2024年に始まる森林環境税とは?税の背景や使い道、問題点を解説
2024年度から始まる森林環境税。国民1人あたり、1,000円が徴収されるようになる国税だ。
一体なぜ課税されることになったのか、誰が決めたのか、そしていつから、どのように課税されていくのか。徴収方法や問題点など含め、本記事ではわかりやすく解説していく。
森林環境税とは?
森林環境税は、日本の森林整備と再生を目的とした財源確保のための税である。2019年3月、市町村による森林整備の財源となっていく「森林環境譲与税」と共に創設された(※1)。
現在、森林保全を目的とした税金はすべて「森林環境税」と通称されており、自治体によってはすでに環境整備のための税金を課しているところもあるが(※2)、2024年(令和6年)1月1日からは全国の納税義務者を対象に、1人1,000円(年間)が追加で徴収されることになる。
※1 「森林環境税及び森林環境譲与税に関する法律」2019年
※2 横浜の市民税の均等割に年間900円を上乗せする「横浜みどり税」など
【森林環境税 概要】
- 施行日:令和6年1月1日
- 納税義務者等:日本国内に住所を有する個人
- 税額:年額1,000円
- 賦課徴収:市区町村(個人住民税とあわせて徴収)
- 国への払込:都道府県を経由して税収の全額を交付税及び譲与税特別会計に直接払込み
2003年にはすでに、森林面積が県の総面積の84%を占める高知県が独自の森林環境税を開始。以降、全国37都道府県と横浜市などに森林環境税の仕組みが広がっていった。
では、すでに存在する森林環境税(名称はそれぞれ異なる)とは、何が違うのか。自治体が課税するものは「地方税」にあたり、新たに始まる森林環境税は「国税」となる。2024年からは、地方と国の二つの森林環境税が課税されることになるのだ。
森林環境税は、なぜ徴収されることになったのか
新たな税の創設の経緯は、林野庁のウェブサイト「(参考)森林環境税を巡る経緯」に記載されている。ここのページに書いてある内容を要約すると、以下の通りだ。
- 水源税構想(昭和61年〜62年):森林の水源涵養機能を確保するための「水源税」そして「森林・河川緊急整備税」賛否が分かれ、いずれも見送られた
- 森林交付税構想(平成3年):地方交付税の枠外に「森林交付税」提唱。「森林交付税創設促進連盟(市町村)」、「森林交付税創設促進全国議員連盟(市町村議会)」が結成され、全国規模で実現に向けた運動が展開された
- 全国森林環境・水源税、全国森林環境税構想(平成15年〜18年):森林交付税の創設を求めてきた市町村や市町村議会議員が「全国森林環境・水源税」提唱。平成18年には全国森林環境・水源税の名称から「水源」を削除し、森林に集中
- 森林吸収源対策のための財源の確保に関する検討(平成16年以降):林野庁、森林吸収量の確保に必要となる間伐等を推進するための財源となる税を要望。平成25年から継続的な検討が重ねられ、ついに平成31年の税制改正で「森林環境税」が創設された
林野庁が長きにわたって森林環境の保全をするための財源を求めていたことがわかる。また総務省は、今回の森林環境税創設の背景に関して、このように記している。
森林には、国土の保全、水源の維持、地球温暖化の防止、生物多様性の保全などの様々な機能があり、私たちの生活に恩恵をもたらしています。しかし、林業の担い手不足や、所有者や境界の不明な土地により、経営管理や整備に支障をきたしています。森林の機能を十分に発揮させるため、各地方団体による間伐などの適切な森林整備が課題となっています。
このような現状に加え、パリ協定の枠組みにおける目標達成に必要な地方財源を安定的に確保する必要が生まれ、森林環境税及び森林環境譲与税が創設されました。なお、森林整備が緊急の課題であることを踏まえ、森林環境譲与税は、2019(令和元)年度から前倒しで譲与することとしています。
日本の納税義務者は、約6,200万人。今回の森林環境税の開始によって、1年間の税収は620億円に上ることになる。国土の7割を森林が覆う日本において、行政による適切な森林整備や安全管理が促されるのであれば、今回の税導入は国全体の大きな環境改善にもつながると考えられている。
森林環境税の使い道は?
これから森林環境税として徴収されたお金は、その全額が「森林環境譲与税」として全国すべての都道府県や市町村に配分されることになる。以下はその概要だ。
【森林環境譲与税 概要】
- 譲与総額:森林環境税の収入額(全額)に相当する額
- 譲与団体:市町村 及び 都道府県
- 使 途:(市町村の場合)間伐や人材育成・担い手の確保、木材利用の促進や普
及啓発等の森林整備及びその促進に関する費用
(都道府県の場合)森林整備を実施する市町村の支援等に関する費用 - 譲与基準:(市町村の場合)総額の9割に相当する額を私有林人工林面積(5/10)、
林業就業者数(2/10)、人口(3/10)で按分
※市町村の私有林人工林面積は、林野率により補正
(都道府県の場合)総額の1割に相当する額を市町村と同様の基準で按分 - 使途の公表:インターネットの利用等の方法により公表
2019年から森林環境税に先駆けて始まっていた「森林環境譲与税」。2022年度(令和4年度)には、総額で500億円(市町村440億円、都道府県60億円)ほどが譲与された(※3)。
税の使用用途は、2019年3月の「森林環境税及び森林環境譲与税に関する法律」によって定められている。例えば都道府県では、森林整備を実施する市町村の支援に関する費用に充当すること。市町村では、間伐など「森林の整備に関する施策や、人材育成・担い手の確保、木材利用の促進や普及啓発など森林の整備の促進に関する施策に充当することなどだ。
他にも、持ち主や境界が不明で荒廃した森林の手入れや、生物多様性の保全など、環境整備に関するさまざまな用途に使われていくという。2022年度の活用額が一番多かった用途は「間伐等の森林整備関係」だった。
総務省と林野庁が2023年10月に発表した資料では、具体例として、秋田県の由利本荘市が森林経営管理制度に基づく市町村による間伐を実施したことや、鳥取県の八頭町が花粉発生源対策となるクヌギ・コナラ植栽への支援を実施したことなどが紹介されている。
森林環境税の問題点・課題は?
各自治体が急ピッチで税制システム改修に努める今回の森林環境税。現時点で課題だと指摘されているのは、以下のポイントである。
- 地方税と国税の「二重課税」状態による、個人の経済的負荷
- 自治体ごとの具体的な使用用途が不透明
- 自治体によっては眠ったまま使われないお金になっている
- 森を多く所有する地域とそうでない地域がある中での、分配の公平性
前述の通り、2024年1月1日からは、すでに存在する地方税に新たに一人1,000円の国税が加わることで、納税者の負担は増加する。どのように棲み分けをし、この二重課税の状況を解決していくのか。制度の見直しを含めた課題となっている。
自治体の税の使用用途も法に則っているものの、具体的に示されているわけではない。自治体の担当者によっては、税の使い道に頭を悩ませることもある。NHKの政治マガジンの2022年の記事では、三重県南部の度会町に2021年度までの3年間で配分された交付金のうち、9割近くが活用されないまま「基金」として積み立てられている現状が報じられた。
自治体ごとの取り組みも含め、最新の状況は林野庁の「森林環境税及び森林環境譲与税」のページで見られるので、しばらくはそこを追っていくことになるだろう。
また、税の配分の公平さも課題となっている。配分の基準は「①総額の50%:私有林・人工林の面積、②総額の20%が林業就業者数、③残りの30%が人口」となっているため、都市部など森林面積の少ない地域では、森林環境譲与税の配分が少ない傾向にある。
全国の納税者に平等に1,000円が課せられることを考慮すると、都市部に住む人々にとっては恩恵が感じられにくい側面があるのは確かだ。
まとめ
日本の森林は、国土の約三分の二を占め、豊かな生物多様性を支える生態系の基盤だ。これらの森林は、多くの種の生息地を提供し、地球温暖化の影響を緩和する重要な炭素吸収源となっている。また、森林は水源地としての役割も果たし、清浄な水の供給を支えている。
持続可能な方法で森林を守り、活用することは、現代の日本社会にとって欠かせない課題だ。さまざまな問題点が指摘されつつも、環境保全の促進が期待される森林環境税のこれからをウォッチしていきたい。
【参照サイト】林野庁 – 森林環境税及び森林環境譲与税
【参照サイト】総務省 – 森林環境税及び森林環境譲与税