排除アートとは?
排除アートとは、路上や駅、公園などのパブリックスペースにおいて、その場所があらかじめ想定された用途以外に使われることを防ぐアーバンデザインを指す。英語では「Hostile architecture(敵対的な建築)」、もしくは「Defensive urban design(防御的なアーバン・デザイン)」と呼ばれ、目的としては街の美化や治安の維持などがあげられる。
具体的には、座ることはできるが横になって眠ることはできないデザインのベンチや、駅の空きスペースに置かれた一見アートに見える目的のないオブジェ、路上に敷かれたコンクリートや金属製のスタッズなど。これらは、表向きは街を行く人の目を楽しませるアートに見えるが、実はホームレス状態にある人々や、そのほか街や一般市民にとって好ましくないと判断される人々がその場所に滞在することを防ぐ機能を持っているため上記のように呼ばれている。
排除アートの実例
では、世界には実際にどのような排除アートが存在するのだろうか。
最も話題にのぼることが多いのは、上記でも述べた、眠ることができないようにデザインされたベンチである。例えば、従来のベンチに間仕切りをつけたものから、座面が斜めになっているもの、細い棒を使ってデザインされたものまで、その種類はさまざまだ。これらは一見お洒落に見えるが、仕切りがついていたり、そもそも座る部分が棒で出来ていたりすると、そこを寝床にすることはできなくなるため、ほとんどの場合、ホームレス状態にある人々を排除する目的を持ってデザインされている可能性が高い。
都市の駅のスペースにある突起のようなオブジェ、公園や路上に設置された仕切りのあるベンチ……
寝そべったり滞在したりしないよう特定の層を〝排除〟する意図が隠された「排除アート」「排除ベンチ」の広がりについて、建築史家の五十嵐太郎さんに聞きました。https://t.co/IE6aQF3Zis pic.twitter.com/R24JVyE9Bs— withnews (@withnewsjp) July 11, 2021
また、駅や街、高架下などの空きスペースに置かれたオブジェや地面に敷かれた石やスタッズなども排除アートにあたる。以下の投稿にある写真は京王井の頭線渋谷駅前のオブジェや新宿駅西口地下通路に設置されたオブジェなどである。
排除アート https://t.co/H6cq11p2WE
「都築響一氏は、これらの行政のやり方は、悪意があるように見せないことが大事で、排除アートだということを市民に気が付かせないようにするのが“芸”だという。」 pic.twitter.com/RrbEZDzhmA— 中島 智 (@nakashima001) December 9, 2016
海外でも排除アートと呼べるものは多数報告されている。例えば、よりあからさまな路上の鋭いスタッズや、日本と同じく不必要な間仕切りの付いたベンチなどだ。
また、米の主要都市ではホームレス状態にある人々が寝床としていた場所に新たに自転車置き場が設置されたり、商店の周りにスプリンクラーで水を巻く対策が取られたりするなど、特定の人々をパブリックスペースから排除するさまざま動きも見られる。
The Subtle #Design Features That Make #Cities Feel More #Hostile @atlasobscura https://t.co/vCR9dG813b #architecture #urban pic.twitter.com/VMJQhQn4SB
— MIX (@mixdevil66) March 20, 2017
排除アートをめぐる議論
こういった排除アートにあたるものが広まった正確な時期は明らかではないが、建築史家で『過防備都市』(中公新書ラクレ、2004)の著者である五十嵐太郎氏は、日本においては、1990年代後半から監視カメラの普及と同時期にこういったものが広まったとしている。
五十嵐氏は、この時期にはオウム真理教による地下鉄サリン事件や、大阪教育大付属池田小学校で校内児童殺傷事件といった大きな事件が立て続けに起こり、それが人々の不安を増大させ、結果として社会全体の不寛容とセキュリティ意識が増大したことが要因と考えている。
SNSでは、「資本主義が生み出した最悪な現象だと思う」「最も弱い立場の人々を踏みつけるものである」といった声や、「バリアフリーの真逆で、バリア創出アート」「悪意を感じる」などの、倫理的な観点での批判的な意見が後を絶たない。
一方で、排除アートによって不利益を被るのは、ホームレス状態にあるような社会的弱者の人々だけではない。横になって眠ることができないベンチでは、日中体調が悪くなったときに横たわることもできないし、赤ちゃんのおむつを変えることもできない。座面が狭かったり斜めになっているベンチは、そもそもほとんど全ての人にとって座りにくいものである。
「ホームレスを排除した都市は、誰に対しても優しくない」──五十嵐氏がこう語るように、一部の人々を排除する社会やそのデザインは、他の多くの人にとっても居心地の悪さや不便さを感じさせてしまう、インクルーシブでないデザインと言える。
まとめ
“パブリック(公共)”と名のつくスペースを、誰もが自由に使うことが許されない。多くの人々にとって都合の悪いであろうものは排除する。そんな社会の在り方は、正しいのだろうか。
世の中には、自宅の周りや普段よく行く公園にホームレス状態の人々が存在することに対して不快な思いを抱いていたり、危険だと感じたりする人々もいるため、ある程度街を整備することは必要なのかもしれない。根本的には、家を持つことができず路上で眠らなければならない人々にシェルターを提供することや、必要な支援を届けることが何より大切だということも忘れてはならない。
世界では2階建てバスを改築し、ホームレス状態にある人々に健康相談、散髪、歯の手入れなどのさまざまなサービスを提供する活動や、バス停を夜間にホームレス状態にある人々の寝床として食事とともに提供する取り組みなど、前向きなアクションも見られる。こういった明るい事例も見ながら、真にインクルーシブな社会やデザインについて、一度じっくりと考えてみる時間を持ちたい。
【参照サイト】15 Examples of ‘Anti-Homeless’ Hostile Architecture That You Probably Never Noticed Before
【参照サイト】ホームレスの人たちを拒絶する「排除アート」が街中に仕掛けられている現状
【参照サイト】排除アートと過防備都市の誕生。不寛容をめぐるアートとデザイン
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