「自律する組織」は、なぜこんなにも面倒くさいのか。成長、信頼、時間軸から問い直す組織のあり方【イベントレポート】

2026.09.09

【特集】私たちの「働く」は、どんな社会を再生産しているのか?

私たちが人生の多くの時間を費やす「働く」こと。それは単に生活費を得るための手段であるだけでなく、私たちが社会に変化をもたらしたり他者とつながったりする身近な手段の一つです。しかし今、多くの人々が数字に追われ、規則に縛られる中で、本来のやりがいやパーパスを見失いそうになることもあるかもしれません。そうした問題を、組織として、あるいは社会のシステムとして、乗り越えることはできるのでしょうか?本特集では、このモヤモヤを個人の問題として片付けるのではなく、組織、ひいては社会のシステムを規定する「ガバナンス」というレンズを通して見つめ直します。

「もっと自律的に働ける組織にしたい」

そう聞くと、どのような職場を思い浮かべるだろう。上司から細かな指示を受けなくても、一人ひとりが考えて動く。意思決定の権限が分散され、自分らしさや創造性を発揮しながら働ける。そんな組織は、トップダウン的な意思決定が基本とされる職場に息苦しさを感じてきた人にとって、魅力的に映るかもしれない。

しかし、本当に人が自律的に働く組織をつくろうとすると、話はそれほど単純ではなくなる。事業の存続がかかる局面では、個人の想いを大切にする余裕を失ってしまうこともあるし、個々人の想いが対立したときの意思決定も容易くはない。また、会社のフェーズが変われば、求められる組織のあり方も変わってくるだろう。

では、本当の意味で「自律する組織」とは、一体どのようなものなのだろう。

そんな問いを持ちながら訪ねたのが、エディトリアルファーム・inquireによるサロン型イベントシリーズ「inquiring futures」だ。筆者が参加したのは、2026年6月末に行われた、第2回「自律する組織を、問い直す」のテーマ回。ゲストとして招かれたのは、株式会社令三社代表取締役の山田裕嗣氏と、株式会社ウィルネクスト代表取締役の中村真広氏だ。

山田氏は、人材育成支援やBtoBスタートアップの経営を経験した後、国内外のさまざまな組織の実践を研究し、企業の組織運営を支援してきた。一方の中村氏は、2011年に株式会社ツクルバを共同創業。上場と経営のバトンタッチを経験した後、現在は株式会社ウィルネクストを経営するほか、神奈川県藤野で「虫村(バグソン)」という暮らしの実験にも取り組んでいる。

国内外の組織を横断的に見てきた山田氏と、自ら会社をつくり、成長させ、経営を離れ、再び新たな組織づくりに向き合う中村氏。二人の対話から見えてきたのは、自律する組織を実現するための「正解」ではなかった。迷い、失敗、矛盾──理想として語られがちな「自律」を、現実の組織のなかでもう一度捉え直してみたい。

登壇者

話者プロフィール:山田裕嗣(やまだ・ゆうじ)

株式会社令三社・代表取締役。人材育成・組織開発を支援する株式会社セルムに入社。株式会社サイカの代表取締役COO、株式会社ABEJAの人事責任者などを務める。2018年には次世代の組織の在り方を探究するコミュニティとして、一般社団法人自然経営研究会を設立。2021年に株式会社令三社を設立し、自律分散型組織などに関する国内外の有識者との議論や、実践企業のサポートを手掛けている。

話者プロフィール:中村真広(なかむら・まさひろ)

株式会社ウィルネクスト・代表取締役。​1984年千葉県生まれ。東京工業大学大学院建築学専攻修了。株式会社ツクルバを共同創業し、東証グロース市場への上場を果たす。その後、取締役を退任し、神奈川県相模原市藤野へ拠点を移す。現在は、KOUとLUFの統合により誕生した株式会社ウィルネクストの代表取締役として、「Will(意志)」を起点にキャリアと組織を再設計する事業を展開。ツクルバから一事業を継承したBa&Co株式会社の代表取締役会長も務めるほか、虫村(BUGSON)を起点に地域の場づくりを行い、新しい地域と経済のあり方を探究している。

ファシリテーター

モリジュンヤ

株式会社インクワイア代表取締役 / 編集者。1987年岐阜県生まれ。フリーランスの編集者として活動後、インクワイアを設立。経営や事業、組織、テクノロジー領域における企画と編集を行う。株式会社IDENTITY取締役、NPO法人soar理事も務める。

自律を求めた二人が、それぞれに抱えた「宿題」

山田氏が組織について考え続けるようになった背景には、かつて経営に関わったスタートアップでの経験がある。

人材育成の仕事から転じ、30歳の頃、BtoBスタートアップの創業期に参画。仕事そのものは楽しかったという。しかし、事業の拡大とともに、成果や成長をトップダウンの形で追い求めていく組織のあり方と、個々の能力を発揮できる「自律型」を目指す自身の理想との間にギャップを感じるように。その後山田氏は、役員として組織づくりに対する十分な力を発揮できていないと思い、最終的に会社を離れることにした。

そして、そこに残ったのがある一つの問いだ。

山田氏「資金調達をし、事業をきちんと伸ばしながら、同時に個人の才能が本当に生かされる──そんな組織を、なぜ僕はつくれなかったんだろう。この問いが大きな宿題として残りました」

そして山田氏はあるときふと、「世界のどこかでは、この問いをすでに解いている人がいるのではないか」と思いつき、国内外のさまざまな組織を訪ね歩くように。ティール組織や自律分散型組織など、数多くの理論や実践に触れてきた。そして、さまざまな事例を見るなかで、あることに気づいたという。

山田氏「他の企業の成功パターンをいくら知ったとしても、結局『じゃあ、自分たちの会社ではどうする?』という問題は目の前に残るわけです。その答えは、自分たちで見つけるしかない。組織は、正解を導入するのではなく、つくっていかなければならないのだと思います」

山田さん

山田さん | Photo by 須古恵

一方、中村氏にも、過去の組織づくりから残された「宿題」があった。

株式会社ツクルバを経営していた頃、中村氏は、一人ひとりの「Be(あり方)」を大切にしたいと考えていた。その人の内側にある想いや「あり方」を言葉にする「Beの肩書き」をつくり、名刺の裏に入れることを提案したほどだ。「Do(何をするか)」ばかりではなくBeについて語り合う「Beランチ」という企画も開催していた。

中村氏「当時はとにかく『Beだ、Beだ』と言いまくっていたんです。だけど、成果をつくっていくことと、Beingを大切にし続けることを、僕はうまく両立できなかった。どこかで僕自身の心が折れてしまったのだと思います」

その後、中村氏はツクルバの経営のバトンを仲間に渡し、神奈川県藤野に移り住んだ。自然のなかで過ごしながら小さな集落をつくり、地域の人々と場づくりに取り組む。そんな生活は楽しかった。

だが、それでもスタートアップや会社という組織に関わり続けることをやめられなかったと中村氏は言う。

中村氏「自分が『良い』と思っていたもの、そして 『Be』を、最後まで貫けなかった。それが、ずっとどこかに引っかかっていたんだと思います」

中村さん

中村さん | Photo by 須古恵

そんなとき、中村氏は「LOVED COMPANY」という考え方に出会う。これは、人を大切にし、顧客や地域など、周囲から愛されながら長く続いていく会社のこと。その考え方に触れたとき、直観的に「これだ」と感じたという。

現在、中村氏が代表を務める株式会社ウィルネクストでは、全国各地にある「LOVED COMPANY」といえる企業を探し、その実践を社会に伝えようとしている。

一度はうまくできなかったことを、もう一度別の形で試してみる。二人の組織をめぐる探究は、成功体験から始まったものではない。むしろ、「なぜできなかったのだろう」という問いから始まっていた。

自律とは、「好きにさせること」ではない。人を“大人”として信じられるか

では、人が自律的に働くためには、何が必要なのだろう。山田氏が紹介した中で注目を浴びていたものの一つが、人を「大人として扱う」という考え方だった。

山田氏「重要なのは、相手を自律的に働ける人なのだと信じ、大人同士として対等に話すことです。会社のなかでは、経験も能力も、持っている情報量も違う。それでも、人としては対等に関わる必要があります」

これは一見当たり前のことのように思えるが、山田氏は「人は油断すると、職場のなかでも『親と子』のような関係をつくってしまう」と述べる。

たとえば、同僚や部下から「プロジェクトがうまくいかなくて困っている」と相談されたとき。多くの人は、親切心から「それなら、こういう視点で考えてみたら?」「こうした方がいいと思うけれど、どう?」などと答えるのではないだろうか。

一見、相手を助ける良いアドバイスに思える。しかし山田氏によると、この瞬間、互いの関係が変わってしまうのだという。

山田氏「こうするのはどうか、と提案するのは、自分が相手の課題解決を引き受けるということ。その人の代わりに問題を解こうとしていることです。本当は、その人は考えられる人なんだ、と信頼を置いたうえで、話をする必要があります」

しかし、実際にやってみると、これが驚くほど難しいのだそうだ。

「僕たちは、思っているより簡単に“親モード”に入ってしまうんです」と苦笑いした山田氏は、ここで「lazy question(怠惰な質問)」という対処法を紹介した。これは、質問する側が答えをつくらず、考える責任を質問者自身に返すメソッドである。

山田氏「例えば、『そうなんだ。あなたはどうしようと思っているの?』など、怠惰に聞きかえすことが大切です。話を聞きながら、こちらが解決方法を考え、そのまま相手に渡してしまうと、その時点で、その人が自分で考える機会を奪っていることになりますから」

「自律型組織」という言葉からは、組織図や意思決定のルール、評価制度など、大きな仕組みを想像するかもしれない。しかし、自律する組織をつくるということは、制度を変えることだけではない。

「この人は、自分で考えられる」

そう信じて、答えを渡したくなる自分を抑えられるか。自律は、日々の小さな会話のなかでも試されているのだ。

自律と成長は、本当に両立できるのか

ここまで聞くと、一人ひとりを信頼し、自分で考えられる環境をつくれば、自律的な組織ができるようにも思える。しかし、話はそう単純ではない。

中村氏は、自律と事業成長の関係を問われ、率直にこう答えた。

中村氏「正直に言うと、スタートアップで自律型組織を目指すのは難しいと思うんですよね」

LOVED COMPANYの事例には、事業承継をしてきた中小企業など、長い時間をかけて地域や人との関係を築いてきた企業も多い。そうした企業と、「来月には会社がなくなるかもしれない」という状況で急成長を目指すスタートアップでは、置かれている条件が大きく異なる。

中村氏自身、ツクルバの成長過程で、その難しさを経験した。

中村氏「上場すると、株主の存在も大きくなります。短期的な成長を求める投資家に対して、『自分たちは違う時間軸で会社をつくるので、それが合わないなら別の道を歩みましょう』と言う選択肢もあったのかもしれない。しかし当時は、そうできなかったんです」

一方、山田氏もまた、自身が経営に携わったスタートアップについて、「いま振り返っても、あの局面では統制型の組織が正しかった」と話す。

山田氏「僕は本当は、統制型の組織は好きではないんです。でも、プロダクトをつくって、上場を目指すためには、分業して、役割を明確にして、それぞれが責任を果たす組織をつくったことは間違っていなかったと思っています。好きではないけれど、正しかった。そういう感覚があります」

自律は善で、統制は悪。そのような単純な二項対立では、現実の経営を捉えられない。

中村氏「僕も山田さんと似ていて、本来は自律的なものが好きなんです。統制型の組織をつくることは、自分にとって自然ではありませんでした。でも、それをやらなければ突破できない局面があることも理解していて……。その瞬間には正しい。ただ、それを一生やりたいのかと言われたら、違うんですよね」

では、会社のフェーズに応じて、組織のあり方を変えることはできるのだろうか。中村氏は、ツクルバ時代を振り返りながら、ティール組織における「色」の概念を服のコーディネートになぞらえて説明した。

ティール組織とは
経営者や管理職が上から細かく指示するのではなく、現場のメンバーが必要な情報を共有しながら、自律的に判断して動く組織のあり方。フレデリック・ラルーが提唱した概念で、組織を機械ではなく、環境に応じて形を変える生命体として捉える。ラルーは、組織のあり方を、その組織を支える価値観や人間観の違いに応じて、五つの色で整理している。

  • レッド:強いリーダーが、力や恐怖を通じて人々をまとめる組織。
  • アンバー:階級や役割、規則を明確にし、上意下達で動く組織。
  • オレンジ:目標達成や効率、競争を重視し、成果で評価する組織。
  • グリーン:共通の価値観や対話を重んじ、現場に権限を移す組織。
  • ティール:階層に頼らず、目的に沿って自律的に変化する組織。

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中村氏「基本的にはオレンジ的なモードで進まなければ、計画を立てて会社を成長させることは難しかったと思います。でも、オレンジ一色のコーディネートだと、自分自身も共感できないし、メンバーも疲弊する。だから、オレンジを多めにしながら、グリーンを“差し色”として入れる、そういうバランスの取り方をしようとしていました」

当時、もう少し自分自身を俯瞰できていれば、「いまはオレンジを強めにする時期だ」「落ち着いたら少し戻そう」と考えることができたかもしれないと中村氏は振り返る。ただし、組織のモードは、服を着替えるように簡単には変えられない。

中村氏「オレンジのモードのときに採用した人は、当然、その環境に合う人ですよね。その人たちに、ある日突然、『明日からグリーンの服を着てください』と言っても、簡単には変われません。そこが難しいところだと思います」

会社のフェーズはどこにあるのか。外部から短期間での成果を求められているのか。合意形成にどれだけ時間を使えるのか。会社の方向性を、自分たち自身で決められるのか。

自律する組織を考えることは、組織文化だけではなく、事業や資本のあり方を考えることでもある。

オレンジとグリーンのグラデーション

組織には、それぞれ異なる「時間」が流れている

自律型組織を考える際に、もう一つの重要な視点がある。「時間軸」だ。

国内外の企業を訪ねてきた山田氏は、何代にもわたって続いてきた会社と、設立されたばかりの会社では、そもそも流れている時間が異なると指摘する。

山田氏「100年前から続いている会社の人に話を聞くと、『次の100年』を当たり前のように考えているんです。自分が先代からバトンを受け取り、それをまた次の100年に渡す。そういう時間軸で組織を見ています。一方で、まだ5年しか存在していない会社に、次の100年を考えてくださいと言っても、難しいですよね。組織にデフォルトで設定されている時間軸の違いは、いろいろな会社を見ていて、とても大事だと思います」

もちろん、若い会社が必ず短期志向になるわけではない。山田氏が見てきたなかには、創業からまだ10年に満たない段階でも、長期的に経営を捉えているケースは多く存在する。そうした企業は、「人や文化が先、事業が後」つまり「良い組織をつくることが最優先、それが達成できてこそ事業ができる」という哲学を徹底しているのだそうだ。

山田氏「状況が良いときも悪いときも、変わらずに同じことを言い続けている──会社のそんな姿を見ている従業員たちは、『この会社は、事業もそうだけれど、何より良い組織づくりを真っ先に考えるんだな』と、信じることができます。創業してからの年数が短くても、今が不安でも、この先を見通して会社に関わっていこうと思える。だからきっと、自分たちで時間軸を選ぶことはできるんだと思います」

中村氏は、その話を受けてこうコメントした。

中村氏「業績が良いときも悪いときも、トップが信念に基づいて同じことを言う。その『魂』のようなものが貫かれていると、それが文化になっていくのかもしれませんね」

制度が変わっても、組織をつなぐ「物語」

では、事業のフェーズが変わり、人も入れ替わり、組織の形も変化していくなかで、何が人々を一つの組織につなぎとめていくのだろう。

山田氏は、組織を「人々が共有する大きな物語」と表現した。

山田氏「会社には、物語を『書き始めた人』がいます。そして、そこにはいろいろな人が関わっていきます。『何を実現したいのか』『なぜ続けていく必要があるのか』そんなふうに考えながら多数の人々が関わり続けることで、組織という物語が続いていくのではないかと思います」

同時に山田氏は、それぞれがその物語への関わり方を緩やかに変えてもいい、とも話す。

山田氏「関わる人が、自分の人生のうちどれくらいを会社に預けたいのか、自分で選べる状態が続いていることが大切だと思います。強い組織とは、『自分の人生の重心をここに預けたい』と思う人が多い組織なのかもしれません。その比率や濃度が、これからますます問われていくのだと思います」

この話を受け、中村氏が持ち出したのが「コモンズ」という視点だった。

中村氏「これから会社という組織は、もっと『コモンズ』のようなものに近づいていくのかもしれません」

中村氏が暮らす藤野では、その土地や環境を「皆の共有物」としてともに維持している。途中で土地を離れていく人もおり、暮らす人の数は流動的だが、皆そこにいる間は、共同体の一員としてこの場所に関わっていくという。

中村氏「自分は今、たまたまここに存在している。では、ここにいる間、目の前のコモンズにどう関わるのか。これからは、組織のあり方においてもそうした点が問われていくのかもしれません」

会社は、一度入ったら人生を捧げ続けなければならない閉じた場所ではない。自分が共感する物語に参加し、緩やかにその関わり方を変えることのできる共同体なのだ。

本棚から本を取る手

自律する組織は、きっと「面倒くさい」

イベントの終盤、会場からこんな問いが投げかけられた。

一人ひとりが自分の想いを持ち、自律的に動くようになれば、当然、異なる意見が生まれる。それをまとめ、向き合っていくことは、かなり面倒なのではないか。

山田氏は、「面倒くさいですよ。きっと(笑)」と笑いながらも、自律型組織は、決して万人に合うものではないと続けた。

山田氏「合わない人には合わないと思います。マッチするかどうかは、得意/不得意なスポーツの種目がそれぞれ違うようなもの。だから、自分が得意なフィールドで得意なスポーツをするのがいいと思いますね」

山田氏はこれまで、世界各地の自律型組織を訪ね、多くの実践者に話を聞いてきた。そこで、ある共通点に気づいたという。

山田氏「誰一人として、『今の組織が完成形です』と言う人はいないんです。苦しみながら試行錯誤して、結果的に現在の形になっている」

自律的な組織をつくろうとしたからといって、対立がなくなるわけではない。むしろ、人が自分の意思を持って関わるからこそ、衝突することもある。長く一緒に働いてきた人が去ることもある。信じていた方法が、うまくいかないこともある。

山田氏「中には、20年経って、ものすごく濃度の高い自律型組織になっている会社もあります。でも、その過程は辛く、簡単ではなかったといいます。それでも、その面倒くささに向き合い続ければ、組織は良くなり得る。いろいろな組織を見てきたからこそ、僕はそこに希望があると思っています」

山田さん・中村さん

Photo by 須古恵

編集後記

自律的な組織、と聞くと、ある種キラキラしたものが想像できる。社長も社員も、それぞれが自分なりの「WANT」を持ち、自ら考えて動く。一人ひとりが自律しているからこそ、議論を活発かつ前向きに交わし、決まったことはエネルギッシュに実行できる。

共通の目的に向かいながらも、個人の情熱や能力が十分に生かされる──自律型組織とは、組織が最終的にたどり着く理想の場所なのだと思っていた。

だが、お二人が話していた自律は、決して華やかなものではなかった。それは、想像していたよりもずっと面倒くさく、地道で、泥臭い。

相手には自分で考える力があると信じ、答えを渡したくなる自分を抑える。異なる意見が生まれれば、時間をかけて向き合う。状況によっては、自分の好みとは異なる統制のあり方を選ぶ。そして、うまくいかなければ、また自分たちの組織のあり方を問い直す。自律とは、理想の仕組みを一度完成させれば手に入る状態ではなく、人と人との間に生まれる面倒くささから逃げず、試行錯誤を繰り返していく営みなのだ。

また、自律型組織というと「内側からエネルギーがとめどなくあふれ続ける人」だけが関われるものだと思われることもあるだろう。常に強い意志を持ち、自分の考えを言葉にし、組織に深くコミットし続けられなければ、その一員にはなれないのではないか、と。

だが、誰もが同じ熱量、同じ濃度で関わる必要はない。人生の状況に応じて、組織に重心を預ける割合を緩やかに変えることもできる。ある時期には物語の中心に立ち、別の時期には少し距離を置く。関わり方が変わっても、その人なりの方法で組織の物語に参加し続けることはできるのだ。

自律する組織とは、全員がいつでも意欲に満ち、迷いなく動き続ける場所ではないのかもしれない。異なる意思や事情を持つ人たちが、互いの関わり方の違いも含めて認め合いながら、いまの自分たちにふさわしい形を探し続ける──完成形のない、その営みそのものを「自律」と呼ぶことができるのかもしれない。

【参照サイト】inquire
【参照サイト】inquiring futures #2「自律する組織を問い直す」
【参照サイト】令三社
【参照サイト】株式会社ウィルネクスト

この記事を書いたライター

大学ではメディア文化を専攻し、政治、広告からおもちゃ、ファッションまで幅広い題材を通して意味の形成過程やモノの見方について学ぶ。入社後は、IDEAS FOR GOODでの編集・ライティングに従事し、発達障害やうつの方のためのビジネススクール「キズキビジネスカレッジ」との共同ライティングプログラムの立ち上げにも携わる。そのほか、企業のオウンドメディア運営支援や展示企画などを担当。関心テーマは多様性、とくにニューロダイバーシティ。ハッとする言葉や考え方との出逢いは、人をしなやかに変えてくれると信じており、新しいアイデアや発想の仕方、それを届ける多様な表現に触れるのが好き。目標は、言葉の力で、誰かの心を「紙1枚分」軽くすること。