社会をもっとよくする世界のアイデアマガジン、IDEAS FOR GOODの編集部が選ぶ、今月の「ちょっと心が明るくなる世界のグッドニュース」。前回の記事では、国ではなく「地球」を背負うユニフォームや、つながりをつくる「ちら見」ロボットなどを紹介した。
日々飛び交う悲しいニュースや、不安になる情報、ネガティブな感情ばかりを生む議論に疲れたあなたに。世界では同じくらい良いこともたくさん起こっているという事実に少しのあいだ心を癒し、また明日から動き出そうと思える活力になれば幸いだ。
愛に溢れた世界のグッドニュース5選
01.「返礼品はいりません」ふるさと納税のメロンを、子どもたちの給食に
ふるさと納税の楽しみの一つといえば、その土地ならではの返礼品を選ぶこと。お肉に果物、海産物──どれにしようかと迷う時間も楽しい。
ところが鹿児島県垂水市には、自分が返礼品を受け取るのではなく、子どもたちに地元の食材を届けてほしいと願った寄付者がいた。
「返礼品の代わりに子どもたちに、地元の食材を食べさせてほしい」との匿名の電話を受け、垂水市では地元産のメロンを市内の小中学校の給食で提供。市内全校で821食分、計70玉が振る舞われた。
垂水市では以前から、ふるさと納税の寄付者の厚意により、メロンや地元産豚肉を使った料理などを給食で提供している。市立学校の公式発信でも、匿名の寄付者から贈られたメロンを児童が食べる様子が紹介された。
ふるさと納税では、返礼品を寄付者自身が受け取ることが一般的だ。だが、今回のように、その受け取り先を変えることができれば、返礼品は「寄付へのお礼」だけでなく、地域のなかで誰かを喜ばせるものにもなりうる。自分のために選ぶ楽しさに、誰かに譲る楽しさが加わることで、地域を応援するという行為の意味も少し変わって見えてくるだろう。
【参照サイト】「返礼品はいりません」ふるさと納税の“粋なはからい” 学校給食にメロン登場
02.音楽は、耳だけで聴くもの? 頬でビートを感じるウェアラブルデバイス
音楽を楽しむには、「耳で聴く」しかないのだろうか。ライブ会場で、低音が床から身体へ響いてくるのを感じたことがある人なら、音楽が耳だけのものではないと実感したことがあるかもしれない。
音を振動や触覚に変えるという発想は、聴覚の状態にかかわらず、音楽を楽しむ方法を広げる可能性を持っている。音を振動に変えるソリューションは様々にあるが、今回は少し変わった「タコの足」のような形のデバイスが登場した。音楽のビートを「頬へのタップ」に変えるアイデアだ。
デザイナーのHaji Yangが提案した「Live Beats」は、騒がしい環境で音楽を触覚に変換するコンセプトウェアラブルデバイスだ。
各ユニットには、頬に触れる4本の柔らかな触手状パーツを搭載。周囲の音量が一定の閾値を超えると、顔へのタップによる触覚フィードバックが作動する仕組みとなっている。
連携アプリは、楽曲の低音、打楽器、メロディなどを分析し、それぞれを異なる触覚パターンへと変換する。接触部分には、スポンジと金属の交換可能な素材が想定されているという。
音楽を楽しむ方法が「耳で聴くこと」だけではなくなれば、音楽はもっと身体にひらかれたものになるのかもしれない。騒音のなかでも、聞こえ方が異なっていても、それぞれの身体に合った方法でリズムに触れられる。音楽が誰しもの胸にすっと入ってくるような楽しみ方を想像させるアイデアだ。
【参照サイト】octopus-inspired earphones translate music into touch with face-tapping tentacles
03.赤ちゃんが泣く夜、一人で起きていなくてもいい。「夜泣きカフェ」という居場所
夜中、泣き続ける赤ちゃんを抱いて、家のなかを何度も行ったり来たりする。時計を見ると、まだ朝までは遠い。まわりの家では誰かが眠っているはずなのに、自分だけが夜のなかに取り残されたように感じる──子育てには、そんな時間がある。
そんななか愛知県では、夜泣きに悩む親子が夜間に過ごせる「夜泣きカフェ」が開かれている。
名古屋市などで活動する「オリヅロウ」は、月1〜2回ほど不定期に親子を受け入れている。会場には赤ちゃん用ベッドやおむつ替えスペースが設けられ、スタッフが赤ちゃんを見守る間に、保護者が休むこともできる。夜泣きや夜の孤独を感じる親子の居場所となっているのだ。(現在は母親を対象としているよう)
夜泣きそのものをなくすことはできなくても、その夜を親子だけで越えなくてすむようにはできる。子育て支援というと、悩みを相談したり、知識を得たりする場を思い浮かべやすいが、ときには「今夜、一緒に起きている人がいる」ことそのものが支えになるのかもしれない。
【参照サイト】“長い孤独な夜”からの解放を…ママと赤ちゃんの夜の居場所『夜泣きカフェ』子育てに悩む親を経験者らがサポート
04.助けを求める番号を、もっと短く。米国「988」導入後に見られた変化
つらくて誰かに助けを求めたいとき、相談先を検索し、長い電話番号を探し、それを間違えないように入力する。元気なときなら小さな手間でも、心が追い詰められているときには、その一つひとつが支援へたどり着くまでの壁になることがある。
米国では2022年、従来の10桁番号に代わる3桁の「988 Suicide and Crisis Lifeline」が導入された。
JAMAに掲載された研究では、15〜34歳の自殺死亡数について、過去の統計から988導入後の予測値を算出し、実際の数値と比べた。
その結果、2022年7月から2024年12月までの死亡数は、予測より11%、人数にして約4,300人少なかった。988だけが減少の原因だったと断定できるわけではないが、これは意味のある数字と言えるだろう。
支援が必要な人への相談の入口、そのハードルを限りなく下げる。988の仕組みが示しているのは、助けを求める力だけでなく、助けにたどり着きやすい環境もまた支援の一部だということではないだろうか。相談支援とは、ただ場所を開いて待つことだけではないのかもしれない。
【参照サイト】Young adult suicide rates dropped after U.S. launched 988 hotline
05.「何本植えた?」から「どの木を植える?」へ。目的に併せた森づくりを探る研究
森を増やすために木を植える。けれど、木材を育てる森と、野生生物の居場所になる森、気候変動に耐えられる森では、適した樹種の組み合わせが同じとは限らない。
では、どの木を、どんな組み合わせで植えればよいのだろうか。
米国メリーランド州のSmithsonian Environmental Research Centerでは、森林再生実験「Functional Forests」が進められている。
約8.5ヘクタールに20種の在来樹木・低木、計3万3518本を植え、約200の区画で、単一種から5種混植まで異なる構成を比較するというものだ。
研究では、樹木の成長や炭素吸収、水利用、生物多様性などを長期的に測定。そこから、木材生産や野生生物の生息地、食料の生産、気候変動への耐性など、目的に応じた森林再生に適する樹種の組み合わせを調べていく。
森林再生というと、「何本の木を植えたか」が成果として語られやすい。けれど本当に必要なのは、数を増やすことだけではなく、その土地にどんな森が必要なのかを問い続けることなのかもしれない。木材を育てる森、生きものが暮らす森、変化する気候に耐える森。森を一つの理想像に当てはめるのではなく、それぞれの土地に必要な未来を考えることから、森づくりは始まるのだろう。







