市民が“勝手に”置いたベンチが社会を動かす。誰もが居場所を感じられるまちづくりのヒント

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都心の雑踏にいると、座れる空間の少なさに驚いてしまう。そんな人も多いのではないだろうか。お金を払えば座れるカフェはいつも満員。電柱や木々にもたれかかっている人々もいる。少しも休ませてくれないのが、街の当たり前になってはいないだろうか。

高齢者にとって、こうした問題はより深刻だ。

アメリカ・カリフォルニア州バークレーに住むDarrell Owens(ダレル・オーウェンス)氏は、バークレーのバス利用者に対してベンチが不足していることに対する注意喚起を市に促すために、ある日SNSに次のような様子を投稿をした。慢性的な痛みを抱える60代の男性が、買い物に行くのにバスを使うのだが、いつもバス停近くの縁石に座ってひたすら待っているというのだ。

その事実を見て心を痛めたのが、同じくバークレーに住む青年Mingwei Samuel(ミンウェイ・サミュエル)氏。彼はバス停に自作のベンチを設置し、男性を助けることにした。

バークレー市は、このサミュエル氏の「ゲリラ活動」を市民の「正式な要請」として受け取り、ゲリラベンチを緑色の金属製ベンチに取り換えた。そしてサミュエル氏はこの成功の後、少なくともこれまで4つのゲリラベンチを街に設置したという。

オーウェンス氏は、サミュエル氏も所属する団体「Safe Street Rebels(セーフ・ストリート・レベルズ)」のメンバーだ。同団体は、交通の公平性を推進し、自動車の使用を減らすことを目指して活動している。

オーエンズ氏は、地元メディアBerkeleysideへの取材に対し、以下のように語っている。

「結局のところ、人々に公共交通機関を使ってもらいたいのであれば、快適に座れる場所が必要です」

安全性や設置基準の観点から、バークレー市はゲリラベンチを「正式なベンチ」と認めていない。一方で、市議会議員たちはバス停調査に乗り出し、問題解決に向けたアクションが活性化。青年たちの行動が地域社会を動かしたのだ。

彼らのこうした行動を、あなたはどう考えるだろうか。

そもそも、バス停の管理は基本的にバス会社が行う。バス停は地域にもよるものの、公共性を持つ民有地と位置づけられることがある。こうした場を「私有の公共空間(Privately Owned Public Space:POPS)」と呼び、実は、その利用のあり方が社会の課題となってきた。というのも、POPSは事実上、公共空間であるにもかかわらず、所有者の考え方によっては公共性のある使い方がしにくいと考えられるからだ。

例えば、東京のビルの谷間に開かれたオープンな空間や広場もPOPSであり、商品を購入すれば使ってよいと認識された広場である。また、誰でも入場可能だが、人がのんびり滞在できるようにベンチは置かないという場所もあれば、ベンチはあるけれど長居しにくくデザインされた空間もある。ここには所有者の様々な思惑が見え隠れするだろう。

POPSは、私有地とはいえ公共性が高い以上、所有者や行政と地域住民、使用する人々との議論によってその利用のあり方を決定することが望ましい。例えば、福岡市では、「ベンチプロジェクト」として、バス停や遊歩道のベンチを地域の希望で設置でき、市が補助金を出すという施策を行っている。

たかがベンチ、されどベンチ。住みやすく、誰もが居場所を感じられるまちづくりのために、カリフォルニアの青年の親切心と行動力を参考にしながら、POPSのあり方を議論していくのも一計ではないだろうか。

【参照サイト】Activists vow to keep installing guerrilla benches at East Bay bus stops
【参照サイト】Activists installed ‘guerilla benches’ at bus stops… and inspired Berkeley officials to install official seating for transit passengers
【参照サイト】「排除ベンチ」抵抗した制作者が突起に仕込んだ「せめてもの思い」
【参照サイト】The privatisation of cities’ public spaces is escalating. It is time to take a stand
【参照サイト】都市開発に伴う私有地の公共利用について 
【参照サイト】福岡市公式ホームページ 福岡市ベンチプロジェクト
【関連記事】排除アート(Hostile architecture)とは・意味
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【関連記事】コロナ禍の孤独を街の一角で解消?ポーランドに誕生した「おしゃべり歓迎ベンチ」

Edited by Erika Tomiyama

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