壊れたモノの先にあるものを直す。映画『リペアカフェ』、上映300回の先で見えてきたこと

2026.07.28

壊れた家電や服、自転車を地域の人たちが持ち寄り、直せる人がそっと手を貸す──オランダで生まれた「リペアカフェ」は、モノを捨てずに使い続けるための場であると同時に、人と人、そして地域との関係を結び直す場でもある。

IDEAS FOR GOODが企画・制作したショートドキュメンタリー『リペアカフェ』は、2024年10月の公開から約2年。全国各地の企業や行政、教育機関、市民団体の皆さんに上映していただき、2026年7月時点で上映回数は300回、累計動員・配信者数は1万6,000人を超えた。

映画館や教室、企業の会議室、地域の集会所。スクリーンが置かれた場所はさまざまだが、そこで起きたことは、映画を観るだけにとどまらない。

上映後の対話をきっかけに、企業では修理やメンテナンスを担う仕事の価値が見つめ直され、大学では学生主体のアップサイクル企画が生まれ、地域では実際に新しいリペアカフェが立ち上がっている。上映300回という数字の向こう側には、300通りの場があり、そこで交わされた無数の言葉がある。

映画は、社会に一つの正解を手渡すことはできない。それでも、同じ物語を観た人たちが、「自分たちの会社や地域では、何ができるだろう」と話し始めるための、共通体験にはなれるのかもしれない。

映画のなかで語られた「修理したいのは、モノだけじゃなかった」という言葉は、各地の上映会や、その先に生まれた実践を通じて、この約2年のあいだにどのような意味を帯びてきたのだろうか。

今回、特設サイトの公開にあわせて、本作の監督・撮影・編集・翻訳を手がけたIDEAS FOR GOOD編集部のクリエイティブ・ディレクター、瀬沢正人に、作品が各地にもたらした変化と現在の実感を聞いた。

話者プロフィール:瀬沢 正人(せざわ・まさと)

Masato Sezawaオランダ・アムステルダム在住。IDEAS FOR GOODクリエイティブ・ディレクター。サステナビリティやサーキュラーエコノミー領域を中心に、映像制作、リサーチ、企業・行政との共創プロジェクトを手がける。監督作『リペアカフェ』では、企画・撮影・編集・翻訳を担当。ジャーナリストとしては、フィンランド環境大臣など欧州の政策担当者、研究者を取材。デンマークのフォルケホイスコーレ卒業生。アムステルダム大学夏期コース Circular City 修了。

専門用語を、「暮らし」の言葉に戻す

Q. もともと映画『リペアカフェ』を通じて、どのような変化を起こしたいと考えていましたか。上映300回、累計1万6,000人以上へと広がった現在、どのような手応えを感じていますか。

「サーキュラーエコノミー」という言葉を専門家だけが使う言葉ではなく、より幅広い人たちが共有できる言葉として再定義すること。それが、映画を通じて起こしたかった変化です。「サーキュラーエコノミー」と聞くと、資源循環やカスケード利用、水平リサイクルなど、どうしても技術的な議論が中心になります。業界の人にしか通じない言葉も多く、サステナビリティも含め、専門用語ばかりが先行してしまう感覚がありました。

けれど、その価値を限られた人たちだけのものにしたくなかったんです。もっと多くの人と分かち合えるものにしたい。日々を暮らす人が、「サーキュラーエコノミーは、自分の生活や地域に関わる考え方なのだ」と感じられる作品にしたいと考えていました。

リペアカフェの様子

約2年が経ち、リペアという行為が持つ多様な価値を、本当にさまざまな地域、企業、行政の方々が受け止めてくださっていると感じます。それぞれの立場から、リペアの良さや、サーキュラーエコノミーが本来持っている価値を考えてくださっている。映画を観て、涙を流してくださる方もいます。

特に大きな手応えを感じるのは、この映画が口コミによって広がっていることです。本作は一般の映画館で常時上映されている作品ではありません。市民による自主上映は、ユナイテッドピープルが運営する「cinemo」を通じて広がってきました。各地の人が作品を見つけ、上映会を開き、その体験が口コミで次の地域へと手渡されています。その結果として、2026年上半期のcinemo上映件数ランキングで本作が全88作品中、第1位を獲得することができました。

IDEAS FOR GOOD初のドキュメンタリー『リペアカフェ』、映画配給会社ユナイテッドピープル運営のcinemoで上映開始

この2年で、本当の意味での市民の力、草の根の力を実感させていただきました。この映画が生み出しているインパクトは、私たちだけのものではありません。撮影を受け入れてくださったアムステルダムのコミュニティがあり、日本やオランダの各地で上映を続けてくださった方々がいる。その間に、私たちが立たせてもらっているからこそ生まれているものです。

これからも関わってくださる方々への感謝とリスペクトを忘れずに、この映画を広げていきたいと思っています。

日本での上映会の様子

日本での上映会の様子

Q. 本作は、行政、企業、大学、市民団体など、多様な主体によって上映されてきました。それぞれの主催者が映画に託していた願いや課題には、どのような共通点があったのでしょうか。

立場はまったく異なっていても、共通する課題や願いがあったと思います。サステナビリティやサーキュラーエコノミーという言葉を使うと、その価値は環境問題と強く結びつきます。それには良い面がある一方で、環境問題に関心を持っていない人には、そもそも届きにくい。「環境」という入口だけでは、巻き込めない人もいるんです。

しかし、映画『リペアカフェ』が扱っているのは、環境問題だけではありません。一人ひとりが持ち物に抱いている思い出や、それをくれた人との記憶、地域のなかで誰かと出会うこと、役割を持つこと。そうした個人的で情緒的な価値にまで、リペアというテーマを広げています。

サステナビリティやサーキュラーエコノミーを、より豊かな日常生活の一部として提示する作品になっている。だからこそ、これまでサーキュラーエコノミーという言葉を知らなかった人や、環境問題に強い関心を持っていなかった人にも届いたのだと思います。

そして、本作が提示しているのは問題だけではありません。リペアカフェという、一つの解決策についての物語でもあります。問題を知るだけでなく、「では、どうすればよいのか」という問いに対するアイデアが、スクリーンのなかで展開されていく。「アムステルダムに、こんな場所がたくさんあるなんてうらやましい」「日本にも欲しい」「自分たちの地域でもできないだろうか」という声を、これまで何度も聞いてきました。

ストーリーテリングによって共感を生み、心を動かし、アイデアの社会実装を後押しする。その点を評価していただいたことが、異なる立場の人たちをつなぐ入口になった理由ではないかと思います。

2025年大阪・関西万博で行われた経済産業省主催「サーキュラーエコノミー研究所」での上映会の様子

映画が可視化した、地域に眠っていた関係

Q. 映画を観た後に、具体的なアクションが生まれた事例について教えてください。

特に印象に残っているのが、京都府亀岡市での取り組みです。最初の上映会には、市役所の職員、地元企業、市民など、約20人が集まりました。上映後、皆さんが笑顔になっていたんです。あの何とも言えない、幸せそうな表情を見るのが、私は大好きです。

私も現地を訪れ、参加者の皆さんと意見交換をしました。映画を観て、充実感や豊かさを感じた後に出てくる言葉は、とても前向きです。「亀岡市では、どのようなリペアカフェができるだろうか」「どんな場所をつくっていきたいか」──そのような話が、自然と生まれていきました。市役所の職員の方が、「画面の向こうにいる人たちが本当に生き生きしていて、あの笑顔を見て幸せになった。とてもポジティブなエネルギーをもらった。ぜひ亀岡市でもやりたい」と話してくださったことも印象に残っています。

2024年11月の上映会の翌月には、地元企業の「ごみの学校」がリペアカフェのトライアル版を始めました。さらに翌年には、市がリペアカフェのための予算を設け、行政の支援を受けながら毎月継続する枠組みが生まれています。多様な人が集まり、同じ映画を観ることで、映画が一つの「触媒」のような役割を果たす。そこから対話が生まれ、立場を超えて協働する流れが生まれていく。それを強く感じた事例でした。

亀岡市でのリペアカフェの様子

また、岐阜県の商店街では、上映会とリペアカフェを組み合わせたイベントに約60人が参加しました。ハンドメイド教室やミシン店、街の電気屋さん古道具店など、地域にすでに存在していた技術の担い手が集まり、商店街のつながりを再び編み直す場になったといいます。

日本には、同じような可能性を持つ場所がたくさんあると思います。地域を元気にしたい、人と人とのつながりを結び直したいと考えている方々にとって、この映画やリペアのムーブメントが、一つのきっかけになり得るのではないでしょうか。

ただ、映画がゼロからコミュニティをつくったというより、すでに地域にあった人、技術、場所、信頼関係を引き合わせたのだと思います。上映会によって、それまで見えにくかった地域のネットワークが可視化され、「自分たちにもできるかもしれない」という対話が始まったのです。

Q. 映画が知識を伝えるだけでなく、上映後の対話や地域での実践を後押しするために、どのような工夫をしてきましたか。

作品を30分にしたことは、かなり意識的な選択でした。90分の映画を観た後では、観客が少し疲れていたり、会場を借りられる時間が迫っていたりすることがあります。30分であれば、上映後に対話を設けたり、リペアのワークショップと組み合わせたりできます。映画を観ることをゴールにせず、その後に人が話し、手を動かす時間を残したかったんです。

また、作品には、6つのエピソードが収められています。それぞれ異なる角度から、リペアという営みの価値を描きました。環境負荷の削減だけでなく、孤独、世代間交流、地域での役割、技術の継承、持ち物に宿る記憶など、さまざまな入口があります。そのため、集まった人たちが、それぞれの人生経験や立場から感想を話すことができます。

編集でもう一つ意識したのは、答えを言い切らないことです。この映画にはナレーションがありません。「これが正しい答えです」と説明する構成にはしていないんです。実際にモノを直そうとして直せなかった場面もあります。アムステルダムはサーキュラーシティとして先進的だと言われていますが、すべてがうまくいっているわけではありません。そうした場面も作品に残しました。

映画は観客に問いかけることはできても、答えを押し付けることはできないと思っています。観た人のなかから、自分なりの考えや答えが自然に湧き上がる。だからこそ、上映後に対話が生まれ、そこから実践が立ち上がっていく。そのような映画にしたいと考えて作りました。

亀岡市での上映会の様子

修理やメンテナンスの仕事に、もう一度光を当てる

Q. 企業での上映会では、修理やメンテナンスを担う人たちが、自分の仕事の価値を見つめ直す場面もあったそうですね。

日立製作所の研究開発グループの方々が主催した上映会は、まさにそのような事例でした。上映会には、保守やメンテナンスを担うグループ会社の方々も参加していました。映画を観た現場の方々から、「これまで自分がしてきた仕事には、こういう価値があったんだと再発見できた」という声が寄せられたそうです。

修理や保守に関わる仕事は、社会や事業を支えているにもかかわらず、表舞台に立つ機会が多いとは限りません。そうした仕事が上映会を通じてグループ内で共有され、「リペアとは、これほど価値のある仕事だったのか」と改めて認識されたことが、非常に良かったと伺いました。その後、実際に保守・メンテナンスを担うグループ会社で2回目の上映会が開かれ、「ここから、どのような新規事業を生み出せるか」という議論にまで発展したそうです。

一つの部署のなかだけではなく、グループ内の異なる部署や立場の人たちが出会い、プロジェクトが芽生える場になったことが印象に残っています。

日立製作所での上映会の様子

日立製作所での上映会の様子

あるアパレルメーカーでも、縫製やリペアを担う工場の人たちから、「自分の仕事の価値を再認識でき、仕事へのモチベーションが高まった」という声が寄せられました。同社はその後、本社で一般参加型のリペアカフェを開催しています。

Q. 上映会を一度きりの社内イベントで終わらせず、製品やサービス、組織のあり方を見直す対話につなげるためには、何が必要でしょうか。

映画を観た後の「問い」の設定が、非常に重要だと思います。単に「どう感じましたか」と感想を話し合うだけではなく、自分たちがいま関わっている事業や、目の前にある課題、自分たちの持つ可能性に、映画の内容を引きつけて考える。そのための問いを設計する必要があります。

企業や行政からお問い合わせをいただいた際には、「上映会を実施すること自体が目的ではないはずです」とお伝えしています。何を変えたいのか、誰に出会ってほしいのかを確認したうえで、上映後の問いやワークショップを設計します。

映像には人の心を動かす力がありますが、映画だけで行動までを生み出すことはできません。感動を実践につなげるには、上映後の問いと場づくりが必要です。

日本女子大学・被服学科の学生たちは、『リペアカフェ』の鑑賞を含む1年間のプログラムを通じてファッションにおけるサステナビリティ課題を学んだ。

オランダで生まれ、日本を経由して戻っていく

Q. リペアカフェ発祥の地であるオランダで上映した際、現地の観客や関係者からは、どのような反応がありましたか。

アムステルダムの地域映画祭や、アムステルダム市が実施するサーキュラーエコノミーウィーク、ユトレヒト市のサーキュラーエコノミーウィークなどで上映していただきました。

その際、リペアカフェで活動するボランティアの方が、「自分たちの活動が、日本の作り手による映像作品として可視化されたことで、その価値を改めて認識できた」と喜んでくださいました。日本のメディアがオランダの実践を取材し、映像作品として日本に届ける。そして、その作品が再びオランダで上映され、活動している人たちが自分たちの価値を再発見する。そのような循環が生まれたことは、とてもうれしいインパクトでした。

オランダでの上映会の様子

Q. 日本とオランダの両国で上映してきたなかで、リペアに対する文化的な捉え方の違いを感じることはありますか。

もちろん、一人ひとりの価値観は異なるため、国民性として単純に一般化することはできません。そのうえで、作品を制作し、上映してきたなかで感じた一つの違いは、オランダではリペアを非常に実際的、合理的な行為として捉える人が多いように感じます。

例えば、テレビのスイッチの接触部分だけが壊れているとします。「一部分だけが壊れているのに、なぜテレビ全体を捨てるのか。それは合理的ではない」と考える。一方、日本には、持ち物やモノそのものに、どこか命が宿っているように感じる文化があります。「このモノに申し訳ない」「捨てるのは残念だ」と感じる。いわゆる「もったいない」という感覚です。

オランダでは、使えるものを捨てることの非合理性から「もったいない」と考える。日本では、モノとの関係や、そこに宿る記憶から「もったいない」と感じる。あくまで一つの見立てですが、そのような違いがあるのではないかと思います。

アムステルダムでの上映会の様子

リペアカフェが生まれた背景には、アムステルダムが国際貿易によって発展し、多様な文化的背景を持つ人々が暮らしてきた都市であることも関係しているかもしれません。人と集まることが好きで、リペアすれば新しいモノを買うより経済的で、さらに誰かと一緒に過ごせる。そうした実践的な感覚と、社交の文化が重なり、リペアカフェという形が生まれたのではないでしょうか。

日本で広げていくうえでは、運営資金をどのように確保するかという課題があります。オランダでは、寄付や助成金を活用して運営されている拠点が少なくありません。日本で継続的な活動にしていくためには、それぞれの地域に合った資金や運営の仕組みを考える必要があります。

一方で、日本の「もったいない」という感覚や、モノに命や記憶を見いだす文化は、リペアカフェと非常に相性が良いとも感じています。形はオランダと同じでなくてもいい。日本の地域や文化に合ったリペアカフェが、これから育っていく可能性は大きいと思います。

上映300回の先に、育てたいもの

Q. 特設サイトの公開と上映300回という現在地の先に、これからどのような場を育てていきたいですか。

これからも、さらに幅広い領域の方々に観ていただき、長く愛される作品として育てていきたいと思っています。

リペアカフェは、単にモノを直す場所ではありません。誰かに自分の技術を伝えることができる。困っている人の役に立つことができる。普段は出会わない人と、壊れたモノを間に置いて話すことができる。居場所や学びの場、世代を超えた交流の場としての役割も持っています。

学校や大学などの教育機関はもちろん、図書館や公民館といった地域の場所でも、上映が広がっていくかもしれません。オランダと同じ形を再現するのではなく、それぞれの地域にある人や技術、場所を生かしながら、その土地ならではのリペアカフェが生まれていったらうれしいです。

今回公開した特設サイトでは、作品情報や上映会の申し込みに加え、企業、行政、教育機関、市民団体などによる活用事例や、各地で生まれている動きを紹介しています。映画に関わる方々が互いの実践を知り、「自分たちの地域でもできるかもしれない」と考えるための場所に育てていきたいと思っています。

『リペアカフェ』特設サイト

上映回数だけを追いかけるつもりはありません。目標を置くとすれば、上映会をきっかけに、リペアカフェという「優しい場所」が一つでも多く増えていくことです。

私にとってリペアカフェは、人がモノに優しくなれる場所であり、人が人に優しくなれる場所であり、人が地域に優しくなれる場所です。ここでいう優しさとは、ただ穏やかであることではありません。壊れたモノを気にかけること。困っている人に手を貸すこと。誰かが長い時間をかけて身につけてきた技術を尊重すること。地域にある資源や関係を、すぐに価値のないものとして手放さないことです。

そうしたケアや思いやりのある場所が、日本各地に点々と増えていく。人も、モノも、地域も大切にされる社会へ、少しずつ近づいていく。映画『リペアカフェ』が、そのためのきっかけになれたなら、IDEAS FOR GOODというメディアにとって、これほどうれしいことはありません。

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『リペアカフェ』は、個人・市民団体・NPO・中小企業向けの「cinemoプラン」と、企業・行政・教育機関向けの「カスタムプラン」をご用意しています。上映に加え、制作者や編集部によるトークイベント、企業・行政・教育機関向けのワークショップもご相談いただけます。

地域や組織でリペアや循環経済について考える機会をつくりたい方、上映をきっかけに新しい仲間や活動を生み出したい方は、特設サイトから資料をご請求ください。

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アイキャッチ画像:Photo by Nobumasa Tanaka
Edited by Erika Tomiyama

この記事を書いたライター

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