Browse By

デ・マーケティング(Demarketing)とは・意味

デ・マーケティング

デ・マーケティング(Demarketing)とは?

デ・マーケティング(Demarketing)とは、あえて需要を抑えることを目的としたマーケティングせんを指す。

通常のマーケティングが消費を促すのに対し、デ・マーケティングは商品の入手を難しくしたり、価格を上げたりして、特定の商品やサービスの需要を意図的に減らす。これは、供給能力を超える需要を調整するためや、商品の希少性やブランド価値を高めるために使われる。

この手法は、1970年代にフィリップ・コトラーとシドニー・レヴィによって提唱された。

デ・マーケティングは、供給不足や資源保護、過剰消費の抑制などの場面で活用されるほか、観光地の混雑緩和や過剰なローン借入の注意喚起といった文脈でも用いられる。

リマーケティング(Remarketing)との違い

似たような用語にリマーケティング(Remarketing)がある。

リマーケティングとは、過去に自社商品やサービスに関心を示したユーザーに再びアプローチし、購入行動を促すことで売上向上を狙う手法だ。リマーケティングは「需要の再喚起」を目的としている。

一方で、前述したようにデ・マーケティングは供給能力の限界や資源保護などの理由から、あえて需要を抑制する戦略だ。たとえば商品の価格を引き上げたり広告を制限したりして、消費を抑える。デ・マーケティングの目的は「需要の制御」だ。

リマーケティングとデ・マーケティングのいずれも消費者の関係性を重視するマーケティング戦略ではあるが、その目的は大きく異なる。似ているようでその方向性は正反対なのだ。

デ・マーケティングの種類

デ・マーケティングは、売上を伸ばすのではなく、むしろ需要を減らすことで資源管理やブランド価値の維持を図るという、一般的なマーケティングとは真逆の発想に基づく。そんなデ・マーケティングには主に3つのタイプがあり、それぞれに異なる目的と手法がある。

一般的デ・マーケティング

最も基本的なタイプで、主に全体的な需要を抑えることを目的としたもの。

たとえば一時的な品不足が発生した際、過剰な需要を抑えるために広告や販促活動を控えることがある。政府や公益事業者が資源節約や健康増進を目的として、電気・水道の節約を呼びかけたり、タバコやアルコールの消費を抑える広告を行うのもこの一例だ。また、旧製品から新製品へと消費者を移行させるために、旧モデルの販売を控えるケースも見られる。

選択的デ・マーケティング

特定の顧客層のみの需要を抑えることを目的としたもの。

たとえば、高級ホテルが新たに若者層を取り込んだ結果、従来の富裕層顧客が離れてしまうような場合、再びターゲット層を絞り直すために、若年層を遠ざけるような戦略が取られることがある。また、ニッチ産業では、製品を正しく理解し価値を見出す一部の顧客にのみ販売することで、ブランドロイヤリティを高める狙いがある。

表面的デ・マーケティング

一見すると需要を抑えるように見せかけながら、実際には希少性を演出して需要を喚起するというもの。

たとえば「数量限定」や「在庫わずか」といった表現を用いることで、希少性と切迫感を演出し、消費者の購買意欲を刺激する。この手法は自動車業界やテクノロジー業界など、価格やブランド価値を重視する業界で有効に活用されている。

このように、デ・マーケティングは単に「売らない」戦略ではなく、企業が長期的な成長や持続可能なブランド運営を図るための高度な戦略手法の一つなのだ。

デ・マーケティングのメリット

デ・マーケティングには、企業の持続的な成長や経営効率の向上に寄与する複数のメリットがある。

まず、生産コストやマーケティングコストが高騰して利益率が低下した場合、生産量を抑えることでコスト削減が可能に。このことから、より利益率の高い製品への集中も実現する。

さらに、理想的な顧客層にターゲットを絞ることで、ブランド価値の向上や価格戦略による収益の確保が見込まれるほか、人為的に商品を品薄にすることで「限定性」や「独占性」が演出され、消費者の購入意欲を刺激し、結果的に価格や販売数の調整が可能となる。

中小企業にとっては、特定地域に販売を限定することで、流通や広告コストの最適化にもつながる。加えて、原材料の供給制限がある場合でも、需要のコントロールにより供給能力とのバランスが取りやすくなり、全体的な資源の節約と効率的な事業運営を図ることができる。

デ・マーケティングの事例

希少性の確保、ブランド価値の維持

ラグジュアリー業界のブランドは、商品に対する需要が高くても供給を意図的に制限する。

たとえば高級腕時計ブランドのロレックスは、一部人気モデルの供給を絞っているとされる。これはブランドの希少性を高めることや転売対策を目的としたものだ。

ラグジュアリー業界のブランドが「いつでも買える」状況をあえて作らずに、購入者の属性や購入履歴によって販売の可否を選別することは、単なる販売制限ではなく、ブランドの哲学や美学を理解している顧客との長期的な関係を重視する姿勢といえる。

過剰観光の回避

人気観光地では、環境破壊や地域住民への悪影響を防ぐために、観光客数の制限や高価格化が進んでいる。たとえば観光客で溢れかえっていたベネチアでは、混雑時に入場料を徴収したり、観光客を混雑していない地域に誘導したりといった措置をとった。その結果、混雑緩和と街の保全が両立。周辺住民の生活の質は向上し、観光ビジネスも存続している。

ほかにも、島全体が保護区となっているガラパゴス諸島では、その地域特有の環境を保護するために訪問者の制限を厳しく設定するなど、明確なルールを設けている。

環境保護と倫理的ブランディング

衣料品ブランドの「パタゴニア」は、「Don’t Buy This Jacket(このジャケットを買わないでください)」という広告を実施。これは製品寿命の延長、修理文化の推進、中古品再販を重視し、「物を売らない」という戦略は、人々に必要なものだけを買ってもらい、ゴミや消費を減らすことを意図するものだった。

その結果、パタゴニアの環境保護への真摯な姿勢が人々に支持されることになり、同社が製品の販売抑制を訴えたにもかかわらず、売上とブランド・ロイヤリティはむしろ高まった。

消費者の志向に合わせたブランドイメージの刷新

企業は、自社製品の提供内容を変更する際にデ・マーケティングを利用することがある。たとえばコカ・コーラ社は従来の砂糖入り清涼飲料水の販売促進を抑制し、「ゼロ系」やダイエット製品を前面に出している。これは消費者の健康志向に合わせたもので、従来商品の過剰消費を抑えるための戦略的転換である。

また、スターバックスも、高カロリー飲料に代わる小容量サイズや代替ミルクを打ち出し、健康志向の消費者に対応しながら高カロリー商品の需要を抑えている。

過剰利用の抑制

医療分野では、経営資源が限られている場合、デ・マーケティングを活用することでニーズの高い人々にサービスを届ける体制を整えている。ここでいう資源には、医療用品や人員、労働時間などが含まれる。専門医が予約を制限するために使用することが多く、診察を紹介制にしたり、患者を診察する前に紹介状を書いてもらうよう自己負担額を増やしたりといった戦略がとられる。

また、インフラの過剰利用の抑制にもデ・マーケティングが役立つ。たとえば、シンガポールは水資源に限りがあるため、水の価格を引き上げ、人々に節水方法を教えるプログラムを実施。さらに、水の使用量について厳しい規則を設けるといった多角的なデ・マーケティングを行うことで、一人ひとりが使用する水の量を減らすことにつなげた。

持続可能性を重視する時代にその重要性が高まる

デ・マーケティングは、単に「売らない」戦略ではない。現代の複雑で過剰な市場環境の中で、ブランド価値や社会的責任、持続可能性を追求するために重要なマーケティングの一局面だ。

「誰に・何を・どう売るか」を見極める中で、意図的に“売らない相手”を選別することで、ブランドの信頼性や独自性を高めることができる。

また、デ・マーケティングの一環として、環境保護や資源管理といった社会的な課題への配慮も重視される。企業が利益追求のみにとらわれず、倫理的かつ持続可能な視点を取り入れることもまた、ブランドの信頼性を高めることにつながるだろう。

今後は消費を限定し、持続可能性を重視する時代へとシフトする中で、デ・マーケティングの重要性はますます高まっていくことが期待される。

参考文献 折笠和文『デ・マーケティング戦略の再考― 負のマーケティング論研究序説(2)―』(名古屋学芸大学 教養・学際編・研究紀要 第2号、2006年)

【参照サイト】What Is Demarketing? (Types, Benefits, and Examples) | Indeed.com Canada
【参照サイト】リマーケティングとは何ですか?
【参照サイト】What Is the Difference Between Remarketing and Demarketing? Key Insights Explained – Zorgle
【参照サイト】Demarketing: The Art of Attracting and Repelling in Marketing
【参照サイト】Demarketing 101: Definition, types, and examples | Outsource Accelerator.
【参照サイト】What is Demarketing? Types, Examples & Benefits | Marketing91

FacebookX