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アニミズムとは・意味

アニミズム

アニミズムとは?

「アニミズム」とは、動物、植物、樹木、滝、岩、月など、すべての自然物に霊魂的存在を認める思想・信仰である。 19世紀に人類学者のエドワード・タイラーが、著書「原始文化 (Primitive Culture)」の中で、「原始宗教」の特徴を表すために定義した言葉である。

語源はラテン語の「anima」で、生命、気息、魂を意味する。 「anima」を語源とする語に、「Animal」(息をするもの)や、「Animate」(生命を吹き込む・動かす)などがある。

霊魂的存在とは、死霊、霊鬼、精霊、神(多神・一神)などからなる包括的な概念である。 人間の霊魂がその原イメージであり、それが自然物にも宿っていると考える。 つまり、世の中の様々な物体は、その霊魂的存在によって生かされているのである。簡単にいうと、自然すべてに魂が宿っているというのだ。

例えば、日本の神道は、八百万の神々を信仰対象とし、動植物や天然現象に精神的な性質を認める点において、アニミズムの特徴を保持していると言える。

タイラーのアニミズム

アニミズムは、アニミズムを信仰する人々(アニミスト)によって用いられる単語ではなく、人類学研究において構築された概念である。

タイラーのアニミズムの定義は、当時の西洋知識人による「原始社会」の性質に関する言説の中から生まれたものである。 大航海時代以降、アメリカ大陸、アフリカ、アジア、オセアニアで新たに「発見」された人々や彼らの生活について関心が高まる中、異国の文化や宗教的行動についての議論が活発に行われた。当時、彼らが入手できた情報は限られており、主にキリスト教の宣教師から提供されたものであったため、「異国」に関する彼らの言説は、キリスト教以外の宗教や信仰を原始的で劣等なものだという前提に基づく傾向があった。

タイラーは、宗教がすべての文化に存在するかどうかを検討し、霊的存在への信仰、すなわちアニミズムが宗教の最小定義として機能することを提案した。そして、アニミズムを宗教の起源、あるいは最も初期の形態として、原始宗教から多神教、一神教へと進化するという宗教の枠組みの中に位置付けたのである。ダーウィンの生物学に影響を受けた当時の知識人にとって、「原始的」な心や、進化の初期段階を理解する鍵はアニミズムにあると考えたのだ。

アニミズムは「素朴」で「原始的」なのか?

アニミズムは、キリスト教などの「高等宗教」に劣り、「原始宗教」の段階にとどまっているという認識は、いまだにアカデミアや世俗に浸透しているようだ。この認識が今日まで続いているのは、アニミズムから多神教、一神教へと、一種の進化主義的モデルとして提唱されてきたためであると考えられる。

またこの認識は、アニミズムには変革的・超越的な側面がないという考え方に起因しているという見解もある。アニミズムは、救済や解放を宗教的な究極目標とするのではなく、身近なコミュニティのニーズや環境との調和を優先する信仰・宗教と見なされることが多い。超越主義的な宗教が、その要素を持たない他の宗教よりも優れているという認識は、宗教の究極の目標は救済であるという前提に基づく恣意的な判断であろう。

「新しいアニミズム」

アニミズムは、単一の画一的な宗教体系ではなく、世界各地の文化、特に先住民文化に見られる多様な信仰と実践の集合体である。 そのため、アニミズムという概念は、特定の宗教的特性を捉えるにはあまりにも包括的で曖昧であると考えられることも多く、この用語の使用には明確な定義の共有が必要である。 人類学者の間では、一般に「アニミズム」と考えられている多種多様な伝統を一括りにする単一の定義付けが適切かどうかという議論がある。

アニミズムに関する現代社会科学の議論は、20世紀後半から活発に行われ、アニミズム思想の特徴的な性質を考察するための様々な代替方法が検討されるようになった。 近年では、「アニミズム」の再考と再定義が進んでおり、先住民のコミュニティが人間と人間以外の他者との社会的関係をどのように実現しているかに焦点を当てている研究者も多い。

宗教学者グラハム・ハーヴェイによると、「アニミストは、世界は多くの人々で構成されており、そのうちの何人かは人間であり、人生は常に他者との関係の中で生きていることを認識している人々である。アニミズムは、他の人たちに対して、また他の人たちの間で、敬意を持って(注意深く、建設的に)行動することを学ぶための様々な方法で実践される」という。 この「新しいアニミズム」にとって重要な問いは、人がどのように扱われ、行動すべきかということである。 また、1990年代頃からは、自然環境認識との関係においてアニミズム論が再検討されるようになり、環境保護の分脈でアニミズム的思考への注目が高まっている。

まとめ

アニミズムとは、あらゆる自然物に霊的な存在があると認識する世界観で、世界中の多様な文化や宗教にアニミズム的要素を見出すことができる。19世紀に植民地主義の文脈で生まれた「アニミズム」は再検討され、近年では、人間以外の他者との関係における人間の本質を問い直すための重要なテーマとなっている。

【参照サイト】 Bird‐David, Nurit. ‘“Animism” Revisited: Personhood, Environment, and Relational Epistemology’. Current Anthropology 40, no. S1 (1999): S67–91.
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