フェイクニュースを見破る難しさを示す、“全部ウソ”のドキュメンタリー

2021.11.01

Yakuta

時間がないときや、脳のメモリを使いたくないときに、人は直感的に分かりやすい情報や信じたいことを信じる傾向がある。これを「認知的な怠惰」という。たくさんの情報が溢れる中、人々の脳はこの「認知的な怠惰」によってフェイクニュースや扇動、プロパガンダなどに引っかかりやすくなるといわれている。しかし人々は、往々にして「自分はそんなのに引っかかるわけない」と高をくくりがちである。(※1)

ある研究論文によると、人々は自分が晒されている情報について深く考えていない場合、誤情報や誤解を招くニュースを信じてしまうことがあるという。一方で、情報の分析と評価を入念にする人は、誤情報の影響を受けにくいとされる。情報を見るときには「この情報は果たして本当に信じて良いものなのか?」と、より注意深くなる必要があるのだ。

では、これはあまりものを考えない人の課題であって、比較的ITリテラシーが高く、情報を注意深く精査している人は、問題ないということなのか。これを確かめるべく、ある壮大なドキュメンタリーが企画された。

ノルウェーのフォトジャーナリストであるジョナス・ベンディクセン氏は、フェイクニュース業界に関する実録本「The Book of Veles」を発表した。マケドニア共和国の地方にある、経済が低迷し、さびれた町であるヴェレスは、2016年のアメリカ大統領選において下馬評を覆してトランプ候補が当選したことで一躍注目を浴びた。そこには闇工場が乱立し、フェイクニュースの一大発信基地になっていたのだ。

 

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しかし実は、この本の文章は全てAIで書かれたもの。さらに、使われている写真はベンディクセン氏が実際にヴェレスに足を運んで撮影した風景に、デジタル技術を用いて作成した架空の人物をコラージュしたものだ。この書籍は「フェイクニュースの町を記録する」という名目のフェイクニュースだったのだ。

しかし、この本が出版されても「誤り・懸念がある」という指摘はなく、逆にフェイクニュースへの問題提起をしたことに対するお礼のメッセージが届いた。試しにフランスのペルピニャンで開催されるフォトジャーナリズム・フェスティバル「Visa pour l’Image」への出展申請を行うと、ものの見事に採用された。報道の専門家でさえもフェイクと見抜けなかったのである。

結果として「The Book of Veles」は、偽情報(デマ)を見分けることが、いかに難しいかをあぶり出すこととなった。悪質なデマや陰謀論に引っかかるというのは、全く他人事ではない。フェイクニュースや根拠のない情報には、誰でも引っかかる可能性があるのだ。

ベンディクセン氏は本書について「私は人を騙したかったのではありません。これは、ジャーナリズムと写真にとって重要な実験になりました」とCBCに述べている。同氏は今後、技術が発達するにつれて機械で偽情報が大量生産され、フェイクニュースの事態は悪化の一途をたどると危惧している。

今私たちは、ウイルスが世界的に大流行するパンデミックに苦しんでいる。一方で、すでに新型コロナウイルスに関する玉石混交の情報が氾濫し、インフォデミックに悪戦苦闘している人たちもいる。その状況は、今後ますます難しくなっていくのかもしれない。

そんな折に発表された、情報と人の関係を問い直す、ジャーナリストによるメディアへのアンチテーゼ。「The Book of Veles」は、珠玉の傑作といえるだろう。

※1 WHEN PEOPLE ENGAGE IN “COGNITIVE LAZINESS,” THEY ARE MORE LIKELY TO ACCEPT MISINFORMATION AS TRUTH

【参照サイト】The Book of Veles

Edited by Motomi Souma

この記事を書いたライター

Yakuta

Yakuta

少年時代を日本で過ごす。怖いもの見たさに単身、世界に飛び出し、各地で面白そうなことには、なんでも首を突っ込みながら今日に至る。メディア、リサーチ、マーケティング、広告、スポーツ、エンタメ、IT、クリエーティヴ系など、様々なプロジェクトに参画する傍ら、社会貢献活動にも携わる。