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パンセクシャルにアセクシャル?今こそ知りたい「〇〇セクシャル」の多様性

LGBTQ+
多様なセクシュアリティ(性)に対する認知が徐々に高まりを見せる昨今、様々なメディアで、パンセクシャルやアセクシャルなど「○○セクシャル」という言葉を目にすることが増えた。本記事では、セクシュアリティという概念および混同しがちな「○○セクシャル」の違いについてお伝えしていく。

そもそも、セクシュアリティ(Sexuality)とは?

セクシュアリティとは、人間の性のあり方に関する包括的な概念である。厳密な定義は存在せず、生物学的な性差(Sex)や、文化的に構築された性差(Gender)など、さまざまな要素が絡み合って各個人のセクシュアリティを形成している。

本項では、「○○セクシャル」として括られる多様なセクシュアリティとそれを構成する要素について説明するが、重要なのは、個人を特定のセクシュアリティのカテゴリーに閉じ込めるのではなく、ひとりの人間として捉えることである。多様なセクシュアリティが存在することを学ぶことが、単純なステレオタイプを構築することや個人をカテゴリーで捉えることと同義であってはならない。

また、「LGBTQ+」はセクシュアル・マイノリティを総称した「当事者」とみなされることが多い。しかし、いわゆる「ストレート」と呼ばれるシスジェンダー・ヘテロセクシャルの男性・女性も含め、すべての人がセクシュアリティの「当事者」であることを認識することも大切である。こうした姿勢は、個人をカテゴリーによって制限するのではなく、私たち一人ひとりのポテンシャルを最大限に引き出す社会を作る上で大切である。

セクシュアリティを決める4つの要素

「○○セクシャル」の違いについて説明する前に、セクシュアリティの在り方を決める主な要素について確認しておこう。セクシュアリティの在り方を決めるのは、主に以下の4つの要素である。

1. 生物学的な性(Sex / セックス)
生物学的な性とは、出生時の身体構造に基づいて医学的な決定された身体の性別を指す。身体の構造には、外性器、内性器、性染色体、性ホルモンなどが含まれる。「男」「女」「不明」で割り当てられる。

2. 性自認(Gender Identity / ジェンダー・アイデンティティ)
性自認とは、自身の性をどのように認識しているかという、こころの性のこと。例えば、「自分は男性だ」と思っている人の性自認は、男性である。

3. 性的指向(Sexual Orientation / セクシャル・オリエンテーション)
性的指向とは、どの性別を恋愛や性愛の対象にするのかのこと。例えば、「自分は女性が好き」という人は、「性的指向が女性に向いている」と言える。

4. 性表現(Gender Expression / ジェンダー・エクスプレッション)
性表現とは、服装や話し方、振る舞いなどを通して表れる社会的な性に関する概念だ。言い換えれば、個人が自身の性別をどのように表現するかということである。性表現は「性役割(Gender Role・ジェンダー・ロール)」とも密接に関連している。社会的な期待からくる「女性はこうあるべき」「男性はこうあるべき」という観念は個々の性表現に影響を与えている。例えば、日本では身体的に女性とみなされる人の多くが「ムダ毛」を剃るという現象も、性役割によるところが大きい。

多様な性

性的指向(好きになる性)にかかわるセクシュアリティ

ここでは、性的指向にかかわる「○○セクシャル」を見ていこう。

ヘテロセクシャル(異性愛)
「異性」を愛するセクシュアリティ(好きになる条件に性別が加わる)
「ヘテロ」はギリシャ語の語源で「異なる」を意味する。ここでの課題は「異なる」性とは具体的に何を指すのかである。ヘテロセクシャルは、シスジェンダー(生物学的性と性自認が同一)の「男性」と「女性」の二項対立的な概念に基づいているため、現状ではこれらの二つのカテゴリー間で一般的に使用されている。

ホモセクシャル(同性愛)
「ホモ」はギリシャ語に由来し「同じ」を意味する。ここでの「同性」という言葉の使い方も難しく、誰が同性なのかを一般化することはできない。しかし、自分と同じジェンダーの人を好きになるセクシュアリティを示すことが多い。

バイセクシャル(両性愛)
「両方」の性、つまり同性および異性のどちらも好きになるセクシュアリティ(好きになる条件に性別が加わる)

ポリセクシャル(多性愛)
複数の性を愛するセクシュアリティ(好きになる条件に性別が加わる。男性とトランスセクシャルの男性が好き、等)
ポリセクシャルの人は、どんな性的指向や性別の人とでも関係を選ぶことができるが、すべての性別に魅力を感じるとは限らない。

オムニセクシャル(全性愛)
「オムニ」はラテン語で「すべて」の意味。相手の性を認識したうえで、性別関係なく愛するセクシュアリティ(好きになる条件に性別が加わらない)。

パンセクシャル(全性愛)
「パン」は、ギリシャ語で「すべて」の意味。相手の性自認や性的指向を問わず、性別関係なく愛するセクシュアリティ(好きになる条件に性別が加わらない)。

アブロセクシャル
「アブロ」はギリシャ語で「繊細な」という意味。好きになる性が流動的に変化するセクシュアリティ。

特に違いがわかりづらい4つの〇〇セクシャル

この中で特に混同されがちなのが、「バイセクシャル(両性愛)」「ポリセクシャル(多性愛)」「オムニセクシャル(全性愛)」と「パンセクシャル(全性愛)」である。これらの大きな違いは、「相手のセクシュアリティをどう捉えているか」にある。

バイセクシャル(両性愛)
相手のセクシュアリティを意識したうえで、「女性」と「男性」を愛する

ポリセクシャル(多性愛)
相手のセクシュアリティを意識したうえで、2つ以上の性を愛する(二項対立的な「男性」「女性」の性に限らない)

オムニセクシャル(全性愛)
相手の性別を認識したうえで恋愛感情や性的欲求を抱くが、その認識がパートナー選びに大きな影響を与えない。

パンセクシャル(全性愛)
相手のセクシュアリティを意識しないため、すべてのセクシュアリティを好きになりうる

バイセクシャルとポリセクシャルは、どちらも相手のセクシュアリティを意識しているが、恋愛対象となる性が異なる。相手の性を意識したうえで「男性」「女性」を恋愛対象とするのがバイセクシャル、男女に限らず複数の性を恋愛対象とするのがポリセクシャルだ。

オムニセクシャルとパンセクシャルは、両方とも「全性愛」と訳され、限りなく似通っているように見えるが、その違いは「相手のセクシュアリティへの意識」にある。オムニセクシャルは、相手の性別を認識し、理解した上で、すべてのセクシュアリティを恋愛対象とするが、パンセクシャルは相手の性別を意識しないため、すべてのセクシュアリティが恋愛対象となりうる。パンセクシャルは、そもそも相手の性別を意識していない、というのがオムニセクシャルとの大きな違いだ。

性の多様性

人を好きになること(恋愛感情・性的欲求)にかかわるセクシュアリティ

次に、人を好きになることにかかわるセクシュアリティを見ていこう。

アセクシャル・エイセクシャル(無性愛)
(恋愛感情の有無に関わらず)他人に性的欲求を抱かない性

ノンセクシャル(非性愛)
他人に恋愛感情を抱くが、性的欲求は抱かない性(好きになるが性的ではない)

グレーセクシャル
性的欲求を全く感じないわけではないが、ごくわずかにしか感じない性

デミセクシャル(半性愛)
基本的に他者への性欲を抱くことはないが、強い信頼関係や絆があるごく一部の人に性的欲求を抱く性

特に違いがわかりづらい2つの○○セクシャル

このなかで特に混同されがちなのが、アセクシャル・エイセクシャル(無性愛)とノンセクシャル(無性愛)だ。両方とも「無性愛」と訳され、「性的欲求を抱かない」のが共通点だが、その違いは「恋愛感情」にある。ノンセクシャルは、他者に恋愛感情を抱くのに対し、アセクシャルの場合は、恋愛感情の有無には言及されない。つまり、アセクシャルの人のなかには恋愛感情を抱く人もいればそうでない人もいるということだ。

アセクシャルは、「(恋愛感情の有無にかかわらず)他者に対して性的欲求を抱くことが少ない、またはまったく抱くことがないセクシュアリティ」のことだが、日本では「他者に恋愛感情を抱かない」ことを含めて「アセクシャル」と言うことが多い。よって、恋愛感情も性的欲求も抱かない性を「アセクシャル」、恋愛感情は抱くが、性的欲求は抱かない性を「ノンセクシャル」と呼称しているケースが多くある。

まとめ

セクシュアリティに関連する用語やその違いを一つひとつ探ってみると、性のあり方がいかに多様かが明らかになる。ただし、冒頭で強調したように、言葉や意味を単に覚えることで人々を特定のカテゴリーに分類することが目的ではない。むしろ、自分が知らないセクシュアリティの概念がまだまだ存在することを自覚し、自己反省的な学びの姿勢を培うことが重要だ。性のあり方は多岐にわたること、そして最も重要なのは、カテゴリーではなく個人を個人として捉えることであり、セクシュアリティは個人を構成する要素の一部に過ぎないことを認識することである。

【関連ページ】性の多様性
【関連ページ】SOGIとは
【関連ページ】アセクシャルとは
【関連ページ】パンセクシャルとは
【参照サイト】「セクシャリティーとは?」 Tokyo Sexual Health
【参照サイト】「ヘテロセクシュアルとは?意味について。シスジェンダーとの違いも解説。」
【参照サイト】General Definitions, LGBT Resource Center.
【参照サイト】Sissons, Beth. ‘What it means to be polysexual’. Medical News Today

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