーアワード、「知の循環」でサーキュラースタートアップ創出へ (1) 主催者に聞く
※ IDEAS FOR GOODは、鎌倉サーキュラーアワードのメディアパートナーです。





