社会が排除してきた存在に目を向ける。NZのアート展「聞かれなかった物語」

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ニュージーランドのクライストチャーチ市にあるChristchurch Art Gallery(クライストチャーチ・アートギャラリー)では、企画展「語られなかった(聞かれなかった物語)物語展(Unheard Stories from the Collection)」が2022年8月6日~2024年7月21日まで開催されている。

この企画展では、2年間の会期を通じて84人のアーティストによる150点の作品が展示される。ギャラリーが所蔵する作品の解釈を拡張して「新しい声、聞かれなかった物語、そして変革をもたらすアイデアを受け入れるための課題と可能性を考察する」というものだ。

従来の社会では、男性であり、西洋人であり、異性愛者である人々が権力を維持してきた背景がある。それは一般社会でもアート界でも同じで、従来の「正しさ」に当てはまらない人は、能力や作品の素晴らしさに関わらず不利な立場に置かれたり、社会から排除されたりしてきた。そうした過去を顧みたとき、現代に生きるわたしたちが感じる違和感を「新しい声、聞かれなかった物語」として浮き彫りにし、社会の変革を考えていく試みだ。

クライストチャーチ・アートギャラリー企画展の様子

クライストチャーチ・アートギャラリー企画展の様子(筆者撮影)

耳に届かなかった物語には、とりわけ性別に付随するジェンダー役割、宗教、民族などの多様な視点があり、このギャラリーが所蔵するあらゆる年代の作品を通して、人々の偏見を紐解いていく。このセンシティブかつ挑戦的な展示を見て、筆者自身の潜在的な思い込みや偏見にも気づかされた。

いくつかの印象深かった作品を紹介したい。まずは、アンジェラ・ティアティア氏の映像作品。最初はハイヒールを履いていた彼女が片方のハイヒールを脱ぎ、片方は履いたままのアンバランスな姿勢で伝統的なシヴァ・サモア・ダンスで行われる動きを繰り返す。これは女性が世の中からどのように見られていて、どう振る舞うべきかについての忍耐と努力を表しており、社会的・文化的な期待に応えるための骨の折れる努力を反映している。

また彼女は、本来は隠すべき膝上にある、サモアの女性の神聖なタトゥー(「malu(マル)」と呼ばれる)をあえて見せることで、伝統文化のタブーにも問題提起をしている。彼女の母親は、縫製業で娘2人を育て上げ、娘たちがハイヒールを履くオフィスワークで苦労のない生活を送ることを望んでいたため、アーティストになるというアンジェラ氏の夢は母親にとって受け入れがたいものだったそう。そんな背景から、この作品は「誰かの期待に応えるための振る舞い」という文脈が反映されているようにも見えた。

Heels (2014): Angela Tiatia

Heels (2014): Angela Tiatia Image via Christchurch Art Gallery

続いて、マーガレット・ドーソン氏の作品。1950年生まれの彼女は、1970年代後半からクライストチャーチに住み、働いていた。彼女は、アイデンティティとジェンダーロールを探求する手段として写真作品を発表してきたアーティストだ。

作品では、マーチング衣装を着て快活に歩く女性が、家庭内では不安そうな姿を見せている。 このように2つのペルソナを1人の人間が引き受けることは、本来はすべての人がさまざまな光と多様な視点で見られるべきということを示している。

Marching Girl (1985): Margaret Dawson

Marching Girl (1985): Margaret Dawson Image via Christchurch Art Gallery

Interior with Venetians (1985)

Interior with Venetians (1985) Image via Christchurch Art Gallery

この企画展では作品がランダムに入れ替わり、2024年7月21日まで開催されている。現在展示されている作品の詳細はChristchurch Art Galleryのウェブサイトから確認できる。

その時代には語られなかったアーティストのメッセージや問いかけに改めて耳を傾けることで、過去と未来の間に関係を構築し、新たな対話を生み出していけたらどんなに素晴らしいだろう。アートが、人をエンパワメントしていく力を感じた。

【参照サイト】Christchurch Art Gallery

Edited by Erika Tomiyama

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