エモーション・ディレクター、宇宙居住プロダクトデザイナー、エアソムリエ、美肌菌剤師、エンディングエディター、再生師、メモリーシェフ、倫理観講師、ジェスチャーオーケストラ。
「馴染みのない職業名ばかりだな……」とあなたが思ったなら、それもそのはずだ。これらは、いまはまだ存在していない2045年の職業であるからだ。
2026年6月、オフィス家具や働く空間づくりを手がける株式会社オカムラが、東京・高輪ゲートウェイシティで開催した「0次開発プロジェクト vol.1 まだ存在しない未来の職業展 2045(以下、未来の職業展)」には、50の未来職業が並んだ。では、「エアソムリエ」や「美肌菌剤師」は、本当に20年後に存在しているのだろうか。
実は、この展示は未来を当てるためにつくられたものではない。
今回、「未来の職業展」の企画・運営を担った株式会社オカムラの小貫絢子さんと淺川万葉さんに話を聞いた。お二人の言葉をたどっていくと、この展示が見せていたのは、単なる「未来の職業リスト」ではなかったことが分かってくる。
まだ存在しない仕事を想像し、その仕事が必要になる社会について誰かと語り、ともにつくってみる。そこにあったのは、未来を「誰かが予測するもの」ではなく、「自分たちも参加しながらつくっていくもの」と捉え直すための試みだった。

淺川万葉さん(左)と小貫絢子さん(右)
話者プロフィール:小貫 絢子(おぬき・あやこ)さん(写真右)
法人顧客向けの営業を6年半経験し、社内「チャレンジ制度」(公募制度)を活用して、新規事業部門に異動。自社の特許技術と社会課題を掛け合わせながら、ゼロから新しい価値を生み出す「0次開発プロジェクト」を推進中。既存事業の枠を越えた新しい空間やプロダクトの可能性を探索している。
話者プロフィール:淺川 万葉(あさかわ・かずは)さん(写真左)
大学で観光まちづくりを学び、ファッションイベントの企画・運営会社へ入社。発信力を生かした地方創生・SDGs推進プロジェクトに携わる。2025年オカムラに転職し、フューチャービジネスの開発・創造を推進。
2045年を見に来た人たちが、「自分の未来」を語り始めた
2026年6月に開催された「未来の職業展」。9日間の会期中、来場者は当初目標としていた500人を大きく上回る2,136人にのぼったという。もともと展示では、将来の共同開発や研究、実証実験につながる企業など、共創パートナーとの出会いを意識していた。しかし会期後半になるにつれて、学生や小学生ほどの子どもたち、さらには親子三世代で訪れる人の姿も増えていったという。
淺川さん「『2045年、20年後に自分たちがこういうことをしているのかもしれない』と真剣に考える機会になったと言っていただきました」
淺川さんが見たのは、未来を「大人たちが決める社会の行き先」として受け取るのではなく、自分の人生と接続して考え始める若い世代の姿だった。
小学生にとって2045年は、ちょうど社会で働いているかもしれない頃だ。展示された50職種は、職業図鑑のように「将来なれる仕事」を提示するものではない。それでも、まだ存在しない仕事を目の前にすると、「自分はその頃、何をしているだろう」と現在の自分と未来がつながり始める。
小貫さん「『未来は自分たちの手でつくっていくものだということを実感できました』という声もいただいて、個人的には想像以上に反響をいただいたなという感触です」
小貫さんのこの言葉には、展示が来場者にもたらした変化がよく表れている。未来を「誰かが決める社会の行き先」として受け取るのではなく、自分もそこに参加する一人として考えてみる。未来職業という少し突飛な設定は、そのための入口になっていた。
2045年、人間はAIと何を分かち合うのか
なぜ、2045年なのか。オカムラが一つのマイルストーンとしたのが、AIの能力が人間の知性を上回る「シンギュラリティ」の到来時期として語られてきたことだった。
小貫さん「『未来の働く』を考えるにあたって、ここ数年で大きく存在感を増しているAIは、意識せざるを得ないものですよね。20年後、AIが人間の知性を上回ると言われる年に、オカムラはどういう形で『人が活きる社会の実現』を生み出しているんだろう、という話になりました」
AIをめぐる議論では、「仕事が奪われる」「人間の役割がなくなる」といった不安が語られることが多い。しかし小貫さんたちが向き合ったのは、AIと人間を対立させる問いではなかった。AIが高度化した社会で、人間は何を担うのか。人が活きるとは、どういうことなのか。その問いを具体化するために、50の未来職業が生まれていったのだ。
たとえば「エモーション・ディレクター」は、AIが俳優として活躍するようになったとき、そのAIに演技指導を行う職業として紹介されていた。AIが表現者になるなら、人間は感情や物語、身体感覚のニュアンスをどのように伝えるのか。技術の進歩を考えることで、むしろ人間らしさを編集し、引き出し、共有する仕事の重要性が浮かび上がってくる。

「再生師」「テクスチャー・アセンブラー」「エモーション・ディレクター」──人間らしさに向き合う未来職業も並んでいた。
「その職業になりたい」ではなく、「その未来に行ってみたい」
来場者の反応を聞いていくと、未来の職業への共感は、必ずしも「その仕事に就きたい」という形だけではなかったという。象徴的なのが、淺川さんが考案に関わった「エアソムリエ」だ。
展示で描かれたエアソムリエは、レストランで料理をよりおいしく感じられるよう、その場の空気や香りを演出する職業。食にまつわる未来職業として、多くの来場者が関心を寄せたという。
淺川さん「来場者の方と話していて感じたのは、『その職業になりたい』というより、『その空間に行ってみたい』という共感のほうが強かった気がします。『そこで食べたら、どれくらい食事がおいしくなるんだろう?』と想像できる。そこに惹かれていたのかなと思います」
ここで人々が想像していたのは、「エアソムリエになる自分」だけではない。そんな仕事が存在するレストランとは、どんな場所なのか。食事はどう変わるのか。誰と、どのような時間を過ごしているのか。職業という設定を入り口に、その仕事の先にある暮らしや社会まで想像していたのだ。

「アドウォーカー」「エアソムリエ」「デジタル遺産管理人」──来場者は「その空間・体験・社会」に反応していたのかもしれない。
未来の職業を考えることは、未来の肩書きを考えることではない。その仕事が必要とされる社会とはどんな社会なのかを考えることでもある。
私たちはどんな仕事に就きたいのか。その問いの少し手前には、もしかすると「どんな世界で生きたいのか」、そして「その世界をつくる一人として、どう関わりたいのか」という、もっと大きな問いがある。
家具ではなく、人を見ていた会社
淺川さんは、オカムラに入社するまで、オフィス家具をつくる会社を強く意識したことはなかったという。オフィス家具は、働く場所にあって当たり前のものだったからだ。
ところが入社後、働く環境を支える人たちを間近に見て、印象は大きく変わった。そこには家具そのものだけではなく、その先にいる「働く人」を観察し、空間やプロダクトを考える社員たちの姿があった。
淺川さん「気付いたのは、家具と向き合っているというより、人と向き合わないとこういう空間は作れないんだということです。働く人のことを考えて場を作っている社員たちだからこそ、人とちゃんと向き合うという目線がある。人間味があるというか……本当に人柄のいい人が多いなと思っています」

インタビュー中の淺川さん。
ここに、淺川さんの職業観がよく表れている。未来の働き方を考えるとき、私たちはついAIや空間デザイン、制度やプロダクトに目を向ける。しかし、どれほど技術が進んでも、働く環境をつくる仕事の根底には「人と向き合うこと」がある。
「未来の職業展」に並んだ職業も同じだ。宇宙居住プロダクトデザイナーは、宇宙という新しい生活圏で人がどう暮らすかを考える。ライフエンディングエディターは、人生の終わり方に向き合う。美肌菌剤師は、一人ひとり異なる肌の状態に寄り添う。
いずれも、未来の技術を扱いながら、最後に見ているのは人間の生活や感覚である。

筆者が体験した「ライフエンディングエディター」。人生の終わりを起点に、自分がこれからどう生きたいかを考える。
まだない未来を、一緒につくる「味方」を探す
そして「未来の職業展」には、もう一つの目的があった。展示して終わるのではなく、描いた未来を一緒につくる人を探すことだ。小貫さんたちは当初、共同開発や研究、実証実験につながる企業などを共創パートナーとして想定していた。
小貫さん「基本的には共同で何かを開発できる方、研究につなげられる方、あるいは実証実験のフィールドを提供できますという方を想定していました」
ところが実際に展示を開くと、その輪は想定以上に広がった。学校からは「教育教材として使いたい」「生徒向けに授業をしてほしい」という声も届いたという。企業、研究者、学校、クリエイター。まだ存在しない未来をつくる仲間は、同じ業界のなかだけにいるとは限らない。
小貫さん「見て終わりではなくて、一緒につくる人を探すためのプロジェクトでもあるので。企業の方でも、研究者の方でも、クリエイターの方でも、『この未来、一緒に形にしてみたい』と思ってくださる方がいたら、ぜひお声がけいただきたいです。私たちオカムラのものづくりへの情熱と掛け合わさることで、きっと想像以上の未来につながるはずです」
取材の中で印象的だったのは、小貫さんにとって「共感してくれる味方を増やす」という言葉が、企画の説明文ではなく、自分自身の職業観に近いものになっていったことだ。未来をつくる仕事とは、ひとりで斬新なアイデアを生み出すことではない。まだ形になっていないものに共感し、「一緒にやってみたい」と言ってくれる人を増やしていくこと。その積み重ねが、未来を現実に近づけていく。

「スペースデブリクリーナーの第一号社員になりたいですね」。インタビュー中の小貫さん
人と楽しいことをする。その積み重ねが未来になる
一方、淺川さんが大切にしているのは、もう少し軽やかな感覚だ。
淺川さん「入社後すぐに、未来の職業展とその基盤となっている『0次開発プロジェクト』のことを聞いて、すごくワクワクしたのを昨日のように覚えています。『これからこの会社に入って、こんな面白いことに私取り組めるんだ』って。それに、私自身が『今もう、こんなことができているのか』とびっくりする技術がたくさんあって驚きました」
そんな淺川さんが、50職種のなかでも特に好きな未来職業として挙げたのは「美肌菌剤師」だった。展示では、肌に存在する常在菌の状態をAIなどの技術で把握し、一人ひとりに合わせたケアを届ける2045年の職業として描かれた。
淺川さん「一人ひとりに完全にパーソナライズされた美容医療を届ける職業が生まれていると思います。私自身がなりたいんですよ。美肌菌剤師に(笑)」
社会に必要だから取り組む。課題を解決するために動く。
もちろん、そうした動機も未来を変える力になる。けれど、「これをやったら面白そう」「この世界を体験してみたい」という好奇心もまた、人を動かし、誰かを巻き込む。未来には、大きな使命から始まるものもあれば、小さなワクワクから始まるものもあるのだろう。

当日展示されていた「美肌菌剤師」。皮膚に住む微生物や菌を分析し、一人ひとり異なる肌の状態に寄り添う。
未来の職業展が本当に展示していたもの
取材を終えて振り返ると、「未来の職業展」は未来予測の展示ではなかった。
エモーション・ディレクターも、エアソムリエも、美肌菌剤師も、宇宙居住プロダクトデザイナーも、未来を当てるための答えではない。むしろ、まだ見ぬ未来について誰かと語り合うための共通言語だった。

淺川さんと小貫さん
小貫さん「0次開発プロジェクトとしてVol.2、Vol.3は、やるべきものだと思っています。それが実現できるかどうかは私たち次第なので、責任重大です。もっと味方が必要です。
『味方がどれくらい増えたか』ですか?……未来の職業展以前が、社内を中心に『5』だとしたら、現在は社外にも拡がり『50』になったという感じでしょうか」
50の未来職業を描いたことで、本当に増えたのは「職業」ではなく、その未来を一緒につくろうとする「味方」だった。
小貫さんは、この展示を通じて、共感してくれる味方を増やすことの意味を、自分自身の実感として深めていった。一方、淺川さんは、人と楽しいことをすること、そのワクワクから変化が生まれていくことを信じている。
まだ形のない未来を言葉にし、それに共感する人を増やしていくこと。そして、そのプロセス自体を楽しむこと。この二人の思想が交わるところに、「未来の職業展」の本質があるのではないだろうか。
未来の働き方とは、決まった職業にたどり着くことではないのかもしれない。自分が生きたい世界を言葉にし、それに共感する人と出会い、ともに試しながら形にしていく。そのプロセスそのものが、これからの「働く」をつくっていく。
2045年、私たちはどんな仕事をしているのだろう。正確な答えは、まだ誰にも分からない。
けれど一つだけ言えることがある。未来は、誰かが予測してくれるものではない。共感してくれる味方と、楽しいと思えることを一つずつ始めることで、少しずつ形になっていく──二人の言葉は、そう信じさせてくれる力を持っていた。
【参照サイト】0次開発Project まだ存在しない未来の職業展 2045
Edited by Erika Tomiyama






