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ポリティカルコレクトネス(PC)とは・意味

ポリティカルコレクトネス

ポリティカルコレクトネスとは?

「政治的な正しさ(政治的な妥当性)」と訳されるポリティカルコレクトネス(Political correctness)。これは、特定の民族や人種、宗教、性別、職業、年齢などに対して差別的な表現を避けること。困っている当事者が不快感を覚えたり、屈辱的な思いをしたり、一見問題がなさそうでも今後の差別につながったりしそうな可能性がある言葉や表現を選ばない、という姿勢や考え方を指す。

アメリカで、1980年ごろからの左派運動の中で生まれた言葉で、政治的に賢明で正しいとされるが、自己嘲笑をするような皮肉の言葉として使われてきた。Politically correct、略してPCや、ネガティブな意味を込めてポリコレなどと呼ばれることもある。

現代のポリティカルコレクトネスには、さまざまな定義がある。ポイントは、「その表現は特定の誰かを排除していないか」「すでに不利益を被っている人や差別を受けている人(無意識にでも)が、さらに困ることにならないかどうか」だ。

たとえば、インターネット広告などで特定の人の容姿への偏見や侮辱が含まれた表現があったとして、誰も声をあげずにいると「何も問題にならなかった」とその表現が容認されたことになり、その状況は変わることなく、差別が繰り返されかねない、という考えである。広告のほかに、TV番組や、映画、音楽、小説、ゲーム、エンターテイメントなど、多数の人が触れる分野が議論の対象となることが多い。

身近なポリティカルコレクトネス

身近なポリティカルコレクトネスとして、差別語や不快語の言い換えがある。特に多くの人が触れる広告や、報道の現場では、言葉選びや表現に注意が払われ、時代の変化に合わせて常に最適な表現が模索されている。

たとえ日常生活では一般的な「〇〇屋」は、軽蔑を込めて使われた歴史的背景から差別表現とされ、報道する際は「〇〇店」に置き換えられている。他にも、これらの配慮がされるようになっている。

日本

  • 保母さん → 保育士さん(保育=女性がやるもの、というイメージを定着させないため)
  • ビジネスマン → ビジネスパーソン(現在は、女性がビジネスをするのも一般的なため)
  • カメラマン → フォトグラファー(上と同じ理由)
  • 彼氏/彼女 → パートナー(主に相手にパートナーの有無を尋ねるとき。異性愛が正しいもの、というイメージを定着させないため)

海外

  • Ladies and Gentleman → Everybody(電車などでのアナウンス。性の多様性のため)
  • Fireman → Firefighter(消防士は男がやるもの、というわけではないため)
  • American Indian → Native American(インディアン という言葉が略奪や差別の歴史を含むため)

ポリティカルコレクトネスは息苦しい?

ポリティカルコレクトネス

誰もが自分の生まれ持った属性にとらわれず選択肢を持ち、平等な社会を実現するために、ポリティカルコレクトネスの視点は重要だ。しかし、「行き過ぎた平等」「行き過ぎた配慮」「行き過ぎた批判」は時として社会に息苦しさをもたらし、表現を制限するという指摘もある。

アメリカの公共ラジオネットワークNPRは、ドナルド・トランプ元米大統領は「宗教・人種に対し非常に差別的だった」としたうえで、1991年にミシガン大学で行われたジョージ・H・W・ブッシュ元大統領の言葉を引用した「(ポリティカルコレクトネスの)運動は、人種差別や性差別、憎しみの残骸を一掃したいという称賛に値する欲求から生じています。しかしそれは、古い偏見を新しい偏見に置き換えるものなのではないでしょうか。」

過激な表現と社会風刺がウリのアメリカ発アニメ「サウスパーク」でも、シーズン19からポリティカルコレクトネスを信条に掲げる校長が登場するなど、行き過ぎたポリティカルコテクトネスがたびたび皮肉的に描かれている。

ポリティカルコレクトネスに関する話題

2020年、アカデミー賞を主催する映画芸術科学アカデミーは、2024年から作品賞の選考に新たな基準を設けると発表した。主要キャストに黒人やヒスパニック系といったマイノリティを起用することや、制作陣の主要ポストに女性やLGBTQ+、障がい者を起用することなど、新設された4つの基準のうち、2つを満たさなければ作品賞の対象外となる。

その流れを受け、アニメの実写化で白人キャラクターを黒人俳優が演じる作品も増えてきている。2022年に公開された「ピノキオ」のブルー・フェアリー役にシンシア・エリヴォが、2023年に公開された「ピーター・パン&ウェンディ」のティンカー・ベル役にヤラ・シャヒディが、2023年に公開の「リトルマーメイド」のアリエルは、ハリー・ベイリーが起用された。

しかし、黒い肌と茶髪のドレッドヘアーのアリエルは、「原作と違いすぎる」「これは私の知ってるアリエルではない!」といった声が一部の原作ファンから上がり、ついには「#NotMyAriel」(私のアリエルではない)というSNSのタグまで生まれた。そして、「原作アニメの白人キャラクターを黒人にした理由が分からない」といった、ディズニーのポリコレ意識についても批判の声があがった。

イギリスでも大きな話題となる出来事があった。2022年、イギリス出身の黒人慈善活動家が、バッキンガム宮殿の集まりに招かれた際、自分はイギリスで生まれ育ったと説明したものの、王室補佐官から「本当は」どこから来たのか繰り返し尋ねられたという。慈善活動家がこの内容をSNSに投稿すると、人種差別的だと批判が高まり、王室は即座に謝罪し、王室補佐官は辞任した。

2023年には、日本マクドナルドが発表した広告が、アメリカ人たちから思わぬ形で反響を呼んだ。X(旧ツイッター)の公式アカウントに投稿した、普通の家族がマクドナルドを食べる様子をアニメーションで表現した広告は、5日でその閲覧数が1億2千万回に達し、コメント数は7千件を超え、その半数以上が英語圏のユーザーから寄せられたのだ。

コメントでは、「普通の家族の日常を描いた風景にホッとする。アメリカでこんな広告を見たのは90年代が最後ではないだろうか」、「広告の登場人物の誰もLGBTQでなければ、異人種同士でもない。アメリカで毎日放映される広告とは全然違う」、「アメリカでこの広告が流れたら、毎日マクドナルドに買いに行く」など、広告を称賛すると同時に米国の現状を憂うコメントが目立った。

まとめ

差別をしてはいけない、という気持ちが批判につながり、辞任や謝罪の要求、不買運動に行き着くことは珍しくなくなった。これは不正を見逃さず自浄作用がよく働く社会になったいえる。しかし、誰でも無意識に行ったことがあるような過ちを、過度に批判することには「失敗の許されない社会になるのではないか」との声もある。

どんなに表現に気を使っていても、定義は人によって異なる。また、海外の情報に明るくないために、無意識にポリティカルコレクトネスに反する言葉を使ってしまうことは起こりうる。しかしどのような立場であっても、人々に情報を届ける際は、「その表現は特定の誰かを排除していないか」「すでに不利益を被っている人や差別を受けている人(無意識にでも)が、さらに困ることにならないかどうか」を留意したいものだ。

【参照ページ】Political correctness|Britannica
【参照ページ】‘Politically Correct’: The Phrase Has Gone From Wisdom To Weapon
【参照サイト】Debating P.C.: The Controversy over Political Correctness on College Campuses
【参照サイト】To Reclaim a Legacy of Diversity: Analyzing the ‘Political Correctness’ Debates in Higher Education

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