電気にも「産直」を。パルシステムでんきと考える、これからの「平和なエネルギー」

2026.07.08

2026年、中東情勢の緊迫化に伴い、世界は再び「石油危機」とも言える状況に直面した。街に出ると、ガソリンスタンドのパネルに並ぶ数字が日に日に大きくなっていく。「このまま行けば、車に乗れない日もくるのでは」──そんな不安に襲われた人も多いのではないだろうか。

2026年7月時点では価格は辛うじて保たれているが、石油が途絶えれば、ガソリンはおろかプラスチック製品から日々の食料生産にまで影響が及び、私たちの生活は一瞬で立ち行かなくなるかもしれない。

ガソリンスタンド

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一方、エネルギー資源の議論では脱炭素化に向けた再生可能エネルギーへの転換が求められてきたものの、太陽光パネルや風力発電などの設置をめぐっては、事業者と地域住民の間に摩擦が生じるなど、実現には決して平坦ではない道のりと、複雑な問いが潜んでいる。

国家間の思惑や紛争の火種、地域内での摩擦にもなりうるエネルギー資源。では、誰も犠牲にならない、「平和なエネルギー」は存在するのだろうか。

パルシステムの配送センターに供給している実質CO2排出ゼロの再エネ電源

そんな壮大な問いに対し、生活者の目線から地道に向き合い続けている組織がある。首都圏を中心に約160万世帯の組合員を抱える「パルシステム」のグループ企業、株式会社パルシステム電力だ。同社は、電気の「産直」を掲げ、エネルギーの生産者と消費者の「顔が見える関係」を築こうとしている。

生活協同組合(生協)(※1)のなかでも、独自の基準で食の安全や環境保全に強いこだわりを持つことで知られているパルシステム。なぜ、食だけでなく、電気の領域で「顔が見える関係」を築こうとしているのか。同社の新電力事業部で部長を務める奥田健太郎さんとの対話から、私たちの暮らしの足元から紡ぐ「平和なエネルギー」のあり方を見つめていく。

※1 消費者一人ひとりが、「組合員」としてお金(出資金)を出し合い、よりよい暮らしのために商品の共同購入や開発を行う相互扶助の組織のこと。

話者プロフィール:奥田 健太郎(おくだ・けんたろう)

奥田健太郎パルシステムでは、宅配事業に長年携わった後、国際協力・平和活動や東日本大震災後の復興支援活動に従事。現在は、再生可能エネルギーの調達や発電産地との交流、組合員向け広報誌の企画・編集、学習会の企画・運営を担当する。現場で出会う人々や地域の思いを大切にしながら、「この電気は、どこで、誰が、どのようにつくっているのか」を伝える活動に取り組む。

「電力の自立」を目指して

株式会社パルシステム電力は、生協本体である「パルシステム」傘下で、環境分野に特化した役割を担う子会社だ。牛乳パックなどを再資源化するリサイクル事業、物流資材を環境負荷の低い素材に切り替える環境事業、新電力事業の主に3つの事業を展開しており、同社が提供する一般家庭向けの電力サービス「パルシステムでんき」には、約3万7,000人の契約者がいる(2026年7月現在)。

では、環境分野でのさまざまな取り組みを行うパルシステムが、なぜ電力事業をスタートしたのか。きっかけは、2011年3月11日に発生した東日本大震災、そして東京電力福島第一原子力発電所の事故だった。

「事故当時、福島で生み出された電気の多くが東京で消費されていました。その事実を報道で知り、衝撃を受けた組合員が多かったのです。長い時間がかかっても復興支援を続けること、そして原発に依存せず、暮らしを支える電気を自分たちの手でつくる『電力の自立』を目指す機運が一気に高まりました」

2013年頃から段階的に、グループの配送センターの電気を部分的に再エネに切り替えていった同社。組合員からの「パルシステムに電力会社を作ってほしい」という声に押され、2016年の小売り全面自由化(※2)とほぼ同時に、一般家庭向けの供給をスタートさせたのだった。

※2 2016年(平成28年)4月1日以降は、電気の小売業への参入が全面自由化され、家庭や商店も含む全ての消費者が、電力会社や料金メニューを自由に選択できるようになった

あなたが毎日差し込むコンセントの向こう側に、誰の顔が見えるだろう

パルシステム電力に関わり始めて4年目になる奥田さんは、以前はパルシステムの「平和と復興支援」の部署で平和政策に従事していた。食の安全とあるべき社会を模索してきたパルシステムにとって、平和と直結する「エネルギー」分野に取り組むのは必然だったのかもしれない。

そんなパルシステムでんきの最大の特徴が、「顔が見える関係」。食の分野で確立してきた「産直」をそのままエネルギーの世界に持ち込んだのだ。水や風、太陽の光といった地域の自然資源を使い、各地の農業生産者などと提携して電力を直接買い取る「発電産地」のネットワークを広げてきた。

たとえば、岩手県にある人気鶏肉「までっこ鶏」の生産現場。ここでは、鶏糞を活用したバイオマス発電に取り組んでいる。

十文字チキンカンパニーバイオマス発電所のまでっこ鶏

十文字チキンカンパニーバイオマス発電所のまでっこ鶏

「鶏糞は肥料として再利用していましたが、供給が安定しなかったり、産業廃棄物として一定の処理コストがかかったりしていました。そんな中、3.11の震災を経験した生産者・十文字チキンカンパニーが、『この鶏糞を電気として利用できないか』と立ち上がったのです。

億単位の初期投資が必要で、ものすごい覚悟が必要だったと思います。それをパルシステム電力をはじめとする仲間が『電気をきちんと買い支える』という約束のもとで成り立たせ、鶏糞バイオマス発電による循環型経営が実現しました。そのような電気をパルシステム組合員や物流施設などに供給しています」

他にも、米農家が農業用水路に小型の発電機を設置して生み出す小水力発電や、農地の上に太陽光パネルを設置して農業と発電を両立させる「ソーラーシェアリング(営農型太陽光発電)」など、パルシステムでんきがつなぐ発電産地には、食の生産現場とエネルギーが直結した再エネ事例が多数存在する。

「食の生産者、そして同じ理念に共感してつながった地域の企業さんたちを総称して『発電産地』と呼んでいます。お互いに交流をしながら、組合員に『顔が見える発電産地ですよ』と紹介し、定期的に発信しています」

危機を救った「組合員の拍手」と、透明性という覚悟

しかし、理念だけでは乗り越えられない壁もある。2021〜2022年にかけてのウクライナ情勢などを契機としたエネルギー市場の価格暴騰は、同社の存続を激しく揺るがした。

「新電力事業の経営が著しく悪化し、本当に厳しい時期でした。一時は事業撤退すら視野に入れて、社内で議論を重ねていました。八百屋さんやスーパーなら、仕入れ値が上がればある程度利益を乗せて価格転嫁ができますが、電気料金は一回設定すると毎日のように変えることはできません。

パルシステムのブランド牛乳である『こんせん牛乳』に例えるなら、1パック200円位で仕入れて300円で売っていたものが、突然1000円で仕入れて価格は据え置き(300円)で売らざるを得なくなるような逆転現象が起きていたのです」

会社が持ちこたえられないレベルに達し、同社は苦渋の決断として2度の値上げに踏み切った。価格が高くなれば、当然多くの顧客が離脱していくリスクがある。事業継続への不安が渦巻く中、奥田さんたちの背中を押したのは、他でもない組合員たちの声だった。

「パルシステム東京のとある会議で、組合員の方がおっしゃったんです。『こういう厳しい局面こそ、私たち組合員が支えなきゃいけないんでしょ』と。その言葉に、会場から大きな拍手が湧き起こりました。何としてもこの事業を守り抜こうと思えた瞬間でした」

パルシステムの会議

これまで同社が調達していた再エネは、FIT(固定価格買取制度)に基づくものが多く、制度の仕組み上、仕入れ値は電力卸売市場の価格に連動していた。そのため、国際情勢などで市場価格が高騰すれば、経営を直撃してしまう。

この危機を教訓に、同社は市場価格に振り回されないよう、市場を介さずに発電産地からあらかじめ決めた一定価格で直接電気を買い取る「固定価格」の電源を大幅に増やした。同時に、高騰するコストの背景を理解してもらうため、料金の「透明性」を徹底している。

「一般的な電力会社の検針票の項目が4つほどであるのに対し、私たちは7つに細分化しています。分かりづらいと言われることもありますが、混ぜこぜにせず、何のための費用なのかを誠実に開示する。それが組合員との信頼を守るポリシーです」

利益か、持続可能性か。葛藤のなかで手放さないポリシー

ここまで話を聴くと、同社が理想に満ちた順調な歩みを進めているように見えるかもしれない。しかし、現実は甘くない。奥田さんは、ビジネスを継続させる難しさと生協の理念やパルシステムらしさから逸脱しないことのバランスについて、「これが一番難しい質問だなと思いました。最適な答えがいまだに見つからないです」と、率直な葛藤を吐露する。

「そもそも事業経営が持続可能であるということは大前提ですよね。どんなにいい理念があっても、やっぱり事業として継続できなければ、結果として破綻してしまう。事業が守れなかったら、それまで積み上げてきた価値観や理念そのものが『結果として事業が失敗したんだから、あの考え方は間違っていたんだ』という風に思われてしまう。

事業の存続、経営の存続というのは、何よりの大前提。そのなかで、我々のカラーやポリシーを崩してまでやることなのか、というところを常に自問自答しています。

ただ、これからどうなるかわからない、不安定な世界のなかで、事業の存続のためにどうしてもポリシーを曲げないといけない場面もあります。そういうとき、組合員の人たちにきちんと説明をすること。難しいですが、葛藤しながらもその時の最適解を常に探し求め続けることが大事だと考えています」

そうした厳しいビジネスの現実と向き合いながらも、彼らが決して手放さないポリシーがある。同社のホームページに一番に掲げられているのは、自らの売上を減らす行為である「省エネ(電気を減らすこと)」だ。

「小売りの立場だけで考えれば、節電の呼びかけは自らの首を絞める行為です。しかし、私たちは、利益の最大化ではなく、事業や暮らしで使う電気が社会にとって望ましいかという視点を最も大切にしています。過度な消費は地球環境への負荷を生む。だからこそ、エネルギーを売る立場でありながら、暮らしのあり方そのものを問い続け、対話の機会をつくっているんです」

技術が悪いのか、私たちの「無関心」が悪いのか

組合員向けの情報媒体『きぼうのでんき』を通じて発電産地に関するストーリーを届けたり、学習会や発電産地を訪れる交流ツアーなどを実施し、エネルギーのことを学び考える機会をつくったりと、対話の場を生み出し続けてきたパルシステム電力。ただ、そんな同社に対しても、近年は自然破壊を伴うメガソーラー開発への逆風が強く、「パルシステムが取引している太陽光は大丈夫なのか」といった質問なども寄せられているという。

実際に、パルシステムとして、どのように再生可能エネルギーと向き合ってきたのか。奥田さんはこのように語る。

「昨年、釧路湿原や千葉県鴨川市での強引な木々伐採による開発がネガティブに報道されましたが、私たちの提携先は文脈が異なります。たとえば、メガソーラーに関しては、現在、私たちは2つの企業と取引をしています。

一つは福島の『富岡復興ソーラー』。元々は帰還困難区域で農業再開の目処が立たない中、数百人の地権者である農家さんたちが土地をどう活用するか話し合い、地元主体で立ち上げたものです。

もう一つは秋田県の『大潟村』。干拓地である大潟村は、大規模農業のために水を吸い上げる莫大な電気を消費します。元々環境意識の高い二世・三世の住民たちが『農業に使うエネルギーは自ら生み出そう』と自然に負担をかけない形で建てたメガソーラーです」

大潟村のソーラーパネル

大潟村のメガソーラーパネル

巨大な太陽光パネルという技術そのものが悪いのではなく、開発の進め方の善し悪しだと奥田さんは続ける。

「再エネを増やすことと地域や環境を守ることが対立構造で語られがちですが、むしろ両立させるべきものではないかと思います。地元の地形や文化を無視して、土地を買い漁ってブルドーザーを入れるような手法は反発されて当然です。

そうではなく、地域自らが主体となり、適切な場所、適切な規模、適切な方法を選び、リスクをコントロールして調和を図る。地域社会に還元される形で進められる再エネこそが、私たちが応援すべき事例であり、そういった生産者と提携しています」

大潟村

大潟村

100点満点のエネルギーなんてない。だから、目を逸らさず、向き合い続けること

インタビューの終盤、「平和なエネルギーとは何か」と尋ねてみた。奥田さんは「再エネも含めてエネルギーを使うということは、どこかの誰かがリスクを背負わなければならないこと」という前提に立ち、考えを話してくれた。

「特定の化石燃料や国の資源に依存すればするほど、リスクが集中し、紛争の根源になり得ます。火力や原子力では地球規模で気候変動が進み、もといた土地に住めなくなり難民になる人が増え、作物や家畜が育てられない地域も増えています。また、巨大な電源に依存していれば、ひとたび大停電が起きれば復旧に時間がかかり、地域単位ではどうにもできません。

しかし、地域の特色に合ったエネルギーであれば、地域単位でコントロールできる。地域や個人単位に細かくエネルギーを分散し、それぞれが自立していくことが、結果として国家の安全保障、ひいては地球規模の平和につながっていくと考えています」

十文字チキンカンパニーバイオマス発電所

十文字チキンカンパニーバイオマス発電所 鶏ふんをクレーンで炉内に運ぶ様子

分散型エネルギーを通して自立していくことが大切。ただ、再エネなら完璧かといえば、決してそうではないと奥田さんは念を押す。

「海外のサプライチェーンに依存しすぎれば、化石燃料と同じような歪みを孕みますし、風力であれば低周波の問題、地熱も有毒ガスのリスクがある。人権問題にも言及する必要があるでしょう。

そうしたことを考えると、エネルギーの問題はめぐりめぐって私たちの生活にも必ず影響するもの。だからこそ、色んなリスクを拾い上げながら、丁寧に見つめていく姿勢が大切だと思うのです」

組合員向けの学習会では、問いを整理し、一人ひとりに考えを深めてもらう時間をつくっているという。そのときに投げかけるのが、「孫や子どもの世代など、未来に残したくない深刻なリスクはなんですか?」という質問だそう。

パルシステム勉強会の様子

パルシステム研修の最終日のグループワークの様子

「リスクには身近なものから遠いものまであるけれど、そのなかでも深刻なものは何なのか。エネルギーを選ぶということは同時にリスクを選ぶことでもあるので、そうした問いが日々の選択につながっていくと考えているんです。

完璧な100点満点の電源なんて、この世には存在しません。どんなエネルギーを選ぶにしても、どこかの誰かが必ず一定のリスクを背負うことになります。だからこそ、『電気を使わなければ生きていけない』という大前提に立ち、リスクも含めてみんなで対話し、選択していくプロセスそのものが重要なのではないでしょうか」

編集後記

パルシステム電力は、2026年4月から子育て世帯や障害を持つ家族がいる世帯の電気基本料金を免除する「くらし応援制度」を創設した。ビジネスの過酷な現実に揉まれながらも、彼らがポリシーをブレさせずに突き進む背景には、組合員との絶え間ない「対話」があるからかもしれない。パルシステム電力の職員と利用者からは、互いに自らの選択に「誠実であり続ける」姿勢を垣間見た気がした。

取材の最後、奥田さんは学習会に参加した70代の組合員からかけられたという言葉を教えてくれた。

「電力会社の方と直接会話する機会なんて、70年以上生きていて初めてでした。きっとそういう人は多いと思いますよ」

私たちはこれまで、電気をあまりに「透明なもの」として扱いすぎていたのかもしれない。料金の安さや利便性だけを追い求めた結果、そのコンセントの向こう側にあるリスクや、誰かの犠牲を、地方や海外のサプライチェーンに押し付けてはいなかっただろうか。食と同じくらい、日々生きていくのに欠かせないエネルギーについてどれほど想いをめぐらせてきただろうか。

完璧な100点満点のエネルギーは存在しない。だからこそ、私たちが今日から始められるのは、電気の向こう側にいる人の顔を想像すること。その人たちのことを知り、納得できる選択をしていくこと。そしていずれは、自分の暮らしのエネルギーを少しずつ「自立」させていくこと。一人ひとりが自らの行動に誠実であり続けられた先には、平和なエネルギーというものの輪郭が少しずつ、浮かび上がってくる気がしている。

次にあなたが部屋のスイッチを入れるとき。その指先に、どんな未来への選択を込めるだろう。

電気スイッチ

【参照サイト】パルシステムでんき
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この記事を書いたライター

伊藤 智子(いとう ともこ)。大学時代、ヨーロッパで数年間過ごしたのち、大阪の真ん中から海と山が近い千葉の里山に移住。生態系の一部としての人間のあり方を模索すべく、山の中の古民家でシェアハウス生活を行う。ライター業の傍ら、カフェの運営やまちのつながりづくりなどに取り組み、さまざまな人と出会い、多様な生き方に触れることに魅力を感じながら過ごしている。最近のテーマは、目の前のものをじっくり感じ、味わい尽くすこと。曖昧なもの、わかりにくいものこそ大事にしたい。