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「なぜ、こんなに多くの人が課題を“知っている”のに解決は進まないのか」
「なぜ、汗水流して働いても生活苦に悩む人がいる一方で、富を蓄積し続ける人が同時に存在するのか」
インフレや気候変動の深刻さを認識していながら、具体的な行動や変化を起こすことの難しさに、もどかしさを感じたことはないだろうか。システムが大きすぎるあまり、個人の努力だけではどうにもならないという無力感が社会に漂っている。
しかし今、アメリカでは「共通の危機」に対する意識の高まりを通じて、政治的立場の違いを超えて社会に変化を起こそうとする動きが生まれつつある。
生活苦と気候変動を同時に解決する新アジェンダ
2026年4月、米国のシンクタンク「Climate and Community Institute(CCI)」は、気候変動と生活費高騰の危機を同時に解決するための労働者階級の気候戦略として「Stop Greed, Build Green(欲を止めグリーンを築く)」を公開した。
これは、労働者の暮らしを直接的に改善するための政策提言である。電気、ガス、家賃、食費などの生活コストが高騰し、異常気象が暮らしを脅かす一方で、富裕層はAIなどを使ってさらに富を蓄積していくという不均衡を批判している。
この提言が掲げるビジョンの大枠は、次の3つだ。
- 気候変動政策の実装
- 生活コストの低減と雇用の創出
- 労働者階級が主導する移行(トランジション)
さらに具体的には、交通、住宅、エネルギー、公共財の各分野にわたるアクションプランが提示されている。

※ 4分野のアクションプラン(一部抜粋)|資料をもとに筆者作成
こうした積極的な介入を求める動きは、単なる提言にとどまらない。実際の政治の現場でも変化が起きている。
2026年1月にニューヨーク市長に就任したゾーラン・マムダニ氏は、公共交通の無料化や脱炭素化された公共住宅の実現を公約に掲げて当選。就任100日の演説では、生活費対策として市営食料品店を開設する計画を発表した(※1)。
同じくシアトル市長に就任したケイティ・ウィルソン氏も、同様の公約を掲げて当選した。生活費への不安と気候変動の危機を切り離さず、どちらも「暮らしを脅かす地続きの課題」と捉える姿勢が、有権者の共感を呼んでいる。
イデオロギーを超えた連帯は可能か
こうした流れに、どんな印象を抱くだろうか。トップダウンの動きや市場への積極的介入に対し、着実な変化への希望を感じる人もいれば、その強い権限に不安を覚える人もいるだろう。
東京大学の斎藤幸平氏は、米国で起きているこうした傾向を「左派ポピュリズム」と呼び、機能不全に陥った資本主義への不満の現れであると分析している(※2)。
同氏は著書『人新世の「黙示録」』においても、気候変動という共通の危機下では、市場の自由を制限し、真に必要な物資やサービスを優先して資源を供給する計画経済の視点が必要であると提示している。
ただし、これらの動きは「左派 vs 右派」や「資本主義 vs 社会主義」といった従来の二元論的なイデオロギーだけで捉えられるものではない。実態は、異常気象とインフレという二重の生存危機に直面する中で、人々が思想の違いを超えて「共通の生存基盤を守る」という実利的な目的のために結集し始めているとも理解できる。
ここで注目すべきは、かつての産業社会における「被雇用者」という狭い意味での労働者像が変化しつつあることだ。今浮上しているのは、エネルギーや住宅、食料といった生活に不可欠な公共財(コモンズ)を守り、持続可能な形で再構築しようとする「生活者としての労働者」の連帯である。個の努力に限界を感じるからこそ、共通の利害を持つ階級として結びつき、社会的な発言力を強める動きが無視できないものになっている。
「見かけ上の平和」の先にある選択
この流れは、決して他人事ではない。世界では地政学的な緊迫からエネルギー供給が不安視され、フランスでの燃料品切れや、韓国での交通規制が報じられている(※3, 4)。しかし、現在の日本では、そうした日常的な制約を生活の中で感じる機会はまだ比較的少ない。毎年訪れる記録的な猛暑さえも、私たちは「新たな日常」として、いつの間にか受け入れつつある。
不足すると言われたガソリンはこれまで通り給油でき、肥料不足が指摘されてもスーパーには食材が並び、ニュースが伝える「危険な暑さ」も個人の熱中症対策の呼びかけとして聞き流してしまう。現在の日本社会は、そうした「見かけ上の平和」に甘んじている状態なのかもしれない。
しかし、私たちが「消費者」として市場に選択を委ね、個々に孤立している限り、社会構造の歪みにアプローチすることは困難だ。
これに対して、米国で起きている変化が私たちに示唆しているのは、生存の危機に対して私たちは「ただ影響を受け流すだけの受動的な存在」から、「生存基盤を能動的に守ろうとする主体」へと自らを再定義できるという事実である。
米国の動きをそのまま模倣することは、必ずしも正解ではない。しかし、グローバルな危機の波が浸透しつつある今、社会システムを形作る一員として、私たちは自らの選択が持ちうる影響や、身の回りに必要な連帯のあり方について、対話を始める時期に来ているのではないだろうか。
※1 【解説】 マムダニNY市長、就任から100日 成果と課題|BBC
※2 NY新市長に社会主義者マムダニ氏◆「左派ポピュリズム」から見えるもの(東京大学大学院准教授・斎藤幸平)|時事ドットコム
※3 Fuel shortages in France hit almost 1 in 5 petrol stations, says government|RFI
※4 韓国大統領、国民に省エネ要請 公用車の利用も縮小|ロイター
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