セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(SRHR)とは・意味
リプロダクティブ・ヘルス/ライツとは?
リプロダクティブ・ヘルス/ライツとは、基本的人権の一つ。
誰もが年齢や性別に左右されることなく、安全な性生活や、自分のセクシュアリティを自分で決められること、また妊娠・中絶・出産に関して十分な知識が得られ、女性自身が「子どもを産むかどうか」「何人持つのか」「どの間隔で産むか」「どう産むか(たとえば無痛分娩をするか否か)」などを自由に決めることができる権利と定義される。つまり、自分の体のことを、自分で決める権利だ。
これはセクシャル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(Sexual and Reproductive Health and Rights 、SRHR)と表記されることもあり、日本語では「性と生殖に関する健康と権利」と訳されている。
1994年にカイロで開かれた国際人口開発会議(ICPD)で初めて提唱され、現在はSDGsの「目標3:すべての人に健康と福祉を」「目標5:ジェンダー平等を達成しよう」でも、リプロダクティブ・ヘルス/ライツに関する目標が含まれている。
リプロダクティブ・ヘルス/ライツを巡る課題
日本ではまだ聞きなれない言葉だが、国内はもちろん、世界でもリプロダクティブ・ヘルス/ライツに関するさまざまな課題が浮き彫りになっている。いくつか例を確認しよう。
- 安全に出産できない
- 子どもを持たないという決断が尊重されない
- パートナーが避妊をしてくれない
- 保険で適応される避妊方法が限られている
- 人工中絶を法律上選ぶことができない
- 不妊治療に対する偏見や差別がある
- 児童婚を強いられる
- 女性性器切除(female genital mutilation、FGM)を強いられる
- 性暴力による望まない妊娠
- 生殖に関する教育体制が整っていない
- 生理痛に対する十分な理解がない
特に医療制度が整っていない国や地域では妊産婦死亡が深刻で、WHOによると、世界では毎日810人の妊婦が、治療や予防が可能な妊娠・出産の合併症によって亡くなっている。さらにその3分の2はサハラ以南のアフリカに集中しているという(※1)。
リプロダクティブ・ヘルス/ライツは、特定の性別や年代に限定されないが、現状として子どもを産む「女性」、知識や経験が乏しい「少女」「若者」、十分な資力がない「貧困層」や知識に乏しい人が弱者になりやすい。とりわけ女性は妊娠・出産によって、ライフサイクルや身体に男性にはない特有の問題を抱えやすい。
性と生殖に関する健康の正しい情報・制度が誰しもに提供され、それに自由にアクセスできることがリプロダクティブ・ヘルス/ライツだが、現状では十分とはいえない。
これらの問題が解決しない背景には、各国の文化や慣習も大きく影響している。たとえば、日本では、性に関することを「恥」「はしたない」と考える風潮が強く、話題にしにくい文化的背景がある。だからこそ、リプロダクティブ・ヘルス/ライツの考え方や正しい理念が浸透し、基本的人権として、それぞれの決定が尊重される土壌作りが国や自治体に求められている。
リプロダクティブ・ヘルス/ライツの取り組み
世界では、リプロダクティブ・ヘルス/ライツ実現に向けた数々の取り組みが行われている。
一例を挙げると、イギリスでは、ピルやコンドームなど15種類の避妊法が無料で提供されているだけでなく、日本の厚生労働省にあたるNHSがそれぞれの避妊法の効果やメリット、デメリットを詳しく解説するページが設けられている。フランスでは、2022年1月から国内の25歳以下の女性を対象にピルや避妊リングなどの避妊法を無償化し、若年層の望まない妊娠と中絶に対して、対策が講じられている。
一方日本では、男女共同参画社会基本法でリプロダクティブ・ヘルス/ライツが「生涯を通じた女性の健康支援」として盛り込まれ、厚生労働省や文部科学省が施策を推進しているが、認知度は低い。
しかし、2021年12月にイギリスの製薬会社「ラインファーマ」が厚生労働省に対し、経口人工妊娠中絶薬の製造販売の承認を求める申請をしたと発表した(※2)。これまで人工妊娠中絶は手術に限定されていたため、承認されれば女性の選択肢が増え、リプロダクティブ・ヘルス/ライツ実現への大きな一歩となる。
リプロダクティブ・ヘルス/ライツの機運が高まるなか、2021年からは全国の公立校で「生命の安全教育」が開始された。性犯罪・性暴力について、誰もが加害者・被害者・傍観者にならないため、発達の段階に応じた教育が行われる。
「誰もが自分の人生を自分で決める」を実現するためには、まず社会全体がリプロダクティブ・ヘルス/ライツを正しく理解し、共通認識が定着することが大切だといえる。
※1 New global targets to prevent maternal deaths
※2 ラインファーマ株式会社
【参照サイト】国際人口開発会議(ICPD)
【参照サイト】Getting contraception|NHS
【参照サイト】男女共同参画基本計画の変更について|男女共同参画局