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ワンヘルスとは・意味

ワンヘルス

ワンヘルスとは?

ワンヘルスとは、人と動物、生態系の健康をひとつとみなし、守っていこうとする考え方のこと。地球上の生態系保全のために、野生動物や家畜、人間、そして地球の健康を維持する重要性を説く概念である。

なぜ、ワンヘルスが世界的な議題となり重要視されるようになったのか。それは重症急性呼吸器症候群(SARS)や新型コロナウイルスなど人と動物の共通感染症(人獣共通感染症)が増え続けているからである。WHO(世界保険機関)が確認しているだけでも、人獣共通感染症は200種類以上あり、過去100年間増加の一途をたどってきている。

この人獣共通感染症の増加は、生態系の劣化、人口の増加、土地利用の変化、気候変動等によって動物と人との関係が変化し、元々野生動物が持っていた病原体が、様々なプロセスを経て人にも感染可能になったことが原因である。特に、地球環境の破壊と密接に絡み合っているといわれている。

人間の経済活動による大規模な森林開発は、多くの野生動物の住処を奪っている。それにより、感染症の病原体を持つ野生動物と人や家畜が接触し、新たな動物由来の感染症が発生する。グローバリゼーションによる人やモノの移送・移動で感染を広げたり、ウイルスが変化していったりすることで、世界的な流行に陥ってしまうのである。

地球環境保全には、企業の経済活動や政治の影響力も大きい。ワンヘルス推進には、医療分野や動物研究分野だけでなく、さまざまな分野が垣根を超えて協力する体制が必要なのだ。

ワンヘルス誕生の背景

理念の提唱

ワンヘルスの概念の起源は、1993年世界獣医師会世界大会で採択されたベルリン宣言。宣言内に「人と動物の共通感染症の防疫推進や人と動物の絆を確立するとともに平和な社会発展と環境保全に努める」という内容が盛り込まれており、ワンヘルスの端緒とされている。

ワンヘルスの言葉が公式に提唱されはじめたのは、2004年アメリカ・ニューヨークのロックフェラー大学で開催されたシンポジウムである。この議会のテーマは、「ワンワールド・ワンヘルス」で、自然環境の健康と、家畜や野生動物の健康、そして人の健康という3つの健康を健全にすることで、動物由来の感染症が予防できるという考え方が共通の認識となった。

また、議会では世界の健康と生物多様性の保全のためには、分野を超えた協力関係構築の必要性についても提唱されていた。

ワンヘルス推進に向けた取り組み

国際的な取り組み

ワンヘルス推進へ向けて、国際的に認識が高まっている。2016年に開かれた、生物多様性条約の第13回締約国会議(CBD-COP13)では、生物多様性と人間の健康という課題に横断的に対処する手段が議論された。そこでは、ワンヘルスアプローチは、エコシステム・アプローチと一貫性のある統合的なアプローチとして導入すべきだと提言されている。具体的には、生息地のかく乱、人と野生生物の接触を含む生物多様性、生態系の劣化、感染症の出現との間の関係性など、生物の多様性と感染症のつながりが議論されたのだ。

また、2004年から中心的にワンヘルスを主導してきた世界保健機関(WHO)、国連食糧農業機関(FAO)、国際獣疫事務局(OIE)の国際機関の集まりに、2020年11月UNEP(国連環境計画)が新たに参画。環境分野の国際的主要機関であるUNEPが参加したことは、ワンヘルスが地球の環境保全も重要視した取り組みであることを示している。

日本での取り組み

日本では、2016年11月福岡県北九州市で、世界31カ国から600名を超える医師、獣医師等が集い、「第2回世界獣医師会〜世界医師会ワンヘルスに関する国際会議〜」が開催されている。この会議で、ワンヘルスの概念に基づき行動、実践することを決意した、「福岡宣言」が採択された。(※1)

また、2021年1月には、WWFジャパンが国際自然保護連合日本委員会、日本獣医師会など11団体とともに感染症の予防的アプローチとしてワンヘルスに取り組む「人と動物、生態系の健康はひとつ〜ワンヘルス共同宣言」を策定している。

しかし、日本ではワンヘルスの実現そのものを目的として明確に定めた法制度はまだ策定されていないのが現状である。

ワンヘルスと新型コロナウイルス

パンデミック(世界的な流行)による世界経済の損失について、IMF(国際通貨基金)がパンデミック前の予測と比較した生産高の累積損失を「2020~2021年の合計で11兆ドル(約1,180兆円)」と予測している。

世界保健機関(WHO)の東南アジアの地域顧問を務める、ギャネンドラ・ゴンガル博士は、ワンヘルスアプローチなどを適用した、パンデミックの予防にかかるコストは、被害総額の2%に過ぎないと指摘。

また、ASEAN生物多様性センター(ACB)のテレサ・ムンディタ・リム事務局長は、「野生生物とその生息地を保護することで、ウイルスの波及を抑止できる」ことを説明している。

このように、次なる感染症の予防のためにもワンヘルスアプローチが国際的に重要視されているのだ。

私たち人類の健康は、豊かな地球環境、生物多様性、動物の健康のバランスによって成り立っている。人間、動物、地球環境の健康を守ることは、誰もが健康に暮らせる世界を次世代に受け継ぐことにつながる。専門的知識がなくても、私たちが実践できる環境や動物を守る小さなアクションは日常にあふれているはずだ。

※1 福岡宣言(福岡県)

【参照ページ】ワンヘルス”One Health”~人と動物の健康と環境の健全性は一つ~(福岡県)
【参照ページ】One Healthの取り組み 連携シンポジウム(厚生労働省)
【参照ページ】「ワンヘルス(One Health)」~次のパンデミックを防ぐカギ〜(WWF JAPAN)
【参照ページ】ワンヘルスの推進―人と動物、環境の健康はひとつ―(北九州市)

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