「足りない」が、それでいい。ティール組織に学ぶ、多様性を活かす企業のヒント【ウェルビーイング特集 #39 多様性】

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大量生産大量消費の時代で生まれた、高い生産性と効率化が求められる組織の中で、自信を失ってしまう経験は一度や二度、きっと誰しもにあるだろう。

人生の究極の目的は成功したり愛されたりすることではなく、自分自身の本当の姿を表現し、本当に自分らしい自分になるまで生き、生まれながら持っている才能や使命感を尊重し、人類やこの世界の役に立つことなのだ。

2018年に日本語訳が発売された後、各方面で話題を集めた『ティール組織』(フレデリック・ラルー著、英治出版)の中にある一節である。ティール組織とは、1970年ころから生まれた組織形態で、ピラミッド型組織ではなくCEO・経営陣と多くのチーム、サークルなどが信頼で結びついた組織のことをいう。上限関係がなく、一人ひとりの構成員に自律的判断が委ねられているのが大きな特徴だ。

「大きい組織ではヒエラルキーが強いので、せっかく仲間たちと語り合って会社を変えようと思っても、一つのトップダウンの意思決定で全てが白紙になってしまうことは珍しくありません。そうしたときに、『人類は組織の作り方を間違えたのではないか?』という問いが生まれたんです。」

今回お話を伺ったのは、そんな組織に対する問いを持ちながら、同書の解説を手がけた嘉村賢州さんだ。嘉村さんが代表を務める「場とつながりラボhome’s vi(ホームズビー)」の組織づくりや、現在探究されている「組織生態系理論」を紐解きながら、多様性を“認める“から、”活かす“ことのできる組織づくりのヒントを探していきたい。

話者プロフィール:嘉村賢州(かむら けんしゅう)さん

嘉村さん場づくりの専門集団NPO法人「場とつながりラボhome’s vi」代表理事、東京工業大学リーダーシップ教育院特任准教授、『ティール組織』(英治出版)解説者、コクリ!プロジェクト ディレクター(研究・実証実験)。集団から大規模組織にいたるまで、人が集うときに生まれる対立・しがらみを化学反応に変えるための知恵を研究・実践。研究領域は紛争解決の技術、心理学、先住民の教えなど多岐にわたり、国内外を問わず研究を続けている。

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「魔法の時間」にみんなが出会えたら、世界はもっと良くなる

Q. そもそも嘉村さんが、組織づくりの探求をしたいと思った経緯を教えてください。

僕自身は発達障害とADHDを持っていて、よく忘れ物はするし、納期を守れないし、昔からコミュニケーションも苦手でした。コミュニケーションの苦手意識がなくなったのは、大学時代の友人に誘われた国際交流団体に参加したことがきっかけでした。そのときに「広報」という役割をもらったことで、人と喋りやすくなったんです。

期限と目標があって走り切る、プロジェクトというものを通して、私は居場所を得ることができるのだと感じました。そして何よりも人が集うと、自分1人ではできない大きなことを成し遂げることができる。そうした人の集まりにすごく関心を持ったんです。

学生時代は、肩書きに関係のない、ありのままの自分をさらけだせる人と人の出会い方を生み出すために、マンションの一室を24時間開放して、一見さんお断りの紹介制による学生コミュニティを作りました。連れてこられた人は、24時間365日、サークルのアジトのようにその場所を使える。そうしたら5年間で1,000人ほどが訪れるようなコミュニティになったんです。

学生同士なので、他愛もない恋愛やテレビの話から始まり、夜更けになるとだんだんみんな悩みや夢を語り始めたり日本の未来を語り始めたり。すると泣きながら喋る人が生まれることもあり、僕らはこれを「魔法の時間」と呼んでいました。これらの場の力を体験し、こうした魔法の時間を、世界中で味わえたら、もっとこの世界は良くなるのではないかと夢見ていたんです。

嘉村さん

嘉村さん

Q. それからどのようにティール組織を目指していったのでしょうか?

もともと組織の中で、個人が何かを犠牲にすることはあり得ないと思っていました。年間有給休暇の取得日数制限などがあることにも疑問を持っていて、誰しも家族の死や失恋、人生を模索したいときなど、人生の中で絶対に立ち止まりたいときがあると思うので、3か月でも1年でも休みたいときに休めたらいいというのが僕の考えでした。

なのでティール組織を見たときに、いち早く日本のモデルとして、僕が運営するホームズビーを見ればティール組織がわかるようにしたいと、スイッチが入ったんです。しかし、そうすると、これまで仲間それぞれの人生のリズムで緩やかに成長してきた組織だったものが、ティール組織になるという目標がきて、人よりも計画の方が先にきてしまいました。

「ティール組織を目指す」ということが、そもそもうまくいかず、「ティールは目指すものではない」という学びがありました。自然とやっていたら、外から見ていつのまにかティール組織っぽいと言われるぐらいでいいんじゃないかと思い始めたんです。

たとえばホームズビーは、割とみんな個人事業主的に動いているんですが、せっかく仲間が集まっているのに、1人でやれてしまうような仕事をこなしていました。それを誰が何をやっているのか見える化したことで連携したり、より新たなシナジーが生まれたりするようになったんです。

人は、「足らず」があるからつながれる

Q. 嘉村さんはすごく自分の弱さと向き合っているように感じるのですが、組織の中で「弱さ」についてどのように考えていますか?

僕が自分のことを、発達障害だと気づいたのは、社会人になって数年目でした。僕と同じ傾向を持つ仲間が、急に事務所に駆け込んできて、ADHDのことを扱った本を紹介してくれたんです。読んだときに目からウロコで、忘れ物が多いことや出したものを元の場所にしまえないのは、脳の構造の問題だということを知ったときに、2つのことを感じたんです。

一つは、脳に障害を持って生まれてきてしまったというショックでしたが、それ以上に安心感がありました。それは、「自分のせいじゃなかった」と思えたからです。自分を責める感覚がなくなりました。これまで僕は、「なんで僕の親は、ちゃんとしつけをしてくれなかったんだろう」とか「なんて自分の意志力は弱いのだろう」と思っていたんです。しかしこれが脳の構造の問題だと知ったとき、これをもし知らずに親になり子どもにその価値観を押し付けていたら、どれだけ負担を与えるんだろうと思い、ゾッとしました。

それもあって、凸凹をありのままに大事にする、「あり方」が大事だということに気づかされ、弱いところを改善するんだったら強みを伸ばして、弱みを補い合える関係の方が豊かだなと思ったんです。弱いところがないと、人は全部自分でやってしまうんですよね。人は、足らずがあるからつながれるもの。人には必ず凸凹があるので、多様であればあるほど、補い合える。多様性を持つ仲間が集まり、「ここはやれるけど実はそんなに得意ではない」と、もっとありのままを表明できると、みんなが強みに集中できるようになるんです。

Q. 弱さを大事にするにあたって、組織の中でどのようなことをやっていますか?

たとえば、役割分担ですね。それぞれが主観で「Want」つまり、自分がその業務をどれだけやりたいかというのを「ー2」から「+2」までの間で表現します。あとは「Can」で自分のその業務を遂行する能力を「0」から「5」で表現。組織としては複数の役割も大歓迎なので、広報をやりながら営業と開発の両方をやる、というふうになったとき、自分の引き受けている役割を全て眺めながら、できるだけマイナスの役割を減らそうという考え方があります。どうしても人がいなくて、「私はマイナスでも引き受けます」という人も出てくると思うんですが、組織全体の目標として、マイナスで請け負っている人がいない状態にするために対話を繰り返しています。

厳しめのフィードバックなどプレッシャーをかけて人をコントロールするのではなく、その人が何にワクワクして何にワクワクしないのか、何が引っかかっているのかをぶっちゃけて話すような場を作っています。そうした対話の中で色々なことが湧き上がってきて、その人が輝く領域を見つけることができるんです。

組織は、個人のパーパスを持っている集合体

Q. 現在探求されているという、「組織生態系理論」について教えてください。

ティール組織のグリーンの段階は、「人それぞれ違う価値観や想いをちゃんと出せるような組織にして、多様性を受け入れる状態にしよう」というものです。同時にそれは、「私は私、あなたはあなた」になりやすいんです。グリーンは全部大切にしあうので、話し合いやワークショップが永遠に長く続くようなことも起こりがちです。かつ民主性を大事にしているので、みんなで話し合って決めるんですが、結局誰も責任をとっていない状態になる。「Aのアイデアは面白そうだったけれど、Bの人の発言や、Cの声も入れてあげないといけない……」という話になってくると、結局ふわっとしたものになってしまうことが多いんです。

ティール組織

Image via home’s vi

ティール組織の場合は、パーパス(存在目的)というのが人の代わりに上司になります。なので役割を担当する人は何か上司に承認をもらったり、会議で決定しお墨付きをもらうようなプロセスをする必要はありません。もちろんパーパス自体の共有度が重要にもなるので、定期的に合宿をしたり日々対話する中で一人ひとりが組織の目的を探究したり、擦り合わせたりすることも重要になります。

また特にパーパスの声がクリアに聴こえる人がいて、その存在がいるから他のメンバーもパーパスの声が聞きやすくなるということはあります。そういった役割をソース役というのですが、現場はそのソース役に適宜アドバイスをもらったり相談することで、指示命令がなくても現場の意思決定で自由に動けて、最終的には自己決定をチームでできるんです。

ソース役は指示命令できるわけではなくて、聴こえているパーパスのメッセージをみんなに発信していく。そうすると、現場も徐々にクリアに聴こえてくるようになり、究極的にはソース役が存在しなくても自己決定できるようになっていくんです。そういった、まだ形にはなっていないけれど確かに存在するパーパスを実現するのがティール組織であり、みんなが好き勝手にやりたいことをやっているのがティール組織であるわけではないんです。

そうしたときに、次の違和感があります。「組織のあらゆる人がフルタイムで同じパーパスを目指すことがありえるのか」という問いです。組織に集まっている個々人はそもそも1人ひとり固有のパーパスに生きる、自身のソース役であるといえます。確かに運命的にそのパーパスで共鳴する人たちが集まって組織になりますが完全に一致するとは限らないのです。中途半端な状態だと、個々人のパーパスの声も聴こえなくなり、また組織全体のパーパスも何か寄せ集めのような濁ったものになってしまうのです。そのときにみんなで対話をして、個々人そして組織自体のパーパスを鮮明にしていくのがティール組織の姿といえます。

そういう点ではフルタイムで全員が同じ目的を目指すのは不自然であり、本当の理想は自分の人生の時間が10割あったときに、7割の時間は今所属している組織のソース役が見ているパーパスに捧げる。残りの3割は何か違うものに呼ばれている気がしていて。そのために違う組織に属しますが、その3割のプロジェクトは自分がソース役として、他の人を巻き込んでやることもあるかもしれない。

組織の内外にそういったプロジェクトがどんどん生まれていく中で、組織の殻がもう少し緩やかになり、働き方が変わってくることを、「組織生態系理論」と僕が仮でネーミリングをしています。組織で人の人生を囲い込まず、会社はあくまで個人のパーパスを持っている集合体というスタイルになっていくのではないでしょうか。

数年前に大企業の経営幹部候補生が集まるイノベーション研修でアイデア出しをしたときに、「もっと豊かな社会になる」とか、「夢が膨らむ」というものではなく、「こんな技術があったら楽になる」とか、「時間を削減できる」ことをベースとしたアイデアしか出てこなかったことがあり、びっくりしたのを思い出します。

歯車化していて、数値で結果を出せば出世できるというヒエラルキー構造の組織の中で人々は、自分が何をしたいのかということよりも、どうしたら安定して結果を出せるかというところに集中してしまっているんです。

自然界に山ほどある自己組織化のメカニズム

Q. ティール組織の著者であるフレデリックさんは今エコビレッジに住まれていて、ティール組織から離れて環境問題に取り組まれているんですよね。

ティール組織が落ち着いて、彼が一呼吸おいて次は何をしようかと考えていたときに、あまりにも環境問題に関して見て見ぬふりをしてきたということに気づいていくんですよ。

そのときに彼の中で湧き上がってきたのが、「子どもたちが次の世代に残したいと思える世界をちゃんと用意しておいてあげたい」ということでした。そうして彼は、環境問題に従事することを決めたのです。

世界の社会問題について調べあげたフレデリックは、うまくいっている活動とそうでない活動の違いが見えてきていると言いました。それは、真面目すぎるものや、こうしなければならないと義務感でやっている活動は、ことごとくうまくいっていない。クールさや楽しさ、そしてコミュニティが大事だと話し、映像を使ったプロジェクト『The Week』を今、ヨーロッパとアメリカで映像作家を巻き込んでやっています。

そもそもフレデリックが世界の現行の組織に違和感を持ったとき、次の時代のキーワードとして掲げたのが「リビングシステム(生態系)」です。体の一部だけを分析して治療するのではなく、その人のストレスや生活リズム、人間関係などのトータルなもので見たときに病気になる、というような、システム全体の循環や、多様性が息づいているリビングシステムの考え方が今、色々な業界レベルでキーワードになっています。教育も医療も、生態系や生命体の考え方になっていく。要は多様性が混ぜこぜになって循環し、全体をきちんと意識するようになるということです。

こうしたリビングシステムのような生命体・生態系のような組織が世界中で多く発見されています。鳥の群れのような自己組織化のメカニズムは自然界に山ほどあるので、自然から学ぶことで、人間が見えてくるものがたくさんあると思っています。

一人ひとりの中に宿る、「魂という野生動物」を取り戻す

Q. 嘉村さんのこれからの問いはなんですか?

人間、本当は1人ひとりものすごく感受性の鋭いセンサーを持っていて、自分の内側も外側も含めて色々なものを感じることができると思っています。自分の内側に耳を進めていくと、いろんなwantに溢れていることに気づきます。しかし、指示命令や評価にさらされる中でみんなセンサーを切っていて、与えられた役割だけをこなし、自分のwantや感情にアンテナさえあげなくなっている状態が生まれている。僕は、それを取り戻したいと思っています。

いわゆる社会で活躍しているというのも、要は社会的ヒエラルキーでいう上の層の人たちだったり、プレゼン能力が高かったり戦略を練るのが得意な人だったりで、一定の評価を得ている人も多いと思います。しかし、そういった人たちでさえも自分の内側にはアクセスしていなかったり、それ故、数字の結果は出していても、組織としては本当に世の中に必要としているものを提供できているかや人類の発展に寄与しているのかといえばそうではない。時には持続不可能な社会に加担してしまっている場合もあるのです。極端な表現で言えば「高度なルーチンワーク」をしているだけの状況の人が増えていると言えます。

1人ひとりがセンサーを取り戻し、あらゆる人とつながって、心を宿しながら協調的に何かを作っていくことで、もっと柔らかい世界になっていくと思っています。

ティール組織ではこれを「魂という野生動物」と表現しています。人々の中に宿る、小さな野生動物のような魂を掘り起こすような組織論や社会論、社会システムとか教育など、やるべきことがいっぱいありそうです。

フレデリックが影響を受けているパーカー・パーマーは、「自分の中の魂の野生動物を思い起こすときに、1人の力では無理だ」と言いました。絶対にコミュニティの力が必要だと。それはやはり自分と違う人たちと対話することによって、自分というものをより理解でき、それが自分の魂に気づくきっかけにもなるし、自分のインテグリティ(※)を貫くときに、言うは易し行うは如しで、すごい勇気がいる。

(※)正直さの実践と共に、高い道徳・倫理的な原則と価値観を持って一貫し、妥協なくそれらを遵守する振る舞いを指す。

そんなときに、絶対にコミュニティという支えがないと、1人で野生動物を守るインテグリティを貫くのは難しい。だからこそ自分を掘っていく上で多様性が必要であるし、生きていく上でも多様性が必要。そうなったときに、人との出会いと素晴らしい関係作りがキーワードになってくるのだと思います。

嘉村さん

嘉村さん

編集後記

フレデリック氏がティール組織において「リビングシステム」をキーワードにしたように、数え切れないほどの生命体が多様にいる自然界では、「廃棄物」という概念は存在せず、それぞれが支え合いながら、循環の仕組みを作っている。

人間も、そんな自然界の仕組みと同じように、誰もがどこかで必ず活かされる場所がある。一人ひとりが、自分自身が持っている感覚を大事にすることで個の多様性が生まれ、それが組織の多様性となる。

人と同じことができなくたって、自分にしかできないことがある。人を羨むこともあるかもしれないが、その人が羨む自分の強みだってきっとある。自分自身の本当の姿を表現し、本当に自分らしい自分になってその輪郭がはっきりとしてきたとき、それは必ず誰かの凸凹とつながる。自分が自分らしくいるだけで、誰かのためになる──そんな世界が広がるといいと心から願う。

【参照サイト】 場とつながりラボhome’s vi

「問い」から始まるウェルビーイング特集

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