EUの循環経済は、経済安保へ。迫る「サーキュラーエコノミー法」公表に向けた最新議論【ECESP年次会議・現地レポ】

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「循環経済なくして戦略的自律性はない。サーキュラーエコノミーが機能しなければ、EUはより多くを他国に依存することになる」

2026年4月22・23日、ブリュッセルのシャルルマーニュ会議センターとジャック・ドロール会議センター(2日目)を舞台に開催されたECESP(European Circular Economy Stakeholder Platform/欧州循環経済ステークホルダー・プラットフォーム)年次会議の壇上でこう語ったのは、エンリコ・レッタ元イタリア首相だ。

この発言は、循環経済がもはや環境政策の一分野ではなく、欧州の経済安全保障そのものとして語られ始めていることを象徴していた。

レッタレポートの著者で元イタリア首相のエンリコ・レッタ氏による基調講演。

レッタレポートの著者で前イタリア首相のエンリコ・レッタ氏による基調講演。筆者撮影

ECESPは、欧州委員会と欧州経済社会評議会(EESC)が共同で運営する、EU最大規模の循環経済政策対話プラットフォームである。2016年の設立以来、国家レベルおよびセクターを横断する24の代表機関からなるコーディネーション・グループを軸に、政策立案者・産業界・金融機関・市民社会・研究者が知識と実践を持ち寄る場として機能してきた。

今年の会議が例年以上の緊張感を帯びていたのは、欧州委員会が2026年第3四半期に公表を予定する『循環経済法(Circular Economy Act、以下CEA)』の策定を目前に控えていたからだ。欧州委員会の環境担当コミッショナー、DG環境局長、欧州議会環境委員会委員長(ENVI)、欧州投資銀行(EIB)幹部、加盟国代表、産業界CEO、市民社会・若者代表まで、EUの循環経済政策を動かす人物たちが一堂に会した。CEAの中身を問う段階から、CEAを前提に何をどう動かすかを問う段階へ──そのシフトを肌で感じた2日間だった。

その場で繰り返し共有されていた認識がある。

サーキュラーエコノミーは「Urgency(緊急)」から「Emergency(非常事態)」へと移行した、というものだ。つまり、サーキュラーエコノミーは「いずれ進めるべき移行」ではなく、「いま対応しなければならない危機管理」として語られ始めている。

ベルギー・ブリュッセルにある欧州委員会の建物。筆者撮影

ベルギー・ブリュッセルにある欧州委員会の建物。筆者撮影

「ドラギ・レポートと並ぶ」レッタ氏が基調講演に立った意味

会議冒頭、欧州委員会のジェシカ・ロスワル環境担当コミッショナーは「不安定な時代において、サーキュラーエコノミーは選択肢ではなく、必然です」と宣言した。第1プレナリーセッション後に基調講演者として単独登壇したレッタ氏は、その問題意識を引き受けるかたちで、循環経済と安全保障の直結を訴えた。

レッタ氏はイタリア元首相(2013〜2014年)で、EU単一市場強化の処方箋として2024年にまとめた「Much More Than a Market(通称レッタ・レポート)」の著者だ。マリオ・ドラギ元ECB総裁・元イタリア首相によるドラギ・レポートと並び、現在のEU政策議論で繰り返し引用される二大提言書の一つを担った人物が、CEAを目前にしてECESPに登壇したこと自体、EUがこの法律をどう位置づけているかを示している。現在はIE Universityで要職を務め、ジャック・ドロール研究所所長も兼任する。レッタ氏は1980〜90年代の単一市場構築を振り返りながら、こう述べた。

「単一市場の構築において、エネルギー・コネクティビティ・金融市場という三つの分野の統合が先送りされました。それが今日の欧州の脆弱性の根源です。今、EUは”One Europe, One Market”というフェーズに入ろうとしている。循環経済法は、その柱のひとつでなければなりません」

そして会場への問いかけは、より直接的だった。

「今日、ブリュッセルでの政治的優先順位は、第一に安全保障、第二に安全保障、第三も安全保障です。だからこそ、皆さんがここで議論していることを安全保障と直結させることが不可欠なのです。サーキュラーエコノミーが機能しなければ、EUはより多くを他国に依存することになるのです」

EUの貯蓄から年間3,000億ユーロが米国に流出し、その資金でEU企業が買収されているという構造的問題を指摘しながら、レッタ氏は「指令」から「規則」への転換も強く訴えた。各国の解釈裁量を残す指令では、域内市場の法的断片化が続き、二次原材料の越境流通を阻む障壁が温存されるためだ。

この議論の中核にあったのが、「One Europe, One Market」という考え方だ。単一市場と競争力がEU政策の中心に据えられていることは、ここ数年で明確に変化した点である。サーキュラーエコノミーは、その単一市場を機能させるための手段として語られている。

同時に、「循環=安全保障」という構図も明確だった。エネルギー危機、地政学的緊張、サプライチェーンの分断といった背景のもとで、サーキュラーエコノミーは環境配慮ではなく、依存構造を内側から変える手段として位置づけられている。

法による解決が望まれる「廃棄物の壁」

プレナリーセッションには、欧州委員会DG環境総局(DG ENV)のエリック・マメール局長、ENVI委員会委員長のピエルフランチェスコ・マラン欧州議会議員、そして産業界からノルウェーの総合アルミニウム・再生可能エネルギー企業ヒュドロ(Norsk Hydro)のアイヴィンド・カレヴィク社長兼CEOが登壇した。

マメール局長はCEAに求められる役割を4点に整理した。

①シングルマーケットを活用して循環経済をニッチからメインストリームへ引き上げること
②需要が自律的に生まれにくい分野で市場を創出すること
③リサイクル産業がスケールできるだけのフィードストック(原料)を確保すること
④重要原材料における戦略的自律性の強化

この「スケール」という観点も、会議全体で強く共有されていた。循環経済はまだ多くがパイロットや限定的な成功事例にとどまっており、供給と需要を同時に立ち上げなければ産業として成立しないという認識である。

また、議論の中では「End of Waste Criteria(廃棄物終了基準)」の整備も重要な論点として挙げられていた。より多くの材料を廃棄物ではなく資源として扱うための共通ルールを整備し、加盟国間で調和させることが、二次原材料市場の前提になる。

産業界の現実として最も鮮明に浮かび上がったのが、カレヴィク氏の発言だ。ヒュドロは欧州最大級のアルミニウムリサイクル企業で、全欧州に50以上の生産拠点を持ち、一次アルミと同量の約100万トンのリサイクルアルミを年間生産している。

「ドイツの廃列車をベルギーの工場でアルミニウムとして再生し、新型車両の素材に戻す計画を立てました。しかしその列車は『廃棄物』に分類されるため、国境を越えて輸送することができませんでした。これは欧州におけるサーキュラーエコノミー成立を阻んでいる壁です」

域内市場でのモノの自由な移動を謳うシングルマーケットが、廃棄物の法的定義の不統一によって実質的に機能不全に陥っている──これがCEAが解くべき問題の縮図だ。「廃棄物」「副産物」「二次原材料」という三つの法的概念の不整合は、会議を通じて繰り返し俎上に載った。また、中国が補助金を背景にアルミスクラップを大量に買い付け、欧州のリサイクル産業が原料を確保できないという問題も指摘された。

さらに重要な論点として挙がっていたのが、「材料を欧州にとどめる」という視点である。リサイクル材やスクラップの供給が増えても、域内で十分な需要がなければ、それらはより高い価格で取引される域外市場へと流出する。その結果、欧州の産業基盤には戻らない。循環経済は供給側だけでは成立せず、需要側の市場設計と一体でなければ機能しないという認識が共有されていた。

欧州製造業評議会のデイヴィッド・フィッツシモンズ事務局長(ECESP Coordination Groupメンバー)は、別の事例を紹介した。EUレベルで「再製造(Remanufacturing)」の法的定義が明確化されたことが、その後、シュナイダーエレクトリックによる既存製品1,300品目の再製造プログラム立ち上げを後押ししたという。小さな制度整備が大きな市場変化を生み出す。CEAが期待される役割は、こうした点にもある。

投資はあるのにサーキュラーエコノミーには「流れない」──金融セッションからの学び

金融議論セッションで最も議論を集めたのが、投資の構造的矛盾だ。EIBは2020〜2024年に循環経済プロジェクト153件へ51億ユーロを投じてきた。しかし、EIBと欧州委員会DG ENVの分析では、EUが循環経済への移行を進めるには、2025〜2040年にかけて年間約820億ユーロの投資ギャップが残るとされる。

スポロス・プラットフォーム創業パートナーでECESPコーディネーション・グループ委員のアンドレイ・ゲイカ氏の発言が、この問題の構造を鋭く言い当てた。

「資本は水と同じです。抵抗の最も少ない経路を流れ、リスク調整後のリターンが最大になる方向へ向かう。現状では、金融の引力は圧倒的にリニアモデルへ傾いています。資本は”ある”が、循環型には”流れない”。問題は投資家ではなく、公共政策が線形モデルを経済的に不利にし、サーキュラーエコノミー型に収益性を生み出せるかどうかにあります。」

解決策は設計段階にある、とゲイカ氏は続けた。循環性を考慮せずに設計された製品が経済的に成立しなくなる条件を、制度としてどうつくるか──それが上流への介入だ。

金融セッションのもう一人の中心人物が、アンドリュー・モーレット氏だ。エレン・マッカーサー財団のCEOを10年以上(2014〜2025年)務め、同財団を循環経済の世界的な知的拠点に育てた人物として業界では広く知られる。エレン・マッカーサー財団は、2010年に元セーリング世界記録保持者のエレン・マッカーサー氏が設立した英国の非営利組織で、アップル、ユニリーバ、IKEAをはじめ世界300社以上が参画するグローバルネットワークを通じ、企業・政府・学術機関へのアプローチで循環経済を世界に広めてきた組織だ。

現在はスタンダードチャータード銀行のシニア・アドバイザー(循環経済担当)として、英国政府循環経済タスクフォースの議長も兼務するモーレット氏は、オランダInvest-NLのイェルーン・デルクス氏とともに共同議長を務める「循環経済ファイナンス・グループ(CEFG)」を紹介した。英国とオランダ両政府が立ち上げたこの枠組みには10の金融機関が参加し、10年間で最大100億ポンドの投資を動かすことを目標としている。「公共政策が民間資本の流れを変える」実証モデルとして期待されている。

この点は、会場で繰り返し語られていた「資本はあるが流れない」という問題とも一致する。スケールを実現するには、投資リスクを下げ、需要を創出し、供給と需要を同時に立ち上げる政策設計が不可欠である。

欧州委員会会議室で開催された2日目の金融セッションにて。筆者撮影

必要性が叫ばれた「サーキュラー・トランジション・ブローカー」

2日目はECESP Coordination Group主導のステークホルダーデイとして、グリーン公共調達・循環バリューチェーン・ファイナンス・包括的な循環社会・バイオエコノミーをテーマにした5つの並行ワークショップが行われた。政策の実装課題と解決策を、実践者の目線で議論する場だ。

とりわけ注目を集めたのが「サーキュラー・トランジション・ブローカー」をめぐる議論だ。規制・技術・金融・コミュニティなど複数の異なる「言語」を横断し、複雑なバリューネットワークの中で循環ビジネスモデルへの移行を促す役割を担う人材──弁護士でも技術者でも金融専門家でもないが、それらすべてと対話できるコーディネーターの必要性が、欧米の先行事例とともに語られた。参加者からは「これは完全に新しいプロフェッションだ」という声が上がり、ECESPとしてその概念の定義を深め、政策に位置づけていく方針が示された。

ECESPの共同議長ラデヤ・ゴディナ・コシル氏(Circular Change財団代表)は、この場の変化についてこう述べた。

「このプラットフォームはもはや任意参加の諮問機関ではありません。欧州委員会にとっても不可欠な政策対話のパートナーとして認識されています。10年かけて積み上げてきたものが、今まさに政策の中核に食い込んでいます」

バリューチェーンからネットワークへ。サーキュラー・トランジション・ブローカーが必要とされる背景説明のスライド。筆者撮影

取材後記

今回の会議では若者代表の参加も重視されていた。欧州委員会は循環経済法の策定に向けた意見募集プロセスで若者の声を取り入れており、EESCの検討文書にもその視点が反映されている。サーキュラーエコノミーは産業政策や資源政策であると同時に、次世代の社会設計をめぐる議論としても位置づけられていた。

また、2日間を現場で追って確信したのは、EUの循環経済が政治・産業・金融の三つの次元で同時に転換点を迎えているという事実だ。

さらに会議を通じて共有されていたのは、循環経済が理念ではなく、制度・市場・安全保障の問題として扱われ始めているという認識だった。

サーキュラーエコノミー法という具体的な立法期限が目前に迫るなか、地政学的緊張はサーキュラーエコノミーを「環境政策」から「経済安全保障政策」へと押し上げる力として作用している。ドラギ・レポートとレッタ・レポートが繰り返し参照され、一次資源への依存脱却と二次素材シングルマーケットの構築が、EU産業競争力の核として語られた。

ヒュドロCEOが挙げた廃列車の越境輸送問題、ゲイカ氏の「資本は水」という比喩、モーレット氏の英蘭官民連携モデル──これらは抽象的な政策論ではなく、現場がまさに乗り越えようと試みている問題の具体的な形である。

「私たちには、もう待っているだけの余裕がないのです」

レッタ氏のこの言葉は、2日間の会議を通じてすべての参加者が共有していた体感だった。資源をどこから得て、どこへ流し、誰の手に価値を戻すのか。循環経済をめぐる問いは、欧州だけでなく、日本の産業と暮らしにも投げかけられている。

【参照サイト】ECESP年次会議2026 公式ページ
【参照サイト】ECSPについて
【参照サイト】エンリコ・レッタ「Much More Than a Market — Speed, Security, Solidarity(レッタ・レポート)」(2024年4月)
【参照サイト】ノルウェー・ヒュドロ(Norsk Hydro)
【参照サイト】エレン・マッカーサー財団
【参照サイト】スタンダードチャータード、アンドリュー・モーレット氏招聘に関するプレスリリース(2025年)
【参照サイト】EU循環経済法(CEA)に関する欧州委員会ページ
【参照サイト】EIB循環経済投資レポート
【参照サイト】EUにおける循環率(欧州環境機関、2023年)
【参照サイト】関連記事CE Hub「地政学リスク下のEU。循環経済が支える戦略的自律と経済安全保障――欧州委JRCレポートを読む

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Edited by Erika Tomiyama

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